『Dead by Daylight』開発元がピンヘッドのNFT商品を発表。ただし、好意的には受け止められず


Behaviour Interactiveは10月19日、『Dead by Daylight』にて配信中の殺人鬼「ピンヘッド」をNFT展開すると発表した。同スタジオはNFT事業者Boss Protocolとの連携の上で、ゲーム内モデルを提供するという。同発表ツイートには、多くのファンや関係者の反響が集まっており反発の色も濃いようだ。


『Dead by Daylight』はBehaviour Interactiveが手がける人気非対称マルチプレイ対戦ゲーム。プレイヤーは逃亡を目指す生存者と、生存者の殺害を目指す殺人鬼にわかれて熾烈な駆け引きを繰り広げる。そして、今回NFT化が発表された殺人鬼ピンヘッドは、イギリスのホラー映画「ヘル・レイザー」からゲスト出演したキャラクターだ。「ヘル・レイザー」シリーズは 1987年の初作からカルト的な人気を誇り、ピンヘッドは同シリーズに登場する魔道士たちのリーダー格として多くのファンに愛されている。

今回の発表によれば、ピンヘッドNFT発行の主体となるのはNFT事業者Boss Protocolとのこと。Behaviour Interactiveはピンヘッドのゲーム内モデルを提供するほか、ピンヘッドNFT購入者には『Dead by Daylight』のDLC「ヘル・レイザーチャプター」へのアクセス権を入手するチャンスがあるという。ピンヘッドNFTの販売などはBoss Protocolがおこなうようだ。


ここでNFTについて簡単に説明したい。NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)は、仮想通貨技術を応用してデジタルデータに所有権を付与する技術だ。デジタルデータはコピーが可能なため、物理的な資産のように所有権を主張することができない。しかし、仮想通貨の場合はブロックチェーン技術をもちいて、正当な資産の所有者をトレース可能な台帳を構築しており、これを保有証明の根拠としている。同様の仕組みを仮想通貨のみならず、デジタルアートや3Dモデルなどのデジタルデータにも応用したのがNFTだ。今回のケースでは、ピンヘッドのゲーム内モデルを元にしたデータが保有権を付与され、すなわち「NFT化」される。証書つきのデジタルフィギュアのようなイメージだろう。

今回のピンヘッドNFTについては、Boss Protocolが展開するNFTブランドMasters of Horrorの第一弾という位置づけのようだ。ピンヘッドNFTは販売数を1万個に限定し、仮想通貨イーサリアムではひとつ.0666ETH(約2万9000円)で販売する。レアリティとしてコモン・レア・ウルトラレアそして前述の『Dead by Daylight』コンテンツへのアクセス権が付随するレジェンダリーのピンヘッドNFTが存在するそうだ。記述から察するに、これらは抽選で購入者に割り当てられるのだろう。

また、ピンヘッドNFTの保有者は物理的なグッズの購入権や、将来展開するMasters of Horrorのコンテンツへのアクセス権を得られる。なお、ヘルレイザーおよびピンヘッドの諸権利については現在Park Avenue Entertainmentが保有しているという。また、Boss Protocolは今回のNFTプロジェクトは『Dead by Daylight』のゲーム内容には全く影響をおよぼさないとしている。ピンヘッドNFTはあくまでもBoss Protocol主導のNFTキャラクタービジネスであり、Behaviour Interactiveは協力に留まるようだ。

https://www.youtube.com/watch?v=GGSGv3hWwMg


Behaviour InteractiveによるピンヘッドNFT告知ツイートには、著名ストリーマーなどを含む多数のユーザーから反響が寄せられている。反響の内容は概ねNFT化に否定的な声が中心だ。同ツイートは記事執筆現在367件のリツイートに対して、6000件を超える引用リツイートと多数のリプライを集めており、本件に対して意見あるユーザーが多いようだ。

具体的な意見としては「NFTには興味がないので買わない」と無関心を示すユーザーや、「NFTをサポートするのはやめてください」とストレートに不信感を表現するユーザーのリプライが見られる。また、かつて『Dead by Daylight』に携わっていたプログラマーのLouis McLean氏は「私はNFTの氾濫に強く反対の立場ですし、私の愛するゲームがNFTに関わることに極めてがっかりしています」とツイートし、落胆を伝えた。Steam版『Dead by Daylight』の「ヘル・レイザーチャプター」ストアページでは、NFT展開について言及しつつ不評を投じるユーザーレビューが多く寄せられている。


NFTにこれほど強い反発がある背景には、NFTの投機性に目をつけた一部悪質事業者の存在による、NFTに対する心証の悪さがあるのだろう。例として、ゲーム分野では事業者によるアセット盗用などが指摘される事例もあった(関連記事)。NFT自体は単なる技術に過ぎないものの、醜聞などがしばしば報じられる分野でもあり、“胡散臭い”というイメージを抱くユーザーも少なくない。

今月には、Valveがゲーム配信プラットフォームSteamにて「仮想通貨やNFTの発行・取引を可能にするブロックチェーンベースのゲーム」の配信を禁止している(関連記事)。大手プラットフォームからしても、NFT技術の氾濫は懸念事項であるという例だ。今回のケースでは『Dead by Daylight』にNFT関連機能が実装されるわけではないため、この規約に抵触する可能性は低い。

また、映画「ヘル・レイザー」自体の権利に関する懸念事項もある。前述の「ヘル・レイザー」現権利者であるPark Avenue Entertainmentは昨年、同作の諸権利に関して原作者兼脚本・監督のClive Barker氏と係争にあったのだ。係争は和解に終わり、2021年12月19日には米国における「ヘル・レイザー」関連の権利を得る運びとなっている。米国外での権利関係については不明なものの、ピンヘッドNFTの先行きに関する懸念材料のひとつではあるだろう。


人気作『Dead by Daylight』がNFT事業に関わることで、ゲーマーたちのNFTに対する不信が表面化した今回の一件。同作開発元Behaviour Interactiveはあくまでも協力に留まるものの、コミュニティは嫌悪感を拭えないようだ。NFTが投機的なまやかしであるというイメージを払拭し、ゲーマーに新しい楽しさをもたらす日は来るのだろうか。