人気探索アクション『Axiom Verge 2』PC版のEpic Gamesストア時限独占が発表されるも、理解を示す声。発表だけでは見えなかった裏事情
Epic Gamesは2月12日、デジタル番組「The Epic Games Store Spring Showcase」を放送。同番組では、いくつかのEpic Gamesストア独占/時限独占タイトルが紹介されており、大トリとして『Axiom Verge 2』のPC版がEpic Gamesストアで販売されることが発表された。同ストアの独占施策については、ユーザーの中でも否定的な意見が多く、『Ooblets』や『MechWarrior 5: Mercenaries』など複数の タイトルがEpic Gamesストア時限独占を発表し批判を集めてきた。しかし『Axiom Verge 2』については、理解を示す声があがっている。その背景には、込み入った事情がありそうだ。
『Axiom Verge 2』は、横スクロール型のアクションアドベンチャーゲームだ。2015年にリリースされた『Axiom Verge』の続編。前作はメトロイドヴァニアスタイルの作品として開発され、特に『メトロイド』へのリスペクトの強さと、世界観のユニークさ、そして探索ゲームとしての完成度の高さが好評価を呼び込んだ。『Axiom Verge 2』は、その続編である。前作の魅力を継承しつつも、まったく新しいキャラクター、アビリティ、敵、そして世界が登場する新作となるようだ。すでに昨年12月にNintendo Switch向けに発表されており、このたびPC版が発表され、ローンチ時にはEpic Gamesストア独占となることが明かされたわけだ。公開されたトレイラーでは、奇妙な世界観と広大なエリア、正当進化したビジュアルやエフェクトが確認できる。
しかし前作『Axiom Verge』は、Steamにて人気を呼んでから、その他のプラットフォームに移植されただけに、新作がEpic Gamesストアにて独占販売されるという対応を疑問に思うSteamユーザーもいるかもしれない。本作を基本的にひとりで開発するThomas Happ氏が、本件について公式ブログにて説明している。
Happ氏によると、前作『Axiom Verge』はEpic Gamesから多大なサポートを受けたという。Epic Gamesストアでの販売を開始するにあたり、発表の6か月前からストア展開のプランを共有してもらい、実際に多くの新規プレイヤーを呼び込む機会を設けてくれたと説明。そのほか、セール期間中にはゲームを半額もしくはそれ以下でユーザーに販売しながら、開発者にはフルプライス分の収益を支払ってくれた点にも言及している。同ストアの、開発者が売り上げの88%の収益を受け取れる配分についても感銘を受けている。一方で、プラットフォームやそこで働く人々のファンであることだけが、独占販売を決めた理由ではないとコメント。新作開発にあたっての金銭的な援助が存在することが示唆されている。
Happ氏はもともと趣味として前作『Axiom Verge』の開発を始めたが、今では本業であると言及。ゲームを開発することで、妻や子供を養わなければならないと説明した。趣味であるゲーム開発を一日中できることが嬉しいとしつつ、同時に家族に対して責任を感じており、収益を出せるどうかというストレスは免れないとも吐露。Epic Gamesはそうしたストレスを緩和させ、ゲームづくりに集中させてくれていると語った。今では『Axiom Verge』を作っていた時のような、趣味に近い気持ちでゲーム開発ができているとも話している。
Happ氏は、『Axiom Verge 2』が将来的にSteamにてリリースされるとも伝えている。あくまでも時限独占なのだろう。Valveとの関係が悪くなったわけではないともコメント。ValveやSteam、そしてSteamのインディーシーンのおかげで『Axiom Verge』があると感謝している。ValveともEpic Gamesストア独占については話したといい、Happ氏のビジネスパートナーであるDan Adelman氏がValveに事情を伝えたところ、ローンチ時にはSteamでリリースされないことにはがっかりしつつも、ゲームと家族のことを考えた結果としては正しい決断であると理解してくれたと、Happ氏は語っている。
開発者が、Steamに感謝しながらも、自身や家族の生活のために、Epic Gamesストア時限独占契約を飲んだと説明するケースは、特別珍しい訳ではない。しかし、RedditやTwitterなどではHapp氏の決断を理解する声が寄せられている。なぜなのだろうか。それは同氏の説明記事だけでは汲み取れない“家族事情”が関係しているだろう。
というのも、Happ氏にはAlastair君という息子がおり、Alastair君は難病を抱えているのだ。彼は健康な身体で産まれたのだが、新生児黄疸の症状が出ていた。通常は数週間で治まるものだが、医師が処置を誤り核黄疸へと症状が悪化。結果、神経系に障害を負ってしまったそうだ。Alastair君は感情を表現することはできるが、身体は自由に動かせず耳も聴こえ難いという症状を抱えながら、家族とともに日々を暮らしている(関連記事)。
Happ氏は、難病を抱える息子の治療費も稼がなければならない。Happ氏はこうした事情を、公にはあまり語らない。今回の声明でも、息子の病気について一切言及していない。しかしながら、ファンにとっては周知の事実である。こうした家族に関する事情がEpic Gamesストア時限独占という決断に対してファンの理解の助けになっている可能性はありそうだ。こうした状況を加味した上でEpic Gamesストア時限独占についての説明記事を読んでみると、Happ氏における「家族」という言葉の意味がより深く理解できるかもしれない。
ただし、家庭事情だけでなく、マーケティングとしてもHapp氏は筋の通ったやり方をしてきた。前述したように『Axiom Verge 2』はまずNintendo Switch向けとして発表された。PCについて言及せず、Steamストアページを用意するといったこともなし。そして今回Epic Gamesストア向けのPC版が発表された。続編の情報公開に際して、自身の言動によって誰かの期待を裏切ってはいない。これまでSteamストアページを公開しながら、最終的にEpic Gamesストア時限独占を決断した開発者への批判を見るなど、過去事例を参考にしたのだろう。もちろんローンチ時にEpic Gamesストアで独占販売されることについて落胆する声はゼロではないが、やむを得ない事情があり、説明も筋は通っている。理由説明において息子に言及しなかった点も、誠実に見えるかもしれない。納得できる材料は、ある程度揃っているわけだ。
いずれにせよ、Happ氏は家族への責任とファンの期待、そしてプラットフォームのしがらみを背負うこととなった。その決断が正しかったかは、同氏自身が将来決めることになるだろう。『Axiom Verge 2』は、PC(Epic Gamesストア)/Nintendo Switch向けに近日発売予定だ。