「ゼルダ」「マリオ」に次ぐ高評価を得たインディーゲームの開発極意とは。『Celeste』開発者がファンの質問に回答
Matt Makes Gamesは1月29日、先日発売した『Celeste』について、コミュニティサイトRedditにてAMA(Ask Me Anything、何でも質問していいよ)を実施した。『Celeste』は国内ではSteamにて購入可能で、海外ではPS4/Xbox One/ニンテンドースイッチ向けにも発売中。日本語にも対応している。レビュー集積サイトMetacriticでは、ニンテンドースイッチ版が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『スーパーマリオ オデッセイ』に次ぐスコアを獲得しているなど、非常に高く評価されている(関連記事)。
今回のAMAには、Matt Makes Gamesの設立者であり『Celeste』のディレクター/デザイナーのMatt Thorson氏、プログラマーのNoel Berry氏、作曲家のLena Raine氏、サウンドデザイナーのKevin Regamey氏ら4名が参加した。ファンからの質問の内容は多岐にわたるが、ここでは本作の開発過程に関連する部分に焦点を当てたい。
レベルデザインの工夫
『Celeste』は、即死トラップ満載のステージを空中ダッシュやさまざまなギミックを駆使して攻略する高難易度の2Dアクションゲームだ。このようなタイプのゲームの場合、レベルデザインはもっとも重要な要素の一つだろう。本作の開発は丸2年かかったそうだが、Matt Thorson氏はその大部分の時間をレベルデザインに費やし、発売直前までおこなっていたそうだ。そしてThorson氏は、レベルデザインにおいてはテストプレイが常に重要であると語っている。
テストプレイでは友人の協力をあおいだそうだが、まだグラフィックやサウンドが仮の段階から、可能な限り頻繁にテストしてもらったとのこと。そしてフィードバックを受けてはその場で修正して、セッションを止めることなく、すぐに試してもらうことを繰り返したという。そしてここで大事なのは、どれだけスキルレベルの異なるテスターを集められるかだとしている。絶妙なバランスに仕上げるためには、偏った意見ばかりでは方向性を見失いかねないということだろう。
レベルデザインに関連する話では、ステージ全体のデザインにも言及している。本作ではとても難しい場面もあれば、それほどでもない場面もある。そして、難しい場面では背景の装飾などを比較的簡素にしているとのこと。どのように攻略すべきかと集中力を高めなければならない場面に凝った背景を入れると、情報量の多さからプレイヤーが必要以上に難しく感じてしまうため、意図的にそうしたデザインにしているそうだ。逆の場面で言うと、見た目には難しそうだが実はそれほどでもなかったという印象と共に、ゲームを進めるモチベーションを与えることになる。
こうした工夫によって、それぞれの場面において「何がどう難しいのか」という理解に繋がり、そしてそれはプレイヤーがゲームを進めるペースに影響してくるのだという。特に本作のようにストーリー面にも力を入れている場合は、テンポよくプレイしてもらうためのペースの管理はとても重要な仕事だそうだ。
*Matt Thorson氏のレベルデザインの妙は『スーパーマリオメーカー』でも確認できる。
本作では、いわゆる“死にゲー”と呼ばれるほかのゲームと同じく、死亡回数がステージごとにカウントされている。しかし、たいていのゲームでは1ステージの死亡回数を減らせると表示が更新されるが、本作ではプレイするたびに加算されていく仕組みで、死亡回数表示は増えることはあっても減ることはない。その理由についてThorson氏は、死亡回数表示をプレイヤーがそのステージにつぎ込んだ労力を反映させるためのものにしたかったからだと述べている。難易度の高さや失敗を強調させるためではなく、むしろポジティブに捉えてもらうための仕掛けという訳だ。
また本作では会話シーンがたびたびあり、ダイアログ表示と共に“言葉ではないが音声のような音”が流れる。この音声についてKevin Regamey氏は「シンセ・スタイル」と呼んでいるが、ほかのゲームでも見られる手法だ。普通に声優に喋ってもらうという選択肢もあったかと思われるが、フルボイスは単純にコストがかかり、同じ理由で録り直しもできない。またローカライズをどうするかなどの問題も出てくるため、このシンセ・スタイルを採用したそうだ。そして、タイプライターのような無機質な音を流すゲームも存在するなか、本作では会話の内容によって、その“言葉ではない音声”のトーンに変化を付けて、キャラクターの感情を感じられるようにしていることが特徴である。本作ではストーリー面も重要な要素であるため、予算の限られたインディーゲームならではの工夫と言えるだろう。
クリエイター志望者へアドバイス
質問の中には、ゲーム開発者を目指す人へのアドバイスを求めるものもあった。Thorson氏は、まずは生産性や創造性を発揮できるツールを見つけることが大事だと語る。Thorson氏自身は、YoYo Gamesの「GameMaker」から始めたそうだ。そして、最初から素晴らしい大作を目指すのではなく、小さな作品をとにかく完成させることに注力し、どんどん数を作ることが大切だという。また、毎回少しずつ未知の分野に足を踏み入れるちょっとした挑戦に取り組み、そしてなにより楽しむことを忘れないでほしいとしている。
ゲーム音楽の作曲家を目指す人に対してはRegamey氏は、気分が乗っていようがいまいが毎日作曲やリミックスに取り組み、そしてゲームジャムに参加したり、Modの開発に携わるなど場数を増やすことを勧めている。実際に仕事を得るには、開発者に直接メールをして売り込むのが良いそうだ。
また、ゲームを開発する中では、個々の要素について上手く機能せずボツにせざるを得ない場面が多々あるだろうが、そうしたことは最高のゲームを作るための学びの時間であり、決して悪いことではないと考えるようにしているとNoel Berry氏は述べる。そして、しばらく経ってからもう一度試してみる機会を設けているそうだ。一方で、アクシデント的に意図せず生まれた面白い要素に関しては、ほかを調整してでも積極的に活かすようにしているとのこと。こうしたことも開発を楽しむうえでの秘訣といったところだろうか。
*今回のAMAには参加していないが、アーティスト/プログラマーのPedro Medeiros氏は『Celeste』の開発過程を公開していた。
なお『Celeste』は「C#」と、すでに開発終了しているマイクロソフトの「XNA」で開発し、「FNA」と「MonoGame」を用いて各プラットフォーム向けに移植しているとのこと。XNAを使わなければ工程を減らせるが、その必要性を感じないとしており、今もお気に入りのツールなのだろう。また、レベルデザインにはオリジナルのエディタを用意したそうだ。使用ツールについては公式サイトで詳しく紹介されているので、興味のある方はご覧いただきたい。
また、本作には「PICO-8」で制作した原型となるゲームが存在する。今は『Celeste Classic』としてWeb上で公開されているほか、本作の中でもアンロックしてプレイすることができる。Berry氏は、PICO-8のようなシンプルなゲーム制作ツールは、ゲームのアイデアについて上手くいくのかどうか試すのに役立つとし、これでよくプロトタイプを作ったり実験したりしているそうだ。ちなみに、『Celeste』では「イチゴ」が収集アイテムとして配置されているが、これはPICO-8が持つ制約の中でうまく描けたため、その名残として残しているとのこと。
『Celeste』を開発するにあたって影響を受けたゲームとしては、『スーパーマリオブラザーズ3』や『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』『メトロイド』『スーパードンキーコング2』『Hyper Light Drifter』『ケロブラスター』などが挙げられている。サウンド面では『FEZ』や『The Witness』から効果音や足音を、『スーパーマリオ』シリーズからは“丸み“を感じられるサウンドデザインを学んだという。
また、本作はドット絵の2Dゲームだが、ステージ選択画面だけは3Dグラフィックを採用している。これは『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』から影響を受けたそうで、ステージ全体を見回して、これから登る山の壮大さを感じてもらうためには3Dが最適だろうと考えてそのようにしたという。
高い評価を得た『Celeste』の売り上げについては、具体的な本数は明かされていないが、とても好調だという。米国eShopでの直近2週間の売り上げランキングでは、大作や定番ゲームを押しのけて1位に輝いている。また、Bandcampにて販売されているサウンドトラックは、ゲームの人気に押されてかこちらもトップセラーとなっている。
ネタバレに繋がりかねないため本稿では触れなかったが、ほかに本作のストーリーや、その設定を選んだ背景などについても語られている。なお、そのストーリーは本作で完結できたと感じているため、現時点では続編や追加エピソードの開発は考えていないそうだ(スタジオとしては、現在『TowerFall Ascension』のニンテンドースイッチへの移植に取り組んでいる)。AMAではそのほかにもさまざまな質問に回答しているため、興味のある方はRedditをご覧いただきたい。