イケメンTCGの“とあるカード”、市場価格が異常高騰。イケメン本人による大麻“生涯無料”キャンペーンの影響で

Decipherが2000年に発売したトレーディングカードゲーム『Boy Crazy!』のカードが、ここ数年の間に謎の高騰を見せている。高騰しているのは「#154 Jason Colorado」のカード単品価格で、オークションサイトでは他のカードのおよそ500倍の価格で取引されているのである。何があったのか。

アメリカのパブリッシャー・Decipherが2000年に発売したトレーディングカードゲーム『Boy Crazy!』のカードが、ここ数か月の間に謎の高騰を見せている。高騰しているのは「#154 Jason Colorado」のカード単品価格で、オークションサイトでは他のカードのおよそ500倍の価格で取引されているのである。実はレアカードだったのか、Jasonという少年になにかが起こったのか。奇妙に感じたファンがTwitter上に疑問を投稿したところ、思いも寄らない事実が発覚した。
【UPDATE 2021/05/28 20:45】冒頭の「ここ数年」を「ここ数か月」に訂正。


『Boy Crazy!』は、2000年に発売されたトレーディングカードゲームだ。カードには12~22歳の美少年・イケメンの写真が印刷されており、身長や瞳の色、好きな音楽などの情報が記載されている。プレイするにあたって用意するものは『Boy Crazy!』のカードセットと筆記用具だ。親となったプレイヤーは9枚のカードを引き、カードに描かれている男の子たちのなかから一番のお気に入りの子を決める。そして、誰をお気に入りにしたのかは伏せたまま、その理由を紙に書き留めておくのだ。子のプレイヤーは、場に提示された9枚のカードの中から、親のプレイヤーのお気に入りを推測する。その推測が正解ならポイントゲット。なんの変哲もない、女の子向けのカードゲームである。

ゲームレビュアーでSF作家の赤野工作氏は、ゲームコレクターとしても知られる人物だ。海外のオークションサイトなどを通じて『Boy Crazy!』のカードを収集していた赤野氏は5月8日、ここ数年のカードの高騰に対して抱いていた疑問をTwitterに呟いた。


現在、『Boy Crazy!』のカードは、「#154 Jason Colorado」のカードだけが異様な高騰を見せている。5月10日現在、海外オークションサイトeBayにおいて『Boy Crazy!』のカードは1枚0.99ポンド(約150円)で取引されている。しかし、「#154 Jason Colorado」だけはなぜか499ポンド(約7万5000円)の値段が提示されているのである。ちなみに、コロラド州出身のJasonのカードは#73と#332にも存在する。印刷された肖像を見る限り別人のカードと見られるが、そちらは筆者の調べた範囲では常識的な価格に収まっている。#154のJasonのみにプレミアがついているのだ。

5月10日14時時点のeBay


赤野氏はこの状況を「マニアが欲しがった」「もともとJason青年はレアカードだった」「Jason青年自身に値上がりの要因があった」などさまざまな説を挙げて考察していたが、同氏のフォロワー・翌週氏からの情報提供によって驚愕の事実が明らかになった。なんとJason青年本人が、自身の現在の生業である大麻ブリーダー業のプロモーションに、このカードを活用していたのである。自身の印刷されたカード「#154 Jason Colorado」を送ってくれた客に対して、大麻種子を“生涯無料”で提供することを公言していたのだ。


アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くDark Horse Geneticsは、2020年12月17日にYouTube上でライブ配信をおこなった。代表者であるJason Holck氏はライブ配信中に、『Boys Crazy!』の「#154 Jason Colorado」カードを同社に送ると大麻種子の生涯無料パスを提供することを宣言。翌日にはInstagramに「#154 Jason Colorado」が2500ドルまで高騰したことも投稿しており、その反響の大きさがうかがえる。Jason氏は配信中に、「20年前に印刷された僕のカード」と解説している。また、ライブ配信に映るJason氏とカードのJason青年の肖像はそっくりなため、Jason Holck氏はカードに印刷された本人で間違いないだろう。本人によるプロモーションの一環として“大麻種子生涯無料キャンペーン”に使われた結果、女の子向けトレーディングカードゲームであった『Boy Crazy!』の「#154 Jason Colorado」は、ウィード(大麻)を愛する大人たちに高値で売買されるようになったのである。

ライブ配信のキャプチャ画像。Jason氏は今も20年前と変わらぬイケメンである。


アメリカ・ミシシッピ州の依存症治療センターであるオックスフォード・トリートメント・センターによると、2020年のアメリカにおける大麻の平均末端価格は中品質のジョイント(紙巻きの大麻)でも1本あたり6.18ドルだ。アメリカでは州によって大麻の規制にばらつきがあるため州によって末端価格が異なるが、もっとも安価なミシシッピ州でもジョイント1本あたり平均3.96ドルで売買されているようだ。日本円に換算すると、1本およそ400円強である。「#154 Jason Colorado」の現在の価格は、およそ5~10万円程度に落ち着いている。仮に大麻を1日に1本たしなむとしたら、安い州でも月に1万2000円。そう考えると “生涯無料パス”としての「#154 Jason Colorado」はかなりお得なカードであると言えるだろう。

さて、“大麻”と聞くとダークでアングラなイメージを持つ方も多いと思われるが、「#154 Jason Colorado」によるプロモーションに違法性はないのだろうか。日本では大麻は薬物と同じカテゴリーで扱われがちだが、世界的にはそういうわけでもない。コカインやヘロインといった薬物は厳しく規制されている国がほとんどだが、大麻は医療用としてはもちろん、2018年のカナダでの規制撤廃など、嗜好品としても合法化の動きが大きい。Dark Horse Genetics が拠点を置くアメリカ・カリフォルニア州でも娯楽目的の大麻所持・販売は法的に認められており、Jason氏のプロモーションにはなんら違法性はないのである。

しかし、適法な取引とはいえ、赤野氏のようなカードコレクターにとってはたまったものではないだろう。純粋にJason青年のカードで『Boy Crazy!』を遊びたいのに、1枚のカードだけが異様に高騰しているのだ。しかも競売相手はゲームを遊びたいのではなく、大麻無料パスとしてカードを欲しがっている。モヤモヤした感情になったのか、赤野氏はこの感情を率直にツイートしている。


大麻種子の生涯無料提供という突飛なプロモーションの一環で、異様な価格高騰を見せた『Boy Crazy!』のカード「#154 Jason Colorado」。ちなみに、日本では大麻種子の所持自体は違法ではないが、その種子を栽培すると大麻取締法違反となる。万が一大麻種子の生涯無料パス目当てでこのカードがほしいという方は、Dark Horse Geneticsのあるカリフォルニア州に移住することをおすすめしたい。

Aki Nogishi
Aki Nogishi

ポストアポカリプスとドット絵に心惹かれます。AUTOMATONではFF14をメインに担当します。

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