『Call of Duty』で負けた腹いせにおこなった虚偽通報(Swatting)により、無関係の人物が命を落とす。200円足らずの賭けが悲劇を生む

昨年12月28日、アメリカ・カンザス州ウィチタにて、28歳の男性が自宅で警官によって射殺される事件が発生した。緊急の通報を受けて、地元警察が現場に出動した結果の出来事だった。しかし実際は通報内容のような事実はなく、その裏にはゲームにまつわるいざこざがあったようだ。

昨年12月28日、アメリカ・カンザス州ウィチタにて、28歳の男性が自宅で警官によって射殺される事件が発生した。父親を銃で殺害し、家族を人質にして家中にガソリンを撒いたとする緊急通報を受けて、地元警察が現場に出動した結果の出来事だった。しかし実際は通報内容のような事実はなく、射殺された男性も通報などしていなかった。事件の背景には、ゲームをめぐる第三者の些細なトラブルがあったそうで、地元紙The Wichita Eagleなどが報じている。

ことの発端は、『Call of Duty: WWII』のマルチプレイにおける賭けだった。海外ではユーザーのトーナメント戦などを取り仕切るコミュニティがさまざま存在し、同時に勝敗などについて賭けがおこなわれている場合もある。そして、ある賭け試合の最中、同じチームにいたBaperizer氏とMiruhcle氏(共にユーザーネーム)のあいだでトラブルとなり、フレンドリーファイア(同士撃ち)を繰り返していたという。二人が足を引っ張ったせいか、結果的に彼らのチームは試合に負けてしまう。

Baperizer氏とMiruhcle氏が参加していたUMG Gamingでは、『Call of Duty』シリーズをメインにイベントがおこなわれている

彼らが登録していたコミュニティは、試合に勝ったプレイヤーは賞金を受け取ることができる仕組みを採用し人気を集めているが、その試合で賞金を逃してしまったBaperizer氏はSNS上でMiruhcle氏を責め、脅すようなことも言っていたという。そうしたやり取りの中で、どういうわけかMiruhcle氏はBaperizer氏に自らの住所を素直に伝えたが、その住所は適当に見つけてきた他人のものだった。そうとは知らぬBaperizer氏は、とある仕事を引き受けているTyler Barrissという男性に連絡した。警察に虚偽の通報をしたのはこのBarriss氏だったのだ。

アメリカなど海外では「Swatting(スワッティング)」と呼ばれる悪戯行為がたびたび発生している。今回のように犯罪行為をほのめかす虚偽の通報をして、他人の家などに警察部隊を出動させる行為だ。まったく関係のない相手に対する悪戯もあれば、何らかの報復や脅し目的でおこなわれることもある。Swattingはアメリカの特殊部隊SWATに由来して名付けられたが、必ずしもSWATが出動した場合に限って使われる言葉ではない。いずれにせよ、武装した警官や特殊部隊が犯罪の鎮圧を目的に押し掛け、時に強行突入されることは、標的にされた人にとっては恐怖でしかないだろう。

https://www.youtube.com/watch?v=GurS7JI_1Kk

*Swattingの標的にされた人物がゲームの実況中だったため、その一部始終が生中継されたことも。

Barriss氏は、一般家庭や学校、企業などを標的に数々のSwattingや虚偽の爆破予告をおこなっていた常習犯で、Swattingの依頼を引き受けてお金を稼いでいた。今回も“仕事”の一つだったということなのだろう。しかし前述の通り、標的はまったく無関係の住所だった。住人の男性は通報を受けて訪ねてきた警官に銃口を向けられた際、実際には銃は所持していなかったが、ズボンのウエスト部分に手をやったことで銃を取り出すと見なされてしまった。危険を感じた警官は即座に発砲、その後病院で死亡が確認された。男性はゲームとはまったく縁のない人物で、二児の父親だったという。

今回の事件がニュースで報じられたことで、Barriss氏は自身がおこなったSwattingにより人が一人亡くなったことを知る。彼はSNSにてSwattingへの関与を認めながらも「私は誰も殺してはいない。私の職業はSWATではないし、銃を撃ったのも自分ではないのだから」と、死亡事故については責任はないと主張。しかし翌日29日、カリフォルニア州ロサンゼルスにて警察に逮捕された。虚偽の犯罪行為の通報により業務を妨げたという容疑があるが、死亡事故についてなんらかの罪に問われるのかは現時点では不明だ。

*今回の事件とBarriss氏の逮捕を報じるCBS Los Angelesのニュース映像

Swattingの対象はさまざまあるが、ゲームコミュニティ内においても過去にいくつか事例がある。上に掲載した動画のように著名なゲーム配信者が標的にされることもあれば、『Destiny』シリーズや『Halo』シリーズの開発元Bungieの幹部が、身代金目的の人質事件の犯人だと虚偽通報され、警察が出動したこともあった。銃社会のアメリカにおいては、警官やSWATも身の危険を感じながら出動しているはず。Swattingの犯人にとってはただの悪戯に過ぎないのかもしれないが、一歩対応を間違えれば今回のような取り返しのつかない悲しい結果に結びついてしまう。

ちなみに、事件の発端となったMiruhcle氏とBaperizer氏の試合で、二人が勝利していれば受け取れた賞金は1.5ドルだったという。Swattingのような冗談では済まされない悪戯が、わずか200円足らずをめぐる些細ないざこざであっても簡単に引き起こされてしまうことには驚きであるし、それによって亡くなってしまった男性のことを思うとなんともやりきれない。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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