「ニンテンドースイッチでインディーゲームは売れやすい」は本当なのか?実際にパブリッシャー2社に聞いてみた

最近になり、インディーゲーム開発者の間で「ニンテンドースイッチ上ではインディーゲームが売れやすい」といった報告が相次いでいる。今回はそういった話をさらに聴き込むべく、同ハードでインディーゲームを販売するパブリッシャーに、実際にリリースしたタイトルがどれほど売れたのかという話をうかがった。

先日『ワンダーボーイ ドラゴンの罠』の開発者が、ニンテンドースイッチ版の売り上げの数字が他機種を合計したものよりも多かったことを告白した。ほかにも『Death Squad』や『forma.8』の開発者も似たケースを報告するなど「ニンテンドースイッチ上ではインディーゲームが売れやすい」といった報告が相次いでいる。そうした傾向が徐々に生まれつつあることは確認できるものの、もう少し詳しい話を聞いてみたいと思う人もいるだろう。そこで今回は、同ハードでインディーゲームを販売するパブリッシャーに、実際にリリースしたタイトルがどれほど売れたのかという話をうかがった。今回は、回答してくれたゲームパブリッシャー2社の意見を紹介する。

「他プラットフォームより売れた」

ひとつめの回答は、tinyBuild GAMES(以下、tinyBuild)のPRディレクターであるYulia Vakhrusheva氏のもの。tinyBuildは主にSteamを主戦場とするインディーパブリッシャーだ。『Punch Club』や『Hello Neighbor』など根強い人気を誇るタイトルを抱えている。tinyBuildは、これまでニンテンドースイッチにて『Mr. Shifty』と『Phantom Trigger』をリリースしている。Yulia氏は『Mr. Shifty』と『Phantom Trigger』の売れ行きについて、「両方のタイトルが現在、他コンソールより多く売れています。」と語る。氏は売り上げについての詳細は語らないものの、売れた理由について3つの理由をあげている。

トラブルもありつつ立ち直った『Mr.Shifty』

まずひとつめにあげた理由は、ニンテンドースイッチが新しいハードであるということ。新しいハードではコンシューマー向けタイトルがヒットしやすい傾向があるという。ふたつめは、任天堂プラットフォームには巨大で潤沢なファンベースが存在するとのこと。熱心なユーザーを抱えており、これがヒットにつながったと見ているようだ。そして最後は、ハードの独自性。据置機としても携帯機としても遊べることが、ハードだけでなくソフトのヒットにもつながっているという。どの理由も驚きはないものの、堅実な考察であるといえるだろう。いずれにせよ、tinyBuildのようなPC市場をメインとするインディーパブリッシャーが成功を収めているという事実は興味深い。

もうひとり回答をくれたのはRaw Furyの共同設立者Gordon Van Dyke氏。Raw Furyは近年頭角を現しつつあるインディーパブリッシャーで、Paradox InteractiveやDICEに在籍していたベテランスタッフが良質なインディーゲームをプロデュースしている。Gordon氏はまず同社が発売した『GoNNER』の売れ行きについて言及。『GoNNER』は、PC版が昨年10月に発売されており、ニンテンドースイッチ版は今年の6月に発売された。半年遅れの移植であるので、売れ行きはそれほど大きくないことが予想されるが、Gordon氏は「ニンテンドースイッチ版はPC版の倍売れている」と報告している。『GoNNER』はSteamでも小ヒットを記録したタイトルで、決してその母数は小さくない。それでもそのPC版の倍売れているということは、かなり販売が好調であることが推測できる。

ピクセルアートがキュートな『Kingdom: New Lands』

また9月に発売されたニンテンドースイッチ版『Kingdom: New Lands』については、2016年に発売されたXbox One版が1年間で出した数字と同等であるとのこと。くわえてGordon氏は「ニンテンドースイッチタイトルの開発は非常にローコストであるので、利益が出やすい。だからこそ我々はインディーであり続けることができる。Good以上のGreatな結果だよ!」とも語ってくれた。

形成されるインディーゲーム市場

特筆すべきは、これらのタイトルはいわゆる”後発マルチ”であることだ。『ワンダーボーイ ドラゴンの罠』やtinyBuildのタイトルは、他プラットフォームと同時発売であった。Raw Furyのタイトルは時期遅れの移植であるにもかかわらず、高い数字を記録しているわけだ。以前弊誌ではニンテンドースイッチにて移植タイトルの発表が非常に多くなりつつあることを報じたが、Gordon氏の意見を聞くとその理由が垣間見えるだろう。

そのほかインターネット上に出ている話としては、『Oceanhorn』開発者はニンテンドースイッチ版が他プラットフォームの合計よりも多いという話に同意しており、『Has-Been Heroes』をリリースしたFrozenbyteのPRマネージャーもあらためてニンテンドースイッチ版がもっとも売れていることを報告している。こうした「売り上げ話」は、最初に出始めた時はサンプルがまだ少なかったものの、そこから多くのサンプルが集まり、「売れやすい」という傾向はより信じる根拠が増えつつある。もちろん、タイトルごとに売り上げは大きく異なるので、他プラットフォームの方が売り上げがより優れているという作品もあるだろう。ただこれだけ事例が集まった以上、現在のニンテンドースイッチのマーケットではインディーゲームが売れやすい流れがあることは間違いなさそうだ。まだまだ同ハードではタイトル数が少ないという事実も売り上げに関係していると思われるが、Steam市場ではインディータイトルがあふれ飽和しているという報告がされており、そうした条件も相まってニンテンドースイッチにインディーゲーム市場が形成されつつあると考えられる。

インターネットでは、ほぼ毎日といっていいほどニンテンドースイッチ向けタイトルの発表を見かける。こういった光景はこれまでの任天堂プラットフォームでは見られなかったものだ。一方で、ニンテンドースイッチは据え置きと携帯ハードのハイブリッドデバイスであるものの、そういった機能を持つがゆえに他の据え置きプラットフォームと比較するとスペック上の制約がある程度は存在すると言われている。それゆえに、最新のAAAタイトルなどがいまだに同時発売されない現状もある。しかしながら、今回のインディーゲームタイトルの成功報告からわかるように、ニンテンドースイッチだからこそ切り拓ける、小規模サードパーティを巻き込んだ独自の道が生まれつつあると考えることができるだろう。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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