『サイバーパンク2077』のトラブルを巡り、米国の法律事務所が集団訴訟を視野に入れた調査を進める
『サイバーパンク2077』を巡り、米国の法律事務所が集団訴訟を視野に入れた調査をおこなっていると報じられている(Yahoo Finance)。調査を進めているのは、米国の法律事務所Wolf Haldenstein Adler Freeman & Herz LLPだ。『サイバーパンク2077』の開発・販売元であるCD PROJEKTが、投資家・株主に誤認を与える情報を発信していた可能性があるとして調査を実施。損失を被った投資家に向けて、同法律事務所へのコンタクトを促している。
「“プレイヤー第一”のイメージ崩れる」
同発表は、『サイバーパンク2077』PS4ダウンロード版がPlayStation Storeから一時削除された件を受けて発信されたものだ。同作を巡っては、コンソール版におけるバグの多さやパフォーマンスの低さが指摘され、CD PROJEKTが謝罪文を掲載。12月14日の時点でCD PROJEKTは、PS4/Xbox Oneのパッケージ/ダウンロード版ともに返金対応に応じると伝えていた(関連記事)。その後12月18日、PS4ダウンロード版のストア削除がSIEより発表された(関連記事)。
14日の謝罪文には、「発売前に、初代PlayStation 4およびXbox One版におけるゲームプレイをきちんとお見せしなかったこと、そしてそれにより、十分な事前知識なしに本作をご購入させてしまったことを深くお詫び申し上げます」と記載されており、発売前の情報発信が不十分であったことを認めている。メディアやインフルエンサーによる発売前のレビューもPC版のみに制限されており、コンソール版の完成度が未知数のまま、ゲームの事前評価が固まっていった。技術面では未完成と言える状態であったことは伏せられていたのだ。
法律事務所が大企業を相手取る集団訴訟の調査を進めること自体は珍しいことではない。係争に持ち込みうる材料が何かしら見つかれば、どこかの事務所が調査を実施し、情報提供を呼びかける。無数にある調査案件のうち、注目度の高いものだけが広く報道される。今回の『サイバーパンク2077』も、ローンチを巡るトラブルが大々的に報じられており、投資家または法律事務所が動き出すのは時間の問題だっただろう。調査を受けて実際に優良誤認などで争われるかどうかは、まだ不明である。
『サイバーパンク2077』は予約販売のみで800万本もの売り上げを叩き出しており、すでにゲーム開発費やマーケティング費用を回収済みであると、CD PROJEKTより発信されている(関連記事)。セールス上は好調に見えるが、急ピッチでの不具合修正のほか、先述したような返金およびPS4ダウンロード版のストア削除という異例の対応に追われている。
こうした状況を受け、CD PROJEKTのCEOであるAdam Kiciński氏は、投資家との緊急カンファレンス・コールを実施。ゲームは3回もの延期を経ており、発売させることにフォーカスしすぎてしまったと伝えた。PlayStation 4/Xbox One用にゲームを最適化するには追加の時間が必要であるという兆候を無視したことも認めている。先述した法律事務所は、投資家に誤認を与えていた可能性があると記したあとで、このKiciński氏の発言を引き合いに出している。
ゲームに関する評判や返金対応の実施は当然、投資家の判断にも影響を及ぼす。同作のメディアレビューが解禁されてからCD PROJEKTの株価は下落を続けており、9月14日の時点で33%低下したと報じられている(Bloomberg)。CitigroupのアナリストRafal Wiatr氏は「ここ数日のうちに、CD PROJEKTの“プレイヤー第一”というイメージが著しく損なわれてしまったことを懸念している」とコメント。信頼を取り戻すのには時間を要し、そうした要因もあって株価が落ちているのだと伝えている。
CD PROJEKTは『ウィッチャー』シリーズの開発・販売を通じて、プレイヤーからの厚い信頼を集め、プレイヤー第一という企業イメージを浸透させてきた。だが『サイパーパンク2077』においては、プレイヤー/消費者に十分な情報が行き届いていたとは言いづらい。記録的なセールスを残したとしても、企業イメージとしては打撃を受けることに違いないだろう。今後は、損なった信頼の回復に努めていくこととなる。
返金を巡る騒動
SIE/マイクロソフトが、PlayStation Store/Microsoft Storeで販売されているダウンロード版タイトルの全面返金に応じるというのはイレギュラー。条件問わずの全面返金は通常受け付けておらず、マイクロソフトも、『サイバーパンク2077』については返金ポリシーを拡張しての対応だと補足していた(関連記事)。のちにCD PROJEKTは、引き続きゲーム体験の向上に努め、PlayStation Storeにてゲームを再販できるよう尽力していくと発信。12月19日には、多数のバグ修正を含む最新アップデート1.05が配信された。今後も1月と2月に大型アップデートの配信が予定されている(関連記事)。
CD PROJEKTの要望により、イレギュラーでの返金対応に踏み切ったSIE/マイクロソフト。だがPlayStation Storeからの一時削除というSIE側の対応に関しては、少なくともCD PROJEKTの開発チームが望んだものではないのかもしれない。というのも、『サイバーパンク2077』を開発するCD PROJEKT REDのスタジオ代表Adam Badowski氏は、Twitter上でSIEの対応を批判するユーザー投稿に次々と「いいね」を押していたのである。なお後日「いいね」は撤回された(Video Games Chronicle)。
単に不具合が多かったり、最適化されていなかったりといった理由だけでストアから削除されるとは考えづらい。理由がそれだけであれば、当てはまるゲームがいくらでも出てきてしまう。この点、インディーパブリッシャーNo More RobotsのMike Rose氏は、SIEがストアから『サイバーパンク2077』を削除した理由について独自の見解を示している。SIEの返金ポリシーで許容される範囲を超え、CD PROJEKTが勝手に「SIEが返金に応じる」と発信したため、SIEの逆鱗に触れたのではないかと、Rose氏は推測している。
なお海外メディアBloombergは独自の内部者ソースをもとに、CD PROJEKTの社内会議の様子について報じている。最近開かれた社内会議では、企業の評判、非現実的な締め切り、容赦ない長時間労働などに関する疑問が、開発陣から経営陣へと、怒りと不満とともにぶつけられたという。経営判断もあってトラブル続きのローンチを迎えてしまった以上、ある程度は避けられない不満だろう。この先『サイバーパンク2077』をどこまで磨き上げていくのか。企業イメージに傷を負ったCD PROJEKTの経営陣の姿勢、開発陣の力が問われていく。
ゲームに関するしっかりとした情報発信、そしてユーザーがゲームに寄せる期待の管理。これらが消費者フレンドリーに進まないと、「思っていた内容・品質と違う」という落胆につながる。『No Man’s Sky』『Fallout 76』『Anthem』など、問題となった項目こそ異なれど、数々の作品が「事前情報と消費者認識の不一致」によって大きな批判を浴びていった。多くの場合、挽回するまでに長い時間を要している。『サイバーパンク2077』はゲーム内容そのものの評価は高い。不具合の修正、ゲームの最適化、機能改善などを続け、DLCの販売・マルチプレイの実装といったタイミングにあわせて、技術的な品質・パフォーマンス面でも評価され直される日がくることを願いたい。