36年ぶりに蘇った戦略的穴掘りアクションゲーム『宇宙最大の地底最大の作戦』 その神髄に迫る!
「穴掘り型アクションゲーム」と聞いて、ナムコ(現・バンダイナムコゲームス)の『ディグダグ』や、東京大学の理論科学グループによる開発、電気音響株式会社が販売した『平安京エイリアン』などをパッと思い浮かべる人は少なくないだろう。コアなプレイヤーであればタイトーの『THE PIT』やBally/Midwayの『Robby Roto』を選出するかもしれない。しかし1980年代当時のホビーパソコン(マイコン)において“史上初のサンドボックス型ゲーム”が存在していたのである。
「ファミリーコンピュータ」が日本中を席巻するまではゲームを遊ぶにも作るにもまだまだ限られていた時代、日本初のマイコン雑誌「I/O」(日本マイクロコンピュータ連盟、現在は工学社の刊行)に、とある作品が掲載された。のちにテープサービスとしても販売されることになる個人投稿プログラム『地底最大の作戦』はシャープが発売したMZ-80(K/C)を皮切りに、PC-8001(NEC)やFM-7(富士通)といった当時のマイコンとそのユーザーの元へ瞬く間に広まっていった。
今回ご紹介する『宇宙最大の地底最大の作戦』は、じつに36年越しの新作となって蘇った一作だ。原作であるMZ-80版の移植と、MZ-700を想到してカラー表示とアイテムを導入したアレンジモード、豪華なスタッフの手によって1980年代のアーケードゲーム風に甦ったスペシャルバージョンの合計3機種分を楽しむことができる。制作・販売を手がける有限会社マインドウェアはSteamやPLAYISM、Windows Storeにて6月中旬ごろのリリースを予定しており、価格は5ドル前後と発表している。
今回は事前に体験させていただいた先行プレイからの紹介だけではなく、マインドウェア代表の市川幹人氏へのインタビューも掲載する。
・本作に秘められた戦略性とは
プレイヤーはキャラクターを上下左右の四方向に操作し、画面上部の地上を彷徨うヘビ(敵)に地底基地が侵略されるのを防ぐべく穴を掘って捕獲していくというゲーム。シンプルでありながらも「いかに効率よく敵を捕まえるための穴を掘っていくか」という戦略性をプレイヤーに委ねているところは、タワーディフェンス型ゲームに近い要素ともいえる。
このゲームの基本的な攻略は、穴を一直線ではなく階段状に掘っていくところがポイントとなる。敵が一マス分動くたびにどんどん穴へハマり続けていくという罠を仕掛け、ランダムに動く敵を思いどおりに捕獲する爽快感を味わえるようになると、中毒性が途端に増すようになる。また、所有している2つのエサで敵を捕獲することもできる。地底基地の足止めに使うもよし、ヘビに追われてピンチを脱するための緊急回避にも使用可能だ。
また、MZ-80版の表現能力ではヘビが左を向いたままとなっており、左右どちらに動くのかが分かりにくいというストレスを感じることも少なくなかった。しかし本作では新たに「スネークフリップ」というオプションを導入。ヘビが左右を向くようになったことで遊びやすさを追求したものとなっている。
・豪華スタッフによって生まれ変わったスペシャルモード
本作のメインといっても過言ではないのが新規グラフィックとBGM、2人協力プレイを追加したスペシャルモードだ。グラフィックを担当したのは『ゼビウス』や『ディグダグ』、『マッピー』でドット絵やロゴデザインを手がけた「Mr.Dotman」こと小野浩氏。サウンドには『イース』や『ソーサリアン』といったファルコム作品をはじめ、近年では『世界樹の迷宮』や『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』シリーズにて作曲を担当している古代祐三氏が参加。1980年代から現在に至るまで第一線で活躍されているおふたりによる豪華な作りとなっている。
見た目やサウンドだけではなくゲームシステムも大きく変更されている。地底基地まで侵略されないように穴を掘っていくというルールに変わりはないが、ヘビではなく「敵」となっているのが一番のポイントだ。左右にプニプニと動いたり、居眠りしたと思いきや一気に地底めがけて掘削し始めたりと、ヘビ顔負けの凶暴さでプレイヤーを襲ってくる。
予定されているアップデートのひとつとして、当時のマイコンやアーケードゲーム基板に搭載されていたFM音源の再生・制御に特化したキット「RE:Birth」にも対応するという発表もされている。「RE:Birth」本体とFM音源IC「YM2203」を用意すれば、古代祐三氏によるサウンドを音源ICからそのまま楽しめるという非常にマニアックな仕様ではあるが、ファンにとってはチェックせざるを得ない機能となりそうだ。
MZ-80版の作者であり、現在では人工生命(Artificial Life)やボードゲームの教育的活用を研究されている名古屋大学情報文化学部の教授・有田隆也氏は「当時の投稿プログラムはどれも単純なものばかりだったことから、プレイヤーの頭を刺激して想像力を要求させるようなものを」という経緯で『地底最大の作戦』を発表された。とっつきやすく、わかりやすく、パターン化できないランダム性を前にして「もう一回!」と続けて遊べる簡潔さは、あえて今の時代だからこそ受け入れられるのではないだろうか? 当時を知っている人だけではなく、8bit調なグラフィックデザインを好む新規ユーザーも楽しめる一作となることは間違いないだろう。