『モンスターハンター:ワールド』は、なぜ海外で受け入れられたのか。『Destiny 2』に代わる“ライフスタイルゲーム”として評価する動きに注目
『モンスターハンター:ワールド』(以下、MHW)は、発売からわずか2週間で全世界累計出荷本数600万本を突破し、英国でのパッケージ版売上は2週連続で一位を達成(Ukie)。欧米PS Storeの1月ダウンロードランキングでも首位を取り(PlayStation.Blog)、米国Xbox Storeの売上ランキングでは2か月間首位に君臨していた『PUBG』を抜くなど、飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている。海外メディアからの評価も高く、レビュー集積サイトMetacriticでは100点満点中91点を記録している。
『モンスターハンター』の集大成として称賛が送られる中、海外では独自の角度から本作を評価する動きも見られる。それは14年間続くシリーズの進化の流れから『MHW』の傑出度を計るのではなく、『Destiny』や『Tom Clancy’s The Division』(以下、ディビジョン)といった、トレジャーハントに重きを置いた西洋アクションRPGが築いてきた文脈の中で『MHW』をとらえるという試みである。『Destiny』は一人称視点のシューター、『MHW』は三人称視点のアクションゲーム。大枠だけ見るとまったく異なるジャンルである。では何を比べているのかというと、それぞれのエンドゲーム体験である。
『Destiny 2』の後だからこそ新鮮
GameSpotは「Goodbye Destiny, Hello Monster Hunter」と表された動画の中で、『Destiny 2』に代わる「ライフスタイルゲーム」として『モンスターハンター:ワールド』を勧めている。Kotakuでは、長年『Destiny』シリーズを追ってきたKirk Hamilton記者が、両作における「Grind(報酬を得る過程で生じる反復作業)」を比較し、『MHW』のそれが『Destiny 2』よりも優れているとの結論を出している。Eurogamerにいたっては『Destiny 2』に留まらず、他のプレイヤーと体験を共有する「シェアード・ワールド 」型のAAA級タイトル全般が注目すべき研究事例として『MHW』をピックアップしている。ジャンルは違えど、仲間と一緒に冒険し、より強力な装備品を揃えていくという、飽くなき需要を満たそうとする点では一致しているのだ。
1本50分の濃厚なビデオレビューを配信しているYouTubeチャンネル「Skill Up」は、『Destiny』『ディビジョン』と続いてきた西洋型アクションRPGの系譜に抜本的な見直しを迫る金字塔として『MHW』を絶賛している。また、これまで『Destiny』シリーズを集中的に取り上げてきたYouTubeチャンネル「Aztecross Gaming」は、「『MHW』のRPGメカニックこそ、『Destiny』コミュニティが『Destiny 2』に求めていたものだ」と称賛の言葉を送っている(動画リンク)。このように、『Destiny』シリーズを担当してきたゲームライターから、『Destiny』のコンテンツを扱ってきた個人の動画配信者まで、『Destiny』コミュニティに向けて『MHW』の魅力を発信するという流れが生まれている。
『MHW』は、これまで主戦場としてきた携帯機ではなく、据え置き型家庭用ゲーム機を対象とした、本格的な海外展開に踏み切った記念碑的作品である。西洋ゲーマーの多くにとっては、今作が初の『モンスターハンター』となる。だからこそ、過去のシリーズ作品を知らなくとも「トレハン好きのコンソールゲーマー」ならば知っている可能性の高い『Destiny』『ディビジョン』と比較して見せるという手法は、ターゲットが明確であり、効果的だろう。オーバーラップする可能性の高いユーザ層の興味を惹いて、これまで親しんできた作品よりも優れたゲーム体験を約束する。その根底にあるのは近年の作品に対する不満であることは否めない。だが結果として、ユーザが欲していた魅力的な提案ができているのではないだろうか。
ライフスタイルゲームとしての『MHW』
GameSpotがいう「ライフスタイルゲーム」とは、趣味時間の大半を占め、長期的に遊べるゲームを指す。ジャンルは問わず、多くの場合デイリー/ウィークリーの定期イベントを含んでいる。MMORPGからスポーツゲームまで、ライフスタイルの一部となっていれば、どんな作品でも当てはまる。ただし、はじめから「ライフスタイルゲーム」として、ひとつのサービスとして消費されることを目指してつくられた作品もある。先述したMMORPGがわかりやすい例だろう。『Destiny』『ディビジョン』『Diablo III』といったアクションRPGも、「ライフスタイルゲーム」として遊ばれることが想定されている。
『MHW』も例外ではなく、AbemaTVの特番では『モンスターハンター』を長年プレイしてきたお笑い芸人の次長課長・井上聡および麒麟・川島明を招き、生活の一部としての『モンスターハンター』を語ってもらうというPR活動を行なっていた(参考:AbemaTV公式動画)。ゲーム内でも、ログインボーナス、配信バウンティ、イベントクエストなど、日課として遊んでもらうためのインセンティブが用意されている。
ひとつのゲームに込められるコンテンツの量には限りがあり、「ライフスタイルゲーム」として定着させる上では、ある程度の反復作業が避けられない。この同じことの繰り返しをいかに心地よいものに仕上げるか。『MHW』と『Destiny 2』が比較されている所以はそこにある。GameSpotは『Destiny 2』のなめらかなガンプレイを長所として絶賛しつつも、見返りがないまま過ぎるプレイ時間の長さや、運に頼るしかないランダム報酬、エンドゲームにおけるバラエティ不足などを短所として列挙している。プレイすればするほどランダム性が前面に出てくるため、投資した時間に見合うだけの報いを得られるのか、不確かになっていく。
『MHW』においても、数百時間もプレイすれば作業感が増してくることに変わりはない。ただし装備品の現物ランダム報酬ではなく、クラフト素材収集をベースにしている『MHW』では、プレイヤーがある程度、成果物をコントロールできる。武器・防具・護石の生産から強化まで、プレイヤーは自分が求めている装備品に特化したアクションを起こせる。ディアブロス装備が欲しければ、ディアブロスを狩る。そして必要な素材の入手確率を高めるために、特定の部位を破壊し、狩猟か捕獲かを選択する。そこには主体性があり、プレイヤーの意図を介在させる余地がある。
『Destiny 2』の場合、クエスト報酬として得られるものや、ファクション装備と呼ばれる一部の武器・防具を除けば、欲しい装備品が手に入るまでストライクやレイドをひたすら繰り返すことになる。特殊なアイテム(「コインの3」)を使うことでドロップ率を高めることはできるが、これはアクションの外で行われる選択であり、実際のプレイ内容には影響を及ぼさない。また実際にドロップしたエングラムというアイテムを開封することで得られる武器・防具の種類は、やはりプレイヤーが動かせない確率に委ねられている。
『MHW』の場合、特定のキャラクタービルドを完成させるための道筋とゴールが明確。どこまでやれば、どうやってやれば素材が揃うのか、目処をつけやすいのだ。GameSpotはこうした『MHW』のRPGメカニックを「プレイヤーの時間を尊重するもの」として評価している。Kotakuは本作における主体性の高さに注目し、Eurogamerは「トレハンの正しいやり方」として褒めている。YouTubeチャンネル「Aztecross Gaming」は「心地よい反復作業」と、端的な言葉を用いて『Destiny 2』コミュニティに向けた情報発信を進めている。いずれもプレイヤーの時間を無駄にしない、主体性を大事にするという評価軸により『MHW』を相対化し、称賛を送っているのである。
14年分の蓄積があってこそ
『Destiny 2』や『ディビジョン』といった西洋のアクションRPGは、プレイヤーの需要に応えることに苦戦してきた。だからこそ、東洋で14年分のブラッシュアップを重ねてきた『MHW』が「こんなエンドゲームのやり方もありますよ」と別の選択肢を提示したことは新鮮に映ったのだろう。『モンスターハンター』のフォーマットは、国内では長年にわたり親しまれてきたものである。クラフト素材収集型のRPGメカニックはMMOタイトルでいくらでも採用されている。それが当たり前ではない市場に、それが求められるタイミングで飛び込んでいったのが、『MHW』およびカプコンの妙手である。
ゲーマーすべてが、ゲーム史すべてを把握しているわけではない。ひとつの市場で定着したシステムが、他の市場でも当たり前のように親しまれているとは限らない。単純にメリットが知られていないというケースは多く、「Skill Up」は先述した動画にて、これまでの『モンスターハンター』を学園モノの映画に出てくる目立たないメガネっ娘にたとえている。その子は映画の終盤で化粧をして、ドレスを着て、学園一のモテ男のハートを掴む。学園の生徒(西洋ゲーマー)は、そこでようやくメガネっ娘が実は美人だったことに気づく。ドレスを着たメガネっ娘とは、ほかでもない『MHW』のことだ。
もちろん、エンドゲームの構造だけでなく、一瞬一瞬のゲームプレイがやみつきになるような完成度を誇っているからこそ、『MHW』は成り立っている。武器の1種類1種類が、ほかの三人称視点アクションゲームであればメイン武器として看板を張れるだけのクオリティに仕上がっている。14年分の積み重ねがあるからこそ洗練されているのであり、新規IPとして簡単に真似できる類のものではない。
また『Destiny』と『ディビジョン』はいずれも初登場時の評価は芳しくなく、アップデートとDLCの配信を重ねることで印象を良くしていった。『MHW』は長年のブラッシュアップの成果もあってか、ローンチ時点でコンテンツが充実している。ルートボックスを含まず、スキン・エモートは個別に売るというマネタイズモデルも海外では賛同を得られやすい。アンチをつくりにくい、健全と見なされている手法なのだ。
新時代の幕開けか
絶賛されている『MHW』ではあるが、YouTubeチャンネル「Downward Thrust」は「みんなが楽しめるゲームではない」と念を押している(関連動画リンク)。特定層にとって100点満点のゲームだとしても、プレイできる時間が限られたゲーマーや、同じモンスターを繰り返し狩るという工程を苦痛に感じるゲーマーには向いていない。以前弊誌で取り上げたように(関連記事)、『モンスターハンター』シリーズのゲームプレイ・ループはこれまで、万人受けするものではないと評価されてきた。同じモンスターに何度も立ち向かい、素材を剥ぎ、装備を整え、さらなる強敵に挑む。これは人を選ぶゲームだと評されており、その根幹部分は今作でも変わらない。たとえば『Thomas Was Alone』や『Volume』で知られるゲームデザイナーMike Bithell氏は、「名場面を凝縮した10時間モードがあれば買うのに」と時間がないゲーマーとしての意見を述べている(該当ツイート)。
ただ、「人を選ぶ」度合がここ数年の間に変わった可能性はある。コンソール版『Destiny 2』は2017年北米売上2位を記録(Activision Blizzardの2017年第4四半期業務報告より)。それだけコンソールゲーマーの間で、報酬を求めて同じことを繰り返す「Grind」に対する抵抗が薄れているのではないだろうか。そう考えると、『Destiny』シリーズや『ディビジョン』は、『MHW』が西洋で受け入れられるための下地をつくっていたと言えなくもない。ランダム報酬がどっぷり浸透した後だからこそ、人々の見る目が変わったのだと。
東洋で独自の進化を遂げてきた『MHW』が世界に名を轟かせたことで、西洋のアクションRPGは抜本的な見直しが求められるようになる。そんなパラダイムシフトを予測する声は珍しいものではなくなってきている。GameSpotは、『Destiny』や『ディビジョン』は現在のフォーマットのままでは時代遅れになってしまうという、危惧の言葉で動画を締めくくっている。
Eurogamerは、近年の「シェアード・ワールド」型AAA級タイトルでは開発者とコミュニティの衝突が話題になることが多く、より摩擦の少ないゲーム設計として『MHW』に希望を抱いているという。個人レビュアー「Skill Up」も、『MHW』は今後の西洋ゲーム市場のトレンドを大きく変えると予測している。シリーズの集大成として世界を視野に入れた『MHW』は、ゲームの歴史にひとつの句読点を打ち、新たなサイクルを生み出すきっかけとなるかもしれない。