『スーパーマリオ64』“ドラム使用“70枚RTAで世界記録更新。ドラムもゲームもテクニックが光る曲芸スピードラン

 
Image Credit: CZR on YouTube

スーパーマリオ64』のとある条件下での70枚RTA(スターを70枚収集)世界記録が更新された。今回更新されたのは、通常のRTAではなく、おそらく他に類を見ない「Drum%(ドラム使用)」RTAの記録だ。これは電子ドラムを入力装置として用いたスピードランである。つまり、電子ドラムを演奏することでマリオを操作し、スターを70枚収集し、ゲームをクリアするまでのスピードを競っているのだ。世界記録を更新したCZR氏の動画では賑やかかつ、テクニカルなプレイの様子がうかがえる。 
 

 
『スーパーマリオ64』は、世界のスピードランコミュニティで根強い人気を持つタイトルだ。リリースから約25年経つ今もなお、RTA記録が更新され続けている。最近では同作スピードラン激戦区となる、120枚RTAにおいて、日本人のバトラ氏が世界記録を更新し話題になった(関連記事)。一方で、『DanceDanceRevolution』コントローラーでRTAをおこなうなどの、曲芸じみたスピードランもおこなわれている。 

今回、『スーパーマリオ64』“ドラム使用”70枚RTAで世界記録を出したのは、ストリーマーのCZR氏。記録は1時間28分09秒となっている。同氏は過去にも同条件下でのRTAに挑んでおり、以前には1時間36分25秒を記録。今回、自身の記録をさらに8分以上短縮し、新たな世界記録を打ち立てた。これはSpeedrun.comの通常の70枚RTAカテゴリーにおいても、記事執筆現在で世界699位に相当する早さだ。 
 

 
CZR氏はローランド社の電子ドラム「Vドラム」をコントローラーとして用いているようだ。ドラムセットの部位ごとに、NINTENDO64コントローラーの各種ボタンが割り振られている。たとえば、右足で踏んで鳴らすベースドラムには、ジャンプのAボタン。右手側のシンバルには、攻撃などのBボタン、といった具合だ。 
 

Image Credit: CZR on YouTube 

 
プレイ時間の多くを占める移動については、ドラムセットの内側を占める4台のドラムに、アナログスティック入力が割り当てられている。すなわち、移動中は基本的に、この4つのうちどれかを叩きっぱなしということになる。“叩きっぱなし”と聞くと過酷に思えるが、実際に過酷だ。叩き方によっては、腱鞘炎になる恐れもあるプレイ方法だと思われる。 

では、CZR氏はどのように1時間28分の長丁場を乗り切っているのか。ドラムの演奏法に関わる話となるが、筆者の分析を述べたい。同氏は「ダブルストローク」および「パラディドル」と呼ばれる奏法を活用して、体への負担を減らしていると見られる。 

「ダブルストローク」は片手で2回連続してドラムの打面を叩く技術だ。打面の反動を利用して、指先の繊細な動きのみで叩くことができる。反動を利用するため、手首や腕への負担を大きく軽減することが可能だ。「パラディドル」は、右手と左手でそれぞれ2回ずつ叩く奏法だ。これらのテクニックを用いることで、CZR氏は「タタトトタタトト」と軽快にゲーム内のマリオを走らせている。 

これらは単純なようで、ドラムスティックの高度なコントロールと力加減が必要となるテクニックだ。なお、ドラムの縁(リムと呼ばれる)には、視点変更に使う4方向のCボタンが割り当てられている。これらを間違えて叩かないようにするのにも、気を使うだろう。以上のことから、CZR氏がドラマーとして鍛錬を積んでいることがうかがえる。
  

 
CZR氏はドラム演奏だけでなく、『スーパーマリオ64』スピードラン技術についても修練を重ねているようだ。RTA動画の中では「Frame Walking」と呼ばれるテクニックを見せている。こちらは本来であれば大砲を使って掴まる柱を、マリオの足で登るというもの。NINTENDO64コントローラーなどのアナログスティックでは、再現が非常に困難な技とされている。
  

Image Credit: CZR on YouTube 

 
と言うのも、この技を実現するためには、アナログスティックの「前進」と「無入力」を高速に繰り返す必要がある。多方向の入力を、段階的に受け付けるアナログスティックとは相性が悪いテクニックだということだ。しかしながら、たとえばボタンに「前進」を割り当ててしまえば、ボタンの連打で比較的容易に実現できる。そのため、操作割り当てに関するルールが『スーパーマリオ64』スピードランコミュニティの間で新しく生まれることにもなった(参考:リマッピング問題)。 

CZR氏のドラムコントローラーは、厳密にいえばアナログスティックのボタン(デジタル入力)割り当てにあたる。つまりこのテクニックに向いている操作方法ということだ。同氏は動画中で、微調整にやや時間をかけつつも「Frame Walking」を一発で成功させ、スターを獲得している(上の記録動画の56分25秒~より)。 

なお、CZR氏の挑戦は『スーパーマリオ64』だけに留まらない。同氏のYouTubeチャンネルには、他タイトルのドラムコントローラーRTA動画が投稿されている。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』Any%は、『スーパーマリオ64』より多いボタンと格闘しつつも、グリッチを駆使し約2時間15分でクリア。一人称視点ホラーゲーム『Outlast』Any%についても、12分台でクリアといった成果を出している。同氏はほかにも数多くのタイトルに挑戦しているので、気になる方はチェックしてみてほしい。 
 

Image Credit: CZR on YouTube 

 
こういった数々の挑戦を見ていると、「なぜドラムでゲームを?」という疑問が湧いてくる。しかしながら、CZR氏がドラムとゲーム、どちらにも深い愛情と情熱を持っていることは疑いようがないだろう。同氏が今後、どういったタイトルで華麗なドラムプレイを見せるのか注目したい。