『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』でのEAの大きな方針転換に、元関係者も驚く。これまでの騒動やRespawnという特異な存在が影響か

『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』にはマルチプレイも、マイクロトランザクションも、ルートボックスもない。シングルプレイに専念するというEAおよびRespawnの発表内容には、かつてEAで別の「Star Wars」プロジェクトに関わっていたAmy Hennig氏も驚きを隠せなかった。

Electronic Artsは4月14日、Respawn Entertainmentの新作『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』の映像を初公開(関連記事)。その発表にあわせて、RespawnのCEOであるVince Zampella氏含め、複数の関係者より本作がマルチプレイおよびマイクロトランザクションを排したシングルプレイゲームになることが明かされた。EAの公式アカウントからも同様の情報が発信されている(該当ツイート)。

 

少額課金のない純粋なシングルプレイ体験

後日になってEAのコミュニティ・エンゲージメントスペシャリストのJay Ingram氏が、さらに詳細な情報を公開。ゲーム本編で完結する力強い物語を描き切ることが最優先であり、現時点ではDLCの予定はないという。予約販売が開始されている本作のデラックス版には、限定装飾アイテムが含まれており、Ingram氏もゲームにコスメティック要素が含まれることは認めているが、その詳細については明かしていない。「マイクロトランザクション無し」という関係者の発言からして、ゲームプレイを通じて無料でアンロックできる機能が想定されているのかもしれない。

ルートボックスの無い純粋なシングルプレイ体験。その情報にはファンから称賛の声が挙がった。同時に、EAの作品でありながら、EAの既存作品の多くに含まれているルートボックスを排し、EAが推し進めているゲームのライブサービス化に逆行するような作品であることを、EA自身がセールスポイントであるかのように発信する。それはやや異様な光景でもあった。

かつてEA傘下のVisceral Gamesにて別の「Star Wars」プロジェクトを進めていたものの、スタジオの閉鎖という形で終焉を迎えた経験を持つAmy Hennig氏も、EAおよびRespawnの発表内容に違和感を覚えた人物のひとり。今回の発表を受けて、海外メディアEurogamerに対しいくつかコメントを寄せている。

 

EAが示唆した、リニアシングルプレイからの脱却

Project Ragtagコンセプトアート。なおHennig氏はVisceral Gamesの閉鎖後にEAを退社。現在はインディースタジオの立ち上げに力を入れている

その前に、Amy Hennig氏について軽く振り返っておこう。Hennig氏は、Naughty Dogにて『Uncharted』シリーズのクリエイティブ・ディレクターを担当していたことで知られる人物。2014年EAに入社し、Visceral Gamesが開発を担当していた「Star Wars」プロジェクト(通称Ragtag)のシニア・クリエイティブ・ディレクターを務めていた。Respawnが開発中の『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』のように「三人称視点のアクション・アドベンチャーゲーム」として開発が進められていたが、2017年10月にVisceral Gamesが閉鎖。その際にEAは、リニア(一本道)なシングルプレイゲームからの脱却を示唆する、以下の声明文を出している。

「Visceralスタジオでは、Star Warsの世界を舞台にしたアクション・アドベンチャーゲームの開発が続けられてきました。現在までの開発で、このタイトルはストーリー重視の、リニア(一本道)なアドベンチャーゲームとして形作られてきました。開発プロセスの中で、私たちはプレイヤーとともにゲームのコンセプトをテストし、どんなプレイを望むかヒヤリングを重ね、ゲームマーケットの重心の変遷を注視してきました。その結果、プレイヤーを長期間にわたり魅了し、プレイを続けたいと思うようなゲームを生み出すには、ゲームデザインに大きな転換が必要だとの結論に達しました。」

「プレイヤーを長期間にわたり魅了し、プレイを続けたいと思うようなゲーム」はつまるところ、EAの『バトルフィールド』『FIFA』シリーズや『Anthem』『Apex Legends』といった、長期運営とマイクロトランザクションによる継続利益を見込めるゲームを指すのだろう。Hennig氏が指揮を執っていたプロジェクトRagtagは、そうしたEAの方向性とは合致しない。Hennig氏自身、開発コストが高騰し続ける現在のAAA級タイトルの市場において、継続利益が見込みにくいリニアなシングルプレイゲームを開発することの難しさは、複数のインタビューにて語ってきた。

 

Amy Hennig氏も驚き

そうした経緯もあって、マルチプレイもマイクロトランザクションもない、物語重視のシングルプレイゲームとして『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』が発表されたことは、数年前までEAで働いていたHennig氏にとっても驚きだったようだ。Eurogamerのインタビューでも、「変よね!(It’s odd!)」「私たちがRagtagに取り組んでいたときは、許容できない考えだと、はっきり言われたのに!」と答えている。

ただゲーム業界は急速に変化し続けていることや、Respawnは2017年10月にEAに買収される前から「Star Wars」プロジェクトに取りかかっていたこと、そしてRespawnのCEO Vince Zampella氏がスタジオを守るために尽力していることなど、『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』の扱いが、Hennig氏の知るEAのそれとは異なる理由について、いくつか考え得る要因を述べている。

Ragtagをキャンセルするという判断が下されたのは2017年の夏。それから約2年の間にEAおよびゲーム業界の事情はいくらか変わった。EAのチーフ・スタジオ・オフィサーとして長年務めてきたPatrick Söderlund氏が退社し、「Star Wars」フランチャイズを統括していたLaura Miele氏がSöderlund氏のポジションに就く。またMiele氏の体制のもと、かつてUbisoftにて数々のオープンワールドゲームを手がけてきたJade Raymond氏が去っていった。こうしたエグゼクティブ陣の体制変更のほか、業界内外ではEAの『Star Wars バトルフロント II』を発端としたルートボックス騒動も勃発した。EAが再度方針変更した理由は無数に考え得ると、Hennig氏は答えている。

『Star Wars バトルフロント II』

『Star Wars バトルフロント II』を発端とした騒動は、ルートボックスの規制に向けた取り組みを本格化させた。その渦中で厳しいまなざしが送られるのは、版権元のディズニーとしても避けたいところだろう。「Star Wars」からルートボックスを遠ざけたことを強調する今回のEAの姿勢は、『Star Wars バトルフロント II』騒動の後にリリースされる「Star Wars」大作として、「Star Wars」フランチャイズ全体のイメージコントロールとして、理解できるものだろう。

 

Respawnという特異点

『タイタンフォール2』

「Star Wars」というブランドだけでなく、開発元となるRespawnもまた業界内で特殊な立ち位置に君臨している。RespawnはEA傘下スタジオながら、EAらしからぬ動きが目立つスタジオなのだ。同スタジオは『タイタンフォール』時代から、できるかぎりユーザーに受け入れてもらえるようなマネタイズ手段を心がけており、コスメティックアイテムを中心とした少額課金にとどめている。『タイタンフォール2』では無料DLCとして新マップや新モードを増やしていき、ゲームをしっかりとサポートするデベロッパーとして信頼を高めてきた。基本プレイ無料タイトルの『Apex Legends』でも、有料販売は装飾アイテムに限定している。バトルパス含め、ストアで販売されているアイテムが値段相応のものなのか、という点に関しては賛否両論であるが、ユーザーフレンドリーであろうとしていることは、節々から感じられる。

今でこそ大ヒット作となった『Apex Legends』も、Respawn側のアイデア。基本プレイ無料のバトルロイヤルゲームをつくると熱意を持ってEAに説得しにかかった側であった。今回の『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』も、Respawnのビジョンにもとづき制作されたものだと、冒頭で触れたJay Ingram氏があらためて念押ししている。ゲームのマーケティングにおいても、通常どおりプロモーション期間を設けるのではなく、発表と同時に配信開始という異例の手法をとったのはEAではなくRespawnの意向であった。そして「『タイタンフォール』と世界観を共有する基本プレイ無料、販売元EA、流行りのバトルロイヤルゲーム」という不安要素を一瞬にしてかき消していった。

『Apex Legends』

ゲームエンジンについても、『Apex Legends』ではEA傘下スタジオの多くが使用しているFrostbiteではなく、『タイタンフォール』に引き続き、独自に改造したSource Engineを採用。『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』ではUnreal Engine 4を採用していると報じられている。上述したHennig氏はRagtagの開発が難航した理由のひとつとして、FPS向けに設計されたFrostbiteエンジンを三人称視点アクション向けに最適化することに苦戦した点を挙げている。また開発が難航していたと報じられた『Anthem』の開発元BioWareも、Frostbiteエンジンに振り回された結果、当初のビジョンの多くが実現不可能となったほか、開発の大幅遅延につながっていったとされている。そうした中、RespawnはFrostbiteを採用することなく、SourceやUnreal Engineといったゲームエンジンを使い続けている。
【UPDATE 2019/4/16 17:40】
Source EngineおよびUnreal Engineの説明について修正しました。

ゲーム開発、採用ゲームエンジン、マーケティング、マネタイゼーション、さらにはフォーラムを通じたユーザーとのコミュニケーション。Respawnはあらゆる面でEA傘下スタジオらしからぬ独自路線を貫いている。そしてその流れは、時代の後押しやスタジオの特殊な立ち位置など、さまざまな要因があわさり次回作でも引き継がれていくのだろう。同社の『タイタンフォール2』はマルチプレイだけでなく、シングルプレイキャンペーンの仕上がりからも評価された作品であった。『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』においても、Respawnらしい、ブレのない堅実なシングルプレイ体験に期待したい。

『Star Wars ジェダイ:フォールン・オーダー』は2019年11月15日、PC/PlayStation 4/Xbox One向けに発売予定。Originなど各ストアにて予約販売が開始されている。なお先述したJay Ingram氏は、今年のE3でのさらなる情報公開を示唆するコメントをTwitter上に投稿している。

 

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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