『Red Dead Online / レッド・デッド・オンライン(以下、RDO)』の歴史はRockstar Gamesとハッカーたちの戦いの軌跡でもある。あるときは周囲のプレイヤーから金銭を吸い取る悪質なModがあった。あるときは、標的のプレイヤーに大量の動物の死骸をまとわりつかせる恐怖のModもあった。特に「Modメニュー」と呼ばれるツールが登場してからは、使いやすいインターフェースのおかげで自由に“無限スタミナ”や“無限弾薬”といったオプションを適用できるようになり、オンライン空間でのチートはますます手をつけられなくなった。
しかし、今回とあるModに対してはRockstar Gamesも本格的に手を打ったようだ。そのModとは、『RDO』の空間に白人至上主義団体「KKK(クー・クラックス・クラン)」を登場させるというものである。このModは、『Red Dead Redemption 2 / レッド・デッド・リデンプション2(以下、RDR2)』のシングルプレイでのみ登場するKKKのモデルをプログラムから引きずり出し、オンライン空間に登場させてしまうというものだ。ここ数週間、海外掲示板RedditやTwitterでは街中でKKKを召喚するハッカーの嫌がらせが複数報告されており、問題視されていた。そうした声を受けてRockstar Gamesは修正パッチを配布。『RDO』でKKKを呼び出すことができないように対応したようだ。
KKKは歴史的に実在したカルト団体である。1865年、ちょうど南北戦争が終結した年に結成したといわれている。合衆国の統一にともない憲法が修正され、奴隷制は明確に撤廃された。だが憲法が変わったとはいえ、アメリカ南部ではいまだに各州の独立した力が強いのが実情だった。南部諸州は独自の州法を制定し、依然として黒人弾圧を継続。人種差別的な思想が根強く残る中、テネシー州で産声をあげたのがKKKだ。彼らは白い三角頭巾に白装束という出で立ちで黒人居住地を闊歩し、嫌がらせを始めた。やがて行為はエスカレートし、脅迫・暴行・殺人といった犯罪にまでおよぶようになる。19世紀アメリカにおいて秘密結社の存在はそれほど珍しくなかったものの、あまりに暴力的なKKKは次第に問題視されるようになった。1871年にはとうとう政府にテロリスト集団として摘発され、組織は自然消滅することとなる。
時はくだり、1899年。『RDR2』のアーサー・モーガンがダッチ・ギャングの一員として荒野を駆けた時代だ。KKKが実際に活動していた時代からは随分離れているものの、実は本編でイースターエッグとして彼らの姿を見つけることができる。はじめて遭遇するのはローズの北西。暗い夜ふけに燃え盛る十字架を囲んで騒いでいるので、すぐ見つけることができるだろう。彼らはすっかり減ってしまったメンバーの数を嘆きつつ、ちょうど新たにひとり貴重な団員を迎え入れようとしているところだ。新人にかがり火を手渡し喜んでいたのも束の間、燃える十字架の側にいたせいでローブに炎が引火。入ったばかりの新人が大炎上し、阿鼻叫喚の騒ぎとなる。このときアーサーが何もせず見守っていると、KKKのリーダーは「おい お前! 善人を見殺しにしたのか?」と文句を垂れながら去っていく。
『RDR2』におけるKKKは一貫して間抜けに描かれるのが特徴だ。彼らに出会う機会はほかにもあり、2度目の遭遇では巨大な十字架を建てようと踏ん張ったのち、押し潰されてふたりが絶命。3度目ではふたたびローブに引火して大騒ぎする様子が見られる。このローブの素材は不明だが、KKKメンバーを殺害したとき手に入るメモに「検討事項:ローブを燃えにくくする方法はないか?」とあり、薄々問題に気づいていたようである。なお『RDR2』では基本的に民間人を殺害すると名誉レベルが下がってしまうが、最初の遭遇でKKKメンバーを殺した場合のみ名誉が上がるというユニークな特徴もある。
本編では愚かなキャラクターとして風刺的に登場するKKKだが、オンラインでは悪質な迷惑行為に利用する者たちがいるようだ。Redditには「アジア人キャラを使っていたらハッカーにKKKを召喚された」との報告が見られ、「キルされてもNPCにやられた扱いになるので違反報告すらできない」と投稿者は嘆く。KKKによる嫌がらせ以外にも人種差別的な荒らしは横行しているようだ。“NIGGER HATERS(黒んぼ嫌い)”、“NIGGER KILLER(黒んぼキラー)と行った差別的なユーザー名の目撃例は枚挙にいとまがない。悪質なものでは、あたかもRockstar Gamesからの通知のように次の文章を表示させるハッカーの例もある。「Rockstarのメッセージ:女はセックスでだけ役に立つ。19世紀をなかったことにしよう! 暴れる黒んぼを全員焼き殺そう!」。
こうした中、Redditでは「各ゲームメディアに働きかけてこの惨状を報じてもらおう」との声も出た。6月14日に投稿されたスレッドでは、「Rockstarがコミュニティとコミュニケーションしないだけでなく、プレイヤーの報告を無視し、タイムリーに対応しようとしないことは嫌になるほど明らかです。今の状況でできることは、ゲームジャーナリストに連絡して記事を書いてもらうことだと思います。彼らはよっぽど影響力があるので」とユーザーたちに呼びかけている。この嘆願は掲示板の管理者により、Twitterにも拡散されることとなった。
こうした中Rockstar Gamesは「サイレント修正」を行ったようだ。データマイナーのTez2氏によれば6月16日、チーターがKKKを召喚して他プレイヤーを攻撃することができないようにパッチが当てられたという。この際ゲームからKKKのモデル自体を消去したわけではなく、まずはシステム側でプレイヤーがオンライン状態かどうかを確認。モデルを抜き取る挙動を検知すると、そのモデルがKKKかどうかを判断し、即座にデリートする仕組みになっているという。キャラクター召喚するMod全般に対応したのではなく、とりわけKKKを呼び出すハッキングにのみ効力を発揮するようだ。当初Rockstar Gamesはパッチについて公式な声明を出していなかったが、海外メディアPolygonの取材に対し修正を施したことを認めた。
『RDO』では昨年より「黒人キャラクターを使っていると他プレイヤーから罵声を浴びたり、執拗に攻撃されたりする」といった報告が相次ぎ問題となっていた。今回のKKK騒ぎはすでに内在していた問題が、昨今の情勢と絡んで大きく表面化したものといえるだろう。Rockstar Gamesといえば6月5日、警察官に首を押さえつけられ亡くなったジョージ・フロイド氏の追悼式に合わせて、『RDO』および同じく自社で運営する『Grand Theft Auto Online』のアクセスを停止したことで知られる(関連記事)。5月末から続く「Black Lives Matter」運動に対してはきわめて強い支持を示していた企業だ。一方、ユーザーからは「Rockstar Gamesは『RDO』コミュニティを忘れ去っている」という非難や、そもそも単一のサーバーだけを使っているためチートされやすい構造などが批判されている。人種差別問題に対し明確な抗議の立場を示したRockstar Gamesが、今後ユーザーの声を受けてどのような対応を取っていくか注目したいところである。