ベテランゲーム開発者が「スタジオが生き残るための10の掟」を共有。新設スタジオが同じ過ちを繰り返さないために


インディーゲームの隆盛が語られるようになって久しく、今やPCでもコンソールでも当たり前のようにインディーゲームが親しまれる時代になった。その中では、大きな成功を収めた作品が話題をさらうことも数多い一方で、閉鎖を余儀なくされたスタジオについて耳にすることも残念ながら増えている。独立したスタジオを立ち上げる以上、閉鎖のリスクに常に晒されることとなるが、できれば長く運営を続けながら成功を掴み取っていきたいものだろう。

そんな駆け出しインディー開発者に対して、スペイン・バルセロナに拠点を置くインディースタジオNovaramaの共同設立者/CEOのDaniel Sanchez-Crespo氏は2月16日、「スタジオが生き残るための10の掟」としてアドバイスを送っている。デベロッパーとして17年以上のキャリアを持つ同氏は、同じミスで若手スタジオが自らをリスクに晒す様子を何度も目にしてきたため、基本的な考えをTwitter上で共有することにしたそうだ。本稿ではその内容を紹介。なおこれらの投稿をもとに記事化することについては、発信者であるSanchez-Crespo氏の許諾を得ている。

1:設立メンバーの人選

Sanchez-Crespo氏はまず、スタジオの設立メンバー選びは慎重におこなうようアドバイスしている。基本的に設立メンバーは後から切り離すことはできず、またよく見られる例として友人や家族と共にスタジオを立ち上げた場合、うまくいかなくなるとスタジオを失うばかりか友人まで失ってしまうためだ。同氏のNovaramaでは設立時に人材募集をおこない、友人関係ではないメンバーが全員共同設立者としてリードスタッフに就いたという。また、株主構成を当初から維持し続けていることも重要だと述べる。もちろん今ではみな友人のような関係になったが、スタジオの目的は仕事であり、人間関係を深めるためではないとしている。

2:キャッシュフローを意識

ふたつ目は、スタジオを死に追いやるもっとも多い原因でもある、収支における浮き沈みを理解すること。作品を完成させそこそこの成功を収めた場合、次のプロジェクトまでの間にキャッシュフロー上の“谷”を通過しなければならない。スタジオを運営する中でたびたび訪れる、収益が落ち込む時期をどのようにして乗り切るのか、しっかりと計画立てておかないと蓄えを垂れ流すことになるだろう。

なお、このキャッシュフローに着目する考え方は、現在Activisionの傘下にあるVicarious Visionsの設立者のGDCでの講演から学んだそうだ。スタジオの創造性はキャッシュフローに“ついてくる”ため、まずはお金の流れに注目すべきという内容にSanchez-Crespo氏は感銘を受けたという。そして次の3〜5個目の掟は、上述した“谷”の時期に関連したアドバイスとなる。

3:アイデア出しに休みなし

Sanchez-Crespo氏は、「作品が完成したから、次回作の提案を始めよう」という考え方は間違いであると断言し、アイデアは絶えず出すようアドバイス。計画が形になるまでには最低でも6か月はかかるため、開発者イベントなどにも足を運び、常に機会をうかがうことが大事だとしている。ここでの提案とはスタジオ内でというより、パブリッシャーなどに対しておこなう売り込みを指しているようだ。たくさん仕事を得られれば、スタジオが成長するチャンスに繋がる。仮に忙しすぎる状況になったとしても、スタジオがなくなってしまうことを考えれば、成長を選ぶことは悪くないとしている。

4:複数ラインの開発体制

また、複数のラインを走らせることのできる開発体制を、できるだけ早く構築することも提唱している。複数のプロジェクトを同時並行的に進行させることでキャッシュフローは安定し、先述した谷の時期を避けることにも繋がる。もしひとつのプロジェクトが頓挫してしまっても、露出減は最小限に抑えられるだろう。

5:外部仕事も請け負う

そして5つ目のアドバイスは、スタジオ内部だけでなく外部のプロジェクトも請け負いながら運営すること。インディースタジオを立ち上げたなら、自らのIPを生み出して作品にしたいもの。IPは価値を生み出し、チームのモチベーションも引き上げるため素晴らしいことではあるが、IPの構築や成熟には時間がかかるうえリスクも高い。一方、外部委託の仕事は見つけやすく、スタジオを運営するうえで計画立てやすい仕事だと言える。

*『KillSquad』はSteamにて早期アクセス販売中。オンライン4人協力プレイ対応のARPGで、4種類あるクラスから選択し、スキルツリーなどでヒーローをカスタマイズしながらミッションをこなしていく。日本語表示にも対応。

Sanchez-Crespo氏のNovaramaでも、自らのIPである『KillSquad』の早期アクセス販売を昨年開始し、その成熟度を高めるよう開発を続けている一方で、複数の外部プロジェクトにも参加しているそうだ。そして同氏は、「他人のIPに取り組んでも自身の価値を下げるだけ」といった考えは持つべきではないと述べる。実際のところ素晴らしいIPに携わる仕事は楽しく、継続的に収入も得られるとしている。

もちろん、設立したばかりでスタジオに何も実績がない時点では良い仕事は得られないかもしれない。それでもSanchez-Crespo氏は、どんな仕事でも良いから引き受けて知名度を上げるところから始めるべきだとコメント。同氏のスタジオの場合は、Ubisoftのとあるレースゲームの短いイントロシーンを手がけたことがあったそうだ。

6:エージェントを雇う

上に挙げた3〜5番目のポイントを押さえてスタジオ運営をおこなうにあたっては、エージェントを雇うことが助けになるとのこと。エージェントはスタジオの収支に目を光らせ、ゲームのアイデアを出すよう求め、そして携わるIP(仕事)を見つけてくるなど、ビジネス面のサポートをしてくれる。Sanchez-Crespo氏のスタジオでは、アメリカに拠点のあるエージェンシーと契約しており、欧州を拠点とする同スタジオと良い補完関係をもたらす仕事をしてくれているとのこと。もちろん契約料を支払う必要はあるが、不慣れな部分はその道のプロに任せることも大事だということだろう。

7:開発中止への冷静な判断

7つ目のアドバイスは、キャンセルすることについて学ぶこと。特に自らのIPに取り組んでいる場合、そのプロジェクトには夢中になるものであるが、上手く機能しないあるいは機能するまでに時間がかかりすぎているのであれば、分析をおこない中止することを考えるべきだそうだ。Sanchez-Crespo氏は自身の経験として、100%の自信を持ってリリースしたものの芳しくなく、挽回しようと1年を費やした作品があったそうだ。結果的に、その作品には最初から欠陥があったことに気づかされ、最後までどうしようもなかったと明かす。

そのため問題があった際には、それは修正可能なのか、修正するための予算は確保できるのか、またそのお金の使い道としてベストなのかといったことを、常に分析すべきだと述べる。そして、ほとんどの場合において中止することになるだろうとし、辛いことではあるが、いつどのように開発中止するのか学んでおくことが大事だとしている。

8:先人の助言を得る環境作り

8つ目には良いアドバイザーを見つけることを提唱し、ここではノルマンディー上陸作戦に例えて説明している。敵の攻撃激しいオマハ・ビーチに上陸したばかりの兵士が生き残れる可能性はかなり低そうだが、ここでもしすでに上陸し生き残っている10人の兵士と無線が繋がっていたら、その可能性はかなり上がることだろう。つまり、業界のベテランなど先人のアドバイスをもらえる環境を作っておくことが、スタジオ存続の助けになるということだ。

Sanchez-Crespo氏自身も若手に助言するようにしているそうで、今回投稿したこの「スタジオが生き残るための10の掟」にもそうした側面がある。ただ、新しいスタジオは大胆さと傲慢さによって素晴らしい作品を生む可能性を秘める一方で、他人にアドバイスを求めることを嫌う傾向があるという。Sanchez-Crespo氏は、自身がこれまで正しい判断を下した経験のほとんどはそうしたアドバイスによるものだったと振り返り、経験豊かな人と友人になり耳を傾ければ、長期的には報われるはずだとしている。

9:最終的には自ら判断

同氏は、ベテラン開発者だけでなくあらゆる人の意見に耳を傾ける事も大事であるとしながら、最終的には自身の決断を信じることを9つ目のアドバイスとして送っている。自らのスタジオであり、自分以上にそのスタジオのことを知っている人はいないからだ。Sanchez-Crespo氏も、スポンジのようにあらゆるアイデアを吸収するよう努めている一方で、決断が必要な場面では一定の基準をもって自らの責任で判断を下し、他人のせいで失敗したという状況を作らないようにしているそうだ。

10:弁護士を雇う

そして最後の10個目のアドバイスは、弁護士を雇うということ。多くのお金がかかるように思うかもしれないが、何か問題が起こった際に弁護士がいないという状況を考えれば、もっとも安い投資だったと感じられるだろうとSanchez-Crespo氏は述べる。また、複数の国で活動する場合は、それぞれの国ごとに弁護士が必要とのこと。

今回Daniel Sanchez-Crespo氏が投稿した「スタジオが生き残るための10の掟」に対しては、VlambeerのRami Ismail氏など著名なインディー開発者のほか、大手デベロッパーやパブリッシャーの関係者など多くの人から、非常に役立つ情報だとコメントが寄せられ共有されている。もっとも、Sanchez-Crespo氏自身が述べるように、こうしたアドバイスも意見のひとつであり、最終的に実行するかどうかは、スタジオの状況に照らして本人が判断すべきものである。日本でインディースタジオを設立するにあたっても、また新設スタジオでなくとも業界で長くやっていく上においても、多くの点で参考になるのではないだろうか。