ジョージ・フロイド追悼のため『GTAオンライン』がサービス一時停止。あらためて考える、ゲーム業界とBlack Lives Matter運動の関わり

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Rockstar Gamesは6月4日、同社が運営する『Grand Theft Auto Online(以下、GTAオンライン)』および『Red Dead Online(以下、レッド・デッド・オンライン)』へのアクセスを、東部夏時間6月4日14時~16時(日本時間6月5日午前3時~5時)にかけて停止した。アメリカ・ミネソタ州ミネアポリスにて警察官に首を押さえつけられ亡くなったジョージ・フロイド氏の、追悼式が執り行われた時刻である。今回のサービス一時停止は、同氏への追悼の意を込めたものだと、「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」の言葉とともに説明された。


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『NBA 2K20』では「I Can’t Breathe」と書かれた衣類配布

Rockstar Gamesの親会社である北米企業Take-Two Interactiveは、『GTAオンライン』『レッド・デッド・オンライン』に限らず、Take-Two傘下のRockstar Games、2K、Social Pointが運営する各種オンラインサービスを、フロイド氏の追悼式にあわせて停止した(公式サイト)。『NBA 2K20』においては、ゲーム内で「I Can’t Breathe」「Black Lives Matter」と書かれたコスメティックアイテムを無料配布。「I Can’t Breathe(息ができない)」は、警官に首を押さえつけられたフロイド氏が亡くなる前に繰り返した言葉だ。

Image Credit: @FlyWithoutWings via Kotaku

なお「I Can’t Breathe」が抗議運動のスローガンとして使われるのは、今回が初めてではない。2014年、米国にて警官がアフリカ系アメリカ人のエリック・ガーナー氏を窒息死させる事件が起きた際にも、NBAのスター選手たちが「I Can’t Breathe」と書かれたTシャツを着用するという動きがあった。ガーナー氏もまた、窒息死する前に「I Can’t Breathe」と発していたからだ。そうした背景もあり、『NBA 2K20』に「I Can’t Breathe」Tシャツが登場するのは、自然な流れと言える。

「構造的な問題」を絶つために

Take-Twoの取り組みは、ゲーム内だけではない。同社のパブリッシングブランドPrivate Divisionでは、フロイド氏の追悼式が執り行われる時刻に業務を停止したという。Private Divisionとしても黒人差別への抗議運動を支持する声明を出しており、「世界、そして私たちの業界で必要とされる変化を促すチャリティ、団体、活動への、金銭的な貢献を果たしていきます」とツイートしている。

Take-Two、Private Divisionともに「構造的な問題」による人種差別を根絶するための取り組みを支援すると、述べている。まさしく構造的な問題の改善を求めて本気で議論しようとするのが、今回のBlack Lives Matterムーブメントの大きなポイントだろう。差別がなくなることはないし、人種差別者の警官がいなくなることもない。だが、そこから生まれる被害を最小限に抑えるための、より良いシステムはつくれるはずだからだ。

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ここまでは、Take-Two単体の話をしてきた。以下、本稿では、ゲーム業界とBlack Lives Matter運動の関わりに触れつつ、各社の行動を受けて生じる「ただの建前」「なぜ自社ゲームを使ってアピールするのか」「現実世界の問題をゲームに持ち込むべきではない」といった意見について、考えを展開していく。

企業としても無視できない状況

5月25日、46歳のアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイド氏が、警察官に首を押さえつけられ死亡。フロイド氏が「I Can’t Breathe(首ができない)」と訴える様子を撮影した約9分間の動画が瞬く間に拡散。警官による差別的な暴行は北米にて長らく問題視されてきたが、今回は警官側に言い訳の余地がない徹底的な証拠映像が残ったこと、それにも関わらず首を膝で押さえつけたデレク・ショービン容疑者および現場にいた3人の警官が免職処分だけで、すぐに起訴されなかったこと。こうした複数の衝撃から、北米にて全国規模の抗議運動に発展していった。

フロイド氏の死は単発的な事件として済まされず、長らく蔓延していた問題と向き合わざるを得なくする決定打となり、人種差別、警官の差別的な暴力に抗議するBlack Lives Matterムーブメントに発展。後日、デレク・ショービン容疑者は第3級殺人罪で起訴されるも、刑が軽すぎると感じる者や、現場にいた他3人の警官が起訴されないことに不服を唱える者も多く。抗議運動および各地での暴動を受けてのトランプ米大統領による対応の賛否もあわさり、さまざまな想いが入り混じる大きなうねりを生み出した。

なおショービン容疑者の罪状は、のちに第2級殺人罪に変更。現地にいた元警官3人も第2級殺人のほう助・教唆容疑で訴追された。白人警官による黒人差別として論じられがちだが、現地にいたトウ・サオ容疑者はアジア系。サオ容疑者の業務上の言動を巡っては、過去にも複数の苦情が寄せられていたという(The Suns)。

【UPDATE 2020/06/11 14:30】フロイド氏の自業自得論について:
ジョージ・フロイド氏の死を弔うことに異論を唱える者もいる。『League of Legends』『VALORANT』で知られるライアットゲームズの経営幹部Ron Johnson氏は、自身のFacebookにて「メディアと左翼はジョージ・フロイドを殉教者のように扱っているが、実のところ彼はどのような人間だったのだろうか?」というテキストとともにジョージ・フロイド氏の写真を掲載。写真にコカイン所持や、妊娠していた女性宅での強盗罪といったフロイド氏の前科を列挙した上で、「フロイドが殺されたとき、彼は覚せい剤でハイになった状態で車を運転しようとしていた。あなたの子供を殺していたかもしれない。(前科の欄で触れられた)妊娠した女性が襲われたとき、女性が銃を持っていなかったのが残念だ」と述べた(VICE)。

もちろん、犯罪行為は許されることではない。フロイド氏個人の取り上げ方を考える上での意見として理解はできるだろう。ただBlack Lives Matter運動における論点はそこではない。前科持ちの人間だからといって、警官が無抵抗状態の民間人を殺害してよいわけではない。デレク・ショービン容疑者がおこなったような、警官が「無抵抗の相手」の首を膝で押さえつける行為は、事件が起きたミネアポリスにて禁じられている(CNN)。今回のBlack Lives Matter運動は、フロイド氏の死が引き金になったが、長年続いてきた警官による差別的な暴行という、より大きな問題を対象とした抗議である。

Ron Johnson氏も、フロイド氏の人間性と、警官によるフロイド氏の殺害は切り離して考えており、「犯罪行為を繰り返す人間およびその周りの人間に、よい結末は待っていないということを知らしめる、よい学習機会だ」と自論を述べつつ、「警官による殺害を大目に見てよい理由にはならない」と付け加えている。あくまでもJohnson氏の自論ではあるが、これは企業の幹部が公に発信した言葉であり、必然的に企業の価値観が問われる。ライアットゲームズは海外メディアのVICEに対し、Johnson氏の意見は「嫌悪を催させる内容であり、私たちの価値観に反しています。構造的な人種差別問題に取り組むには、早急な社会的変化が必要であるという私たちの考えに背くものです」とのコメントを寄せ、社内調査を進めていると伝えた。

Black Lives Matterは、米国全州で抗議運動が起きるほどのムーブメントであり、グローバル企業が無視し通すことは困難。ソニー、マイクロソフト、任天堂、Ubisoft、Electronic Arts、Activision Blizzard、Amazon、Netflixといった、ゲームを含むエンタメおよびIT関連企業が次々とBlack Lives Matter支持表明を出していった。ゲーム業界では、SIEの「PS5 THE FUTURE OF GAMING」や、『サイバーパンク2077』の最新情報を発信するCD PROJEKT REDの「Night City Wire」といったゲームイベントの延期発表が続いている。

テレビ業界では、6月1日にViacomCBSのTVネットワーク(MTV、Nickelodeon、Comedy Central、VH1など)がフロイド氏追悼として、8分46秒間(同氏が首を押さえつけられていた時間)通常の放送を停止した(CNBC)。このように、Black Lives Matter支持や、自社サービスを使った立場表明は、Take-Twoに限らず、多くの業界・企業がおこなっている。サービスのアイコンカラーを黒に変えるというTwitterやredditの対応も、些細ながら明確な立場表明と言える。

アイコンカラーを変えたTwitter公式


「沈黙は共犯と同じ」の考え

多様な従業員・顧客・消費者と関わる大企業ほど、そして社会的責任を強く掲げる企業ほど、現実社会の問題を無視することは難しく、積極的な立場表明をおこなうグローバル企業は多い。LGBTQのプライド月間に際して各社がおこなうLGBTQ支持表明もそうだ。消費者と同じサイドに立っているという企業アピールにもなるが、企業が社会問題に対する声明を活発化すればするほど、沈黙や、行動にあらわれない言葉だけのアピールが浮き彫りになっていく。ゆえにただ声明を出すだけでなく、実際に何かしらのアクションを起こすケースが多い。

【UPDATE 2020/06/06 11:04】具体的なアクションの例を追記:
*例としてElectronic Artsは、具体的な取り組み内容を公式サイト上で示している。寄付やボランティア活動といった社外向けの取り組みだけでなく、社内の対話を図る場も設けられる
*マイクロソフトの場合、刑事司法の改善という構造上の問題に焦点を当てた取り組み内容を公式ブログにて示している

*Rockstar Gamesはサービス再開後、ジョージ・フロイド氏および北米にて人種差別の被害を受けている人々を支援するための団体・寄付先リストを載せて、情報発信している

NetflixはBlack Lives Matter支持表明にあたり「沈黙は共犯と同じ」とツイート。Netflixに関していうと、もともとダイバーシティやマイノリティの視点を意識したコンテンツづくりをおこなっているため、今回の抗議運動支持も自明のことと思われる。Netflixほどではなくとも、普段からインクルーシブな活動ぶりを宣伝しているグローバル企業にとって、今回の問題を受けて「沈黙」に走ることがリスクになるのは、理解できる点だろう。積極的にアピールし、アクションを起こさないと、差別的な言動を許容する企業だと捉えられかねない。

【UPDATE 2020/06/11 14:30】
Black Lives Matter支持を明確に表明しないことで影響を受けた例としては、ボードゲームやカードゲームといったアナログゲームの製造業者や小売店などから構成される、北米拠点の業界団体Game Manufacturers Association(以下、GAMA)が挙げられる。GAMAは毎年Origins Games Fairという一般参加可能なゲームイベントを主催しており、イベント中止となった今年は6月19日~6月21日にかけてデジタルイベントOrigins Onlineを開催する予定。しかしながら、GAMAが反人種差別運動への支持を表明しないことを受けて、複数の団体・人物が参加中止を発表した(Kotaku)。なお、北米のビデオゲーム業界団体であるEntertainment Software Association(ESA)は、反人種差別運動への支持表明を出している(公式ツイッター)。

企業が自社のスタンスを消費者に示す上では、やはり自社のサービスやコンテンツを通じてアクションを起こすのが、一番わかりやすい。Take-Twoの件も、サービスが止まることを不満に思うユーザーはいると思うが、企業メッセージとしては「企業としてフロイド氏に追悼を捧げるが、ゲームを通じた営利活動はやめない」よりも「企業としてフロイド氏に追悼を捧げるため、一時的にサービスを止める」の方が筋が通っている。もちろん、そうした企業の活動やメッセージを不満に思うのであれば、消費者として抗議すればよい。各方面への影響や、消費者の反応を踏まえて、何が各企業にとって好ましい対応なのか、各社で判断することになる。

なおBlack Lives Matter支持表明が建前なのか本音なのかは、そこまで問題ではないだろう。redditユーザーのmrdinosaur氏は、Rockstar Gamesを含め、企業によるBlack Lives Matter支持表明に「ただの建前」とのネガティブな反応が示される現状を受けてコメント。企業は一個人よりも発信力があり、たとえ空疎なPR発言だとしても、それを目にした人ひとりにでも問題意識が芽生え、自己反省を促したのだとすれば、それは決して無駄な試みではないのだと述べている。「抗議が起きたから反応しているだけだ」と悲観する者には、普段は動かすことのできない相手を動かせることにこそ、抗議の意義があるのだと強調している。

抗議運動が拡大したからこそ生まれた変化

「抗議の意義」という点では、各社による過去の対応や取引歴に差別的なものが含まれていれば、普段よりも強い拡散力をもって吊し上げられるようになったことも無視できない。ゲーム企業としてBlack Lives Matterを看過できないもうひとつの理由でもある。

Activisionの『Call of Duty』シリーズでは、ゲーム内での人種差別的なユーザーネームや発言が目立ち、これまでにも開発側が対策をしてきたとはいえ、不十分であるとの指摘が集中した。そして6月4日、『Call of Duty: Modern Warfare』『Call of Duty: Warzone』における人種差別的なコンテンツの監視および識別のためにさらなるリソースを投入すると、開発スタジオが発信。翌日にはゲーム起動時やロード画面に「BLACK LIVES MATTER」のメッセージを表示するアップデートを実施した(関連記事)。いまに始まった問題ではないが、一大ムーブメントが起きたことで、即時にアクションを起こさずにはいられなくなった。

過去のおこないが今になって取りざたされる例としては、Xbox Brazilが、人種差別・性差別的な発言を繰り返している動画配信者をイベントに呼んだり、Xbox Brazil関係者が彼らの動画に出演するといった付き合いを続けてきたことが、ここにきて批判の的となった。そしてXbox Brazilは、そうした動画配信者はXboxとは関わりがなく、認可されていないXboxブランドの使用は削除するよう要請したと発信。企業として「差別を許容しない」というスタンスを示すからには、自社のゲームやサービスだけでなく、それらを活用するユーザーや、自社が招くインフルエンサーの言動も含めて監視・対処しなくてはならない。

Black Lives Matter運動により、人種差別的な言動に対する批判のバイラル化が加速し、消費者からのプレッシャーを無視しづらくなっている。もちろん、デモの現場において「暴徒化」という大きな問題を抱えており、運動のすべてを称賛できる状況ではない。何事も行き過ぎると本来の目的がかすれてしまう。デジタルな議論の場において、正義という名の行き過ぎた言動に走らずに、企業に変化・対応を促す機能を発揮できるのか、経過を見守る必要がある。

ゲーム会社は、現実世界の問題と関与すべきではないのか

「差別問題を改善すべき」とはいえ「現実世界の問題をゲームに持ち込むべきではない」という意見は、各社によるゲームイベントの延期発表やTake-Twoの追悼対応発表時など、さまざまな場面で見受けられる。だがゲームの世界には、ユーザー自身の手によって、すでに現実世界の問題が持ち込まれてしまっている。先述した『Call of Duty』のゲーム内差別発言がわかりやすい例だ。

企業側によるプレイヤーの言動統制には、限界がある。ゆえに現実世界の問題をゲームに持ち込まないようにするには、問題を持ち込んでくるユーザーの考えを変えねばならない。ユーザーによる差別的な言動という問題を、本質的な部分から改善するためには、そのユーザーに届く場所で情報発信をせねばならない。現実世界の問題がゲームに持ち込まれないようにするためには、現実世界の問題への抗議を、ゲームに持ち込まねばならない。

先述したCD PROJEKT REDは「今は世界の関心を別のことに向けるべき時」とツイートした。広義でのBlack Lives Matterはゲーム内で起きる差別と無縁ではなく、本気で「現実世界の問題をゲームに持ち込むべきではない」と考えるならば、問題を持ち込もうとするユーザーおよび現実世界の方を変えることに、関心を向けねばならないだろう。

もちろん「自分たちには関係ない」「ゲーム内での差別発言など是正する必要ない」「人種差別者の考えは変わらないので無駄だ」といった意見のユーザーもいるかと思われる。配慮せざるを得ない空気に対する嫌悪感。だが、そうした悲観的なスタンスは社会一般的に健全とは捉えられづらいゆえに、世界規模でビジネスを展開するゲーム企業が採用できるものではない。真意はどうであれ、多国展開するゲーム企業としては、差別発言をなくすために自らの言動で示し、ユーザーにも理解を求めることで本気度を示す方が、企業イメージとしては真っ当という解になる。

カウンターとしてのAll Lives Matter

Image Credit: Amii James

最後に、Black Lives Matterへのカウンターとして生まれたAll Lives Matterについて。Black Lives Matterを支持する声明を出すと、必ずといっていいほどAll Lives Matterというカウンター意見が出てくる。命はすべて大事なのだから、なぜ今回の件だけ丁重に扱うのかという、不服の意が唱えられる。先述したTake-Two/Rockstar Gamesの発表に対しても、All Lives Matterのコメントが寄せられている。

そうしたAll Lives Matter論者に対しては、誰も黒人の命だけが大切だと言っているわけではなく、本当にすべての命が大切だと思うのであれば、黒人の命「も」大切であるというBlack Lives Matterにも素直に同意できるはずではないか、という反論が返される。それを端的にあらわしたのが、Amii James氏による上の画像。人種差別について真剣に見つめ直そうと、大衆を巻き込むBlack Lives Matterは、結果的にAll Lives Matter論者の望みにもつながるはずなのだ。

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