初代『バイオハザード』のリメイク作品であり、タイトルを同じくしてニンテンドー ゲームキューブ向けに発売された『バイオハザード』。そのカットシーンには、原作のテイストを活かしつつ、映画的な表現を実現する作り込みがなされていた。開発者のこだわりを感じる映像が、一部海外コミュニティにて注目を集めている。
『バイオハザード』は、2002年にニンテンドー ゲームキューブで発売された初代『バイオハザード』のリメイク作品だ。グラフィックの高精細化を全般に施し、武器や敵キャラクターの追加、マップ構造やシナリオ進行の調整など、オリジナル版から数々の変更が盛り込まれている。同作は後に任天堂の Wiiに移植されたほか、2014年および2015年には『biohazard HD REMASTER』として、HD解像度をサポートしてPCおよび各種コンソール機へ移植されている。
リメイク版やそのリマスター版を含む『バイオハザード』諸作には、2種類のカットシーンがある。まず、実写やプリレンダ映像によるカットシーンがひとつ。そして、操作中のグラフィックをそのままに、キャラクターが自動的に動く、リアルタイムレンダリングによるカットシーンが存在する。前者のカットシーンは、オープニングムービーや、序盤のゾンビとの遭遇時に流れる、いわゆる「振り向きゾンビ」のムービーなどが該当する。後者にあたるのは、ゲームの進行中に起こる他キャラとの会話や恐怖演出などのちょっとしたシーンだ。
注意深いプレイヤーでないと見逃してしまいそうな作り込みがなされているのは、後者のリアルタイムカットシーンだ。オリジナル版含む『バイオハザード』では、同じカットシーンでも、発生する際のプレイヤーの位置が異なる場合がある。そして、リメイク版『バイオハザード』では、プレイヤーの位置条件に合わせてカットシーンでのキャラクターの動きや、カメラワークまでもが変化するのだ。
そうしたカットシーンのバリエーションを比較した動画が、海外掲示板Redditの『バイオハザード』シリーズコミュニティ/r/residentevilに投稿された。内容はゲーム序盤で発生する、ジルとバリーの会話カットシーン2種類を、異なるプレイヤーキャラ位置から発生させて比較したものだ。主人公ジルがテーブルの左側から近づいた際と、右側から近づいた際で、カメラアングルやキャラクターの立ち位置が違うことが確認できる。
同投稿は約1400Upvote(高評価)を集めており、コメント欄には同作の細部の作り込みを称賛する声や、「すごい!知らなかった!」と驚きを示す投稿が寄せられている。ほかにも、オリジナル版『バイオハザード』をプレイした際の思い出を綴るコメントなどが多く寄せられている。動画はコミュニティの各ユーザーに驚きや懐かしさ、あるいはその両方を与える内容だったようだ。
上述の比較動画は、画質やアスペクト比から推察するに『biohazard HD REMASTER』にて撮影されていると思われる。筆者も実際にPC(Steam)版の同作にて検証をおこなった。結果として、Redditに投稿された動画と同じカットシーンの変化が確認できた。また、ゲームを進めて上述の動画にはない別のシーンを確認すると、PlayStationで発売されたオリジナル版から大きく変化した、さらなる“作り込み”が確認できた。
大きな変化が見られたのは、バリーからアイテム「硫酸弾」を受け取るシーンだ。このイベントは洋館の中央ホールで発生する。そしてこのイベントカットシーンは、発生タイミングにおいて1階から進入した場合と、2階から進入した場合では描写が異なる。実を言えば、この点はオリジナル版『バイオハザード』においても同様だ。しかし、リメイク版においてはバリーのリアクションが大きく違うのだ。
まず、オリジナル版『バイオハザード』では、2階から侵入した場合でも1階から侵入した場合でも、カットシーン中で変化するのは主にキャラの立ち位置と背景のみだ。演出も限定的で、カメラワークもキャラクター操作中と同じ固定視点からとなっている。リメイク版では、1階からの進入の場合、バリーは普通にジルに気づいて普通に硫酸弾を渡してくれる。ところが、2階から進入した場合、背後から不意打ち気味に話しかけられたバリーは驚き、銃口をジルに向けてしまうのだ。いかにも海外ホラー映画的な演出である。
また、リメイク版ではオリジナル版より格段にカメラワークが自由になっており、ジルの足元からのショットなど、操作中では見られないアングルからのカットが用いられている。キャラモデルの高精細化で、オリジナル版から表情は豊かに、モーションはより滑らかにになっているのは言わずもがなだ。前述の動画で紹介されているカットシーンについても、オリジナル版で同様のイベントやバリエーションが存在するものの、リメイク版の演出はさらに映画的になっている。
つまり、リメイク版におけるカットシーンのバリエーションは、オリジナル版の演出を尊重しつつ、さらに映画的演出を強化した、制作陣のこだわりが表現されている。筆者自身、バリエーションの存在自体はなんとなく把握していたものの、改めてじっくりと分析してみると予想以上に作り込まれていることがわかり、驚きを感じた。
また、カットシーンにバリエーションが存在するとなると気になるのがRTA(スピードラン)への影響だ。動画編集ソフトで確認したところ、各バリエーションには約0.5秒前後の差異が見られた。1秒を争うスピードランにおいては大きな差だ。しかし、スピードラン記録集計サイトSpeedrun.comにおける『biohazard HD REMASTER』の各カテゴリーは、カットシーンをスキップ可能なレギュレーションで競われている。カットシーンのバリエーションによる影響を懸念する必要はないようだ。また、余談ではあるが、「画面表示が他の言語より速い」という理由で、同作のスピードランは中国語表示でおこなわれるのが主流のようだ。
ゲームキューブ版から約19年の時を経て、ふたたび一部コミュニティの注目を浴びたリメイク版『バイオハザード』のこだわり。同作に限らず、かつてプレイした過去作でも、注意深く観察してみれば新たな発見があるかもしれない。