インタビュー セガ 木村裕也 [中編] 携帯ゲーム機向けMO「我々がやるべき」と思った

前編から引き続き、『ファンタシースターオンライン(以下、PSO)』シリーズディレクター木村裕也氏へのインタビュー。セガが『ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)』で目指した「楽しさを奪わないFree-to-Play」や、PS Vitaを選択した理由、先日発生したDDoS攻撃への対処についてお話をうかがった。

前編から引き続き、『ファンタシースターオンライン(以下、PSO)』シリーズディレクター木村裕也氏へのインタビュー。セガが『ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)』で目指した「楽しさを奪わないFree-to-Play」や、PS Vitaを選択した理由、先日発生したDDoS攻撃への対処についてお話をうかがった。

 


――『PSO2』のシステムは、業界では一番フェアではないかと考えています。ゲーム開発時にマネタイズシステムやF2Pシステムに対して、ゆるいのではないかという意見はなかったのでしょうか?

木村氏:
『PSO2』の課金ポリシーとして、強い武器などを課金では買えないようにする、というものがあります。いわゆるPay-to-Winにはならないようにしてるんです。『PSO2』では、通常のゲームのガチャにあたる「スクラッチ」があります。ソーシャルだと、強いカードだとかコマを手に入れて、それを使って強くなっていくというシステムですよね。ただ『PSO2』は、強い武器を手にいれるとか、キャラクターを成長させるところが楽しいゲームなので、そこを課金でできてしまうと、もうダメかなと。対戦などあればその先があるから、まだいいかもしれないんですけど、対戦はないゲームなので。対エネミーとなったときに、楽しいところがまず自分が強くなるところなので、そこを奪って課金でできてしまうと、ゲームが破綻してしまう。そうしたくはないというポリシーが、もともとありました。P2Wにはしたくないなと。

けれど、F2Pとして成りたつのかというのは、始める前から自信をもっていたわけではないです。ただ、過去作『ファンタシースターユニバース(以下、PSU)』というタイトルで、月額課金にくわえハイブリッドの形で、「ガチャン」と呼ばれる課金でのアイテムの入手方法を導入したことが、試金石になりました。これはいまの『PSO2』と近いスタイルで、基本コスチュームだけを有料ガチャで引くという形でした。『PSU』がサービスイン後に数年経ったあとからの施策だったんですが、うまくユーザーさんに受けいれられて成功したことで、導入前よりも利益を得ることができました。それをうけて、これが『ファンタシースター』ユーザーにもっとも適した課金システムなのかなと思いました。ですから、そのスタイルを拡張させて、『PSO2』に持っていこうということになりました。多少の自信はありましたが、やはり実際に蓋を開けてみるまではわからない、というのが正直ありましたね。

 

――近頃、コンソールでリリースされるF2Pタイトル、たとえば『Warframe』などが数多く見うけられます。『PSO2』は、PS Vita版がリリースされていますが、家庭用ゲーム機でも展開しようという考えはなかったのでしょうか?

木村氏:
最初に『PSO2』を企画する段階で、「なんでPCなの。PCはまだわかるけど、じゃあなんで次Vitaなの」って、会社の上の人からも言われたりはしていました(笑)PCを選択したのは、オンラインゲームをFree-to-Playでやる上で、なによりも母数をかせがなければいけないからです。より窓口がひろいプラットフォームでやらないと、Free-to-Playが成りたたないというところで、PCを選択肢から外すわけには、いかなかったですね。パッケージを売ってナンボというタイトルではないので。やはり、最も普及台数が多いのがPCであることは、国内外含めて間違いないことですから。

その次にもう一台、なにかプラットフォームをやるという際に、当然PS3とかPS4、Xbox360という話はでてきたんです。ここは逆に売上とかパイを考えたら、当然PS3とかを選ぶべきだったんですけど、我々自身がクリエイターとしてみると、楽しくなかったいうか(笑)もうPCで据え置き機版をやっていて、単純にそれを家庭用の専用機でやっても、なんか全然広がりがないというか。そんなの当たり前だし、誰もそれに対して注目もしてくれない。将来的にも、それがなにか我々のノウハウとなって広がるわけではない。それでもう1つプラットフォーム選ぶとしたら、ただの家庭用ゲーム機ではないものがいいなと思っていたなかで、ちょうどPlayStation Vitaという話がでてきたんです。もしかしたら、オンラインゲームを外でプレイできるようになるかもねって、可能性を感じたんですね。オンラインゲームを外でがっつり遊べるというのが、けっこう夢があるなあと思って。

それに我々自身、ドリームキャストで『PSO』のとき、コンシューマー機で遊ぶオンラインゲームを広めたときからはじまり、常にオンラインゲームにおいては、他社よりも一歩前を進んでいたいなという思いがあります。それで毎回、最初に地雷を踏んでいくんですけども(笑)思えば過去作『ファンタシースターポータブル2』で、PSPのインフラストラクチャーモードでのプレイを実現したのも、挑戦的な試みでした、

なので、当時もし家庭用の携帯ゲーム機でオンラインゲームが実現できるとしたら、うちのノウハウしかないなという思いがありました。我々がやるべきだと。やるとしたら我々だけだ、という思いで、Vitaを選択した形ですね。

それと、プラットフォームを1つ増やすことって、窓口を広げる面ではすごくいいんですけども、それだけ我々がメンテナンスしなければならないプラットフォームが増えることでもあるんですよ。それによって、サービスレベル全体が下がってしまうというのが一番よくない。なので、数字だけでいえばプラットフォームを増やしたほうがいいけども、サービス全体のレベルを下げるわけにはいかないので、安易にはプラットフォームを併発しないことになりました。我々自身、運営1年目で選択できるプラットフォームは、多くて2つかなと。というところで、まずはさきほどいったPC。まあもう1つやるなら、変わったことをやりたいねということで、Vitaを選んだのが今にいたる感じですね。

 

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――2012年のローンチ以来、『PSO2』は大きく成功し、多くのコンテンツがアップデートされてきました。現時点で今後の予定はたっていますか?大型アップデートは、どの程度まえから計画しているのでしょうか?

木村氏:
ちょうどこの7月に2周年をむかえまして、8月にエピソード3という大きなアップデートをやっています。まだエピソード3自体が始まったばかりですので、エピソード3のなかで、いくつかやりたいコンテンツというのがあります。基本的に毎月アップデートはしているんですけども、今後約1年以上にわたって、3か月に1回は、システム的に大きなアップデートをしたいと思っています。

今は年末にかけて、エピソード3に入ってからの初めての大型アップデートということで、「アルティメットクエスト」という超高難易度のクエストを予定しています。アルティメットというのが、ドリームキャストの『PSO』のころで、一番難しい難易度の名前になっていまして。当時プレイしていたユーザーさんは、アルティメットって聞くと、もうとんでもない、むちゃくちゃ難しいクエストという印象を持たれているものなんです。多分そのイメージをあまりくつがえさないくらい、難しいクエストっていうのが用意されています。

今回は難易度じゃなくて、アルティメットクエストというのを別のコンテンツとして用意するんですけど、それが11月19日にまず配信されます。正直なところ、いまちょっとユーザーさんの中では、ゲームがぬるいなって感じになってるんですね。最後のレベルキャップ解放からしばらくたってますし、エネミーとかも、わりと手応えがないなという印象が持たれていて、ユーザーさんの方が強くなっている状況です。それに対してアルティメットクエストは、かなりインパクトのあるアップデートになるんじゃないかなと。

あとは毎年『PSO2』は、12月にレイドクエスト的なものを出しています。初年度だと「ダークファルス」という全プレイヤーで一斉に戦うラスボスが、去年12月には「採掘基地防衛戦」という12人で協力するタワーディフェンスみたいなクエストがでました。今年の年末も、そういう初心者や上級者に関係なく全員が参加できて、プレイヤーが全員と一体感を感じられるレイドクエストが用意されていますね。それが「マガツ」という、巨大な巨人がでてくるクエストになっています。60メーターぐらいある巨人で、もう画面におさまらないくらい(笑)地面にいると足しか映らないぐらい大きなもので、それを12人で協力して進行を止める、というクエストになっています。絵的にもインパクトがありますし、いままでのクエストとはちょっと違ったような遊びになっているので。ここはまあ、ご注目いただきたいかなと思ってます。

まだ発表していないなかで、来年以降のアップデートもすでに考えています。エピソード3では、まだいくつかやりたいことが残っているので、まだまだ今後も面白くしていけるかなあと思っています。だいたいアップデートの計画自体は、ほぼ1年ぐらい先までは常にできている感じですかね。僕のシリーズディレクターという仕事は、全体のロードマップを描く、あるいは考えるというものなんです。いつどう配信をおこなうかとか、配信をいつ発表するだとか、どういう見せ方をするかとか、そういったことを考えています。現状も1年後までは考えていて、いまは来年の12月以降の計画の詳細を詰め始めています。

 

――現時点で何エピソードまで、というのは考えているのでしょうか?

木村氏:

基本的にはオンラインゲームなので、終わりがないようにしたいと思っていて。毎回エピソードの終わりも、なんかぜんぜん続くような終わり方にしたりとか(笑)それこそエピソード3にいたっては、エピソード2の最終章が配信される前に発表したりしているので。エピソード3以降もどんどん続けていこうかなあとは思っています。まあ、いつどれくらいのタイミングでというのは、まだちょっとお話できる段階ではないですね。

 

――ということは、まずゲームを開発し始めた時に、たとえば最初にエピソードを10個作ろうといった計画は決まっていなかったんですか?

木村氏:
そうですね。正直にいいますと、最初はエピソード3ぐらいまでの構想がありました。内容的にこれくらい、エピソード3でこういう話になってるといいね、っていう構想はあって。ただ、それもどんどん運営していくなかで変わっていったりはするんです。当初からエピソード3までの内容はざっくり決まりつつも、そこで終わらせるつもりはなかったですね。

 

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――数か月前から、御社もふくめ、いろいろなゲーム会社がDDoS攻撃の被害にあっておられます。今後こういった攻撃に対処するために、インフラに関してどのような変更をされてますでしょうか?

木村氏:
正直なところ、根本的な解決方法はないと考えているんです。DDoS攻撃というもの自体の内容というか、単純な大量アクセス攻撃でしかないので、これに対して特効薬というようなシステムは、現状世界のどこにもないというのが実情だと思っています。いまもっとも手軽なサイバーテロ攻撃といわれているゆえんですね。DDoSにもいろいろな種類があり、一部の種類に対しては対処できる対応がありますので、そういうのはやってはいますけども。ただ、根本的な解決方法はないなあ、というふうに考えています。

またDDoS攻撃があれば、迅速に対応したいとは思っています。そしてそれができるだけの体制を、常に抱えておけるようにはしたい。根本的な対策はなく、心構えというか、いつあらたなDDoSがきても負けないぞというか、それに対応できるだけの人員なりツテなりを、リスクヘッジとして持っておく、というくらしかないですね。攻撃がきてからそれに対して対策するという、後手にまわるしかないのが実情だと思っています。

DDoS攻撃というのは、国内のオンラインゲームではめずらしいケースですけど、世界的にはSNSだとかほかのサービスでもあった前例があって。そのなかで、1ヶ月以上サービスが止まってしまったというケースも我々自身が知っていたので、今回の攻撃も結構かかるかなと思っていたんです。でも結果的に、約8日間で回復できたというのは、昼夜頑張ってくれたうちのスタッフの頑張りのおかげだと思っています。

 

――DDoS攻撃の被害を8日間で復旧してから、ユーザー数の減少は確認できましたか?

木村氏:
当然その期間は新規が減っていますので、その分のアクティブ人数は減ってしまっています。ただ、継続ユーザーは極端に減ったりはしてなくて、再開後すぐに回復しました。『PSO2』は課金をするゲームなんですけど、サービス開始直後のAC(ゲーム内通貨)のチャージに関しては、ユーザーさんのご祝儀的なところもあったのか、普段よりは非常に多めに買っていただけましたね。止まっていた期間にマイナスだった部分は、全部ではないですけど、かなり利益的にも補填できてる状況ですし、ユーザーさんもそれほど極端に減っているという感じはないですね。

サービス再開後にアップデートした採掘基地防衛戦の第3弾、「絶望」という名前だったんですけど、それが非常に好評で、実際に同時接続数が10万人をこえたりもしています。10万人をこえたのがちょうど1年ぶりぐらい。去年のエピソード2の直前くらいが10万人をこえていて、最後に10万人ごえを記録したのがエピソード2の直後ぐらいなんです。その約1年後に10万人のユーザーさんのアクセスがあったので、そういう意味では、ほとんどDDoSの影響なく回復できている状況かなあと思いますね。

 

――ゲームのオーディエンスをひろげるため、PLAYISMSteamなど、大きなユーザーベースをもつほかのプラットフォームへ展開する予定はありますか?

木村氏:
『PSO2』は長く運営していきたいと思っています。もともと10年はやりたいなという話を、サービスインの時から言っているタイトルです。なので、今後将来的にほかのプラットフォームで展開する可能性について、今の段階で全否定をするつもりはないです。ただいまのところ、予定はないですね。

実際にハンゲームさんとはやっているので、技術的にできるものだと思っています。ただ先ほどのコンソールの話と同様、プラットフォームを増やすってことは、間口を広げることではあるんだけど、イコールでサービス全体にリスクを抱える可能性があります。Steamさんなら、Steamさんなりのサービス形態やユーザー層があって、それに対してきちんとしたサービスが提供できるのか。そのサービスをやることによって、今の既存のプラットフォームのユーザーさんに不利益がないのかってのを、考えなきゃいけない。なので、増やす時には、それなりの覚悟をもって増やしたいなと思っていますね。

 


後編へ続きます(11月15日公開予定)。

 

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