「Unreal Engine 4」無料化の”狙いと採算”は? Epic Games Japan河崎氏に聞く [前編]

日本支社のEpic Games Japan、代表を務める河崎 高之氏。昨年9月のインタビューから約半年振りに、無料化をむかえた「Unreal Engine 4」についておうかがいした。ユーザー数は無料化の1週間で去年1年間の約10倍になったという。

日本時間の3月4日、ゲーム開発社向けカンファレンス「GDC 2015」より、大型のニュースが舞い込んできた。Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 4」が、無料化されることが発表されたのだ。2014年3月、従来の買い切りモデルから月額19ドルのサブスクリプションへ移行してから、わずか1年での無料化となった。その後、「Unity」や「Source Engine 2」など、他社のゲームエンジンでも無料化が相次いで発表されるも、先陣を切った「Unreal Engine 4」無料化のインパクトを超えるには至らなかった感がある。

参考: Epic Gamesが「Unreal Engine 4」を無料化へ 加熱するゲームエンジン市場の覇権争い

完全に無料で使用できるわけではなく、Unreal Engine 4を採用したゲームやアプリケーションが、四半期(3か月)で3000ドル以上の売り上げを出した場合、5パーセントのロイヤリティを支払う必要がある。とはいえ、特にインディーデベロッパーや小規模のチームには、プロも使用しているエンジンに無料で触れる機会が与えられたことになる。

日本支社のEpic Games Japan、代表を務める河崎 高之氏。昨年9月のインタビューから約半年振りに、無料化をむかえたUnreal Engine 4についてお話をうかがった。

 


ユーザー数、無料化の1週間で去年1年間の約10倍に

 

Epic Games Japan代表 河崎 高之氏
Epic Games Japan代表 河崎 高之氏

――去年のサブスクリプションモデルの発表と、今年の無料化の発表、比較して反響はいかがだったでしょうか?

河崎氏:
個人的には、今年無料になったことよりも、去年19ドルで誰でも使えるようになったことの方が大きいというか、インパクトがあると思っていたんです。結局、ソースコードも含めて手に入れられるようになったというのが、我々からすると、すごく大きな変化でした。それが月19ドルか無料かっていうのは、まあ言葉は悪いですけど、所詮お金の話なので。去年とくらべると大きくはないかな、というのがこっちの勝手な思い込みであったんですけど、蓋を開けてみると、すごく大きな反響があった。無料っていうのを強く受け止めていただいて、予想以上の反響でしたね。

――GDC 2015のなかでもメインニュースになった感じがあります。

河崎氏:
そうですね。太平洋時間で月曜日の朝9時、本当に一発目のニュースに入れられたので、それはすごくよかったと思いますね。

――実際にサブスクリプション発表時と比較すると、今回のユーザーの伸び率に顕著な違いは見られますか?

河崎氏:
今の時点での具体的な数ってのは発表してなくて、ある程度の節目に到達したところで、またあらためてアナウンスはする予定です。それも近々にできると思っております。ただ、あのGDCの週、無料にした日の夜にガッと上がりまして、もう10倍ぐらいにはなったと聞いてます。

――10倍ですか、すごいですね。

河崎氏:
去年1年間かけてやってきたものの10倍ぐらい(笑)1週間で加入していただいたので、やっぱり無料の効果はすごく大きいなあと。

 

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――Epic Gamesとしては、やはりユーザー数を増やすことが今回の無料化の狙いだったんでしょうか?

河崎氏:
ちょっと話はさかのぼりますけど、さっきお話した”去年19ドルで誰でも触れるようにした”っていうのが、我々にとってみれば、すごく大きな第一歩でした。Unreal Engine自体はEpic Gamesでもう20年以上やってきているんですけども、それまでは完全にプロの開発会社限定で、契約していただいたところにお渡しするという形だったので。なかなか一般の方に触っていただく機会が無かったのを、基本的には誰でも触れるようにしたというのが、去年の変化です。我々にとっては、すごく大きな変化ですし、第一歩でした。

実際かなり不安もありましたし、社内でも議論もあったんですけども、最終的にはTim Sweeneyの判断で「やるんだ」ということでやったんです。蓋を開けてみると、ものすごく良い受け止め方をしていただきました。コミュニティもすごく大きくなりましたし、Unreal Engineがニュースに挙がったり、開発者の集まりの中で取り上げていただいたり、ゲームジャムで使っていただいたりというのが、今までとは比較にならないぐらい、去年1年間で増えました。みなさんに触っていただこうという方向性は、正しかったんだというのが確信できました。

じゃあ次は何をやろうというところで、もうだったら障害になるものはなるべく無い方が、もっと沢山の人に触っていただけるだろうと。たくさんの人に触っていただければ、それだけ優れたクリエイティビティというのが出てくるだろうし、コミュニティも盛り上がって、ひいては我々自身の利益にもなるだろうと。それで、最初に参入する際の障害はなるべく減らそうというのが、19ドルを無料化したという部分ですね。

――プレスリリースを見させていただくと、ロイヤリティが発生するのはゲームやアプリのみとなっています。無料化になったことで、デザイナーの方が使用したり、社内ツールとして利用される場面も増えると思うのですが、それらも対象にはならない?

河崎氏:
厳密には、エンドユーザーライセンス契約を見て判断することにはなるんですが、ざっくり言うとおっしゃる通りです。ゲームとかアプリケーションをエンドユーザーで販売し、かつ四半期の売上が3000ドルを超えた場合ですね。その場合に限って、5パーセントのロイヤリティをいただきます。たとえば、ある車のメーカーがショウルームで無料の展示用に使うために、どこか下請けのCG会社を雇ってきて、自由に車を回転させて色を変えたり内装を変えたりというのを、Unrealで作らせるとします。1億かけて、CG会社を雇って、仕事させてっていう場合でも、ロイヤリティは発生しません。無料で使っていただいて大丈夫です。

 

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採算は大ヒットタイトルからのロイヤリティ

 

――率直な疑問なんですが、無料化してもEpic Gamesとして採算は取れるんでしょうか。

河崎氏:
我々の収益の大きな柱は2つありまして、1つはUnreal Engine、もう1つはゲーム。我々はデベロッパーでもあります。ちょっとここしばらく、ものは出していないんですけども、今でも『Fortnite』というタイトルはずっと開発を続けていますし、ほかにもまだ発表されていないタイトルが、いくつか社内で動いています。そちらからの収益というのは、もちろん大きな柱です。

Unreal Engineは、サブスクリプションでご提供しているだけではなくて、プロの開発会社向けにカスタムライセンスという形態でご提供しています。うちの方からサポートをしっかりとご提供する、プロ向けのライセンスがあるんです。そちらの方からも、Unreal Engineの収益があがっています。

その2つで会社を回してるんですけども、サブスクリプション……無料にしちゃったんで、サブスクリプションという呼び方も、もうおかしくて、新しい名前を何か考えなきゃいけないんですが……無料版の方も、ゆくゆくは大ヒットするゲームなりアプリケーションが出てきて、そこから5パーセントのロイヤリティを我々がいただければ、というところです。

トップ3に入るような大ヒットタイトルをUnreal Engineを使って作っていただいて、その売上の5パーセントをいただければ、十分だと。そういった大ヒットタイトルが生まれるためには、裾野を広げていかないといけないから、無料で誰でも使いやすい状態にして、沢山の方に使っていただこうと。

 

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河崎氏:
もちろん、我々の技術はゲームだけではなくて、CGや建築なんかでも注目いただいてます。放送業界とか映像業界でも使っていただいているので、そちらにも広がっていきたいというのもありますけどね。でも我々の本分は、ゲーム会社でありデベロッパーでありというところだと思ってますので、そういう二次産業というか、我々の本来の分野でないところについては、無料でご提供しようというのが、背景というか趣旨ですね。

――現在、ロイヤリティのモデルのみが紹介されていると思いますが、買い切りモデルを導入する予定はありますか?

河崎氏:
買い切り版もあります。Unreal Engineには、今お話した”カスタムライセンス”と、サブスクリプションというか”一般向け”のものと2種類ありまして。エンジンの中身自体はまったく同じものなんですけれども、一番の違いが我々からの直接のサポートをご提供してるか、してないかというところです。無料版は一律で使うのは無料で、販売したらグロス(合計)の5パーセントという条件ですけども、カスタムライセンスの方は、ロイヤリティと契約時にお支払いただく部分のバランスを、自由に調整できるような仕組みになっています。いわゆる買い切りのような形にもできますし、我々からサポートも提供していますので、大手のゲーム会社で使っていただいているのは、もうほとんどこちらのカスタムライセンスの方ですね。

――なるほど、買い切りモデルもあるんですね。

 


後編へ続きます。

 

[聞き手: Shuji Ishimoto]

[写真: Mon Gonzalez]

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