BioWareが『Anthem』開発の苦悩をもらす。ルートボックス騒動の余波や『Destiny 2』の失速など、重圧がのしかかる
BioWareは現在、スタジオの未来がかかった『Anthem』の開発現場にて、多大なるプレッシャーと向き合っている最中であることを、海外メディアのKotakuが独自の情報源をもとに報じている。『Anthem』は「E3 2017」にて、パブリッシャーElectronic Arts(以下、EA)により発表された、シェアード・ワールド型のアクションRPGである。巨大な壁に囲まれて暮らす人類が、パワードスーツを装着し、大自然が広がる壁外の世界を縦横無尽に飛び回って冒険する。そのスケールの大きさから、期待の新規IPタイトルとして注目されている。
※2017年6月に公開された『Anthem』発表トレイラー
二度の失敗は許されない
Kotakuが複数人のスタジオ関係者に取材を行ったところ(いずれも匿名)、BioWareでは投資家やゲーマーの期待に応えるための一般的なプレッシャーだけでなく、2017年に起きた出来事を発端とした負の圧力が、束になって押し寄せてきているという。要因のひとつは、BioWare Montrealが手がけた『Mass Effect: Andromeda』にある。というのも、2017年3月に発売された本作は、収益的には成功であったとEAの決算説明会にて称賛されたが(PCGamesN)、不自然なアニメーションやパフォーマンスの問題が指摘され、ユーザからは高く評価されなかった(レビュー集積サイトMetacriticでのユーザスコアは4.9/10点)。
EAは決算発表後の2017年8月、EA MotiveがBioWare Montrealを吸収することをアナウンス。その直後には、『Mass Effect: Andromeda』のシングルプレイモードについて、早くもアップデートを停止する旨が告知された(公式サイト)。EAは表向きにこそ成功という言葉を使っていたが、実際にはMontrealスタジオの吸収というBioWareにとって喜ばしくない末路が待っていた。もし、『Anthem』がEAの期待するようなヒット作にならなければ、残るスタジオ(EdmontonとAustin)にも鉄槌が下されるかもしれない。情報を寄せた開発者のひとりは、そんな不安をのぞかせている。
尾を引くルートボックス騒動
2017年11月には、EAがパブリッシュした『Star Wars バトルフロント II』に世間の注目が集まった。ゲーム内課金要素であるルートボックスが、より多くお金を払ったプレイヤーが有利になる「Pay-to-Win」であるとして批判を招いたのだ。また「スター・ウォーズ」が子供からも愛されている世界的IPであることから、批判の声はゲーム業界の外にまで響き渡ることになった。未成年者を射幸心ビジネスから保護すべく、ルートボックスを賭博もしくは賭博に準ずるものとして取り締まるべきとの論争に火をつけた(関連記事)。こうした批判の声が高まったことで、BioWareでもマネタイズモデルの見直しを余儀なくされたという。世間から厳しい視線が向けられている中、バッシングされるような収益手段は何としても避けねばならない。
また騒動の真ん中にいたEAは、ゲーム体験ではなく金銭的な搾取ばかりを追求しているとの批判を浴び、その怒りは「スター・ウォーズ」のゲーム化ライセンス剥奪を要求する署名活動にまで発展した(関連記事)。BioWareとしては、マネタイズモデルの見直しはもちろんのこと、EAが抱える負のイメージをはねのけるような努力が必要になってくる。
『Destiny 2』の失速
Kotakuが手にした情報によると、BioWareは現在、『Destiny 2』で起きているトラブルの行方を注視しているという。同じシェアード・ワールド型のアクションRPGとして、その運営方法には参考、もしくは教訓になる部分があるのだろう。具体的にいうと、『Destiny 2』ではルートボックス取得に必要な経験値獲得量の裏操作、DLC未購入者からのエンドコンテンツ・アクセス権剥奪、課金要素に偏ったホリデーイベントの開催など、発売以降コミュニティから不満の声が相次いでいる。多くは情報の共有不足から始まり、事後発覚を経て、開発元のBungieが今後の改善を約束するという流れを辿っている。
コミュニケーションの問題は前作『Destiny』時代から続いてきたものであり、見かねた実況配信者たちは次々と『Destiny 2』からの離脱を表明している(Forbes)。配信をやめる理由としては、Bungieの運営に落胆したこと以外にも、「配信する内容がない」という現実的な問題が挙げられている。コンテンツが不足していればプレイ内容も変わり映えせず、視聴者の関心を集めにくい。すると他のゲームに移らざるを得なくなる。
配信者だけでなくTwitch視聴者数も、フランチャイズの歴史上、過去最低基準にまで落ち込んでいる。今年1月に入ってからの1時間あたり平均視聴者数は、週日・週末問わず5000人を下回っている(GITHYP)。前作『Destiny』の昨年同期の視聴者数は、ピークをむかえる週末には1万人を突破していた。配信者・視聴者数ともに減少傾向にあることがわかる。
『Destiny 2』は前作と比べてカジュアルになったことで、長時間投資しなくてもエンドゲームにたどり着けるようになった。だがカジュアル化を図るにあたりトレハン要素を薄めたことで、プレイし続けるインセンティブが減ってしまった。トレハンのかわりにエンドゲームとなったルートボックスには、相変わらず批判が続いている。そしてプレイ動機の消失が招くユーザ継続率の低下は、長期的な収益にも影響を及ぼす。
Cowen and CompanyのアナリストDoug Creutz氏は、『Destiny 2』コミュニティの活気が衰えていることを指摘。ゲーム内課金やDLCによる追加収益が望めず、同じActivisionパブリッシュ作品の『Call of Duty: WWII』で見込まれている継続収益を相殺してしまう恐れがあると悲観視している(CNBC)。『Anthem』を開発するBioWareとしては、同じ轍を踏まないよう注視すべき事例であるし、『Destiny 2』に不満を抱えたユーザを取り囲む絶好のチャンスとも言える。
総力をあげて重圧をはねのける
2017年に発売された『Destiny 2』や『Star Wars バトルフロント II』は、AAA級タイトルおよび「Game as a Service」のあり方に疑問を投げかけた。そして、2018年以降リリースされるAAA級タイトルには、運営方針やマネタイズモデルに関する不信感を払拭するような歩み寄りが求められる。BioWareとしてスタジオの未来を切り開くためにも、EAとして投資家・ゲーマーの信頼を勝ち取るためにも、『Anthem』は同じ過ちを繰り返すことなく、新規IPとして成功を収めなくてはならない。そのプレッシャーは並大抵のものではないだろう。
現在BioWareは、リソースの大半を『Anthem』に注いでおり、つい先日1月25日には、『Dragon Age』フランチャイズのエクゼクティブ・プロデューサーMark Darrah氏までもが、『Anthem』プロジェクトに従事していることが公表された。ただ人員を投入するだけでなく、テクニカル・デザインディレクターのBrenon Holmes氏がReddit上でファンと交流を図るという、信頼構築を意識した活動が見られる。こうした動きからも、BioWareの本気度が伝わってくる。
Halfway through my trip to Barcelona!
I’m here showing Anthem internally to EA. I am EP of BOTH DA and Anthem working with @Bio_Warner as Game Director
Anthem’s up next but there are people hard at work on both franchises and I look forward to sharing more in the future— Mark Darrah (@BioMarkDarrah) January 24, 2018
なお本作のリリース時期は2018年秋と伝えられているが、開発状況を知る情報提供者はKotakuに、2019年初頭まで延期になるという見解を寄せている。現在の進捗からして2018年秋は無謀だが、EAの会計年度が終わる2019年3月より先まで延ばすことは、EAが許さないだろうという推測のもと、ギリギリのラインとして2019年初頭という時期が提示されている。
2017年に注目を浴びた『Mass Effect: Andromeda』『Star Wars バトルフロント II』『Destiny 2』から学び、名門スタジオが総力をあげて開発を進めている『Anthem』プロジェクト。重圧をはねのけるようなBioWareの奮闘に期待を寄せたい。