小島秀夫監督、『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』の名称が「好きではない」と吐露。理由は“ディレクターズ・カット”の持つ意味

クリエイター小島秀夫氏が手がけている『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』。同作の「ディレクターズ・カット」という名称に抱くモヤモヤとした気持ちを、自身のTwitter上で吐露している。

SIEによる公式放送State of Playにて、今年9月24日の発売が予告された『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』(関連記事)。同作を手がけるクリエイター小島秀夫氏が、その「ディレクターズ・カット」という名称に抱くモヤモヤとした気持ちを、自身のTwitter上で吐露している。


『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』は、KOJIMA PRODUCTIONSが2019年に発売したアドベンチャーゲーム『DEATH STRANDING』に多数の新規要素を盛り込んだ、PlayStation 5向けリマスター作品だ。武器や戦闘要素の拡充、レースモードの追加、新規ストーリーの実装など、ファンにとって嬉しい要素が盛り込まれている。その内容たるや、まさにゲームにて新要素を追加した豪華版という意味で使われることの多い“ディレクターズ・カット”である。しかし、ディレクター(兼プロデューサー)当人である小島秀夫監督は、ツイート上で「僕的にはこの呼び方は好きではない」と言明。その原因には、ディレクターズ・カットという言葉が本来もつ意味があるようだ。


まず、Web版ケンブリッジ英英辞典にて、Director’s Cutの語義を紐解いてみよう。そこには、「監督(ディレクター)が本来目指したとおりに再編集した、後続版の映画」と記載されている。すなわち、元々の語義としては「監督にとって不本意な状態で映画が公開された」という前提があるのだ。著名な例として、映画「ブレードランナー」には複数のバージョンが存在している。1982年の公開前後に制作された5バージョンは、同作監督のリドリー・スコット氏にとって不満が残るものだったようで、公開から10年後の1992年には監督自身が編集を施したディレクターズ・カット版が公開されている(後の2007年には25周年を記念したファイナル・カット版がリリースされた)。

つまり、小島氏が指摘する「監督として不本意な状態で公開された作品の追加編集版」という語義は、元を辿れば正しいものだと見られる。しかし一方で、作品本編には変更なく、おまけ的な未公開シーンを追加収録した映画作品が、ディレクターズ・カットとしてリリースされる例も散見される。ディレクターズ・カットという言葉は映画のみに留まらず、ゲームなど他のジャンルにも用いられており、現在では解釈の幅も広がっている。


ゲーム作品がディレクターズ・カットと銘打たれた例としては、『バイオハザード ディレクターズカット』や『スターオーシャン Till the End of Time ディレクターズカット』、『ローグギャラクシー ディレクターズカット』などが挙げられる。これらの作品が本来の語義にあたるかは定かではないものの、何らかの要素が追加されていることが理解しやすいネーミングだ。

そうした背景もあり、ディレクターズカットの語義について、大の映画好きで知られる小島氏の認識と、元々の語義を知らないユーザーの認識の間には差異が存在すると考えられる。しかし、上記ツイートで同氏は個人的な考えであることも示している。一般的な認識との違いについては承知の上で、映画好きとしての違和感を吐露したのだろう。同氏は過去に手がけた『メタルギアソリッド』シリーズの要素追加版作品についても、ディレクターズ・カットの名称を避けている。PlayStationでリリースされた『メタルギアソリッド』の拡張版は『メタルギアソリッド インテグラル』と名付けられており、続編である『メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ』の拡張版は『メタルギアソリッド2 サブスタンス』といったように、含意のあるネーミングを徹底している。


興味深いのは、そうしたこだわりを持つ小島氏の手による作品が、ディレクターズ・カットという名称でリリースされる理由だ。推測にはなるものの、SIEによる要望が理由のひとつとして考えられる。というのも、『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』の発表の前には、『Ghost of Tsushima Director’s Cut』が発表されていたのだ(関連記事)。いずれもPlayStation 4独占(『DEATH STRANDING 』は時限独占)でリリースされたタイトルであり、PlayStation 4版の所持者は、比較的安価でディレクターズ・カット版にアップグレード可能な点が共通している。

こうした背景を踏まえると、新規要素が追加されていると一般消費者に理解されやすいディレクターズ・カットという言葉が、販売戦略の観点からタイトルに盛り込まれた可能性はありそうだ。また、同じ言葉を盛り込むことで、「オリジナル版所持者はアップグレード可能」とブランディングをする意図とも取れる。

なお、小島氏は前述のツイートで「ゲーム(『DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT』)では削られたものではなく、追加製作したものを入れ込んでいる。デレクターズ・プラス?」と述べている。名称はどうあれ、愛する作品の拡張版がリリースされることは、ファンにとって喜ばしいことだ。同作ファンの方はディレクターズ・カットの語義に思いを馳せつつ、『DEATH STRANDING 』の“ディレクターズ・プラス”版を待とう。

Sayoko Narita
Sayoko Narita

貪欲な雑食ゲーマーです。物語性の強いゲームを与えると喜びますが、シューターとハクスラも反復横とびしています。

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