『龍が如く8』のハワイエリアの3D素材はすべて新規で作成、しかもサイズは過去最大。背景チームがハワイを再現するために頑張ったことを訊いた

『龍が如く』シリーズの背景デザインについて、リードデザイナーの鳩山路彦氏とアートディレクターの三嶽信明氏にお聞きした。『龍が如く8』のハワイエリアをどのように作り上げたのか?

セガが展開するドラマティックRPG『龍が如く』の最新作『龍が如く8』。同作は2024年1月26日に発売され、1週間で全世界販売本数が100万本を突破した。シリーズ史上初の記録となるが、その裏に存在する開発スタッフの活躍に光が当たることは少ないだろう。

今回AUTOMATONでは、龍が如くスタジオ各セクションメンバーへのインタビュー企画を実施。今回は『龍が如く』シリーズの背景デザインについて、リードデザイナーの鳩山路彦氏とアートディレクターの三嶽信明氏にお聞きした。インタビュー後半にあたる本稿では、初の海外舞台であるハワイでのロケハンについてや、背景制作におけるこだわりをうかがっている。ぜひ最後まで読んでほしい。

ゲームと現実の比較は怖いより認められた感が強い

――『龍が如く8』のメイン舞台であるハワイについてお聞きできればと。ハワイのロケハン(現地視察)はおこなわれましたか。おこなわれた場合、どれくらいの期間と人数で行きましたか。

鳩山路彦(以下、鳩山)氏:
企画と背景チームの合計7名で、1週間ほどロケハンに行きました。

――1週間ですか。背景チームはどういったことを取材されたのでしょうか。

鳩山氏:
いつもの各所の写真撮影や光の計測などに加え、よりゲーム画面に説得力をもたせるために、ハワイの人がどういった動きや仕事をしているかの定点調査や、どのような種類・色の車がどれくらいの割合でハワイを走行しているか時間をかけて調べました。

その一環で『龍が如く8』のタイアップ店舗も回ったのですが、店内風景を撮影するだけではなく、店員の方に制服でさまざまなポーズをとっていただき、キャラクターデザイナーと共有もしましたね。とにかくやることが多かったです!歌舞伎町のように何度も行ける場所ではないので、撮り逃しがないよう常に360度カメラで動画を回していましたね。


――アートチームを代表してロケハンに行かれているわけですもんね。ハワイを楽しむ暇はなかったですか?

鳩山氏:
忙しかったですが、舞台を魅力的に描くには、自分でもその街を楽しまないといけないという思いがあるので、取材はきちんとしつつ海で泳いだりと楽しませていただきました(笑)


――日本に帰ってきてから、「あそこを撮り忘れた〜」ということはなく?

鳩山氏:
店を撮影する際は店員の方に「バックヤードを見せてください」と頼むなど、撮り忘れはないと言えるくらいハワイ各地を撮りました。今まで日本各地の街を作ってきた経験があるので、ロケハンで見落としがちな箇所は頭に入っているんです。

――たしかに海外でなくとも撮り忘れは大変ですよね。ロケハンで意識してとったデータはありますか。

鳩山氏:
背景はそもそもスケール感がわからないと作れないので、レーザー計測機でヤシの木の高さや道幅を調べました。ただすべてを測る時間はないので、スタッフと一緒に背景を撮影して身長との比較でサイズを割り出していました。

 


――『龍が如く8』に対する海外ユーザーの反応として、ハワイ在住の方からゲーム内と現実が結構似ているという声も見かけました。映像でゲーム内と現実ハワイを比べるインフルエンサーもいたりとか。

鳩山氏:
その映像を見たかもしれません!そっくりだと言ってもらえるのは、嬉しいですね。現実の舞台と『龍が如く』を比較する動画は、大好きですしクリエイターとしてうれしいですね。見ていて「あれもこれも、こだわったから比較してほしい」と思うこともあります(笑)

――現実と比較されると、ゲーム内での差異が鮮明になりますよね……。あんまり比較されると怖くありませんか?(笑)

三嶽信明(以下、三嶽)氏:
怖くないですよ!(笑)現実と比較されるほどに再現度が高いと認められた証拠なので、怖いというよりはモチーフが伝わったことが嬉しかったですね。


――『龍が如く8』のハワイはさまざまなエリアが存在し、いわゆる危険な地域もゲーム内で再現されています。そういった場所も実際に足を運んで取材されたのでしょうか?

鳩山氏:
ハワイで、夜のチャイナタウンは特に危険だと聞いていましたが、ロケハンを行いました。朝は市場が開いていて、周りに人も多かったのでその時間帯を利用して急いで撮影しましたが、夜は車でしか回れなかったですね。


――なるほど!……ゲーム内でもチャイナタウンだけ周りのエリアと比べて敵のレベルが高いのは、そのエリアの治安が反映されている?

鳩山氏:
そうですね。ただチャイナタウン以外も、ハワイの夜は車の防犯ブザーが常に鳴っていて、観光地と言われていても危険な側面があるんだと思いました。いい街ではあるのですが、注意すべき場所や時間があるということですよね。


――ちなみに、ハワイのエリアで特に再現難易度が高かった場所はどこでしょう。

鳩山氏:
実在する場所の再現難易度は、基本的にどこも変わらず難しいです。再現ではないですが、特に難しいといえば、現実のハワイに存在しないリトルジャパンエリア(日本人街)は、落としどころが難しかったですね。悩んだのですが神社や忍寿司など日本のモチーフを利用して、「なんちゃって日本」の具現化として落とし込めたかなと思います。『龍が如く0 誓いの場所』のように、実在しないからこそ背景チーム全員がワイワイしながら作れました。

 


三嶽氏:
実はゲーム内で現実のエリア位置をあえてリアルに再現しておらず、ゲームの展開にあわせたり、より面白さが増したりするような街の構成にしています。「このエリアの特定箇所に強敵がいるから行くにはどうすればいいか」など、レベルデザインの仕様を開発初期に企画と打ち合わせしましたね。

――ロケハン時に印象的だった出来事はありますか。

鳩山氏:
取材あるあるなんですが、長時間撮影していると不審者だと思われます(笑)ショッピングセンター内で5~6人のスタッフが固まってカメラを構えていたら呼び止められることがありましたね。

――(笑)その取材が活かされたであろうアナコンダショッピングセンターは、『龍が如く8』のなかでは特に密度感のあるエリアの1つですよね。ハワイのマップは何人くらいの背景チームで担当されましたか。

鳩山氏:
違うプロジェクトと並行して制作するタイミングもありまして、流動的な体制だったのですが、ハワイマップの担当は合計10数人ほどでしょうか。

三嶽氏:
たしかにそれくらいの人数ですね。ダンジョンなどのバトルステージは別の担当がいるので、総数で考えると背景チームはのべ20人前後でした。多いのか少ないのか分かりませんが(笑)

 

日本とのギャップを作るためレガシー素材は使用していない

――実際にハワイのグラフィックアセットを作る上で大変だったことを教えてください。

鳩山氏:
ハワイは『龍が如く7 光と闇の行方』の舞台「横浜・伊勢佐木異人町」の3倍ほどの広さなので、とにかく物量の多さが大変でしたね。 背景構成に関しては建物が日本よりもスケールが大きいため、マップを埋めること自体は難しくありませんでした。しかし、その分、画面の密度感の演出に苦労しまして、植物のシルエットやスカイラインを利用して画面に深みを持たせるような工夫をしました。

――たしかにハワイは、シリーズの今までの舞台の中で一番広く感じました。実際にめちゃくちゃ広くて、作るのも大変だったと。

鳩山氏:
あとは、海外が舞台という難しさですね。いままでは舞台が変わっても同じ日本でしたが、ハワイと日本は地面の質感も全然違うため、前半の内容とは異なり一切過去素材が使えず、すべてアセットを新規で作り直しました。

――過去作の素材を使ってないんですか!?

鳩山氏:
はい、日本とのギャップも演出したかったんです。ハワイに着いて最初のタクシーを探すイベントで国外に来たという雰囲気を出すために、車の停め方なども試行錯誤しました。日本だと後ろ向き駐車が多いですが、ハワイでは防犯上の理由で前向き駐車が基本とのことで、そういった海外の文化を現地のコーディネーターの方に確認しながら調べましたね。


三嶽氏:
ハワイは日差しのあたり方1つをとっても日本とは違うので、鳩山をはじめとした背景チームがこだわってくれました。ロケハンに行ったリアルの経験をベースにしつつ、想像上のハワイ感を演出して誰もが「ハワイにやって来た」という感覚が得られるように調整しましたね。

――ハワイのアセット作成で注目してほしい点はありますか。三嶽さんが気にされる看板は、日本と比べ馴染みが薄いので大変そうですが。

三嶽氏:
看板は自分でハワイを練り歩いたときに気づいたポイントを伝えていましたね。ちなみに店名はセガ・オブ・アメリカの協力で、「こういった雰囲気の店にしたいけど、どういう名前が合っているか」と確認しながら制作しました。

――ハワイでも看板警察は活動されていたんですね(笑)ハワイにもオーロラビジョンはありましたか。

三嶽氏:
ハワイはオーロラビジョンがなかったので、手出しできませんでした……残念です(笑)その代わりといってはなんですが、アート&ナイトエリアのウォールアートはスタジオ公募で集めましたね。

――「ウォールアートを書きたい人~」という呼びかけで、手が挙げる人がいるのが面白いですね。

三嶽氏:
ただ実際にどのウォールアートを採用するかは背景リーダーの鳩山に任せました。私も応募していたので、その部分は上司と部下という立場が逆転していましたね(笑)

鳩山氏:
(笑)デザイナーだけではなく企画職の方も提出してくれました。上手・下手という基準ではなく、さまざまなテイストのウォールアートが欲しかったのでありがたかったですね。

 

 

 


――たしかに看板と同じく、ウォールアートに統一感があるのは変ですもんね。

三嶽氏:
背景にはあまり関係ありませんが、ハワイの食事の料理画像には取材した写真を使っていないんです。タイアップしていない飲食店の商品とそっくりに作るわけにはいかないので、その元となる料理写真もスタッフが料理して撮影してと、ウォールアートと同じく会社で公募をかけました(笑)

開発者が仕込んだネタやこだわりに触れてほしい

――ありがとうございます。最後になりますが読者へ一言お願いします。

鳩山氏:
『龍が如く8』にはスタッフのこだわりが詰まっているので、隅々まで味わっていただいて感想をSNSで発信いただけたらすごくうれしいです。それが開発メンバーの活力になっていますし、これからもみなさんの期待に応えられるゲームを作っていきたいです。

三嶽氏:
クリアした人でも見逃している背景のこだわりは多いと思うので、クリア後のモードなどでじっくりと見て回っていただけたらうれしいですし、デザイナーがこっそり入れている隠し要素もあるので、発見して楽しんでいただけたらなと思います。背景ではないですが、ひとつ例として、『龍が如く8』のスタートメニューで桐生と春日が立っているグラフィックがありますが、まれに足立と難波に変わることもあるんです。


――え~!そうだったんですか!

三嶽氏:
確率なので必ず見られる手段はありませんが、何回か試していただければ。実際SNSでは発見したという声もありうれしかったのですが、他のキャラクターの組み合わせもあるのかなと言われていて、すみません、足立と難波だけです……と。

――デザイナー発案でそういった仕様を仕込むのは面白いですね。

三嶽氏:
そうですね。本当はスケジュールもキツキツですし大変ですが、メンバーそれぞれ自分の担当という軸足はありつつ、「どうすればさらに面白いと思ってもらえるか」を考えて行動しています。チームとしての話はこんな感じなのですが、私個人としては『龍が如く8』のキービジュアルを考えるのが大変でした(笑)

――本作のキービジュアルを考えたのは三嶽さんだったと。

三嶽氏:
キービジュアルは本当に悩みましたね。毎作目玉の1つとして俳優さんに出演していただくのですが、せっかく出ていただけるなら目立つようにデザインしたいのですが、本作では少し抑えめにして、「8」という数字をかたどった作品に沿うデザインにしました。「8」のデザインは2つの円で構成されているのですが、実は春日パーティーと桐生パーティーに分かれています。


――やはりそうですよね。プレイ後に「日本・ハワイ組に分かれている!」と思いました。

三嶽氏:
気づいていただけてよかったです。『龍が如く8』の欧米圏でのサブタイトルが「Infinite Wealth」で、「無限の富」という意味合いがあるので8を斜めにして∞に見せたり、全ての要素を示唆したキービジュアルにしたかったんです。

――こだわりが随所に見られる作品だと再認識できました。ありがとうございました。

『龍が如く8』は、PC(Steam)およびPS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売中。背景デザイナーインタビューの前編では、シリーズ近作において過去のレガシー素材をどのように活用しているのかをうかがっている。そちらの記事もチェックしてほしい。

[聞き手・編集:Ayuo Kawase]
[執筆・編集:Yuuki Inoue]

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