『Apex Legends』に「ウォールラン」の導入予定は“ない”と開発者が断言。ゲームデザイナーが語る、『タイタンフォール』との違いとは
『Apex Legends』について、「元パイロット」のプレイヤーには少し残念な事実が開発者から明かされたようだ。いよいよ10月23日に開催が迫った『Apex Legends』のハロウィンイベント「ファイト・オア・フライト」(関連記事)。今年の目玉は「影の軍団」をフィーチャーした新たな期間限定モード「シャドウロワイヤル」の実装だ。
プレイヤーは敵に倒されると影として再生し、チームの誰かひとりでも生存している限り活動することが可能。武器をもつことができない代わりに優れた移動力を備え、高い攻撃力で敵を倒せるうえに仲間の復活も可能。まさに死んでからが本番となる、闇夜のキングスキャニオンでの限定モードとなっている。トレイラーからは影となったプレイヤーの高い機動力が垣間見えるが、動画内で0:44ごろに見られる「あのアクション」が一部のプレイヤーから注目を集めた。
高所から向かいの建物の壁に向かって大ジャンプしたのち、わずかながら壁の上を走っている。これは『タイタンフォール』シリーズにおけるパイロットの「ウォールラン」と同様の動きだ。よく見ると壁に接地する直前に、一瞬2段ジャンプしていることもわかる。『タイタンフォール』シリーズ最大の特徴といえば、壁や空中を駆け回ることで立体的な動きを可能にするパルクールアクションだ。地上をスプリントするよりも格段に高いスピードで移動することができ、ウォールランと2段ジャンプを組み合わせて活用すれば空中から一方的に相手を撃ち下ろすことも可能。
適切なルートを選んで相手の背後に回りこむなど、巧みなウォールランの技術は『タイタンフォール』経験者なら必須といわれるスキルだ。中には、他のFPSを遊んでいてもうっかり走れそうな壁を探してしまうという声もしばしば。それだけ経験者には馴染み深いアクションがウォールランである。そして『Apex Legends』プレイヤーといえば、同シリーズからの流入者が格段に多い。新たなモードで『タイタンフォール』シリーズのウォールランが可能になるということで、歓喜している元/現役パイロットも少なくないようだ。
話題はヒートアップし、「今後デフォルトのアビリティとしてウォールランが可能なレジェンドが実装されるのではないか」との説まで飛び出している。というのもこれまで『タイタンフォール』シリーズにおけるパイロットにあたるキャラクターが実装されるのではないかという噂はたびたび持ち上がってきた。同シリーズにおける敵役ブリスクが姿を見せたり、『タイタンフォール2』キャンペーンモードの主人公ジャック・クーパー出演が取り沙汰されたり、(元)パイロットである人物がレジェンドとなる可能性についてはコミュニティで重ね重ね話題となってきた経緯があるのだ。
ところが開発者より、『Apex Legends』へ本格的にウォールランが導入される可能性は「かなり低い」との見方が明言された。Respawn Entertainmentでゲームデザイナーを務めるDaniel Zenon Klein氏が、海外掲示板Redditにて解説している。なぜ『Apex Legends』にウォールランがもちこまれないか、それは同作が「10〜12秒後」を見据えるゲームであるのに対し、『タイタンフォール』は「ほんの数秒後」に集中させるメカニズムだからだという。
Klein氏はゲームデザインにおいて、「不確定の可能性」という概念に着目している。たとえば敵がある角を曲がったとき、その相手が次にどこへ現れるかという可能性は不確定の状態のまま存在する。そして時間が経つにつれその可能性は増大していく。敵が現れる可能性のあるポジションは方々に広がっていくからだ。逆に、プレイヤーがすぐに敵の後を追って同じ角を曲がれば、次にどこへ相手が現れるかの見当をつけることができ、可能性は収束していく。
『タイタンフォール2』においては、「不確定の可能性」が増大する速度が異常に速かったことをKlein氏は指摘している。それはウォールランが存在するためである。ひとたび敵が角を曲がってしまえば、次に相手が現れるのは高台かもしれない。あるいは背後に回り込んでいるかもしれない。一瞬のアクションにより、可能性は無限大に膨張してしまう。
したがってプレイヤーに求められるのは、可能性を読み切って手を打つことではない。予期しない出来事に対応する瞬発力である。あるいは、驚異的な素早さを誇る敵を追跡する正確性である。これらのスキルをKlein氏は「爬虫類的な脳」と名付けている。動体視力、瞬発力、正確性。ここでは、より高度な戦略を働かせる脳は作用しない。直感的なスキルに依拠したバトルはエキサイティングではあるものの、非常に消耗するうえ変化に乏しい。
翻って『Apex Legends』を考えてみよう。ゲームのテンポには緩急がつけられており、戦闘への突入・回復のための退却・増援の到着・建物内のクリアリングなどさまざまな場面に遭遇する。このとき重要なのは、プレイヤーはつねに「上位の脳」を働かせているということだ。一瞬先のことではなく、十数秒先を見据えながら行動している。押すべきか、退くべきか。アビリティを使って距離を詰めるべきか、戦線を逃れるべきか。チームメイトが到着するまで持ちこたえられるか。
Klein氏は、ゲームがリプレイ性をもつのはプレイヤーが「ストーリー」を語れるときであると述べる。それは言い換えれば、プレイヤーがいかに自身の中で戦略を立て、どのようなロジックのもとで行動したか説明ができるということだろう。同氏は『タイタンフォール2』のマルチプレイを今なお愛し続けているユーザーがいることには触れつつも、そのゲーム性については「シュガーハイ」であると言い切った。平均的なプレイヤーについては数週間夢中になったのち燃え尽きてしまうとして、広く長期ユーザーを獲得するつくりにはなっていなかったと結論づけている。
「敵の行動を予測することでそれに対処できる余地を常にプレイヤーに与えること」を『Apex Legends』の開発陣は強く意識しており、同じ理念からローバの強化が難しいこともすでに語られている(関連記事)。今回の期間限定モードにおけるウォールラン&2段ジャンプは、あくまで銃を持てないハンデを負った影の軍団だからこそ実現できた特権のようだ。
ちなみにパイロットはパンチ1発で人を殴り殺せる超人スペックの持ち主。「ガンファイトであるApexに(近接格闘特化の)フォージが導入される可能性はない」と開発者に断言された前例もあることから、仮にジャンプスーツがなくとも彼らの参戦は難しいのかもしれない。