『リーグ・オブ・レジェンド』NA LCS 2017シーズン開幕。激変した世界に刮目せよ
昨年は話題に事欠かなかった北米の「League of Legends Championship Series(NA LCS)」。Immortals春の快進撃、MidseasonにおけるCounter Logic Gamingの奮闘、夏はTeam SoloMidの復権……。しかし世界大会においては最終的に、出場3チーム中予選突破がCloud9のみという振るわない結果に終わってしまった。
五大リーグ地域の中で選手への年俸額がもっとも高いとされる北米。最強地域である韓国から出て国外リーグでのキャリアアップを目指す韓国人選手は、栄誉をつかみ取ることでキャリアアップを図りたいのなら欧州へ、すでにある程度の実績があるのなら配信での収入も豊富に得られる北米へ、と動きが二極化しているように見える。昨年までは地理的に韓国と近い中国が韓国人選手の移籍先として多く見られたが、今年から外国人選手の就労条件が厳格化したため、中国で活動する韓国人選手の数は大幅に減少した。このため、今年は韓国人選手のチーム模様が大きく変わっている。新天地として北米を選んだ選手の参入が、チーム間の力関係を変化させているはずだ。
こうしてチーム模様は激変している。2017シーズンの始まりを前に、北米各チームの状況と注目選手を紹介していこう。
Team SoloMid
昨年夏は圧倒的な力でリーグを制したものの、世界大会ではグループ突破も叶わなかったTSM。2017シーズンはほとんどメンバー変更なしで新たなシーズンに臨む。「燃え尽きた」ADCのDoublelift選手に代わってBotレーンを務めるのは、昨年Immortalsで活躍し、そもそもそのキャリアを華々しくTSMでスタートした「シンデレラボーイ」のWildTurtle選手だ。非常に攻撃的なスタイルの彼が現在のゲームバランスやチーム、何より相棒を務めるBiofrost選手と上手くマッチするかが今シーズンの重要なポイントになるだろう。
・トップ:Kevin “Hauntzer” Yarnell
・ジャングル:Dennis “Svenskeren” Johnsen
・ミッド:Søren “Bjergsen” Bjerg / Andy “Reginald” Dinh
・ADC:Jason “WildTurtle” Tran
・サポート:Vincent “Biofrost” Wang
・ヘッドコーチ:Parth “Parth” Naidu
注目選手 Hauntzer選手(トップ)
一昨年に惜しまれながら引退したDyrus選手に代わってTSMのトップレーンを務めてきたHauntzer選手。最初こそ「そこそこ腕が立ち才能もある選手」程度に見られていた彼だったが、2016シーズンの韓国ブートキャンプを経て見違えるような活躍を見せるようになる。ImmortalsのHuni選手を相手に引けを取らないまでに成長した彼は、今や北米きってのトップレーナーだ。各チームの補強された韓国人トップレーナーとの対決は、現在のタンク重視ゲーム環境においてチームの命運を左右するだろう。その活躍が期待される。
Immortals
昨年結成されたばかりの新チームながら、綺羅星のようなスター選手をずらりと揃えて破竹の快進撃を見せたのがImmortalsだ。しかし2017シーズンのImmortalsはその姿をまったく別物に変えている。昨シーズンから続投しているのはMidのPobelter選手のみで、それ以外のポジションは全て変更となっている。しかし、新たなメンバーも各リーグでは一線級の活躍をしていたメンバーばかりである。今年も「不滅」であり続けるかは彼らの働きにかかっている。
・トップ:Lee “Flame” Ho-jong
・ジャングル:Joshua “Dardoch” Hartnett
・ミッド:Eugene “Pobelter” Park
・ADC:Cody “Cody Sun” Sun / Rob “Leonyx” Lee
・サポート:Kim “Olleh” Joo-sung / Kang “Dodo8” Jun-hyeok
・ヘッドコーチ:Robert Yip
注目選手 Flame選手(トップ)
2012~2013シーズン頃に世界有数のトップレーナーとして、またそのハンサムな容貌から「美しすぎるトップレーナー」と呼ばれた韓国のFlame選手が今シーズンのImmortalsのトップを担う。Impact選手やSsumday選手、Looper選手といった韓国からやってきたトップレーナーが火花を散らすのが今シーズンの北米の状況だ。その中で存在感を示せるか、新天地での奮闘を見届けたい。
Cloud9
昨年のImmortalsのようにかつて彗星のごとく現れたCloud9も、今や北米古豪の一角を占めるチームとなった。創立時のメンバーとして残っているのは北米有数のADCに数えられるSneaky選手のみで、それ以外のメンバーは全て別の選手へと変わっている。世界大会では北米からの参加チームで唯一予選リーグを突破して結果も残せている。世界大会参加メンバーからの変更はジャングルのContractz選手のみで、今期も油断できないチームとして注目されるだろう。ただ、チームの意志決定を行うショットコーラーを誰が担うのかは気になるところである。リーグ屈指の指揮官だったHai選手はすでに別のチームへ移っており、新たな体制を作り上げなくてはならない。
・トップ:Jung “Impact” Eon-yeong / Jeon “Ray” Ji-won
・ジャングル:Juan “Contractz” Arturo Garcia / William “Meteos” Hartman
・ミッド;Nicolaj “Jensen” Jensen
・ADC:Zachary “Sneaky” Scuderi
・サポート:Andy “Smoothie” Ta
・ヘッドコーチ:Bok “Reapered” Han-gyu
注目選手 Contractz選手(ジャングル)
今シーズンからMeteos選手に代わってジャングルのポジションを占めるのが彼だ。さまざまなジャングラーを器用に使いこなせるようで、トップのImpact選手やミッドのJensen選手、ボットのSneaky選手といったリーグ屈指の花形のタレントたちを上手く活かす動きができれば試合中の存在感を増していけるはずだ。
Counter Logic Gaming
2015シーズン後半から2016年半ばの国際大会MSIまで強豪として君臨し、最後には韓国のSK Telecom T1と激闘を繰り広げ、「お騒がせ古参チーム」の名を見事に返上したCLG。今シーズンは昨シーズンから基本的にはメンバー変更なしでリーグ開幕に臨むようだ。一方で各ポジションにサブを準備する10人体制を敷くようで、パフォーマンス次第では頻繁にメンバーの入れ替えもあるのかもしれない。
・トップ:Darshan “Darshan” Upadhyaha / Kevin “fallenbandit” Wu
・ジャングル:Jake “Xmithie” Puchero / Omar “OmarGod” Amin
・ミッド:Choi “Huhi” Jae-hyun / Jean-Sébastien “Tuesday” Thery
・ADC:Trevor “Stixxay” Hayes / Osama “Zag” Alkhalaileh
・サポート:Zaqueri “aphromoo” Black / Lee “Fill” Hyo-won
・ヘッドコーチ:Tony “Zikzlol” Gray
注目選手 aphromoo選手(サポート)
CLGのキャプテンにして、今となってはリーグ最古参に近いベテランとなったのが彼だ。チームの苦難の歴史と栄光の双方を知り、攻撃的なサポートとしてチームの中心として戦い続けている。今年も強豪としての地位を保ち続けられるのか、世界大会でよりよい結果を残せるのか、より高い目標を見据えた戦いが彼を待ち受けている。
Team Liquid
2016シーズン終了後に、「Breaking Point」というドキュメンタリーを公開し、話題になったTL。2017年のスターティングメンバ―を確認すると……なぜかPiglet選手が舞い戻っている。Immortalsとジャングルをトレードする格好でReignover選手が加入し、昨年まで二部の姉妹チームとして存在していたTeam Liquid AcademyからGoldenglue選手がミッドというメンバーで新体制となっている。また、かつてCLGの問題点を長大なテキストにして暴露したLink選手が同じくミッドに登録されている。両名は戦略によって使い分けられる予定とのことだ。
・トップ:Samson “Lourlo” Jackson / Omran “Viper” Shoura
・ジャングル:Kim “Reignover” Yeu-jin / Lyonel “Arcsecond” Pfaender
・ミッド:Greyson “Goldenglue” Gilmer / Austin “Link” Shin
・ADC:Chae “Piglet” Gwang-jin
・サポート: Matthew “Matt” Elento
・ヘッドコーチ:David Lim
注目選手 Reignover選手(ジャングル)
彼は昨年から北米最高のジャングラーの一人と数えられるであろう名手であり、世界大会ベスト4の実績を残すまぎれもないトッププレイヤーの一人だ。韓国人選手であり、同時に非常に英語が堪能なことでも知られており、かつてFnaticにおいてはHuni選手と他のメンバーとの間を取り持っていた。単純な技量のみならず、Piglet選手とのコミュニケーションを十全に行える選手として選ばれたのだろう。かつての相棒と袂を分かち、新たなチームでの挑戦が始まろうとしている。
Team EnVyUs
台所事情の厳しいチームが集まってできたチームの一つだったEnvyは、昨シーズンなんとかプレイオフへの参加権を得られる6位でシーズンを終えることができた。北米参入の鏑矢とも言えるSeraph選手が北米選手カウントのために韓国人3人を擁するこのチームは、1シーズンを乗り切ったことでより強力な組織として鍛え上げられたはずだ。古豪、上位チームに対してどれだけ食い込んでいけるのかが注目される。
・トップ:Shin “Seraph” Woo-yeong
・ジャングル:Nam “LirA” Tae-yoo
・ミッド:Noh “Ninja” Geon-woo / Alexey “Alex Ich” Ichetovkin
・ADC:Apollo “Apollo” Price / Zachary “Nientonsoh” Malhas
・サポート:Nickolas “Hakuho” Surgent
・ヘッドコーチ:Dylan “Dylan” Falco
注目選手 Seraph選手(トップ)
北米で戦う韓国人選手は今では珍しくもないが、その先鞭をつけたプレイヤーといえば彼だ。より良い待遇を受けていたり、Huni選手のようにキャリアアップを目指して国外を目指したりする選手も増え、今シーズンは特にトップレーンの韓国人選手は実績ある選手が揃っている。そんな中で先駆者としての貫禄を見せられるか。ズラリと並んだライバル達との戦いが控えている。
Team Dignitas (旧名Apex Gaming)
さて、北米のリーグを追い続けてきたファンからすると、このチームを見て疑問符を浮かべた読者もいるかもしれない。Team Dignitasは2016シーズンに降格、LoLチームは解散したはずだと。この新たなTeam Dignitasは「フィラデルフィア76ers」というNBAチームが、ゲーミング組織としてのDignitasと、『LoL』プロチームとしてのApex Gamingを買収したことによって再誕したTeam Dignitasなのだ。そのためメンバーはApex Gamingのメンバーに、中国からの選手流出に影響されて渡米した韓国人選手を加えた構成となっている。復活したDignitasの活躍に期待したい。
・トップ:Kim “Ssumday” Chan-ho / Cristian “Cris” Rosales
・ジャングル:Lee “Chaser” Sang-hyun
・ミッド:Jang “Keane” Lae-young
・ADC:Benjamin “LOD” deMunck
・サポート:Alex “Xpecial” Chu / William “Stunt” Chen
・コーチ:Kim Jeong-soo & Park Jae-seok
注目選手 Ssumday選手(トップ)
韓国のトップチーム「KT Rolster」でトップレーンを務め、2015年世界大会ベスト4の実績を残している有力選手。世界最高のリーグで鍛え上げた技量は確かなもので、北米でも無視できない存在感を放つはずだ。しかし今シーズンの北米はとにかくトップレーンの選手が急激に入れ替わっており、韓国人選手も多い。彼といえどすんなりと勝てるとは言えないかもしれない。
Phoenix1
財政的に破綻状態にあったTeam Impulseの後を継ぐ形で立ち上げられた急造チームのPhoenix1。2016シーズンは組織そのものも十分に立ち上げられず、シーズ終盤になってようやく戦える形となっていたこのチームは、2017シーズンにまったく新たな姿で挑もうとしている。ミッドにFaker選手との因縁で有名な元H2KのRyu選手、韓国の強豪KT RolsterからADCのArrow選手、サポートには昨シーズン破竹の快進撃を見せたImmortalsからAdrian選手を獲得したのだ。チーム組織も昨年終盤にはTSMに対し1勝を得るだけのポテンシャルを秘めていた。今年は蘇った不死鳥の飛翔が見られるかもしれない。
・トップ:Derek “zig” Shao
・ジャングル:Rami “Inori” Charagh
・ミッド:Yoo “Ryu” Sang-wook / Choi “Pirean” Jun-sik
・ADC:Noh “Arrow” Dong-hyeon
・サポート:Adrian “Adrian” Ma
・コーチ:Kim “Fly” Sang-chul
注目選手 Ryu選手(ミッド)
動画再生数において世界でもっともFaker選手に殺されているミッドレーナーとして知られるRyu選手。昨年までは欧州の無冠の強豪H2kでプレイしていたが、今シーズンは渡米して新たな戦場へと挑む事となった。チームのラインナップも彼を含めて昨年から大幅に強化されている。侮れない存在として戦い抜き、願わくば国際舞台でFaker選手との再戦を果たしてほしい。
Fly Quest (旧名Cloud9 Challenger )
2016年夏の二部リーグを制し、入れ替え戦でNRGを下して昇格してきたCloud9 Challenger。そのチームがLCS規約に従って売却されたのが、このFly Questだ。購入したのはNBAチーム「ミルウォーキーバックス」の共同所有者のひとりで、近年のスポーツ投資ベンチャー参入の動きのひとつである。メンバーについてはどこかで見たような、というかCloud9のサブチームに元TLAのMoon選手をジャングルとして加えた形になっている。一部リーグ参加組織の下部チームが、二部リーグに一部リーグ経験者のプロ選手を入れて昇格するケースが多すぎたため、このようなチームでの昇格は今回が最後になった。過去の実績は申し分ない選手の集まったチームだが、果たして新たな環境や若い才能に対してどのように立ち向かっていくのかは注目すべき点だろう。
・トップ:An “Balls” Van Le
・ジャングル:Galen “Moon” Holgate
・ミッド:Hai “Hai” Du Lam / Michael “bigfatlp” Tang
・ADC:Johnny “Altec” Ru
・サポート:Daerek “LemonNation” Hart / Maria “Remilia” Creveling
・ヘッドコーチ:Thomas “Thinkcard” Slotkin
注目選手 Hai選手(ミッド)
創立期から強豪としてのCloud9を支えてきたのは、技量と判断力双方に優れた彼に拠るところが大きく、その去就がチームの戦績に直結するとまで言われたHai選手。手首の故障から、より負担の小さいポジションに移ってまで司令塔として戦ってきた彼が再びミッドレーンへと帰ってきた。その敏腕を再びリーグで猛威を振るうのかが注目される。
Echo Fox
2016シーズン、本格的なNBA資本算入の第一歩として話題になったEcho Foxだが、戦績そのものは芳しくない結果に終わってしまった。2017シーズンのEcho Foxもまた、大きな補強を行って新たな戦いに臨もうとしている。まずトップに中国のトップチームであるRoyal Never Give Upに所属していたLooper選手を獲得、ADCに北米の名手であるKEITH選手、サポートにTeam Impulseの全てを戦い抜いたベテランのGate選手を迎えて各レーンとも大きく補強を行っている。あとはコーチやスタッフの働きが今シーズンの結果を大きく左右していくだろう。
・トップ:Jang “Looper” Hyeong-seok
・ジャングル:Matthew “Akaadian” Higginbotham / Jonathan “Grigne” Armao
・ミッド:Henrik “Froggen” Hansen
・ADC:Yuri “KEITH” Jew
・サポート:Austin “Gate” Yu
・ヘッドコーチ:Simon “heavenTime” Jeon
注目選手 Looper選手(トップ)
2014年の世界大会覇者「Samsung White」の元トップレーナー。いわゆる「韓国人選手の大流出」によって中国へと活動の場を移し、2016シーズンの世界大会にも中国チーム「Royal Never Give Up」の一員として決勝トーナメントまで進んでいる。今シーズンは中国におけるe-Sports選手の就労条件厳格化に伴って、活動の場を北米へと移した。リーグのトップレーナーの半分が韓国人選手という激戦区ではあるが、その中でも決して彼は決して見劣りすることはない。白熱するトップレーンの戦いに期待しよう。
欧州リーグ「EU LCS」は今年からフォーマットが大きく変わることとなったが、NA LCSはこれまで通り。10チームがBo3方式(3本先取)の対戦を総当りで2回ずつ行い、すべての対戦スケジュールが終わった後の勝利数で順位を決定する。2ヶ月半にわたるレギュラーシーズン後に、上位チームは4月にバンクーバーで行われるプレイオフに出場。ここで決定された春の優勝チームが、5月上旬に行われる国際大会「Mid-season Invitational」への出場権を獲得し、地域間の力比べに参加することとなるのが通例だ。
「NA LCS Spring Split 2017」は日本時間1月21日午前8時に開幕。開幕の対戦カードはトップチーム同士の戦いとなる「Team SoloMid vs Cloud9」となる。試合は公式YouTubeチャンネルおよびTwitchにて配信される。『LoL』競技シーン設立以来、国際的にはまったくの無冠が続いている北米地域。今年はファンの悲願である国際タイトルを獲得できるだろうか。激変した情勢の中で、さらなる強さを追い求める戦いが始まる。
[執筆協力: ユラガワ@Wired-Lynx]
[チームロゴ画像出典:ESportsWikis]