理想と現実の狭間に未来を目指す。ハイスピードメカアクション『プロジェクト・ニンバス』制作者Pawee Pakamekanon氏インタビュー [前編]

ハイスピード・メカアクションゲーム『プロジェクト・ニンバス(Project Nimbus)』の制作チ-ムGameCrafterTeamのプログラマーPawee Pakamekanon氏が来日した。日本国内パブリッシャー株式会社GameTomoのオフィスをおとずれ、Pakamekanon氏にさまざまなお話をうかがった。

暑い夏の盛りに、熱い熱い情熱を秘める若きゲームクリエイターが日本の地を踏んだ。Pawee Pakamekanon氏──6月に株式会社GameTomoが手がける日本語ローカライズが実装されて注目を集めるハイスピード・メカアクションゲーム『プロジェクト・ニンバス(Project Nimbus)』の制作チ-ムGameCrafterTeamの代表である。プロフィールによれば、SFや日本アニメが大好きで、何よりもゲームを作ることを愛する26歳のタイ人。日本から近いようで遠いタイという国に生まれ、日本が産んだSFやアニメ文化、ロボットゲームや戦闘機ゲームを愛し、その愛情をゲームという形で表現し続ける彼は、一体どんな人物なのだろうか。タイのゲームシーンはどのような状況なのか、他にも魅力的なゲームが生み出されているのだろうか。 来日したPakamekanon氏に、『プロジェクト・ニンバス』の未来を含むさまざまなことについて語ってもらうべく、同作の日本国内パブリッシャー株式会社GameTomoのオフィス(東京・秋葉原)を訪ね、マーケティング部長である高谷翔平氏の通訳でじっくりとお話を聞いた。

 

タイから来たゲームクリエイター

――よろしくお願いします。

Pakamekanon氏:
6月にAUTOMATONに掲載された『プロジェクト・ニンバス』記事は見させていただいたんですが、すごく感謝しています。

 
――こちらこそ、すごく面白そう、楽しい、という感じが『プロジェクト・ニンバス』からは伝わってきたので、今後を非常に楽しみにしているんです。

Pakamekanon氏:
秋葉原まで来てくださってありがとうございます。私は今回が初めての来日です。

 
――日本の暑さってどうですか?

Pakamekanon氏:
湿度は同じくらいですが、タイの方が暑いですね。
ただ、室内で過ごすことが多いので、外の暑さは気になりません。
一度すごい嵐が来たんですが、停電するまで気づきませんでした。

 
――台風ですか?

Pakamekanon氏:
位置的に台風があまり来ない場所で、来る頃には弱くなっているという感じです。

 
――東京の街並みとか、いかがですか?

Pakamekanon氏:
東京はとても清潔ですね。秋葉原も好きです。

 
――それはよかったです。残りの滞在期間もぜひ楽しんでお過ごしください。

Pakamekanon氏:
はい。ありがとうございます。

 

原点

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――まず、Paweeさんの簡単なプロフィールをご紹介いただければと思います。タイの方ですが、日本のアニメがすごく好きだとプロフィールに記載されていました。どんなアニメがお好きですか?

Pakamekanon氏:
昔はリアルロボット系のアニメ、「フルメタル・パニック」などを見ていたんですけども、最近はどちらかといえばクリエイティブな、女子高生を描いた日常系アニメなど(New Game、SHIROBAKO、ゆるゆり、みなみけ、甘々と稲妻)を見ています。

 
――日本のSF漫画家である二瓶勉氏の作品はお好きですか? 「シドニアの騎士」とか。

Pakamekanon氏:
ごく最近、マンガを読み始めたところですが、とても好きです。特に、大人っぽいところが好きですね。

 
──そういうアニメやSFなどに触れたきっかけはどんなものだったのでしょうか?

Pakamekanon氏:
もともとはアメリカの「スター・トレック」のファンで、高校の時にインターナショナルなSFに触れました。調べていくと、日本ってすごいSFの金字塔みたいなんだというのがわかって、そこで少しずつ日本のSFとかに入り込みました。
また、中学~高校時代にアマチュアとして自分でゲームを作っていたんですけども、参考にしていたのがYouTubeに載っていたゲーム動画、特に日本のロボットゲームからインスピレーションをけっこう受けました。

 
――日本のロボットゲームというと、セガの『電脳戦機バーチャロン』ってやったことありますか?

Pakamekanon氏:
名前は聞いたことがあります。『プロジェクト・ニンバス』の前作というか、私たちの初期作品でも「バーチャロンを思い出す」という声がありまして、それで自分で調べたんです。ただゲームそのものが古いので、プレイはできていません。

 
――最新作でも10年以上前、PS2ですもんね。今できるとしたら『オラトリオ・タングラム』をXboxの配信で遊べるかな?くらいですね。

Pakamekanon氏:
あと、スパロボにも出ていたので。

 
――『スーパーロボット大戦』シリーズ、ご存知なんですか?

Pakamekanon氏:
ええ、一度ゲームボーイアドバンスの『スーパーロボット大戦R 』を中高生の頃に遊んだことがあります。大好きです。

 
――元ネタの把握度って、あまりない感じなんでしょうか?

Pakamekanon氏:
ええっと肩にミサイルランチャーを背負ったロボが大好きで……こういうロボなんですが(絵を描き出す)。

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一同:
ナデシコかな……?

Pakamekanon氏:
たぶんナデシコです。

 
――「機動戦艦ナデシコ」ありましたね。個人的にはロボットアニメの部分よりも、SFですごくハードな群像劇の部分が印象に残っています。

Pakamekanon氏:
見たことはないんですが、物語の概要などは知っています。

 
――『スーパーロボット大戦』シリーズで一番好きなロボってありますか?

Pakamekanon氏:
リアルロボットとの対比としてのスーパーロボットだと、ゲッターロボですね。

 
――本当に日本のロボアニメに造詣が深くてびっくりしますね。

Pakamekanon氏:
ありがとうございます。

 
――「スター・トレック」とか、アメリカのSFに最初興味があったということで、「バトルテック」とかご存じですか?

Pakamekanon氏:
「ロボテック」ですか?

 
――ああ、原語版だとそうですね。

Pakamekanon氏:
「ロボテック」の初期デザインは「マクロス」の……なので、「マクロス」ファンからすると「ロボテック」の話はあまり好きじゃありません(笑)。

一同:
(笑)

「ロボテック」というのは「マクロス」を含めた日本の既存作品3つを合わせて勝手に編集したものとして世界に出たので、世界では「マクロス」の方は広まらないんですよね。「メックウォリアー」っていうのがありますが、「ロボテック」の所有権を持っている人が、メカデザインをメックウォリアーの人たちに提供したので、そこで、本当は「マクロス」のデザインを元にメックウォリアーのデザインが作られているんです。現行の「ロボテック」っていうのは好きじゃないんです、編集などによってストーリーそのものがとても浅くなってしまっているからです。

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――『アーマード・コア』がお好きだという話は聞いていましたが、『フロントミッション』とか『ANUBIS ZONE OF ENDERS』とかはどうですか?

Pakamekanon氏:
大学時代に『ANUBIS ZONE OF ENDERS』をYouTubeで見ました。すごく興味深かったのは、ストーリーの展開です。実際にプレイしたことがないので、ゲームメカニクス面でどういうゲームなのかは興味があります。
多数のドローン?をマルチロックオンしてたくさんのレーザーで倒しているところが好きです。
初代の『フロントミッション』はスーパーファミコンで遊んだことがあります。『フロントミッション エボルヴ』については途中までです。SFC版の『フロントミッション』、『フロントミッション ガンハザード』もそうですけど、『フロントミッション4』が好きです。

 

ゲーム開発へと引き寄せられた中高生時代

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――アマチュアでゲームを作られていたとのことですが、社会人の仕事としてゲーム開発をしていた経験はありますか?

Pakamekanon氏:
大学時代からゲーム作成の大会とかによく出ていて、そこでかなり自信をつけました。それなら自分たちでチームを作ってゲームを作ろう、という感じでゲーム業界に入りました。
当時はけっこう若かったこともあって、信念と自信をすごく持っていて、ゲーム制作会社に入らなくても自分で作ろうと思って始めたんですけども、最近は自分でも、自信はあるんですが、学ばなきゃいけないことがあるというのがわかりました。当時は若かったですからね、ナイーブな部分がありました。

 
――勢いみたいなものでやってみたけれども、壁を感じつつあるというか?

Pakamekanon氏:
タイなので、低コストでなんとかやっていけるんですが、それでも壁にぶち当たることはあります。
何回も壁に当たっているんですけど、そこから教訓を得ています。

 
――ゲームを作る大会に出ていたというお話がありましたが、プログラミングなどは独学でしょうか?

Pakamekanon氏:
そもそも始めたのは中学生の時なんですが、本格的に知識を得たのは大学です。コンピューターエンジニアリング専攻でした。

 

タイの若者は日本のアニメ・漫画・ゲームがお好き

――タイではアニメとかゲームとか漫画はどんな感じで捉えられているんでしょうか?

Pakamekanon氏:
賛否両論でいろいろな意見がありますし、どこで区切るのかは難しいですね。私の父は50代なんですが、たくさんのゲームを遊びますし、漫画もたくさん読むし、アニメもたくさん見ます。個人的には、40代以下の世代は日本のアニメやゲームについて寛容だと感じますが、それより上の世代は実写のテレビ番組などを好むと思います。
寛容な40代以下の中でもいろいろな人がいて、アニメ好きという人もいれば、メインストリーム的なハリウッド映画に注目している人もいます。
それでもタイ人は日本の漫画が好きな人が多いですよ。

 

夜明け前にまどろむタイのゲームシーン

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――タイのバンコクなどで、インディーゲームの開発者のミートアップとかワークショップとかがたまに開催されているという話がありまして、タイでのインディーゲームのシーンっていうのは、成長とか盛り上がりとか、いつぐらいからどんな感じになっているんでしょうか?

Pakamekanon氏:
自分の前にもいろいろなゲーム開発者がたくさんいるんですけども、ゲーム制作会社としてはせいぜい1本か2本くらいしか出せない状況で、しかもほとんどがモバイルゲームが中心です。他には、日本のゲーム会社に案件を外注する人もいます。とても心配なのは、やはりゲーム業界はタイでも特に厳しいので、後輩たちはなんとか生き延びられるようにがんばってほしいと思います。私たちの特徴のひとつとして、シリアスなプラットフォーム、たとえばPCなどのゲーム開発者は実は少ないです。

 
――インディーゲームのシーンというのはまだまだ小さい?

Pakamekanon氏:
この小さなミーティングルームの中にタイのインディーゲーム開発者が全員入れるくらいです。
でも自分たちのチームであったり、味方が成功を収めれば良い追い風になって、後輩たちが自分たちの後に続いてくれるだろうという希望もあります。

 
――タイの小規模なゲーム開発チームというのは、ゲーム開発だけで生計を立てていけてるんでしょうか?

Pakamekanon氏:
自分の例からいうと、それは可能です。ただ、失敗が許されない状況ではあります。私たちが成功すれば後輩たちが続くことができると思います。
後輩たちが続いていけるような、いい傾向にはなっています。

 
――タイでもゲームショーが毎年あると聞いたんですが、小規模なチームなどで作っているインディーゲームはそういうゲームショーには出られているんでしょうか?

Pakamekanon氏:
タイのゲームショーは、海外のパブリッシャーが主催しているイベントです。実際はタイのゲームのスペースはけっこう小さくて、しかもゲームの内容はモバイルゲームがほとんどです。あとは韓国や中国のクローンゲームやオンラインゲームだったり、輸入品だとかを展示しています。私の希望としては、タイ自身のイベントを作ってほしいと思っています。

 
――日本では先日京都でBitSummitが開催されまして、『プロジェクト・ニンバス』の出展も拝見したんですけども、そういうインディーゲームのイベントというのはまだ全然ないんでしょうか?

Pakamekanon氏:
友人がそういう小さな集まりとかを主催しているんですが、残念ながらまだあまり成功とは言えません。特に開発者中心のイベントというのはまだありません。将来的にはそういうイベントが増えればいいと思います。最初のうちは大きいイベントになるとは思えないので、少しずつ増えればいいなと。

 
――タイの小規模チームのゲーム開発というのは、生まれたばかりでこれから成長する?

Pakamekanon氏:
まだ成長する段階には至っていませんね。

[聞き手: Sawako Yamaguchi]
[写真: Shigehiro Okano]

日本のアニメが大好きで、ガンダムやマクロスといったロボットの話になると日本人の熱心なファンとほとんど変わらない熱意を示すPawee Pakamekanon氏。一方で彼はゲーム開発についても全力を尽くして取り組み、まだ規模の小さい自国のゲームシーンの未来を切り開こうとしている。9月5日(月)公開予定の後編ではさらに、『プロジェクト・ニンバス』制作のきっかけや、今後についてのお話をたっぷりと掲載する。乞うご期待。

Sawako Yamaguchi
Sawako Yamaguchi

雑食性のライトゲーマー。幼少の頃からテレビゲームに親しむが、プレイの腕前は下の下。一時期国内外のTRPGに親しんでいたこともあり、あらゆるゲームは人を楽しませるだけでなく、そのものが出発点となって人と人を結びつけ、新しい物語を作る力を持っていると信じている。2012年から始めた『League of Legends』について、個人ブログやTwitterにて日本語で情報発信を続けている。

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