赤十字国際委員会が、戦争を題材としたゲームを開発中。戦場における人道法の理解を促す

赤十字国際委員会が、戦争を題材としたゲームを開発中。戦場においても国際人道法を尊重する必要があると、人々に理解してもらうことが目的だ。近年ではゲーマーが軍隊の隊員候補として積極的にリクルートされる事例が海外で増えていることを踏まえると、ゲームを通じた啓発活動というのは、決して的外れではないのかもしれない。

先日3月17日、世界各国の紛争地帯にて人道的保護と支援を行っている国際機関・赤十字国際委員会(ICRC)が、戦争を題材とした軍事シューターを開発していることが報じられた。スイスの国内事情や、国際情勢に関するスイスの見解を海外向けに発信する、スイス公共放送協会のニュースサイトSWI swissinfo.chが伝えたものだ。ICRCが開発中の軍事シューターは、ただ敵を撃ち殺していくことが目的ではなく、戦場においてもルールが存在するということを人々に理解してもらうためのトレーニングツールとして開発されているという。

実際の戦場では民間人も巻き添えを食らうことがある。そこで、人道的保護を目的としたICRCが、戦時の決まりごとである国際人道法の基本規則を尊重した戦争ゲームを、啓発目的で制作しているというわけだ。ゆえに同作では、負傷者には応急手当をしなければならず、また民間人を殺害するとペナルティが課される。実際の戦場では、ゲームほど自由に行動することはできないと学べるわけだ。

同機関は現場のニーズに応えるため、そして啓発活動を推し進めるため、民間セクターや学術分野の専門家などと協力しながら、最新技術を活用したさまざまな活動を行っている。たとえば2018年3月には、AR技術を用いて紛争地帯の現状を伝える『Enter the Room』というiOS向けの無料アプリケーションを配信している。こちらは都市部にて平和な生活を送っていた少女の部屋が、戦争の影響により徐々に変化していく様子を体感してもらうという狙いのものだ。また2017年には、ミリタリーシミュレーション『ARMA III』の開発元Bohemia Interactiveと提携して、プレイヤーに国際人道法に関する理解を深めてもらうためのキャンペーンを「Law of War」というDLCとして配信している。

『Enter the Room』 Image Credit: ICRC

ICRCは、本稿冒頭で述べた戦争ゲームが報じられる遥か前の2013年から、戦争を題材としたシューターゲームにおいても国際人道法が考慮されるべきだと、そしてプレイヤーが戦場にいる実際の兵士と同じようなジレンマに直面するようにすべきだと唱えてきた(戦争のリアリティーを追求したゲームに関するQ&A)。「国際人道法に則ってゲームを進めるプレイヤーは報われるべきで、かたや重大な違反(戦争犯罪)を犯した場合はゲームの中で罰則を課されるべき」という彼らの考えが、具体的に何を意味するのか、ICRCが自らゲームを開発することで、ひとつの参考例をつくることができるのだろう。

なおICRCはあくまでも現実の戦場にいるような「リアリティを追及した」戦争ゲームに限定して、人道法の考慮を求めているのであって、ファンタジー色のあるゲームについては説いていない。リアリティを追及しているゲームなのであれば、そのリアリティの一部として、実際の軍隊が守る国際人道法を考慮すべきという主張なのだ。人道法に反する行為というのは現実の戦場でも起きることから、ゲームに取り込むこと自体は意味のあることだとも答えている。またゲーム内で人道法の規定が説教のようにあからさまな形で語られることを望んでいるわけではなく、ゲームプレイの中に自然と溶け込んでいればよいというスタンスでいる。これからの未来を担う世代に絶大な人気を誇る娯楽だからこそ、啓発する効果があるのであって、娯楽性がそがれてしまえば効果も薄れる。

『ARMA III』「Law of War」

また啓発目的ではなく、人道支援の現場での使用を目的としたアプリケーションやツールの開発にも力が入れられており、先述したSWI swissinfo.chも、ICRCは現在、現地職員を支援するシミュレーションソフトを制作中であると伝えている。また、離れ離れになった家族の再会を支援するため、マイクロソフトと提携して顔認証技術を取り入れているとも公表している(ICRCとテクノロジー)。このようにICRCは現場での活動や啓発活動にあたり、ゲームを含む最新技術を積極的に取り入れているのだ。

軍隊や警察での訓練・教育目的でシリアスゲームが採用されるケースは増えており、昨年には、米国で頻発している学校内での銃乱射事件に学校職員や警官が備えるためのシミュレーションソフトが、米軍と国土安全保障省により制作されていると報じられた(関連記事)。また特定の団体による啓発活動の一環としてゲームが使用されることもある。先日海外Xbox One/Windows 10向けに配信された『One Leaves』がよい例だろう。一見するとただの脱出ホラーゲームのように思えるが、実際はアメリカ食品医薬品局(FDA)タバコ製品センターがスポンサーとなって制作された、喫煙およびベイピングの危険性を伝える広告・教育キャンペーンとなっている(関連記事)。

『One Leaves』

啓発・教育目的でゲームを使うことが珍しくなくなってきただけでなく、近年では軍隊がゲーマーを隊員候補として積極的にリクルートするという事例も増えてきている(関連記事)。そうした意味でも、ゲームを通じて戦争に関する啓発活動を行いたいというICRCの考えは、決して的外れなものではないのだろう。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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