『PUBG』のBlueholeが『Fortnite Battle Royale』の類似性を指摘。ゲームエンジン提供者が競業相手になることを懸念して

『PLAYERUNKNOWN’S BATTLGROUNDS』(以下、PUBG)のエグゼクティブ・プロデューサーChang Han Kim氏は9月22日、Epic Gamesが開発する『Fortnite Battle Royale』のゲームプレイが『PUBG』と類似しているとの懸念を示す声明を発表した。

『PLAYERUNKNOWN’S BATTLGROUNDS』(以下、PUBG)のエグゼクティブ・プロデューサーChang Han Kim氏は9月22日、Epic Gamesが開発する『Fortnite Battle Royale』のゲームプレイが『PUBG』と類似しているとの懸念を示す声明を発表した。

 

声明内容と問題点

Chang Han Kim氏は声明にてまず、「我々は『PUBG』の開発を通じて、同作のゲームエンジンとして採用しているUnreal Engine 4のクリエイターEpic Gamesと継続的な関係を築いてきました」と、両社がビジネス関係を結んでいることに触れた。その上で、「コミュニティからのフィードバックを受け、対象作品のゲームプレイをレビューした結果、『Fortnite』は『PUBG』の特徴として知られているゲーム体験を複製しているとの懸念が生じました」と語っている。

また「Epic Gamesが『Fortnite』の宣伝活動にて『PUBG』に言及し、コミュニティおよびメディアとコミュニケーションを取っていることにも目が留まりました。こうした活動について我々との話し合いはなされておらず、正当なおこないではないと感じております」と続け、「さらなる措置を検討する中で、『PUBG』のコミュニティからは両作の類似性を示す多数の証拠が、継続的に提供されております」と声明を締めくくっている。

このプレスリリースから判断するに、Blueholeが問題視しているのは以下の2点である:

1) 『Fortnite Battle Royale』のゲームプレイが示す『PUBG』との類似性
2) Epic GamesがBlueholeの許可なく『PUBG』の名を使用したこと
パラシュートではなくパラグライダーで戦場に降下する『Fortnite Battle Royale』

1)に関して注意したいのは、Kim氏は声明にてバトルロイヤルという言葉を持ち出していないということ。バトルロイヤルというアイデア自体を占有したいという趣旨ではなく、あくまで『PUBG』のモデルと似すぎているというのがBlueholeの主張である。実際に『PUBG』のクリエイティブ・ディレクターBrendan Greene氏も、Reddit AMAにて他企業のバトルロイヤル市場参入に関して質問されたところ、「もちろん、他企業もこの市場に参入してくるでしょう。ただ彼らがゲームモードをそっくりそのままコピーするのではなく、独自のアイデアを付け加えてくれることを願っています」と語っている。他企業がバトルロイヤル・ジャンルに手を出すこと自体を拒絶しているのではない。

2)に関しては、以下のアナウンス・トレイラーにて、Epic Gamesのクリエイティブ・ディレクターDonald Mustard氏が、同社が『PUBG』や『H1Z1: King of the Kill』の大ファンであると発言した上で『Fortnite Battle Royale』を紹介したことを指している。Epic Gamesは『Fortnite』のブログ記事でも『PUBG』に言及しており、彼ら独自のバトルロイヤルゲームを開発するうえで、『Fortnite』が最適な土台であったと述べている。

一見すると先駆者へのリスペクトを示すクリーンな対応に思えるが、『PUBG』のコミュニティ・マネージャーSammie Kang氏はPC Gamerに対し、こうしたEpic Gamesの発言により、Blueholeが『Fortnite Battle Royale』のプロジェクトに関与しているかのような、誤った印象を人々に与えていると指摘している。なおEpic Gamesが9月22日に公開した最新の『Fortnite』デベロッパーアップデート(YouTube動画リンク)では『PUBG』の名は使われておらず、「他のバトルロイヤル作品」という表現にとどめられている。

 

類似点と相違点を確認

そもそも『Fortnite Battle Royale』とは、『Fortnite』のPvEコンテンツ「Save the World」の開発で培われたゲームメカニックを、PvPのバトルロイヤルモードに応用したもの。有料早期アクセス中の『Fortnite』とは別に、無料のスタンドアロン作品として9月26日に正式配信される(『Fortnite』所有者向けには9月12日よりベータ版へのアクセスが可能)。基本無料かつ海外ではPlayStation 4/Xbox One向けにもリリースされるということで(無料化発表ブログ)、『PUBG』よりも先にコンソール市場に放たれる。両作の知名度には差があるが、同じマーケットでプレイヤーを奪い合うライバル関係にあることは間違いない。

では『Fortnite Battle Royale』のゲームプレイは、『PUBG』を複製していると言えるほどに酷似しているのだろうか。たしかに「最大100人のプレイヤーが最後の一人になるまで戦う」という基本ルールは両作とも同じである。輸送機(『Fortnite』の場合は空飛ぶバス)に乗って戦場となる島に向かい、パラシュートもしくはパラグライダーを使って任意のタイミングで降下することや、手ぶらの状態からスタートして徐々に装備を整えていくという類似点も見られる。数分おきに縮まる競技エリアの概念が存在し、エリア外に出るとダメージを受けるというのも『PUBG』ではお馴染みの仕組みである。

競技エリアを定めるパルスが「Eye of the Storm」と呼ばれるなど、用語こそ違うが仕組みは同じ

だが『Fortnite Battle Royale』では『PUBG』にはない独自の味付けもなされている。『Fortnite』のPvEコンテンツ向けにつくりこまれたベース・ビルディング要素を持ち込んでおり、即席の監視塔を建設して競技エリア内に駆け込んでくるプレイヤーを一掃したり、建物にトラップを仕掛けて自らの手を汚さずに相手を処理したりと、『Fortnite Battle Royale』でなければ味わえないゲーム体験が確かに存在する。細部に目を向けると、マッチ開始時の降下は前後左右に動かせるパラグライダーのおかげで落下地点の選択に自由が利くし、全体的な操作感はアーケード寄り。『PUBG』のような「サバゲー感」は薄い。雛形は同じでも、見様によっては十分な差別化を図れている。

議論の対象となっているゲームプレイからは話が逸れるが、現状『PUBG』のパブリックサーバには含まれていない観戦モードが『Fortnite Battle Royale』には存在する。プレイヤーが死亡したあとも他プレイヤーの視点でマッチを見守れるという、後続作品としてのプラスアルファ、工夫がなされている。

プレイヤーの発想力を試す建築要素こそが最大の差別化ポイント

このように『Fortnite Battle Royale』は『PUBG』のコピー&ペーストだけで生まれた作品ではない。類似点が多く見られることから、BlueholeがEpic Gamesの取り組みに懸念を抱く理由はわかるが、パクリという言葉で簡単に片付けられる問題ではない。それだけに法的措置を匂わすほど一線を越えてしまったのかというと、疑問が残る。

 

ゲームプレイの類似は悪なのか

思えばバトルロイヤルと同じくMod文化から生まれたMOBAも、『League of Legends』や『Dota 2』が同じ雛形をもとに独自の味付けを加えたことで競争が激化していった。『Doom』のゲームプレイを模倣したとして「Doomクローン」と呼ばれた作品群には、『System Shock』や『Duke Nukem』など後世にまで名を残す作品が含まれている。現在進行形の話でいえば、『Demon’s Souls』『DARK SOULS』以降インディーシーンを中心に台頭した「ソウルズライク」も、『The Surge』『CODE VEIN』『Immortal: Unchained』など独自のアイデアを加えることで多様化が進んでいる。ジャンルというのは小さな違いから始まり、少しずつ成熟していくものだ。

グローバル規模での成功をおさめた『PUBG』は、バトルロイヤル・ジャンル(もしくは「バトルロワイアル」というサブジャンル)の成功例としてひとつの設計図を世に残した。その設計図をもとに、独自のアイデアを付け加えた『Fortnite Battle Royale』は、その成否がどうであれジャンルを前に進めるための大事な一歩。後述するような「ゲームエンジン提供者」というコンテクストを抜いて考えた場合、その取り組みを否定することは難しい。それに、IGNのAlanah Pearce記者がツイッターでコメントしたように(IGN記事でも言及)、BlueholeがEpic Gamesを名指しで批判したことは、Epic Gamesの評価を下げるどころか『Fortnite Battle Royale』の知名度を上げるうえでプラスに働いたとすら言える。

 

ゲームエンジン提供者が相手だからこその懸念

ではChang Han Kim氏は何故、Blueholeにとってデメリットとも思えるプレスリリースに踏み切ったのか。ゲームプレイが類似していることで、具体的にどのような問題が生じると懸念しているのか。声明文では、肝心な理由の部分が不足していた。そこでKim氏は声明発表後にPC Gamerとのインタビューに応じ、類似作品が出回っていることではなく、他でもないEpic Gamesが競業相手になったからこそ問題視しているのだと、プレスリリースの意図を明確にした。

Chang Han Kim氏「我々はUnreal Engineを使って『PUBG』を開発しており、Epic Gamesにはゲームの売上に応じて多額のロイヤリティを支払っています。そして彼らはゲームエンジンのライセンスモデルを宣伝する上で、インディーデベロッパーの成功を支援することを目的として掲げています。BlueholeはUnreal Engineを使用しているインディーデベロッパーの、今年度における最大の成功例でありまして、そこに問題があると見ています。(中略)

『Fortnite Battle Royale』が示す類似性を検証する以前に、そもそもEpic Gamesがこのような作品を開発しているということを問題視したかったのです。Unreal Engineにとって『PUBG』は最大の成功事例となり得る作品。今後Unreal Engineを使って、我々のような成功を収めようと考えるインディーデベロッパーが現れることでしょう。そして今起きているのは、そうした他のデベロッパーたちをも心配にさせる出来事です。だからこそ我々は問題提起したのです」

なぜ他のデベロッパーを心配させるのかというと、「たとえば我々がEpic Gamesからテクニカル・サポートを受けたいとします。Unreal Engineが100人同時接続というバトルロイヤルのゲームプレイをサポートできるよう彼らと共に働くわけですが、その中で開発された新機能やゲームエンジンの改善が、彼ら自身のゲームのために使用されるのではないか、という懸念が生じるわけです」。

それはつまり、ゲームエンジンの改善がサードパーティ向けに公開されず、内製タイトル限定で使用される可能性を示唆しているのか、という記者の質問に対しては、「我々が内部でゲームエンジンの機能を改善したとして、それがリークされたり、他の何かが起きるかもしれない、ということを懸念しています」と回答している。やや曖昧に答えているが、Epic Gamesが競業相手になることで、ゲームエンジンの改善という面でBlueholeが不利益を被る可能性がある。また今回の事例を見過ごしてしまうと、将来的にはUnreal Engineを使用している他のインディーデベロッパーにも同じような不安を与えてしまうのではないか。こうした懸念こそが、プレスリリースを出した本質的な理由だろう。

 

先駆者への敬意に欠ける

そもそも『PUBG』のゲームプレイというのは、オリジナルのアイデアではない。PlayerUnknownことBrendan Greene氏が映画・小説「バトル・ロワイアル」と、『ARMA 2』の「DayZ」Modイベント「Survivor GameZ」にインスパイアされて、『ARMA 2』の「Battle Royale」Modを生み出したことが発端である。続いてGreene氏は『ARMA 3』にて「PLAYERUNKNOWN’S BATTLE ROYALE」Modを作成したのち、Sony Online Entertainment(現Daybreak Game Company)にて『H1Z1』バトルロイヤルモード(現『H1Z1: King of the Kill』)のコンサルタントとしてプロジェクトに関与。その後Chang Han Kim氏に誘われたGreene氏は、『PUBG』のクリエイティブ・ディレクターとなる。これらの作品で「ゲームプレイの複製」が問題とならなかったのは、ジャンルの始祖であるGreene氏が携わってきたからだ。

Kim氏は上述のPCGamerインタビューにて、「『PUBG』はシンプルなバトルロイヤルのルールとシステムから成り立っていますが、それはBrendanが生みだしたアイデアであり、『PUBG』のゲームモードはBrendanが所有しているというのが我々のスタンスです。Daybreak Gamesが彼のアイデアをライセンスして、彼と共にゲームモードを開発したように、Blueholeも彼のアイデアをライセンスしました」と語っている。ここでBlueholeは、『PUBG』は本家本元に敬意を払い、許可を得て開発された作品であると自らの正当性を主張している。彼らからすると、Epic GamesはGreene氏の承諾という大事なステップを無視したことになる。

なおバトルロイヤルゲームと呼ばれる作品群のなかには『The Culling』や『Islands of Nyne』といったインディータイトルも含まれるが、こうした作品はBrendan Greene氏が関わった「バトル・ロワイアル」の系譜ではなく、「ハンガーゲーム」の系譜とでもいうべき別のサブジャンルとして進化を遂げている。これまでのインタビューでも言及されておらず、「ゲームプレイの複製」という点では議論に挙げられていない。

1人称視点のバトルロイヤルゲーム『The Culling』

つまるところBlueholeが本当に懸念しているのは、

1)『Fortnite Battle Royale』のゲームプレイが示す『PUBG』との類似性

ではなく、

i )UE4提供者であるEpic Gamesが市場に参入することで、UE4利用者としてのBlueholeが不利益を被る可能性

である。「2) Epic GamesがBlueholeの許可なく『PUBG』の名を使用したこと」に関しては、i)の不安を助長する効果があったと見られる。プレスリリースでは言葉不足であったが、Blueholeはバトルロイヤル・ジャンルの代表者として市場を独占したいわけでも、後続作品を排除したいわけでもない。ゲームエンジンの提供者としてインディーデベロッパーを支援する立場にあるEpic Gamesが、最も影響を受けるであろう取引相手に連絡することなく同じ市場に参入してきたこと、その結果ビジネス上の関係値に変化が生じ、ゲームエンジンの利用者であるBlueholeが不利益を被る可能性があること。これらに懸念を示しているのである。

もちろん、Epic Gamesに法的な落ち度があったかはわからない。だからこそBlueholeも「さらなる措置を検討」と具体的なアクションを濁しているのだろう。あくまでもEpic GamesがUnreal Engine利用者の不利益になるような取り組みに手を染める理由ができた、という話であり、その懸念が現実のものとなったとも、違法性があるとも言っていない。

問題を提起したのが、早期アクセス開始から半年で1000万セールス越えというモンスタータイトルを抱えたBlueholeであるだけに、Epic Gamesとしても無視はできないだろう。Unreal Engineを採用するインディーデベロッパーの代表格となったBluehole。彼らの懸念を払拭するような合意に到れるのか。今後の動きに注目したい。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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