『あつまれ どうぶつの森』に蔓延る“暗黒人身売買市場“を懸念し、ハッカー集団が「どうぶつ無料配布システム」構築。毒と毒が喰らいあう

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憧れの住民がどうしても、欲しい。『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)』プレイヤーはいつでもこうした熱に浮かされてきた。多くの島民の身を焦がしてきた代表格は、本作から彗星のごとく現れた新どうぶつ「ジャック」だろう。ネコ系のキザな男で口癖は「キリッ」。黒メガネの奥にオッドアイが光る端正な顔立ちのキャラクターだ。彼を求めて止まないユーザーは数知れず。オンライン上では高額ベルや大量の「マイルりょこうけん」、あまつさえリアルマネーを使ってジャックを売買する例が後を絶たない。ネット上の『あつ森』プレイヤーたちは恋慕の情とシビアな取引に憔悴し、ついには「ダンボール状態ジャック大喜利」という奇行におよぶようになっている。何かが狂ってしまったのだ。

こうした状態を憂いたプレイヤーのひとりが、PokéNinja氏だった。こんなのは『どうぶつの森』ではない。しかし世の不条理を破壊するには、もはや正攻法では太刀打ちができなかった。闇のメガエコノミーに終止符を打つべく同氏は禁断の策に出る。不正ツールを使い、ジャックを無限に配ることにしたのだ。海外メディアのPolygonが伝えている。

*ジャックを迎え入れたプレイヤーの様子。

PokéNinja氏はソフトをハッキングし可能な限りジャックを湧かせた。そして5月、Twitterにて自身の発信を拡散する。それは、どんな対価も不要で希望者にジャックを配布するという信じられない申し出だった。告知からおよそ12時間で、PokéNinja氏のもとには50件の反応が送られてくる。長らくジャックを探し求めて流浪を続けてきたプレイヤーから、ガールフレンドを驚かせるプレゼントとしてジャックを求めるユーザーまでさまざまだった。

およそ6時間以上、PokéNinja氏はジャックを呼び出しては他の島に送り出した。やがて同氏のもとにはジャック以外のどうぶつリクエストも集まってくる。ジト目が人気なリスのジュン、水色ヤギのレム、ゆめかわクマのみすず。セーブ&ロードを繰り返し、数多の来訪者を受け入れては、求められた住民とともに送り出した。希望を叶えたプレイヤーはベルなり旅行券なりで返礼を試みたが、PokéNinja氏にとってそんなものはどうでもよかった。同氏は全世界に約30匹のジャックを送り出したという。数百万のユーザーがひしめく暗黒の『あつ森』経済に送り込まれた、数十の刺客。それは大海に落とされたひとしずくに等しかったが、やがて腐敗したシステムを瓦解させる確かな毒となるはずだった。

ジュン
左からジャック、みすず、レム(画像は『どうぶつの森 ポケットキャンプ』より)

その後もPokéNinja氏のもとには“無料ジャック”を求める声が絶えず届いた。「その量を見て、もっと大きな規模で人々を助けるにはどうしたらいいかと思うようになったんです」と、同氏はPolygonに語っている。というのも、いくら不正ツールを使っているとはいえ、ジャックを生産し他のユーザーに送り届けるにはある程度の時間が必要だった。すべての需要をひとりでカバーすることはとても不可能だ。届いたメッセージを見ているうち、PokéNinja氏は送られてくるのがジャックのリクエストばかりではないことに気づく。同氏と同じく、『あつ森』の人身売買マーケットを転覆させたいという有志が集まり始めていたのだ。

ある者はハッキング術の指南を望み、またある者はすでに身につけた技術で活動への参加を申し出ていた。5月の下旬、PokéNinja氏は20名程度の候補者と面談を実施し、新たなグループ「Villager Haven」の構想を立ち上げる。村人たちの安息地、あるいは避難所。あらゆるプレイヤーが無償で、望めばどんな住民も簡単に手に入れられるシステムだ。プラットフォームにはDiscordを用いる。ユーザーが行うべきことは、bot宛に希望するどうぶつの名前を打ち込み、自動返信に対して確認を押すのみだ。やがて運営メンバーが直接連絡をとり、細かなセッティングが調整される。おおむね48時間も待てば、理想の住民が手に入るという。対価となるものは何もない。スタートアップからひと月近い準備期間を経た6月下旬、とうとうVillager Havenは始動する。

*Discord上における住民リクエスト方法のデモンストレーション。

影響は圧倒的だった。初っ端に届いたリクエストは450件、「うち“半数”はジャックが占めていた」とPokéNinja氏はPolygonに語る。次点人気はみすずとのことだ。現状での問題は、Discord申請の受領後は人力でどうぶつを届けるかたちとなるため、どうしても時間がかかる点。ユーザーもあとどれだけの時間で憧れの住民が届けられるかわからず、ヤキモキさせられることが少なくない。それでもVillager Havenで「願い」を叶えたプレイヤーは数知れず、Twitterでは喜びの声があふれている。

*「ああああああホントに嬉しい、ジャックのチャンスをみんなにくれてVillager Havenマジでありがとう!! マイルりょこうけんで買おうとして1000枚以上集めてたら何年もかかってたよ、本当に嬉しい」

PokéNinja氏によれば、システムを運営する共同体はもはやハッカー集団の域を越えているという。amiiboカードを使ってどうぶつ提供をサポートするメンバーもいれば、正攻法の離島めぐりで地道に活動を支援している者もいるそうだ。その規模の拡大ぶりに対しては、Villager Haven自体が任天堂から規制される可能性があるのではないかと危惧する声もある。しかしPokéNinja氏は意に介さない。「eBayなり他のサイトでどうぶつを販売している人はもっとたくさんいますから、我々のような小さなチームがターゲットにされることはちょっと不自然です」「もし私のコンソールが任天堂から完全にBANされてしまったら、別のを用意して活動を続けるだけです」。

作品の人気拡大とともに歪なかたちで膨れ上がってきた、どうぶつ人身売買マーケット。欲望ひしめく毒々しい巨大システムに対抗するためには、不正ツールという新たな毒をもって対抗するよりほかなかったと、彼らはそう答えるのだろうか。反資本主義者による試みは、今後『あつ森』界隈にいかなる変化をもたらすのだろうか。なお、リアルマネーによるゲーム内コンテンツの取引およびソフトウェアの不正な改造は、任天堂の規約にて明確に禁止されている。いかなる目的があっても、リアルマネー取引もハッキングも、規約を違反している点では相違ないことを、はっきりと強調しておきたい。

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