Steam短編ゲーム開発者、「素晴らしい」とレビューしながらゲームを“返金”したユーザーに悲しむ。しかし意外な展開に
インディースタジオGoodbyeWorld Gamesは4月8日、『Before Your Eyes』をPC(Steam)向けに配信開始した。同作は発売から10日が経過した時点でSteamレビュー「圧倒的に好評」を獲得しており、ユーザーレビュー数は1000件以上と絶好調。しかしながら、開発者が悲しみを見せる一幕があった。「返金」である。PC Gamerがその内容を伝えている。
1時間30分でクリアできる良作
『Before Your Eyes』は、Webカメラを用いた3Dアドベンチャーゲームだ。ゲームがWebカメラを通じてプレイヤーの顔を認識し、「まばたき」を検知する。まばたきによって行動を選んだり、シーンを進めたりすることができ、かなりインタラクティブなつくりになっている。記憶を辿っていくストーリーテリングについても高く評価されており、アイデアとシナリオ両面で優れたゲームと名高い。なおWebカメラがなくても遊べるよう、マウスクリックをまばたきがわりにするオプションも用意されている。
ゲーム構造・ボリュームとしては、映画やテレビドラマに近く、ジェットコースターのような物語展開が特徴。こうしたゲームジャンルの宿命ではあるが、エンディングを見るまでの時間が短い。筆者は同作をクリアしたが、クリア時間は1時間30分ほどだった。まばたきの速さなどによって多少変動はするものの、2時間あれば十分に終えられる。
Steamでは、購入から2週間以内でかつプレイ時間が2時間未満のゲームであれば、返金リクエストをおこなうことができる。リクエストが承認されれば、そのゲームに支払った金額が 返金される。つまり、購入から2週間以内でプレイ時間2時間未満ならば、どのような理由であってもゲームの返金を受けることができるのだ。
今回の騒動のきっかけは、この返金にあった。『Before Your Eyes』のリードデザイナーとプログラマーを務めたGoodbyeWorld GamesのBela Messex氏は、Twitter上にとある画像を投稿。その画像に映っているのは「ゲームを高く評価しながら返金をしたSteamユーザーの声」だった。同ユーザーは『Before Your Eyes』について「1時間30分の長さのゲームだが、ストーリーやコンセプトは素晴らしい」とコメント。しかしながら、赤文字で「Product refunded」の文字が確認できる。ゲームは素晴らしいとしながら、返金条件を満たしているということで、返金を受けたのであった。
評価されながらも返金される歯がゆさ
Messex氏は、このレビューについて落胆。たしかに自分たちは短いゲームを作ったとコメントしつつ、もっと短編ゲームは作られるべきだと言及。またユーザーに素晴らしい体験を提供しているならば、短編ゲームは返金されるべきでないとも語った。さらにSteamにて返金をテーマとしたゲーム『Refund This Game』を99ドルで発売しようとしていると冗談まじりに話している。ちなみに『Refund This Game』は、2時間のタイマーを眺めながら、タイムアップ5秒前に終了することで、実績が解除されるというゲームのようだ。いずれにせよ、懸命につくったゲームが高く評価されながらも、プレイ時間が短いという理由でユーザーが返金を受けていることに対してフラストレーションを溜めているのだろう。
Messex氏が悲しんだところで、この話は終わるかと思われた。しかしその後興味深い展開が待っていた。先述したSteamレビューを書いたユーザーTravis氏が名乗り出たのだ。Travis氏は自分がそのレビューを書いた人物であるとし、返金したことを謝罪。少し金欠であったと説明しながら、ゲーム全編を楽しみながら返金を受けるのは、たしかに卑しい行為であるとコメント。ゲームを再び購入したと語った。当該レビューについても追記されている。同ユーザーは、ゲームは短いものの、人生も短く“瞬く間”に過ぎ去るものだとし、まばたきをテーマとしたゲームのコンセプトにマッチしていると綴っている 。そしてゲームは販売価格である10ドルの価値があり、もしゲームをクリアしたなら、たとえ返金できる環境であってもリクエストすべきではないと語った。まさしく、同ユーザーが自分自身を戒めるための文であるだろう。
一方のMessex氏は、驚きながらもレビュー投稿によって批判を浴びているTravis氏を気遣った。このような反響が生まれるとは予想しておらず、人々があなたを過剰に攻撃していることを申し訳なく思うとコメント。また再び購入してくれて嬉しいとも返信した。Travis氏はこの言葉に対して、自分は大丈夫であると軽く答え、ここまでの注目を集めるとは思っていなかったとやわらかく返信。また、素晴らしいゲームを作ってくれてありがとうと、Messex氏に感謝を述べた。
短編ゲームと返金をまじえた議論は、定期的にあがるトピックである。以前にも『Firewatch』をクリアしたユーザーが返金を受けたいと葛藤する気持ちをSteamフォーラムに投稿。開発者が反応し、返金を受けようとするユーザーを責めることはできないとコメントしていた(関連記事)。内容の可否にかかわらず、プレイ時間的にクリア後でも返金を受けられる短編ゲームを手がける開発者は、高い評価を受けながら返金を受けやすいジレンマに悩まされているのだ。
見えざる絆
では実際のところ、短編ゲームは返金リクエストをするユーザーが多いのかというと、そうとも限らない。最近リリースされたタイトルとしては『Say No! More』は 2時間以内にクリアできると評されているが評価が高く、返金を受けたと報告するユーザーはコミュニティでは見かけない。 弊社アクティブゲーミングメディアの調べによると、一般的なSteamタイトルの返金率は5~10%程度とされており、高くても20%程度である。弊社はPLAYISMというパブリッシングブランドを抱えているが、PLAYISMの2時間以内でクリアできそうな短編ゲームの返金率は10%以下のものばかりだ。2時間以内の短編だからといって、そうでないゲームよりも返金率が高くなるといった傾向は見られない。
もちろん、作品によっては高い返金率を誇るものもあるかもしれないが、短編ゲームだからといって返金が多いとは限らないのは確か。あくまで、短編ゲームは返金リクエストをしやすいゲームというだけであり、返金が相次いでいるとは限らないのだ。ゲーマーたちが、長さだけでなくゲームの体験そのものに価値を感じているのかもしれないし、そもそも開発者をリスペクトしておりクリアしながら返金するといった行為を嫌っているのかもしれない。ゲームを遊ぶ側の人間も、ゲーマーとしての誉や作り手の想いを大事にしている。そんな可能性もあるだろう。紆余曲折を経ながらも、互いの在り方を尊重したMessex氏とTravis氏。ふたりのやりとりの間には、普段は見えざる“開発者とゲーマーの絆”が感じ取れるかもしれない。