『スマブラSP』に登場する『ゼノブレイド2』のヒロインは、“肌の露出が控えめ”。開発元はそれを逆手にとった鮮やかなアプローチ
『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(以下、スマブラSP)では、ファイター以外にもさまざまなキャラクターが登場する。身体を失い思念体となった「スピリッツ」として、多岐にわたる作品からさまざまなキャラクターが参戦する。その登場キャラクターには『ゼノブレイド2』のヒカリも含まれる。ヒカリは『ゼノブレイド2』におけるヒロインのひとりで、勝ち気でやや刺々しいながらも思いやりが深いキャラクターとして、心優しきもうひとりのヒロインであるホムラとともに主人公のレックスの冒険をサポートする。そのヒカリが大乱闘にスピリッツとして参戦するわけだが、その衣装について規制されているのではないか先日より海外コミュニティで騒がれていた。
「天の聖杯」ホムラのもう一つの姿、ヒカリ。髪型も、服装も、ホムラとは対照的ですも。
バトル中は、いつでもホムラと交代できるから、使える属性が増えてオトクですも!
もちろんストーリーでも大活躍するけれど、それはお楽しみですも~。 pic.twitter.com/E12U9vcbv0— ゼノブレイド総合 (@XenobladeJP) November 9, 2017
『スマブラSP』においては、海外にてすでに流出ROMが出回っているとされており、先行してゲームをプレイするユーザーから“ネタバレ”がなされていた。そのバレの中にはスピリッツとなったヒカリの姿も映されていたが、それは『ゼノブレイド2』を知るファンのヒカリの容姿とは異なっていた。同作におけるヒカリは、胸元があいており太腿を露出するなど、齋藤将嗣氏によるセクシーなキャラデザインがひとつの特徴。『スマブラSP』の先行プレイ者の公開した画像では、胸元は衣装により閉じられており、太腿はタイツを履いた状態になっている。この表現の変更が、表現規制および検閲(censorship)ではないかと海外コミュニティの間で大きな話題となった。ResetEraでは1000件近い投稿が寄せられ、この衣装変更について議論されていた。一方で、リーク者による報告という情報源が曖昧な状態での議論が続けられていた。
そして本日、『ゼノブレイド2』より『スマブラSP』におけるヒカリの登場が正式発表された。「ヒカリは、本編と少しだけ印象の違う、『スマブラSP』仕様のコスチュームで登場!」と記されているように、衣装が異なることも判明している。つまり、衣装変更についての情報は真実だったようだ。面白いのは、任天堂およびモノリスソフトによるアプローチはこれで終わらなかったこと。両社は『ゼノブレイド2』に「表現変更後の衣装」をゲーム内コスチュームとして用意したのだ。
今日の更新データでは、このヒカリの『スマブラSP』仕様コスチュームが追加されてますも!
本編ではアヴァリティア商会サルベージデッキ近くの「マブマブ」(4話以降に登場)から、『黄金の国イーラ』ではフェルト村の「旅する名もなきノポン」からもらえる特別なアシストコアで着替えられますも! pic.twitter.com/KFRPW8bZor— ゼノブレイド総合 (@XenobladeJP) December 1, 2018
本日より配信された更新データを反映させれば、『ゼノブレイド2』では、特別なアシストコアで同コスチュームへと着替えることができるという。本編ではアヴァリティア商会サルベージデッキ近くの「マブマブ」から、また『黄金の国イーラ』ではフェルト村の「旅する名もなきノポン」からもらえるという。こうした表現変更は「暗黙の規制」となり、開発元が言及を避け、あいまいなままで終わることが多い。しかし今回の『ゼノブレイド2』においては、この表現変更をあえて「『スマブラSP』特製コスチューム」と名付け、さらにゲーム内に実装している。暗黙どころか、公に堂々と公開しコスチュームであると認めたわけだ。暗黙の規制と化すよりも、公式コスチュームとして実装される方が公式の態度としてもわかりやすく、ユーザーにとっても納得しやすい。ある種の開き直りのような形でもあるが、一方で正直であり誠実である。騒がれがちな表現規制を逆手にとった、鮮やかな一手といえるのではないだろうか。なお、黒タイツのキャラクターデザインは、原作と同じく齋藤将嗣氏が手がけたとのこと。
【UPDATE 2018/12/1 11:45】
衣装変更後のヒカリのキャラクターデザインを、齋藤将嗣氏が手がけたことを追記。
衣装が変更された理由は、おそらくレーティングの問題だろう。『スマブラSP』は、北米向けレーティング審査機関ESRBではE10+(対象年齢10歳以上)、欧州レーティング審査機関PEGIでは12、日本のレーティング審査機関CEROではA(全年齢対象)として発売される。ディレクターの桜井政博氏は、11月5日開催された「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL プレミアムファイト 東京大会 一般部門(準々決勝~決勝)」の放送の中で、『モンスターハンター』シリーズから登場するリオレウスについて、尻尾の切断を入れたかったが日本のレーティングに引っかかってしまったと語っているように、より幅広い層に向けたレーティングを維持するために苦慮したことを示唆している。
※ 該当部分は58分27秒より
『ゼノブレイド2』はESRBレーティングではTeen(E10+)であるが、その理由としてはお酒やタバコの表現には触れられているものの、セクシャルな要素については言及されていない。一方でCEROでは同作はCERO C(15歳以上)対象となっており、その理由として「セクシャル」があげられている。他キャラクターと比べても刺激的なヒカリの衣装は、おそらくこの「セクシャル」要素に該当するのだろう。公式の発表がない以上は憶測に過ぎないが、ヒカリの衣装の変更はCEROのレーティング審査を意識してのものだと思われる。
こうした理由を踏まえれば、『スマブラSP』を全年齢向けにするための、合理的な衣装変更であると考えることもできる。ResetEraのアンケート調査では、変更後の衣装が60%の人気を獲得しているなど、興味深いデータも確認できる。しかし一方で、原作とは異なる形で『スマブラSP』にヒカリを登場させることに違和感を覚えるファンもいるだろう。そういったユーザーのために、変更後の衣装をゲーム内に登場させ、公式コスチュームにしてしまったわけだ。公式コスチュームとなるならば、ファンにとってもより納得のいきやすい衣装変更である。少なくとも、ただ沈黙を貫くよりも遥かに賢明な判断だっただろう。ファンの声を聞き『ゼノブレイド2』の改善を進めた任天堂およびモノリスソフトらしい、ファン目線に立った判断であるといえるかもしれない。