Epic Games、iOS版『フォートナイト』のストア削除は不当であると再主張。裁判所の判断とEpic Gamesの言い分を整理

Epic Games、『フォートナイト』のストア削除は不当であると再主張。一時差し止め命令の必要性を巡る裁判所の判断とEpic Gamesの言い分を整理。

Epic Gamesは9月4日、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に向けて、Appleへの一時差し止め命令の必要性を、再度主張する書面を提出した。具体的には、『フォートナイト』内に、Appleが許可していないアプリ内決済手段が含まれているという理由で、同作をストアから削除し、Epic Gamesのデベロッパーアカウントを停止するという、Apple側の措置を差し止めるよう、裁判所に求めている(PDFリンク)。

Epic Games対Apple係争の本筋は「Appleの反競争・不当な市場独占」。それとは別途、Epic Gamesのガイドライン違反にもとづくApp Storeからのアプリ削除、Appleデベロッパーアカウントの停止処分を巡り、Epic Gamesは裁判所に一時差し止めを求めていた。8月24日には、裁判所が「Epic Gamesのデベロッパーアカウント」「Epic Games関連会社(Unreal EngineオーナーのEpic Games International含む)のデベロッパーアカウント」への措置を分けて考えた上で、後者についてのみ、Appleに対し一時差し止めを命じた(関連記事)。

後者の一時差し止めを認めた理由として担当判事は、Unreal Engineを開発するEpic Games Internationalが、Apple開発ツールへのアクセスを失うと、Unreal Engineを使用しているデベロッパーおよびゲーム業界そのものに甚大な影響が及ぶと説明。また、そもそもEpic GamesとUnreal EngineのオーナーであるEpic Games Internatinalが別法人である点も踏まえ、ガイドラインを破っていないEpic Games Internatinalを含むEpic Gamesの関連会社に対しては、Appleデベロッパーアカウントや開発ツールの制限・停止といった措置を取ってはいけないと、Appleに対する一差し止め命令を下した。


このたびEpic Gamesは、訴えが認められなかった、iOS版『フォートナイト』のストア削除(8月14日にApp Storeから削除済み)、Epic Gamesデベロッパーアカウントの停止処分(8月28日に実行済み。関連記事)の一時差し止めを、改めて求めた形となる。

以下では、裁判所が8月24日の時点で一時差し止めを却下した理由と、このたびEpic Gamesが新たに提出した主張内容を、項目分けして述べていく。

一時差し止め命令のバランステスト

裁判所が、一時差し止め命令を出すべきかどうか判断する際には、以下4項目からなるバランステストがおこなわれる:

1. 本案の勝訴可能性(勝訴できるとの合理的な可能性の立証)
2. 回復不可能な損害を被る可能性
3. 比較衡量
4. 公益

そして8月24日、担当判事のYvonne Gonzalez Rogers氏は、一時差し止め命令の対象を

a. 『フォートナイト』を運営するEpic Gamesのアカウント
b. Unreal EngineのオーナーであるEpic Games Internationalを含む、Epic Games関連会社のアカウント

上記2つに分けた上で、「a」に関しては却下。「b」に関する一時差し止めのみ認めた(関連記事)。以下、「a」の対応を巡る、裁判所の判断内容と、Epic Gamesによる再主張内容を記載。

1. 本案の勝訴可能性

裁判所:立証不足との判断

Appleによる反競争・不当な市場独占という、Epic Gamesが提訴した本案部分について、現時点ではEpic Games側が勝訴できる可能性を十分に立証できていないと、判事のRogers氏は伝えている。ただし、裁判所としてもApp Storeのポリシーには重大な懸念事項が存在しているとの認識を持っているとコメント(特に30%というApp Storeの取引手数料について言及)。そうした文脈を考慮した上で、ほかの要件が検証されていった。

Epic Games:Appleによる不当な市場独占を改めて主張

まずEpic Gamesは、自社の勝訴可能性が高いと改めて主張。AppleはiOSプラットフォームの市場支配力を活かし、アプリ配信およびアプリ内決済という2つの分野における市場独占を維持するため、さまざまな制限を設けてきたと説明。本案の訴状に記載していた主張を補強するように、Appleの問題点を改めて指摘していった。

またAppleの不当な独占体制が崩れれば、デベロッパーと消費者には選択肢が与えられ、Appleは競争相手に負けないよう品質・価格面での改善を図るようになる。Appleの不当な独占を主張すると同時に、Appleの市場独占を打破することは、Epic Gamesだけでなく各方面にとって好ましいことだと強調した。

2. 回復不可能な損害を被る可能性

裁判所:自ら招いた損害は、回復不可能な損害には該当しない

判事のRogers氏は、自傷行為により発生した損害は、本要件における回復不可能な損害には当てはまらないとの考えに基づき判断。現在の状況はEpic Gamesが自ら招いたもの。またEpic Gamesがガイドライン違反を容易に直せる状態であると認めている点にも言及。Epic GamesがAppleのガイドラインを破ったまま訴訟を続けたいというのであれば、それはそれでEpic Gamesの自由ではあるが、ひとまずAppleのガイドラインを順守しながら係争を進めるのが分別のあるやり方だろうと伝えている。Epic Gamesが、ガイドラインを破ったまま法廷で争いたいと思っているからといって、本要件における回復不可能な損害に当てはまるわけではないと説明した。

Epic Games:独占企業と戦う姿勢を見せたことで罰されるべきではない

Appleとの契約内容自体が独禁法違反であるとEpic Gamesは考えており、そうした契約に従わないからといって、Epic Games側がペナルティを受けるべきではないと主張。自ら損害を招いたというよりは、違法な契約内容ゆえにガイドラインを破ったというわけだ。Epic GamesがAppleに立ち向かえたのは、それが正しい行為であると同時に、ほかの企業よりも難局を切り抜けやすい立場にいるからだとも伝えている。

3. 比較衡量

裁判所:ストア復帰を認めると、取引手数料の完全回避が可能になってしまう

もしも裁判所がAppleへの一時差し止めを命じ、『フォートナイト』をApp Storeに復活させてしまうと、Epic Gamesはストア取引手数料を完全に回避した状態でiOS版『フォートナイト』を運営できるようになる。判事のRogers氏はこの点を懸念視しており、「Appleの30%という取引手数料について、専門家からは反競争的であるとの意見が寄せられると予想されるが、専門家が0%という代替案を出してくるとは考えづらい」と述べている。現在の状況は、Epic Gamesが“戦術的”にAppleのガイドラインを破ったことで生まれたもの。裁判所の介入によって、Epic Gamesにとって有利な状況を生み出す理由は見当たらないと説明している。

Epic Games:他に真似する企業は現れない

Epic Gamesいわく、一時差し止めが認められなければ、Epic Gamesが本案において勝訴したとしても、回復不可能な損害を被る。逆に一時差し止めが認められ、独自決済機能を実装した『フォートナイト』が復活すれば、Epic Gamesが本案において敗訴した場合でも、Appleが被る被害は『フォートナイト』から発生するはずの取引手数料分だけ。それは十分に埋め合わせられるものだと伝えた。Epic Gamesがストア取引手数料を回避して『フォートナイト』を運営したからといって、Apple側は金銭的に回復不可能な不利益を被るわけではない。比較衡量として考えると、一時差し止めがおこなわれないことで生じる損害は、Epic Gamesの方がはるかに大きいというわけだ。

また『フォートナイト』が独自決済機能を実装した状態でストアに復帰すれば、ほかのデベロッパーも真似しはじめるという懸念については、あくまでも推測によるもので、実際には起こりそうにないものだと主張。Appleの怒りを買うという大きなリスクを取れる企業はごくわずかであり、そのリスクとコストに見合うだけの動機も限られていると伝えた。他に真似する企業が現れると考えにくい以上、一時差し止めによってAppleが失うものは、ほとんどないと。

4. 公益

裁判所:プレイヤーが求めているからといって例外措置は取れない

インターネット上での投稿・コメントにより、『フォートナイト』のApp Store復帰を望んでいるプレイヤーが多いことは認識していると、Rogers氏はコメント。とはいえ、そうしたプレイヤーからの声は、「民間企業間が契約上交わした合意事項を守る」「ビジネス上の争いを通常の訴訟手続きによって解決する」ことで生じる公共の利益を上回るものではないと述べている。

Epic Games:Appleは何百万ものユーザーから、友人・家族・コミュニティとの接続手段を奪った

一時差し止めにより『フォートナイト』を復活させることは、健全な市場競争の実現、反競争的な契約の排除という意味で公益につながると、Epic Gamesは述べた。Appleの反競争的な契約を破ること自体、健全な市場競争を求めるための行為ゆえに、公益につながるものなのだと。

また『フォートナイト』は単なるゲームではなく、ほかのユーザーとつながるソーシャル・コミュニティとしての側面が、本作における価値提供の大きな部分を占めていると説明。『フォートナイト』をストアから削除することで、Appleは何百万ものユーザーから、友人・家族・コミュニティとのつながりを奪っていったと主張した。

ほかのプラットフォームを通じて『フォートナイト』にアクセスできる者もいるが、多くにとってiPhoneが唯一の手段(iOS版『フォートナイト』ユーザーの63%は、iOS版でのみ同作を遊んでいるという)。そしてコミュニティから何百万単位のユーザーが抜けると、アクセスできなくなったユーザーだけでなく、残されたユーザにとっても、『フォートナイト』の魅力が低減する。なお『フォートナイト』の登録者3億5000万人中、1億1600万人に、iOS版『フォートナイト』の利用歴があるとのことだ。

ストアから削除されてから、iOS版のデイリーアクティブユーザーは60%以上減少。Epic Gamesに対する信頼の低下、企業としての評判の低下につながったという。また10億ユーザー規模のiOS市場へのアクセスを失い、新しいユーザーを獲得できなくなったとも。ストアからの削除は、『フォートナイト』の完全なるメタバース化という、Epic Gamesの野望を実現する上で、大きな障害になると伝えた。

裁判所の判断を覆せるか

*Twitter上でのApple批判を強めているEpic Games CEOのTim Sweeney氏

今回提出した書類にてEpic Gamesは、自社はAppleという独占企業に反旗を翻すのに適したポジションに立っているとも説明。Epic Gamesは、iOS端末における新しいアプリ配信ストアおよびアプリ内決済機能を提供する準備が整っており、AppleがiOS端末におけるアプリ配信・アプリ内決済手段を独占さえしなければ、Epic Gamesは直接の競争相手になれると述べている。そしてAppleの独占体制を打破するためのファーストステップとして、『フォートナイト』内に独自の決済機能を設置。消費者に、より安価な選択肢を提供してみせたという。そうしたEpic Gamesによる挑戦を、回復不可能な損害を被ることなく実現するためにも、Appleによる“報復措置”を止めてほしいと主張している。


またEpic Gamesは、Appleに対しストア取引手数料をゼロにせよと求めているわけではないとも補足。Epic Gamesが望んでいるのは、App StoreおよびAppleのIAP(アプリ内課金)を使わず、競合サービスを使用・提供する自由だという。そして先述したように、Epic Gamesは「競合サービスの提供」を開始する準備ができている。Epic Gamesが勝訴した場合、App Store以外の場所でもiOS版『フォートナイト』が提供される可能性を示した。

Epic Gamesが覆さねばならないのは、裁判所が言い渡した、勝訴できる可能性の立証不足。自ら招いた損害は考慮対象にならないという裁判所の考え。差し止めを認めればストア取引手数料を回避した状態でアプリを運営できるという懸念。そしてプレイヤーの声は「民間企業間が契約上交わした合意事項の順守」「ビジネス上の争いの、法的手続きにそった解決」がもたらす公益を上回るものではないとの判断。はたしてEpic Gamesによる追加弁論は、裁判所の結論を変えることができるのだろうか。一時差し止めに関する審問は、9月28日にZoomを介して実施される予定だ。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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