AUTOMATON vs. トイボックス 和田康宏、金沢十三男のこれまでとこれから (後編)


中編から引き続き、トイボックス和田氏と金沢氏へのインタビューです。

 


 

――新しいIPを自由に出せるというのは、独立したからというのが大きいと思います。昨今のゲーム業界ではインディーゲームが非常に注目を集めています。トイボックスは今のところ完全に自社内だけで製作しているわけではないとお見受けしますが、インディーゲームのあり方についてはどのようにお考えですか?

金沢:
僕はあんまりインディー的な立ち回りをしているかどうかちょっと分からないです。一応、任天堂さんでもSCEさんでもパブリッシャーになっているので、僕はパブリッシャーの立ち位置としてすべてのタイトルを出していきたいと思っています。『レッドシーズプロファイル』はもともとマーベラスにいた時代に自分たちで創っているし、『ホームタウンストーリー』はうちがIPを持っている作品。創ったものに対してちゃんと責任と権利を持っていきたい。それがもともと、会社を作った時のふたりの約束です。創りっきり、売りっきり、商業的で終わりではないプロジェクトの立て方をしよう、という。一個一個がIPとして生きていく。それを貫ければいいかなと思っています。

 

――IPを生み出して、それを何らかの形でその後もライセンスとして持ち続けて、ビジネスにも活かしていくと。

金沢:
そういう意味でいうと、ゲームをパブリッシングすることだけにはこだわっていないという部分はあります。どういうかたちで世に出てもいいんですよ。さっき言っていた共同事業でもいいし、コピーライトを持たせてもらってどこから出すのでもうちから出すのでもいい。どんなかたちでもいいのです。出し方にはこだわってない。選択肢のひとつとしてうちはパブリッシングできるという選択肢を持っておきたいという話です。

 

――ゲーム以外のコンテンツというのも考えていたりしますか。

和田:
可能性という意味ではあります。僕たちができることは、あたらしいIPを生み出すことであり、会社として考えるとそのIPを自分達が保持しておくということが最大の強みになると考えています。いわゆる「インディー」という言葉がどこにかかっているかは分からないですが、僕の考える「インディー」というのは、当たり前ですが、インディペンデントであるということで、誰にも縛られない、完全に独立した存在であるということなんです。なので、会社を立ち上げるとき出資をしたいとおっしゃってくださる方がいて、それはとてもありがたい話ではあったのですが、丁重にお断りさせていただきました。資本金でいえばたった300万円の小さい会社ですけれども、自分達で絶対捻出しよう、プロジェクトに対してのファイナンスって意味で、おカネを出資してもらうことはあるのですが、それと会社に対する出資は違うし、受けるべきではないと考えています。

 

――会社に対するファイナンスではなくプロジェクトに対するファイナンスですね。

和田:
そうです。そういう意味では僕らがやっていることは、インディーゲームに属することかもしれない、独立性を保つ、ということはすごく大事だと思っています。インディーゲームのなかにも、クラウドファンディングを使った何億円規模のものもあるわけで、ゲームの規模感だけの話じゃないとは思うんです。本来はクリエイターがなるべく自由に自分の創りたいものを創ればいいのでしょうが、規模が大きくなればなるほど、自身のクリエイティブだけでは成立しなくなっていくことも事実で、そのバランスは大事だと思います。それでも、新しく生まれて成功するIPというのは、必ずその核の部分は、新しい提案だったり、その人たちが持っているポリシーだったり、魂みたいなものがそこにあって、それが遊ぶ人につたわるからこそ成り立つのだと信じています。だからこそ自分達はIPを持っていたいし、ビジネスとしてもの作りを続けるためには、それを持たなければならないと思うのです。

 

――過去にそういった自分達のライセンスを持てなかったり、自由にできなくて苦労したり、悔しい思いをしたということはありましたか?

和田:
僕らはずっとサラリーマンでした。そういう意味では、サラリーマンの悲哀はあるけれども、ちゃんと給料のもらえる庇護の下でやってきたので、そういうことはありません。苦労はいっぱいしていますけど、その苦労はあって当たり前のもの。会社員時代に作ってきたものは、会社のものだと思っています。

それに対しては何の悔しさもないんですが、だからこそ、独立をするときには、それと反対の方向を行かないと意味がない。会社を作るときにもおカネを出してもらうと、出資者の意向を反映せざるをえない。そういうことですね。そういう意味では絶対に独立性を保ち、バランスはあるにしろ、自分達は譲れないところをなんとかたもちながら、ものを作り続けたいです。

そのぶん、もちろんリスクはあります。誰も食わせてくれないので、自分達を自分達で食わせて行かなくてはならないし、スタッフが増えていくのだとしたら、その人たちの生活や将来に対しての責任を持っていかなきゃいけない。

 

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――そういった話の延長線上でおうかがいしますが、現在、トイボックスで求人などありますか。

和田:
いまこの瞬間は無いです。今後あったらいいなあ、できたらいいなあ、という感じですね。

 

――どういう職種や人材が必要とされているんですか?

和田:
わずかな熟練者と、たくさんの新人。そういう感じだと思います。基本的には若い子ばっかりで創ったら面白いなと思うのですが、たぶんできあがらない。リーダーシップをとれる熟練者が上のほうにいてくれると、僕の仕事が減るかなという感じです(笑)

 

――業界を目指す若い人には何を期待しますか?

和田:
どんどん盛り上げて言ってほしいですね。僕らももう4、50歳なので、世が世なら死んでいたぐらいの年齢です(笑) そういう人たちがいまだに一線でやっているより、20代の活きの良い人ががんがんインタビューに出ていたりしてほしい。若いスターがどんどん生まれてほしいです。

 

――それがあるだけでゲーム業界の雰囲気も変わりますしね。

和田:
そう思います。やっぱりロートルはもういなくていいです。

金沢:
僕らの時代は40代になってもゲーム創っていると思ってなかったですよね。でも今はどこみても40代の人が一線でやっています。僕らは本当は引退しなきゃいけない。だって僕らがゲーム創って勝負し始めたのは20代からなので、そういうのが出て来られないとちょっとかわいそうだなと。

和田:
まあ僕らは自分で食ってかなきゃいけないので死ぬまで作りますよ(笑) それでも、もっともっと若い人たちにチャンスがあったほうが良いと思いますし、そのためにはゲームそのものをもっともっと魅力的にしないといけないと思います。

 

――技術やインフラは現在のほうが整っているので、創っている人は増えているとは思います。そういった方がトイボックスで活躍するようなことがあれば面白くなると思います。

和田:
はい。僕らが20代の人材を採ったら、積極的に売り出します。

金沢:
で、われわれは仕事しない(笑)

 

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――現在は特別に求人の予定はないということですが、次のタイトルでお話いただける範囲内でおうかがいできますか?

和田:
リリースはどちらにしろ、来年以降になると思います。ひとつ言えるのは、僕も金沢もそれぞれ得意なことをやっているということですかね。さっきの話じゃないですけど、自分達がちゃんとIPを持つ形でプロジェクトを立ち上げて、魂を込めます。ごめんなさい、それぐらいしか言えなくて。

 

――ゲームのプラットフォームは多様化していますが、どういうプラットフォームでのリリースを予定していますか?今まではかなりコンシューマが中心でしたが。

和田:
基本的にはコンシューマですね。僕らの考えるもので実際にプロジェクトとして成立しそうなものとなると、どうしてもコンシューマ寄りになってしまいます。僕らの持っている特徴とかスキルとか色々なことがコンシューマのほうに今は向いているのかなと。

僕らはコンシューマと一緒に育ってきたわけで、もちろんそれに対する思い入れは強いんですが、だからといってそこに執着するつもりはありません。僕らは結局のところはコンテンツ屋さんなので、乗っかるメディアというのは、なんでもいいはずだと思っているんです。だからメディアがiOSとかAndroidみたいなところでも構わないし、コンソールでもPCでも構わない。ただ、今のところ自分達が立ち上げていく、作っていくプロジェクトはコンシューマに親和性が高いのかなと思います。

 

――なるほど。しかしながら『牧場物語』は、実際のところスマートフォンのゲームにも非常に影響を与えているという気がします。

和田:
そうですね。『ほしの島のにゃんこ』とか『FarmVille』とか。

 

――和田さんにロイヤリティがある程度入ってもいいんじゃないかと思うほどたくさんありますよね。

和田:
そしたら億万長者で南の島で左うちわですね(笑)

金沢:
(笑)

 

――会社としては出すか出さないかは別として、スマートフォンとか新しいプラットフォームで遊ぶことはありますか?

金沢:
僕はけっこうやっている。

和田:
超やっています。

 

――どういったものでしょうか。

和田:
最近はやってないですけど『パズル&ドラゴンズ』も金沢が先に始めていて、やれやれ言われて一昨年のE3のタイミングから始めて、1年半くらいやっていました。40~50万使っています。

 

――結構な重課金者ですね。

金沢:
僕、一銭も使ってないです。

和田:
金沢は半年くらい先行してやって、その後も一年くらい遊んでたよね。でも一銭も使ってない。僕は一年半で何十万も使ってしまった。

 

――(笑)

金沢:
アプリとかやりたいんですが、僕らふたりしかいないのでマンパワーが足りない。

 

――実際に企画としてやるとかとは別に、プラットフォームとしては興味がおありということですね。

金沢:
そうですね。ハードとして考えたら一番多いハードじゃないですか。みんなが手軽にいちばんやってくれるハードがいいですね。

和田:
僕はインターフェースが全然違うので簡単には出来ないと思っています。ゲームの手触りというか、仕組み自体もそういう前提で考えないといけないし。一番違うのは、F2Pであることと、気持ちよく、1年おカネを払わない人と、30~40万払う人が同じように楽しく遊べることです。それを成り立たせるための仕組みとして、いまはガチャとかそういうありがちなものしかないようにみえるので。そういう前提でゲームを創るのは、ちょっと僕には難しいです。

かといって、ダウンロード型の買い切りのタイトルは、何千円もしちゃうコンシューマとまたちょっと違います。今はちょっとスキルが追いついてないというという感じです。僕が正直に自分の事を分析すると。

 

――パブリッシングの面だと、スマートフォンにはスマートフォンのノウハウだとか、プロモーションとかありますからね。

和田:
プロモーションもそうだし運営もそうだし、さっぱりわかりません。はりついてアクティビティ見ながら毎日対応していくみたいなことは、ゲーム創りというかコンテンツ創りと関係ないように僕には見えてしまいます。どっちがいいか悪いかとかではなくて、苦手なんです。

運営は本当に難しい。まったくわからない。話に聞いて勉強はしているので、どういうことがおこなわれているかは少し理解はしているつもりですが。でも、そのなかで自分がなにをやればいいのかが想像しにくいんですよね。

 

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――ではそろそろ締めに入らせていただきます。これは和田さんにおうかがいしたいことです。以前、マーベラス時代だと思いますが『王様物語』を出すときにブログで「死にたくない」という内容のエントリを書いて話題になりましたよね。海外のメディアの取材も受けたんですね。あのときはゲーム業界を見ていて、閉塞感みたいなものを感じていたのですか?

和田:
そうかな。うーん……。ずっと感じていたかもしれないですね。ビクターからマーベラスに変わるときも多分そうだったと思います。さっきも話しましたけど、飲んで朝まで議論していたことの延長線上にあることなんですが。表現がまずかった?

 

――ちょっとセンセーショナルに書かれすぎた感じでしょうか。

和田:
普通に予約してほしかっただけなんですよね。「予約してください」と書いても予約してくれないだろうから「死にたくない」って書いたんだけど。

金沢:
Yahoo!のトップニュースになりましたからね。僕大笑いして「やった、やったー」って言ってましたよ。

 

――(笑)プロモーションとしては成功したのか成功しなかったのかよくわからないですね。

和田:
元祖炎上マーケティング。でもあんまり役に立たなかった(笑)

 

――あの頃と比べて今のゲーム業界と比較するとどう思いますか?

和田:
家庭用にかぎっていうと、もっとまずい気がしています。

 

――より悪くなっている?

和田:
悪くなっているというかせまくなっていると思っています。なぜかと言うと、全部がとはいえませんが、確実に読めるものしかラインナップされてこないように見えるからです。あのときはまだチャレンジする余地が残っていたので。さっき言っていた、90年代の半ばくらいまでは、色々なものがあって、すごくアクティブな活況な感じがありました。だんだんそういうのがなくなってきた。これじゃマズイなと感じています。

『NO MORE HEROES』とか『王様物語』とかを出したときっていうのは、開発規模がどんどん大きくなっていって予算もかなりあがっていて、大手が大作をガンガン創っている状況で、そのなかでは中小に位置する僕らが新規のオリジナル作品を創ってもなかなか通用しないと感じていました。一方でそのころわかっていたWiiのラインナップを見ると、コア系のものってなかったので、シンプルに「これは目立つ!」と思ったんです。そのなかで自分たちの思う面白いというものをいろんなベクトルで展開してゲームの世界を盛り上げたいという一心でした。Wiiで出したタイトルはいずれも高い評価をいただきました。

金沢:
海外でも。

和田:
海外でもアワードとりまくりました。『NO MORE HEROES』も『王様物語』も『朧村正』も。それはそれでよかったのですが、狙っていた盛り上がりは期待ほどではなく、結果としてWiiにコアゲーのお客さんを呼び込むまでにはいたりませんでした。

とはいえ、チャンス、チャレンジできる機会、トライの機会がまだあったのですが、今はもっと減っているかなと感じています。ただこれはコンシューマにかぎった話であって、それはせまくなっちゃって残念だなと個人的に思う一方で、PCやスマホでインディーゲームが台頭してきたり。それはたぶん、なにか世の必然なような気がしますよね。ゲームの世界全体としてはバランスがとれているのかだろうなという感じもしています。

 

――コンシューマ自体は数の問題もあり、しかたない部分もあります。

和田:
そうですね。PS3で去年ミリオンヒットがなかったこととか。

金沢:
うん。

和田:
『GTAV』が一番売れたけど、でも国内50~60万ですよね。

なんかさびしいです。プレイステーションアワードとか、昔は300万、200万、100万で、100万本じゃまだしょぼいよねという世界だったのに……。だからこそ、すごくがんばりたいです。僕にはものすごいものは創れないけど、個性的で、喜んでくれる人がいるやつを創りたい。とにかく次の世代に繋げたいです。

 

――『魔都紅色幽撃隊』はいまでいうインディーゲームのような個性的なタイトルですが、かといってあのゲームを本当にインディーの人が創れるかというと、無理があるようなのですよね。

和田:
ありがとうございます。今の自分達の立ち位置というのは、まさにそんなところだと思います。大手にもできないし本当のインディーや個人にもできないことを僕らならできるし、やっていかなきゃいけない。「あ、そういうことをやっていいんだ」とみんなに思って欲しいし、「じゃあ、俺もやろう」っていう新しい人たちが出てきてくれたらいいなって感じですね。

 

――最後に簡単に読者へのメッセージをいただけますか?

和田:
ゲームの好きな人に等しく遊んでほしいので、PCでもコンソールでもスマホとかでもスタンスは変わりません。とにかく他と違った個性的なものづくりをこれからも続けていくので。チャンスがあったら本当にぜひ非遊んでほしいと思います。

 

――金沢さんからもなにか一言いただけますか?

金沢:
僕はないです。何もないからいいです。

和田:
出たよ。これがミステリーです(笑)

 

――(笑)ありがとうございました。

 


[聞き手: 今井 晋]

[写真: Mon Gonzalez]