スクウェア・エニックスが運営するMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FF14』)でワールド間の移動システムに障害が発生しており、自分のホームワールドに帰ることができない「帰宅難民」が生まれている。システムの障害は4月13日のパッチ5.5「黎明の死闘」の公開直後から発生しており、復旧には数日を要する見込みだ。パッチ直後に自分のホームワールドから別のワールドにお出かけしていたプレイヤーたちは、帰るすべをなくして途方に暮れている。そんななか、プレイヤーたちの間に助け合いの輪が広がっている。帰宅難民となってしまった家主の代わりに「畑の水やり」を代行するという善意の募集が数多く出現したのだ。
ワールド間テレポとは
ワールド間テレポは、自身のキャラクターが存在するデータセンター内でワールドを自由に行き来するシステムだ。2019年4月のパッチ4.57で実装され、2年にわたって稼働してきたシステムである。『FF14』では自分のキャラクターが在籍するホームワールドのほか、一緒にゲームをプレイすることができるワールドたちをまとめるグループとしてデータセンターという大きなくくりがあり、ワールド間テレポを利用することでデータセンター内のワールドを自由に行き来することができる。ワールドやデータセンターを越えてプレイをともにすることができるシステムは年々進化を遂げており、2021年秋発売の大型拡張パッケージ「暁月のフィナーレ」リリースのタイミングで、データセンターを越えての行き来も可能となる予定である。
ホームワールドから移動した先のビジターワールドにはいくつかの制限がある。この制限により、帰宅難民になってしまったプレイヤー、特に普段からギルを持ち歩かないような人々は非常につらい思いをしているようだ。まず、いわゆる倉庫システムであるリテイナーに預けていた荷物や金銭を受け取ることができないため、お金やモノはあるのに使えないという事態が発生する。モグレターの受信ができないため、別ワールドにいるフレンドから一時的にギルを借りるといった手段は使えない。マーケットボードへの出品もできないため、ものを売って日銭を稼ぐにはNPC相手に商売をするほかない。素寒貧の状態で難民化してしまった場合、ギルやアイテムは現地のプレイヤーから手渡しで借りるほかないのである。
土地を所有していた場合は、さらに頭の痛い問題も発生する。庭の畑やプランターに植えていた作物の世話である。『FF14』の作物は定期的に水やりをしないと枯れてしまう。パッチ直後は新しい作物が実装されることもあり、畑作業に勤しむプレイヤーも多い。そうでなくても常に高値で取引されるようなレアな作物も存在し、特に種と種とを隣り合わせて別の作物の種を作る「交雑」は、途中で枯らしてしまうと最初からやり直しという事態にもなりうる。しかし、畑やプランターへの水やりは家主でなくとも行うことができる。このことから、自身のワールドに帰還することができない人々に向けて、「畑の水やり」を代行するプレイヤーが現れた。
広がる善意の輪
4月14日の夕方ごろ、筆者がパーティ募集欄を開くと「○○ワールドにて畑の水やりを代行します」という内容の募集がいくつか並んでいた。募集のほとんどに報酬は不要である旨が記載されており、家の番地だけ残しておいてくれれば代わりに水やりを済ませておいてくれるという。募集を立てていたプレイヤー数名に実際にお話をうかがってみたところ、「別ワールドのプレイヤーが水やり代行の募集を立てているのを見かけ、自分のワールドでもやろうと思った」という方がほとんどだった。もしかすると彼らが最初に見かけたプレイヤーも誰かの背中を見て募集をはじめたのかもしれないし、筆者がお話をうかがった方々の募集を見て、さらに水やり代行をはじめるプレイヤーも現れているかもしれない。プレイヤーの善意が伝播し、連鎖的にパーティ募集へと連なっていったようだ。
また、筆者が取材を行った時間が夕方から夜にかけてだったためか「スキマ時間を誰かのために使えたらいいなと思った」と話してくれたプレイヤーもいた。家事をしている時間にパーティを立てておき、番地の連絡だけ受け取っておけば別の時間に水やりをして回ることができる。「別のゲームが忙しい時期で『FF14』はのんびりやる予定のため、放置がてら募集を立てている」というプレイヤーもいた。また別のプレイヤーは「困っている人がいて、それを何とかできるなら手伝いたい」という気持ちを教えてくれつつも、「気軽にやっているので気兼ねなく申し付けてほしい」と話してくれた。意外にも彼らは、かなり気楽な雰囲気で善意の活動を始めていたのである。彼らを動かしたのは、誰でも持ち合わせている善意と、パーティ募集を立てるためのほんの少しの行動力なのかもしれない。
メンテナンスでの不具合解消は確約されず
公式に発表されている報告によると、今回発生しているワールド間テレポにおける障害は開発環境下では再現せず、修正に全ワールドのメンテナンス作業が必要という深刻なものだ。本日4月15日の16時から緊急メンテナンスが行われる予定だが、問題が開発環境下で再現しないという特徴から不具合修正の最終チェックができておらず、状況によっては今回のメンテナンスだけで障害の修正はできない可能性もあるようだ。メンテナンス告知によると問題を解消できる確度は高いそうだが、現時点で問題を解消できることが確約されているわけではないことには注意が必要だろう。
不具合によって自宅に帰れなくなった難民が発生し、コミュニティ内の絆が再確認された『FF14』。MMORPGならではのあたたかな善意に、筆者も優しい気持ちになることができた。不具合が解決され、難民問題が解決することを願っている。
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