インタビュー セガ 木村裕也 [前編] 「裏」を見る『PSO2』のバランス調整

株式会社セガが運営するオンラインRPG『ファンタシースターオンライン2』。2012年7月に国内でサービスインし、現在は台湾、香港、マカオおよび東南アジア6か国でのサービスも行われている。『PSO2』のローカライズはどのように進められたのか。また同作のバランスは、どのような考えのもと調整されているのか。木村裕也氏にお話をうかがった。

株式会社セガが運営するオンラインRPG『ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)』。2012年7月に国内でサービスインし、現在は台湾、香港、マカオおよび東南アジア6か国でのサービスも行われている。『PSO2』のローカライズはどのように進められたのか。また同作のバランスは、どのような考えのもと調整されているのか。AUTOMATONは、『ファンタシースターオンライン(以下、PSO)』シリーズディレクターである木村裕也氏にお話をうかがった。

[収録日: 2014年10月某日]


――『ファンタシースターオンライン2』の台湾版では、台湾版限定のオブジェクトやコスチュームが配信されています。同じように、ほかの地域で限定コンテンツを配信する予定はありますか?そういった限定版のコンテンツが日本へ逆輸入される可能性は?

木村氏:
いま実際に運営している国以外で運営することになった場合は、多分その地域や季節にあわせたイベントのアイテムを入れていくことになるかなあと思います。そのあたりは、現地のパートナーとなる会社があると思うので、そこと協力したりとか。セガも北米と欧州にあるので相談しながら、なにかを入れていったりする可能性はあると思います。まあ国によってですね。

あと海外で入れたものは、しばらくのあいだは海外限定という形だと思うんですけど、しばらく経って海外限定をこだわらなくてもいいかな、となったら、国内にも逆輸入はしたいなとは思っています。

 

――現時点で、この国にこういったモノを出したいという具体的なプランはありますか?

木村氏:
『PSO2』は、季節ごとにロビーに飾りがでるんです。そういったところは、国特有の風物詩みたいなものを飾りたいなと思っています。あと『PSO2』は、スクラッチで収益の多くを得ていますので、そのスクラッチの売り上げがあがるような、その国の方に喜ばれそうなコスチューム……たとえば民族衣装だとか。あとは、その国の企業さんとコラボとか、できればやりたいなと思いますね。

 

――海外の会社と運営ライセンス契約を結ぶ際に、ここだけは譲れないゲーム上のポイントはありましたか?

木村氏:
ゲームの形もそうですし、課金のスキームもそうなんですけど、『PSO2』でやってるスタイルは世界的に見ても結構独特なんです。まずそこを基本理解していただいた上で、運営をお願いしたいなと思っていて。たとえば、たまにお話するなかで、『ファンタシースター』の素材を使ってまったく別のゲーム作りたいとか、今はMOという形を取ってるんですけど、これをMMOに改良してくださいとか言われてしまう。

大きく作りなおしすること自体のリスクもあるんですが、それ以前にそうなると、全然別のゲームを運営するのと変わらないので。あくまで日本で成功しているスタイルというのを、うまく各地域に落としこんで、それを成功させるビジョンが共有できる会社さんが大前提かなと思いますね。

 

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――現在やはり、メインターゲットは日本に設定しているのでしょうか。

木村氏:
『ファンタシースターオンライン(以下、PSO2)』以降のシリーズを、ドリームキャスト時代から海外展開ふくめてやってきたなかで、もっとも高い評価をいただいているのは、国内のユーザーさんからです。ですが、国内ほどではないにしろ、海外ユーザーさんからも支持はいただいてきました。それで、『PSO2』をサービスインするにあたって、社内でも世界同時サービスインしないのか、という話は当然でたんです。ただ、我々がFree-to-Playという新しいスタイルに初めて挑戦するのもありまして、いきなり全世界で同時にサービスを展開するという自信が、正直ありませんでした。

あとは、国内で成功させるのは絶対かなというところもありました。国内だけでちゃんと収益がでて、国内のユーザーさんに喜んでもらえるタイトルにするというのが最初で、それがうまくいった時点で各国にもっていけたらと。まあ最初のころは、それほどまではくわしく考えてなかったんですけども、漠然とそういったことは想定していましたね。

今は確かに国内がメインターゲットになります。ただアジアの方でも運営しているので、専任のアジア版開発スタッフがいて、彼らは彼らでアジアをメインターゲットにやっています。今はターゲットとしている国ごとに、スタッフがチーム内でアサインされているというような形ですね。

 

――先日、中国でXboxが販売できるようになりました。今後の状況は不透明なのですが、PlayStationやPS Vitaが中国でリリースされた場合、『PSO2』を中国でも展開することは考えていますか?

木村氏:
今のところはまったく考えてませんが、可能性はゼロではないと思います。ただ中国は、ものすごいオンラインゲーム大国ですし、もし挑戦するとしたら、生半可な覚悟ではだめだなと思っていて(笑)さきほど各国で対応するにあたって、大きな作り直しをするつもりはないと言ったんですが、もしかしたら中国では、ローカライズをしっかり、やらないといけないかもしれない。それはテキストだけではなくて、システムとかUIとかも。そのへんまでしっかりしないと、成功しないかもという意味では、もしやるとしたら、かなり覚悟をもって進みたいなという意思があります。

 

――やはり中国の法律がありますよね。

木村氏:
そうですね、法律問題は当然ありますね。各国に対応するなかで一番問題となるのは、当然ユーザーに対してのテキストやコンテンツのローカライズですが、あとやはり国の法律というのが大きな枷とはなってくるんで。それにあわせたシステムとか仕様も必要ですが……。まあそもそも、現段階での我々の勉強もちょっと足りていないので、何が必要になるかすら、ちょっと想像がつかないですね。なので、やるとしても相当先になる気がしています。やるとするなら覚悟してやるという、フワッとしたイメージではありますね。

 

――成功して収益がでるかは別として、個人的にだしてみたい、プレイヤーたちの反応を見てみたいという国はありますか?

木村氏:
やはりオンライン大国の韓国は興味はありますけどね。ただやっぱり、いま韓国で受けているタイトルのスタイルと『PSO2』は全然違うと思っています。それと韓国だけじゃなくて、中国もふくめて、オンラインゲーム自体の人口が若干減ってきている。ソーシャルというか、スマホの方に人がだいぶ移ってしまっている、という状況なんです。ただでもオンラインゲームが多い国なのに、さらにそのパイが減っているという状況は知っているので、そのあたりをかんがみて、挑戦する時期みたいなのは、かなり考えたいなと思います。単に興味がある国となると韓国、まあ気になる国ですよね。

 

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――今後PvPを検討する予定はありますか?

木村氏:
実はドリームキャストの『PSO』のころも、PvPとまではいかないんですけど、いわゆる対戦モードやバトルモードみたいなものがあったんです。あとPSPで発売した『ファンタシースターポータブル2』でも、バトルミッションという対戦コンテンツが入っていました。シリーズとして、ああいうユーザー同士が対戦するクエストというか、システムというのは、受けいれられる土台はあるだろうとは思っています。

でも国内のユーザーさん、そんなにそこ求めてないというのが実情でして(笑)もちろんバトルモードがあれば、それをすごく楽しんでいただける、一部コアなユーザーさんがいらっしゃるのは知っています。だから今後ほかのクエストとか、いまユーザーさんが求めているところが充実したところで、一つの遊びの方向性として考えられなくはないなあ、と思っています。導入するときは、ターゲットが局所的になってしまわないように、出来るだけ多くの人に遊んでもらえるようにしたいですけどね。どちらにしろ、今の段階で全否定するようなステータスではないと思っています。

 

――大幅にバランスを変更する際に、ポイントとしている点はありますか?

木村氏:
非常に難しいところです。ユーザーさんからの要望とか、不具合の報告を送っていただけるフォームがあって、毎日そこへ数百通は意見をいただいています。アップデート後は1000件を超えるぐらい(笑)そういうのを傾向別にまとめて、こういう意見が多いですというのを報告してもらっています。ユーザーさんの意見というのをまず第一に考えていて、基本的にはこれらの意見をもとに、バランスをこう変えた方がいいんじゃないかとか、ここは問題があるんじゃないかと考えるんです。

ただ実は、その裏で不満を持っていないユーザーさんは意見をわざわざ送らない、ということを忘れてはいけないんですよ。いま大丈夫です、ここ問題ないです、とは言わないので(笑)なにかに対して変更をくわえる際には、常にその変更をしなくてもいいと思っている人たちが裏にいる。その人たちの考えを、我々自身が感じとらなければならない。意見だけを単純に数値化して、こういう意見が500件きてたから、じゃあこれやりましょう、という話ではないんです。ただ意見がきていてないだけで、満足している人が500人いるかもしれない。なので、なかなか安易にはバランス調整に踏みだせない、というところがありますね。意見は重要ですけど、本当にそれは全員の意見なのかというところ。ちょっと偏った人たちの意見だけ来ているんじゃないか、というのは常に考えています。たとえばTwitterだとか、各種掲示板だとかの書き込みも参考にしています。

あとは、実際に我々自身がプレイしてみて、どうかというところですね。最終的にはクリエイターとしての判断でジャッジして、方針を決めています。

 

――いまのところ、ユーザーから一番多く寄せられている要望はなんですか?

木村氏:
やはり戦闘するゲームですので、職業……まぁ『PSO2』でいうところの、クラスについての要望が多いですね。クラスごとのバランスに関しては、運営開始の当初からご意見をいただいている部分です。やはりみなさん、自分で使われているクラスは一番になってほしいと思われているというか(笑)理想は、すべてのクラスが同じ強さのバランスになることなんです。でもそれぞれの職業は役割がちがうので、どうしても均一でたいらにはならないんですね。なので、どうしても、時期によって特定のクラスがちょっと強かったり、特定のクラスがちょっと弱かったりするんです。そしてちょっとでも弱ければすごく不満に思うし、逆に強いクラスに対し妬みがあったり。

実際に、システムなりパラメーターのバランスがあまりよくなくて、ちょっと突出してしまっているクラスが出来てしまうこともあります。これは我々の失態でありまずいところで、こういう点に関しては非常に強い意見をいただいてます。ただ実際に、「このクラス強すぎるんじゃないか?」って話がでたときに、普通はそれを下げればいいと思うかもしれないんですけど、ただ下げると、それに満足されている方が逆に不満をもってしまう。先ほど話した件ですね。「こいつ強すぎるよ」っていう意見は沢山くるんですけど、「これで満足」という意見はあまりないので。たぶん、強すぎるよって意見だけを優先して下げてしまうと、満足していた方がすごく不満をもってしまう。

じゃあ逆に、ほかを上げたらいいのかというと、それをやるとどんどんインフレしてしまうんですね。強さがどんどんインフレしていって、ゲームバランスがぜんぜん取れなくなってしまう。インフレしていくと、なにがまずいのかというと、初心者の方が入ってきたときに、トッププレイヤーとすごい差がついてしまうんですね。

 

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木村氏:
ユーザーさんは、強いクラスと弱いクラスがある時に、強いクラスを下げろと言う。あるいは下げないんだったら、弱い方を上げてくれと言う。実はどちらも問題があって、弱い方をあげるとインフレに進んでいくし、強い方を下げると、もともと満足していた人たちが非常に悲しい思いをされてしまう。

とはいえ、結局はどちらかしかないんです。上げるか下げるかしかない。なので、やるときは、現段階だけじゃなくて、今後将来的にあるアップデートを考慮したうえで実施します。たとえば一時的にインフレをするとしても、実はこのあとのアップデートで強い敵が出てくる、初心者に対して対策が打てるという目処があるなど、我々自身の構想と意見が合致するときに、強くしたりします。逆に今後のアップデートを考えても、すごくバランスが悪いなというときは、申し訳ないけども、将来を見越して弱くすることもあります。そこが強すぎることによって、今後のアップデートに関して、そこが強いということ前提でバランスを取らなきゃいけなくて、どんどん歪んでいく可能性があるんです。新しく強い武器を出すとなっても、そのバランスを前提で作んなきゃいけないとなって、やっぱりインフレしてしまうので。そういった将来を見こした上での決定をするという形でやっていますね。

バランス調整をする際には、下げます上げますという話を事前に告知させていただいて実施するんですけど、まあ毎回どうしても賛否両論にはなりますね。その時ちょっと我々としても心苦しいのが、将来的なアップデートの構想を、その時点でくわしくはお話できないんですね。いちおう、今後将来を見こして調整してますと告知するんですけど、じゃあその将来ってなんだと、ユーザーさんは当然思われるんです。バランス調整をする際には、できるだけ納得していただけるような告知とあわせるというのを、心がけてやっています。ただ、バランス調整のたびに様々な意見をもらうので、告知の仕方ふくめて毎回勉強させられますね。

 


中編へ続きます(11月14日公開予定)。

 

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