『Anthem』再開発中止へ。復活の時を迎えることなく、大規模改修「Anthem NEXT」の夢は潰える

『Anthem』再開発中止へ。復活の時を迎えることなく、大規模改修「Anthem NEXT」の夢は潰える。現行の『Anthem』自体は、引き続きプレイ可能だ。

BioWareは2月24日、『Anthem』の再開発プロジェクト、通称「Anthem NEXT」を中止すると発表した。あくまでも再開発の中止であり、既存のゲーム自体は引き続き遊ぶことができる。

2019年2月に発売された『Anthem』は、ジャベリン・エグゾスーツを身につけ広大な大地を飛び回る、ハック・アンド・スラッシュ型のアクションRPG。歴史あるBioWareの新規IPとして期待され、その世界観やビジュアル、飛行アクションなどは一定の評価を集めた。

しかしながらハクスラ・アクションRPGとしてのゲームデザインに根幹的な問題を抱えており、発売当時大きな批判を浴びることに。レジェンダリー武器よりもレベル1のアサルトライフルの方が強いという珍事が起きたり(関連記事)、『Diablo III』の元ゲームデザイナーが初歩的な改善案を提示したり(関連記事)、同作の開発が難航した理由をまとめる詳細レポートが公開されたりと(関連記事)、なにかと話題の尽きないゲームであった。


BioWareはそんな『Anthem』について、2019年の後半に入り、ゲームを根本から作り直すべく、大規模な改修に着手し始めた。「Anthem NEXT」や「Anthem 2.0」という名称で呼ばれた、再開発プロジェクトだ。再開発にあたりBioWareは、現行バージョンの『Anthem』に関するコンテンツ開発を一旦停止。ゲームプレイ、戦利品システム、成長システム、エンドゲームコンテンツなど、広範囲に渡るゲームの見直しを進めていった。挑戦しがいのあるコンテンツ、より多様なビルド構築システム、有意義な報酬のともなう成長システムなど、ゲーム体験の再設計を目指す「Anthem NEXT」。BioWareは2020年、プロジェクトの進捗を報告するブログ記事を数回にわたり発信していた(2020年5月2020年8月2020年10月)。

再開発といっても、これまではあくまでも試作段階。30人ほどのプリ・プロダクションチームによって、どのようにゲームを改良していくか、アイデア出しや研究が進められていた。先述した公式ブログで発信されていたのも、そうした試作段階のアイデアであって、2021年に入っても本格プロダクションには入っていなかった。

その間、BioWareの顔ぶれは変わっていった。『Anthem』のリード・プロデューサーであったBen Irving氏、ライブサービス責任者であったChad Robertson氏、BioWareの全スタジオを統括するゼネラル・マネージャーでありコンセプト段階の『Anthem』を率いていたCasey Hudson氏、後期『Anthem』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めたMark Darrah氏。『Anthem』に関わった主要スタッフの退社が相次ぎ、公式ブログの更新者名義も頻繁に変わっていった。BioWareならびに『Anthem』は、新世代のリーダー陣の手に託されていった。


そして2021年、『Anthem』プロジェクトは岐路に立っていた。このまま本格プロダクション入りにゴーサインが出るのか、それとも、中止となるのか。海外メディアBloombergのJason Schreier記者は2月9日、『Anthem』の運命を決める重役会議が、近いうちにElectronic Artsにておこなわれると、独自ソースをもとに報じた。Electronic Artsがその報道を事実として認めたわけではなかった。だが結果として数週間後、重い決断が下されることとなった。

『Anthem』再開発プロジェクトのメンバーは約30人。先述したSchreier記者が関係者から得た情報によると、本格プロダクション入りするには最低3倍の人員が必要、つまり90人以上のチームへと拡大せねばならなかったという。BioWareは『Mass Effect』『Dragon Age』シリーズの新作、別の未発表作品と、複数のプロジェクトを抱えている。そうした状況下でなお『Anthem』にスタッフを動員するだけの価値があるのか。経営判断としては「否」だったのだろう。


「Anthem NEXT」に期待を寄せていたファンは少なくなかったと思われる。だが、大規模な再開発を正当化するだけの収益をどうやって確保するのか、という疑問は拭えないものであった。無料アップデートではコストに見合わず、有料DLCを販売するにしても十分な数量を捌けないのではないか。その懸念は、最後まで払拭されなかったのだろう。

『Anthem』が輝かしい復活を遂げることはなく、夢は志半ばで潰えた。だがBioWareの未来まで閉ざされたわけではない。再開発中止の知らせを伝えたBioWare Austinのスタジオ・ディレクターChristian Dailey氏は、チームとしても残念な結果であると悲しみながらも、「ゲーム開発は難しく、こうした決断は簡単なものではありません。今後は、スタジオとして全労力を『Dragon Age』と『Mass Effect』作品に注ぎつつ、『Star Wars: The Old Republic』に高品質なアップデートを提供していけるよう、努めてまいります」と、スタジオの未来に目を向ける言葉を寄せた。『Anthem』の復活という夢と希望を追いかけたBioWareの次回作に期待したい。

*Christian Dailey氏の発言から察するに、『Anthem』チームは『Dragon Age』チームに合流するようだ。
Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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