Amazonのゲームエンジン「Lumberyard」がオープンソース化。「Open 3D Engine」として、より自由に生まれ変わる

 

米Amazonは7月6日、同社のゲームエンジン「Lumberyard」について、オープンソースソフトウェア化を発表した。同エンジンは機能面での刷新を受け、「Open 3D Engine」と名をあらためて存続する。今後の管理については、Linux Foundationの協力のもと立ち上げた新規団体「Open 3D Foundation」に委ねられるとのことだ。

Lumberyardは、Amazonがゲーム事業参画の一環として開発したゲームエンジンだ。Crytek社によって開発されたCryEngineをベースとして、Amazon Web Service(AWS)やTwitchといったAmazon傘下のサービスとの連携機能を備えた設計になっている。ほかにも、自社レーベルAmazon Game Studiosを立ち上げるなど本格的なゲーム事業展開の構えを見せていたAmazon。しかしながら、Lumberyardエンジンの採用タイトルは『Crucible』や『New World』など限定的かつ未リリース作品も多い。Amazon Game Studiosにおけるレイオフも報じられるなど、ゲーム開発事業についてはやや苦戦の気配を見せていた(関連記事)。こうした事業にまつわる商業的な判断が、Lumberyardのオープンソース化という思い切った決断を導いた可能性はある。


今回、Open 3D Engineとしてオープンソース化が発表されたLumberyard。実を言えば、かねてよりソースコード自体は開発者向けに公開されていた。しかし、「ソースが公開されていること」と、「オープンソースであること」には、意味として隔たりがあるのだ。LumberyardがOpen 3D Engineになり、どういった立ち位置についたのか、この違いを理解するとより明白になる。

ソフトウェア開発においてオープンソースソフトウェア(OSS)とは、平たくいえば無償で提供されており、利用や改変、再配布などが許されているライセンス形態を指す。こうしたソフトウェアはコミュニティのコントリビューター(貢献者)たちの手によって改善や機能実装などの開発がおこなわれるのが常だ。ようするに、「みんなで自由に使えるソフトを、みんなで管理維持していこう」という考えが軸になっている。

一方で、オープンソースの対義語となるのが「プロプライエタリ」だ。これは企業や個人が知的所有権を保有するソフトウェアのこと。Windowsなどがその代表で、改変や再配布は認められていない場合が多く、ソースコードが公開される例は一部に留まる。例として、Unreal Engineはソースコードを公開しながらも、権利はEpic Gamesに帰属するプロプライエタリなソフトウェアだ。Lumberyardもこうした形態のソフトウェアで、ソースコードは提供されていたものの、権利自体はAmazonが保有していた。

つまり、Open 3D Engineは、Lumberyardを母体としつつも、Amazonの所有物ではない「みんなのゲームエンジン」としてオープンソースコミュニティの手に委ねられたことになる。同エンジンは、OSSライセンスとして一般的なApache License 2.0下で提供される。これはソフトの使用、商用利用から、改変や再配布に至るまでの広範な許可を意味するものだ。

また、Lumberyardは元々、ライセンス料などが発生しない無料ソフトウェアとして公開されていたものの、同エンジンを用いたゲームにおけるAWSを代替するウェブサービスの利用は制限されていた。オープンソース化によってこうした制限も及ばなくなり、さらに自由な利用が可能になったかたちだ。デベロッパーであるApocalypse Studiosは、開発中の作品『Deadhaus Sonata』について、早速LumberyardからOpen 3D Engineへの移行を発表している。


オープンソースのゲームエンジンとしては、Godotなどの例がある。しかし、Open 3D Engineのように大規模かつ、リッチな体験を視野に入れたエンジンがOSSとして提供されるのは珍しいことだ。この方針を打ち出した背景には、UnityやUnreal Engineといった競合エンジンのカバーしていない裾野に踏み入ろうとする意図があるのだろう。

AWS Game Tech Blogにおける投稿では、Lumberyardは開発当時から「無料で誰でも使える、世界クラスの3Dレンダリングツールを提供する」という一貫した趣旨があったと述べられている。その意思を受け継ぐOpen 3D Engineが、オープンソースコミュニティの手によってさらに発展し、ゲームエンジンの“定番”の一角を担う日が来るかもしれない。

Open 3D Engineプレビュー版は、GitHubにて公開中。Lumberyardからの移行にあたって、モジュール性の強化やパフォーマンスの改善など、多岐にわたる更新がなされているとのことだ。技術的な内容となるため、詳細は公式サイトのドキュメント、およびAWS Game Tech Blogの発表記事を確認されたい。