『Detroit: Become Human』の開発スタジオにてハラスメント行為が蔓延していると現地メディアが報道。世界的に広まる告発運動の新たな一例


『Detroit: Become Human』『HEAVY RAIN』などで知られるフランスのゲームスタジオQuantic Dreamについて、社内でのハラスメント行為が蔓延していることを、フランスの報道機関3社「Le Monde」「Canard PC」「Mediapart」が1月14日に一斉に報じた。その様子を英国のゲームメディアEurogamerが伝えている。なおQuantic Dreamは一連の報道内容を否認している。

「社風」として許されるのはどこまでなのか

上述した「Le Monde」の記事は、十数人の現従業員および元従業員の証言をもとにした内容となっている。非難の的となっているのは、スタジオ創設者であるDavid Cage氏および共同CEOのGuillaume de Fondaumière氏。二人は性差別的・人種差別的なジョークが飛び交う社風の醸成に加担していると指摘されている。

匿名の元従業員から寄せられた情報によると、社内サーバのキャッシュからは、グループメールでシェアされていたとされる卑猥なコラ画像が600枚ほど見つかったという。大型ディルドを持ち運ぶガテン系ストリッパー姿のDavid Cage氏、猥雑な体勢で横たわる男性従業員二人、プレイボーイ風の集合写真など、その一部は「Canard PC」の記事でも掲載されている。Quantic Dreamは180人規模のスタジオであり、その8割は男性。Fondaumière氏自身も画像のやりとりについては認識しており、フランクな社風が根付いていたこと自体は事実なのだろう。

『BEYOND: Two Souls』

ゲームデザイナー、ディレクター、脚本家としてゲーム制作の中核を担うDavid Cage氏に関しては、他人の意見を聞き入れない独裁的な姿勢について不満の声が寄せられているという。この点については、プロジェクトおよび企業のリーダーとして我を貫いているとも読み取れる。コンテクストが抜かれた状態では判断しがたい。また「Le Monde」誌はQuantic Dreamを一方的に非難しているわけではない。たとえば情報提供者から寄せられた超過労働に関する不満については、確かにそのような証言があったものの、労働法が無視されることの多いゲーム業界において、残業代を支払っているQuantic Dreamは比較的優良な部類に入ると述べられている。ただし、退職率が非常に高い(人数としては2015年から2016年にかけて50人ほど)企業である点にも触れている。

企業としては否認を貫く

David Cage氏およびGuillaume de Fondaumière氏は、一連の報道内容を強く否定している。Cage氏に関しては情報提供者からのエピソードとして、テレビで強盗事件のニュースを目にした際、チュニジア人の従業員に「キミの親戚かい?」と差別的なジョークを飛ばしたことが「Le Monde」にて報じられている。これについてCage氏は同社が「ラグビーチームのロッカールーム」などでは決してなく、「ばかげているし、滑稽で、ひどい主張だ」と一笑に伏している。

同性愛者嫌悪との疑いに対しては、前作『BEYOND: Two Souls』にてLGBTQの人権のために活動しているEllen Page氏(同性愛者であることを公表している)とともに働いたことを挙げて反論。また、人種差別的だという訴えに対しては、2018年発売予定の『Detroit: Become Human』にて人権活動家としても知られる俳優Jesse Williams氏が出演することに言及している。

『Detroit: Become Human』にて主人公のひとり「マーカス」を演じるのは俳優Jesse Williams

Guillaume de Fondaumière氏については、挨拶時に交わすふれあいが度を過ぎていることや、従業員に言い寄っているとの匿名報告があがったとされている。同氏はこうした疑いを事実無根として否定。海外メディアKotakuでは、法的措置も辞さないつもりであるとのコメントを寄せている。

また一連の記事が公開された1月14日には、Quantic Dreamとしての正式な声明が出されている。記事内で言及されている申し立てを否認しているほか、「不適切な行為および習慣は、Quantic Dream内では断じて許されておりません。それらに関する苦情が生じた際は、これまでも、そしてこれからも、厳重に対処していきます」「弊社では従業員ひとりひとりをかけがえのないメンバーとして大切にしています。安心して働ける環境づくりというのは、我々がゲーム制作に対する情熱を共有し、注ぎ続けるためにも、最重要視していることであります」との言葉が記されている。

著名なゲームスタジオや大手メディアでも告発続く

海外ではハーヴェイ・ワインスタイン氏にまつわるセクシャルハラスメント騒動をきっかけに始まり、国内でも大手広告代理店のクリエイターに対する告発で知られるようになった、ハラスメント・性的暴力被害の告発運動「#MeToo」。その流れはゲーム業界にも届いており、昨年末から海外の大手メディア企業や著名なゲームスタジオでの告発が続いている。

2017年10月には、『アンチャーテッド』や『The Last of Us』シリーズを開発したスタジオNaughty Dogの元従業員David Ballard氏が過去にハラスメントを受けたこと、またその旨を人事部に相談した直後に解雇されたことを告発(Bussiness Insider)。これを受け、Naughty Dogより正式な声明が出されるに至った。声明文ではQuantic Dreamと同様、セクシャルハラスメントならびに職場での不適切な行為に対しては、厳重に対処している旨が記されている。なおNaughty Dogと親会社であるSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)ともに相談を受けた証拠は残っていないとのことだが、この点に関してはBallard氏自身、メールではなく電話を通じて人事相談を行ったと語っているため、記録に残っていないとしても不自然ではないだろう。

続く2017年11月には、海外メディアIGNの元従業員Kallie Plagge氏が、当時の上司にあたる編集員Vince Ingenito氏のハラスメント行為を告発。人事部に相談したところ、被害者である彼女にも落ち度があったとして、一蹴された経緯を語っている。

この告発を受け、IGNのマネジメント部が声明を出すまで現従業員たちが業務をボイコットするという事態に至った。加害者として糾弾されたIngenito氏は告発される前に解雇済み。Plagge氏と距離感の認識に違いがあったことを認め、ツイッター上で謝罪していた(現在はアカウント非公開)。2018年1月には、職場で不適切な対応を取ったとして、当時のIGN編集長Steve Butts氏が解雇されている(Kotaku)。

児童虐待を扱ったトレイラーと、それを巡る騒動

こうした大きな流れがあった上で起きた、Quantic Dreamに対する告発。中心人物であるDavid Cage氏は、長年ゲーム業界の第一線で活躍し、複数の作品を世に送り出してきた野心的なゲームクリエイターである。ただし彼の脚本家としての力量には賛否両論あり、2017年の「Paris Games Week」で公開された『Detroit: Become Human』の最新トレイラーでは、児童虐待が題材とされていたことから、反響を呼んだ。

トレイラーではシングルファザーの男性が一人娘を虐待しており、家事ヘルパーとして雇われたアンドロイド「カーラ」の視点から、家庭内事情に介入するか、傍観するか、プレイヤーが選択することで、その後の展開がダイナミックに変化する様子が描かれている。昨年12月にはオーストラリアの児童虐待防止団体NAPCANが、同作は視聴者にトラウマを植え付けかねないとして、同国の小売店で販売しないようボイコットを呼びかけた(9news)。映画・小説などで同様の題材が扱われるケースは少なくないが、ゲームという能動的なエンターテインメントとして消費されることに抵抗が示されている。

トレイラーの発表当時、David Cage氏は各メディアのインタビューにて質問攻めにあった。ゲーム内で児童虐待を扱うことの是非を問うというよりは、David Cage氏がセンシティブな題材を適切に調理できるのか、という不信感が少なからずあったのかもしれない。Quantic Dream告発の流れを報じたEurogamerも、当時のCage氏にインタビューしている。トレイラー内の描写が過激すぎるのでは、という記者からの問いに対し、「あなたに聞きたいのですが、映画監督や小説家に同じ質問をしますか?どうですか?」と質問で返すCage氏。その後も「はい」「同じ質問をするんですね?」「ええ、同じ質問をしますとも」という問答を続けたりと、繰り返し問われる質問にCage氏は苛立ちを隠さなかった。

同氏は当時から、児童虐待・家庭内暴力といったセンシティブな題材を適切に扱える脚本家なのかどうかを問われていた。そして一連のインタビューは議論がうまく噛み合わないまま終わってしまった。発売前のゲームについて詳細を語れない以上、やむを得ない行き違いだったのかもしれない。ただ、そうした問答から窺えるCage氏に対する不信感が、今回のハラスメント報道を受けて増大しないよう、Quantic Dreamとしていち早く声明を出すという対応は正しかったはずだ。

なお、トレイラーで虐待シーンを選んだ理由についてCage氏は、主人公である3体のアンドロイドそれぞれの物語のコントラストを見せるという意図があったと答えている(GameSpot)。アンドロイドである「カーラ」の共感能力や感情の動きこそが、彼女の物語のテーマになっている。それを示すために、該当するシーンを選んだのだ。今回「Le Monde」の記事にて、トレイラーの内容を変更するよう助言した従業員もいたと報じられているが、ゲームディレクターとして譲れない、Cage氏の強い意図が込められていたのだろう。

Quantic Dreamが否定している告発内容のどこまでが本当で、どこまでが虚偽なのかは、わからない。ただCage氏は「オレのことは作品で評価してくれ」とだけ手短に語っている。トレイラーひとつをとっても妥協を許さないCage氏。彼の熱い想いは、年内発売予定の『Detroit: Become Human』をもって受け取るしかない。