Nintendo SwitchのDLゲーム売上を向上させるために何をしたか。さまざまな実験を繰り返したパブリッシャーが“裏”知見を共有
毎週多数のゲームがリリースされているNintendo Switchのニンテンドーeショップ。ゲームを販売する側としては激しい競争にさらされていると言え、戦略なしではただ埋もれていってしまうリスクがある。パブリッシャーNo More Robotsの代表Mike Rose氏は、ニンテンドーeショップではどのようにしてゲームを売るべきなのか、まだ情報が少ないなか自ら試行錯誤を重ねたそうで、9月25日にその知見を共有している。
No More Robotsでは、これまでにブレクジットRPG『Not Tonight: Take Back Control Edition』、王国運営RPG『Yes, Your Grace』、カードバトルゲーム『Nowhere Prophet』、1990年代インターネットシム『Hypnospace Outlaw』の4タイトルをNintendo Switch向けに配信。いずれも2020年に海外でリリースしている。
初参入からの軌跡
まず初参入タイトルとして1月に配信した『Not Tonight: Take Back Control Edition』では、先行して発売されていたPC版では別売りだったDLCを同梱し、その分価格も引き上げた。ブレクジットという政治的なテーマを扱っており任天堂からの積極的なPRサポートが期待できないなか、あえて高価格帯で攻める思い切った決断をした形だ。
結果としては、Steam版の発売初月と比較して10%程度の売り上げだったという。具体的な本数については今回は明かしていない。Mike Rose氏は、ややがっかりしたものの、まずまずであったとしている。
6月にリリースした『Yes, Your Grace』は、Steam版が先に大きな成功を得ていたこともあり、任天堂からPR面でのプッシュを得ることができたそうだ。また、20%オフ価格にて事前予約をおこなったり、Steam版から間を空けずに配信したという点も、前回とは異なる状況である。メディアにもよく取り上げられていた作品だった。
こうしたことからRose氏は同作に大きな期待を寄せたが、同じくSteam版の発売初月と比較して8%の売り上げにとどまる結果に。好条件が整っていてもなかなか売り上げに結びつかない状況に、同氏は歯がゆい思いをしたという。
翌7月の『Nowhere Prophet』では、Xbox One向けサブスクリプションサービスXbox Game Passにも同時配信するという、また別の形でリリース。No More Robotsは、同サービスへの提供によって加入者がプレイするだけでなく、露出効果により通常購入も増加するという成功を過去の作品にて経験しているため、プラットフォームを超えてその再現を狙ったのかもしれない。
同作はやや価格が高かったため不安もあったが、今度はSteam版比で20%の売り上げとなった。依然物足りない結果であるものの、カードゲームであるため今後の展開で巻き返しが可能だとして、納得したそうだ。
そして8月に配信した『Hypnospace Outlaw』では、すでにPC版が高い評価を得て賞も複数獲得しており、さらに任天堂のIndie World Showcaseでも紹介されるなど、これまででもっとも大きな期待がかかるリリースとなった。しかし、配信初月の結果は『Yes, Your Grace』と同程度だったという。ただ、その後も根強く売れ続けてはいるとのこと。
ニンテンドーeショップの特徴
こうした4作品での経験からMike Rose氏は、ニンテンドーeショップならではの特徴に気づいたそうだ。まずはレビュー集積サイトMetacriticでのメタスコア(評価)の影響について。PCなどでは、同サイトのメタスコアがどうであれ売り上げに特に影響はないそうだが、Nintendo Switchではそうでもないという。
その理由としては、ひとつは任天堂がセールやPRなどの対象とするタイトルの選定にメタスコアを使用することがあるため。もうひとつは、Nintendo Switchユーザーはプレイする価値のあるゲームを手軽に探せるとして、メタスコアを参考に購入するゲームを選んでいる傾向が強いと見られるためだとしている。これは、ストア自体にキュレーション機能がほとんどないことも影響しているだろう。
ニンテンドーeショップのもうひとつの特徴は、大幅値引きのセールをおこなうことで、売り上げ本数ランキングの上位に容易につけることができること。ここでRose氏はひとつ実験をおこなっている。No More Robotsでは40%以上の割引をしない方針をとっているが、『Not Tonight: Take Back Control Edition』にて90%オフ、そして『Yes, Your Grace』にて40%オフセールを実施。時期は異なるが、同じ時系列での収益を並べたのが以下のグラフだ。
大幅値引きの絶大な効果
セールによって『Not Tonight: Take Back Control Edition』は、目論見どおりランキングのトップへと駆け上がり、わずか4週間でSteam版の総売り上げ本数に並んだという。1本あたりの利益はわずかだが、この間に6桁(10万ドル単位・1000万円単位)の収益を得られたそうだ。一方の『Yes, Your Grace』は、『Not Tonight: Take Back Control Edition』と比較して13%の売り上げ本数、60%の利益となった。これでも十分力強い売れ行きだったが、結局ランキングに入ることはなかったという。
ここで重要なポイントは、ランキングの上位に入るとセールが終了した後もしばらくランキング圏内に留まり、通常価格での売り上げアップにも繋がるということ。上述したように十分な利益を得られるため大幅値引きは必須ではないが、ランキング入りで得られる露出効果は絶大だという。ちなみに、この大幅値引きによって、Steam版の売り上げが落ちるということはなかったそうだ。
Mike Rose氏は、まとめとして以上のポイントをツイートにて挙げている。ここまでに触れたもの以外では、予約販売をおこなうことを推奨。ゲームの初週売り上げ本数は予約購入数のおよそ3倍となるため、売り上げの予測をつけるために役立つそうだ。また、体験版を配信することで、ゲームニュースページでの特集などの露出に繋がる。そして、適切なローンチ割引をおこない注目を得ることも大切だとしている。
メタスコアは操作できる?
Metacriticにてそれなりのメタスコアの獲得を目指すべきとしている理由は先述したとおりだが、Rose氏はここでもひとつ実験をしている。『Not Tonight: Take Back Control Edition』のリリースに際して、Metacritic掲載サイトのうち平均的に高スコアをつけているサイトにレビューコードを送付し、逆に低評価をつけがちなサイトには送付しないことを試したところ、Steam版と比較してメタスコアが上昇したという。なお、同氏はこの手法を推奨しているわけではなく、あくまで検証のため。メタスコアはメーカーが容易に操作可能であることが実証できたと指摘している。
先述した、大幅値引きによるニンテンドーeショップの売り上げ本数ランキング入りにしても、同氏は推奨していない。もともと同氏は、本数ベースのランキングでは結果的にメーカーは安売りを強いられるため、かねてより不満を語っていた(関連記事)。ただ、そうした大幅割引をするゲームで溢れている状況は、残念ながら変わることはないだろうとも述べている。
今回Mike Rose氏は、小回りの効くインディーゲームパブリッシャーとして、いくつかの実験をおこないながらニンテンドーeショップの攻略法を探り、その結果を共有した。あらゆるゲームに適用できるとは必ずしも言えないかもしれないが、誰かにとって役立つ情報となることを願うと同氏は締めくくっている。
なお、No More Robotsでは自転車ゲーム『Descenders』のNintendo Switch版の発売が年内に控えている。来週にも海外での配信日を発表するそうだ。同作は、日本ではPS4版と共にパッケージ版が11月5日に発売予定。ダウンロード版については未定である。