米国のゲーマーの65%が、オンラインゲームで深刻な嫌がらせを受けた経験あり。『Dota 2』 ではその傾向が顕著に

反差別団体Anti-Defamation League(ADL)は、2019年4月に市場調査企業Newzooと協力してアメリカ合衆国のゲーマーへアンケートを行った。そのレポートでは、実に65%のゲーマーがオンラインゲームのプレイを通じてシビアなハラスメントを経験したことがあると報告されている。ここで言うシビアなハラスメントとは、物理的な脅迫やストーキング、継続的な粘着などハラスメントの中でも悪質なものを差す。すべてのハラスメントを含めれば74%ものプレイヤーがハラスメントの経験があるという。 ADLの公開しているこのレポートを元に、オンラインゲームにおけるハラスメントの現状、そしてその影響について紹介する。

 

オンラインゲームとハラスメント

近年、ゲーム業界の規模は急速な拡大を続けている。すでにアメリカ人口の53%がビデオゲームを遊んでいると言われており、2019年の時点でおよそ1.5兆円の産業規模は、3年後の2022年までに2兆円を越えプレイヤー数は全世界で30億人に達するとの予測もある。中でもオンラインゲームは、世界でもっともプレイヤー数の多いゲームだとされるMOBA『League of Legend』や、配信から一ヶ月で5000万人のプレイヤー数を突破したFPS『Apex Legends』など、数多くのプレイヤーを抱える一大ジャンルだ。くわえて、スマートフォンの高性能化によって、ハード性能を多大に要求する『フォートナイト』や『PUBG』のようなゲームですらモバイルでプレイできるようになり、これまであまりオンラインゲームに触れてこなかった若者やアジア圏のプレイヤーなど新しい層を獲得しつつある。

『Apex Legends』

一方で、他のプレイヤーと繋がることのできる「ソーシャルプラットフォーム」でもあるオンラインゲームは、ネガティブな一面も合わせもっている。 特に問題として 取り上げられるのが「ハラスメント」だ。ゲームを通じた嫌がらせ、中傷だけでなく、物理的な脅迫や個人情報の「晒し」など、ゲームの内にとどまらない事態へと発展することも少なくない。社会問題の域に達するような悪質なハラスメントも過去に発生している。 もちろんゲームにおける人と人の繋がりは、ゲームを通じて友達を作ったり、他のプレイヤーとの助け合いを生み出したりするポジティブな側面も作り出しているが、これから発展していくオンラインゲーム界隈において、ハラスメントは無視できない重大な問題となっている。

そこで反差別団体であるADLは、ゲーム開発者やプレイヤーコミュニティなどの人々にオンラインゲームを取りまく現状を理解してほしいという目的のもと、2019年現在における「ソーシャルプラットフォームとしてのオンラインマルチプレイゲーム」の問題、そして影響について調査を行った。主にゲーム業界における市場調査を行っているNewzooと協力し、アメリカ合衆国の18才〜45才のゲーマー1045人に対して、2019年4月にアンケートを実施。オンラインゲームにおける悪質な振舞いやポジティブな経験などについて質問し、データ分析からゲームタイトルとの相関などを調べている。 「悪質な振舞い」=ハラスメントの具体的な内容は、この調査においてはTrolling(荒らし)・嫌がらせ、不快な悪口 、個人的な困惑、差別発言、継続的な嫌がらせ、物理的な脅し、セクシャルハラスメント、ストーキング、個人情報の晒し、の9つの行為であると 定義されている。とくに最初の3つを除く6つのハラスメントは「深刻なハラスメント(Severe harassment)」として分類されている。

Image Credit:Anti-Defamation League

ゲーマーが経験したハラスメントの種類。上から、すべてのハラスメント、不快な悪口を言われる、悪ふざけ・嫌がらせをされる、個人的に困惑する、深刻なハラスメント、差別される、継続的なハラスメント、物理的な脅し、セクシャルハラスメント、ストーキング 、晒し )

 

74%がハラスメントを経験、トップは『Dota 2』

この調査によると、実に74%ものプレイヤーがオンラインゲームにおけるハラスメントを経験したことがあり、深刻なハラスメントを受けたことのあるプレイヤーも65%存在しているという。もっとも経験したことのあるゲーマーの 多いハラスメントが不快な悪口(67%)で、深刻なハラスメントと定義されたものの中では差別的発言(50%)が最多だった。いわゆる「ヘイトスピーチ」にあたるジェンダー、人種、宗教、地域に関連した差別発言の割合も高く、53%がそのようなハラスメントを経験している。特に女性(38%)やLGBTQ+(35%)などジェンダーに関する差別発言が多くなっているようだ。

この調査ではさらに、『Dota 2』や『Overwatch』、『Minecraft』など、さまざまなジャンルの有名オンラインゲームタイトルそれぞれにおける、ハラスメントを経験したことのあるプレイヤーの割合を調べている。 その結果、ハラスメント経験者の割合はValveの運営するMOBA『Dota 2』が79%ともっとも多く、 『Counter-Strike:Global Offensive』、『Overwatch』、『PlayerUnkown:Battlegrounds』、『League of Legends』が同率75%で、『Starcraft II』、『World of Warcraft』(同率72%)、『Grand Theft Auto』、『Fortnite』(同率70%)と 続いていく。『Dota 2』はハラスメントを行ったプレイヤーの割合も最大で、またハラスメントが原因でゲームを辞めたプレイヤーの割合も最も多くなった。反対に、ここで取り上げたオンラインゲームタイトル(図参照)の中でもっともハラスメントを経験した割合の小さかったゲームは『Minecraft』となった。ゲームの競技性が高くなるほど、悪態が出てしまうのかもしれない。

どのようなコミュニケーション手段でハラスメントが行われたかについても調べられており、もっとも多かったのがゲーム内ボイスチャットで42%、続いてゲーム内テキストチャットで40%となった。ゲーム外のコミュニケーション手段でのハラスメントは10%前後と少ない。英語圏ではゲーム内VCを用いて気軽にコミュニケーションを取るプレイヤーが多く、これがハラスメントを発生させやすい環境を生みだしているのかもしれない。

Image Credit:Anti-Defamation League

また、オンラインゲームにおける 深刻なハラスメントが、それを受けた プレイヤーにどう影響を与えるのか調べた 結果、一緒に遊ぶ相手を考え直したり(38%)、ゲームの名前を変えたりVCを使わないようにするなど、ゲームの遊び方を変える (27%)などの回答が得られた。ハラスメントを受けたゲームから離れるプレイヤーが23%、完全に辞めてしまうプレイヤーが19%いることも明らかになった。注目すべきは、ハラスメントを全く気にしないと回答したプレイヤーは23%しかおらず、ハラスメントがオンラインゲーマーに大きな影響を与えていることが示唆されている 。

ハラスメントの影響はゲーム内にとどまらず、しばしばゲーム外にも表われている。ゲームにおけるネガティブな体験は、身の危険に対して不安になったり自傷を考えたりと、ゲーマーの社会生活に悪影響を与えているという。アンケートによれば、深刻なハラスメントを受けたプレイヤーの23%が現実世界でも社交的でなくなったり、遊んだ後に不安を感じているそうだ。一方で、ゲームの運営企業に連絡したり、警察に通報したりするプレイヤーは少なく、それぞれ12%と5%のみだった。

Image Credit:Anti-Defamation League

 

一方でポジティブな側面も

「ソーシャルプラットフォーム」としてのオンラインゲームは、ゲーマーにポジティブな影響ももたらしている。調査に協力してもらったゲーマーの88%が、オンラインゲームを通じてポジティブな経験をしたことがあると回答。友達ができた(51%)、他のプレイヤーと助け合うことができた(50%)、新しい知見を得ることができた(32%)など、ゲームによって友好関係を築いたり、さまざまな知識を学べたと感じるプレイヤーが多いようだ。ゲームタイトルでいうと、Blizzard社の運営するMMORPG『World of Warcraft』はもっともポジティブな社会経験をしたと感じるプレイヤーが多かった(59%)。

しかし問題は、オンラインゲームを通じてポジティブな経験をしたと感じているのに 、ハラスメントを受けたことが原因で、少なくとも1つのゲームを辞めた/避けるようになったことのあるゲーマーが43%も存在する点だ。それと同時に、ハラスメントによってゲームを辞めたプレイヤーであっても、実にその97%がゲームからポジティブな経験を得たことがあると回答しているのである。ゲームを好意的に思っているプレイヤーが 、ハラスメントによってゲームから離れていく現状は大きな問題であり 、これから変えていかなければな らない課題であると言える 。最後にADLは、オンラインゲームを巡る状況を変えるためにはゲーム業界、市民社会、そして政府が一丸となってさまざまな対策をしていく必要があると提言を行っている。

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