日本時間の4月29日3時より国際大会「MSI」が開幕した『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』プロシーン。開幕直前である4月28日未明に、ブラジル代表チーム「RED Canids」所属のFelipe “YoDa” Noronha選手がSNSにて日本人に対する人種差別発言を行ったとして、運営よりMSIにおける3試合の出場停止および2000ドルの罰金処分が発表された。
YoDa選手はブラジルの『LoL』プロリーグで今年の春スプリットで優勝した「RED Canids」のサブミッドレーナーだ。もともとブラジルの有名配信者であり、配信の視聴者を中心に絶大な人気を誇っている。その彼が4月28日に行った「Ja passei gritando Flango no quarto de hotel dos japoronga aqui e BR full trab flw」というポルトガル語のツイートは、コミュニティで即座に物議を醸した。ポルトガル語で鶏を意味する「Frango」だが、ここでは日本人がRを正確に発音できないことを揶揄する意図で「Flango」とスペルを変えられている。またツイート後半の「japoronga」はポルトガル語における日本人への侮蔑表現となる。これがMSIルール(PDFファイル)に定められた「不敬とヘイトスピーチ」「差別と誹謗中傷」を禁じる条項に違反していたという判断だ。YoDa選手はコミュニティの反応を受け、すぐに謝罪をツイートした後に当該ツイートを削除。現在は謝罪ツイートも削除されている。
『LoL』プロシーンは国際大会で過去に同様の事件を経験している。ステージごとにアジア各地で開催された2014年の世界大会で、支給された台湾サーバーのアカウント名を台湾人を侮辱する文言に変更したとして、EUから出場したSK Gaming所属(当時)のSvenskeren選手が3試合の出場停止および2500ドルの罰金処分を受けたのだ。コミュニティではこの事例を思い出すファンが多く、同等の処分を望む声がすぐさま上がっていた。
野球やサッカー、テニスといったスポーツの世界に長らく存在してきた人種差別。アジア人やアフリカ系アメリカ人などが差別にさらされる様子は、今でも時折報じられる。e-Sports、すなわちゲームの世界であっても悲しいことにこれは変わらない。昨年5月に開催された「DreamHack Austin 2016」のハースストーン部門では、アフリカ系アメリカ人のTerrenceM選手が配信画面に映るたびに人種差別発言がチャットに書き込まれるという事件があった。またつい最近には、『オーバーウォッチ』プロチームに所属する選手がランク戦の配信中に大声で人種差別発言を垂れ流したとして、チームから契約違反による解雇処分を受けたという事例もある。オンラインゲームのコミュニケーションにおける人種差別発言は一般的に利用規約等で禁止されており、一般プレイヤーであっても破ればアカウント停止などの処分が待っている。プロ選手はプレイによってファンを楽しませるだけでなく、一般プレイヤーの模範になる役割を期待されている側面もある。
3試合の出場停止処分により、YoDa選手はMSIのプレイインステージで勝ち上がりチームを決めるために行われる6試合の半分に出場できないということになった。彼はサブの選手でありスターターのミッドレーナーは別にいるので、MSIの試合への影響はほとんどないかもしれない。2014年世界大会の事例では、処罰を受けたSvenskeren選手はスターターだった。出場停止になった試合はサブの選手が出場したが、チームはやはりスターターの選手が出場することを前提に練習しているため、3試合全てで敗北。SK Gamingは2014年世界大会のグループステージを突破できず、選手個人の悪質な振る舞いがチームの戦績に暗い影を落とすこととなってしまった。
今回のYoDa選手の件では、「ジョークを真面目に受け取られた」と本人は当初言及した。差別とは個人がもともと持っていて変えることのできない要素を中傷することであり、発言者が冗談のつもりであっても許されることではない。ルール違反による処罰は所属チームの戦いを苦しめ、ファンの楽しみも奪う。差別発言であれば、差別された側は傷つき、選手の振る舞いを見たファンも失望する。奇しくも今年のMSI公式サイトのブラジル代表チーム紹介では、YoDa選手が大きく取り上げられている。幸い、彼の周りには過ちに気づかせてくれる多くの支援者がいるようだ。きっと今後の振る舞いを正しい方向へと導いてくれることだろう。