家族経営のインディーデベロッパーは「自由な創造」を『Popup Dungeon』で作る

Triple.B.Titlesは、夫婦と夫の弟の3人が所属するという、世にも珍しい家族経営のインディーデベロッパーだ。日々どのように開発は進められているのか、また『Popup Dungeon』の魅力とはなんなのか、夫のEnrique Dryere氏に話をうかがった。

米国テキサス州ダラスに位置するインディーデベロッパーTriple.B.Titlesは、ローグライクタイプのダンジョン探索ゲーム『Popup Dungeon』を開発中だ。本作は2014年にKickstarterファンディングにて開発資金10万ドルを獲得、さらに現在は国内のクラウドファンディングサイトCrowdriveにて、日本語ローカライズのため150万円の資金を募っている。

Triple.B.Titlesは、夫婦と夫の弟の3人が所属するという、世にも珍しい家族経営のインディーデベロッパーだ。日々どのように開発は進められているのか、また『Popup Dungeon』の魅力とはなんなのか、夫のEnrique Dryere氏にお話をうかがった。

 

夫婦と弟で営むゲーム開発スタジオ

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家族経営のインディー開発スタジオTriple.B.Titles

――Dryere氏はどういう経緯でゲーム開発者を目指されたんですか?

Enrique Dryere氏:
僕たち兄弟は小さなころから馬鹿みたいにゲームに熱中していて、それを正当化する方法はやっぱり開発者になることじゃないかと思ってたんだ。ただ、ゲームを遊ぶという経験は豊富でも、ゲームを作るということに関しては、まったく知識が無かった。2つ目の学位を取ろうと思って大学に戻り、弟と一緒にコンピューターサイエンスとアート&テクノロジーを勉強した。

そのあいだ、初めてのゲーム開発(『Ring Runner』)に手を出したんだけど、完成する前に卒業してしまったので、Kickstarterにちょっと助けを求めなきゃならなかった。ありがたいことに、なんとか成功することができたよ。ただ僕にとっては物凄く忙しい時期でもあった。卒業して、さらに初のゲーム開発を終えようとしていた上に、Kickstarterファンディングの管理もしていたし、それに今の妻のコートニーとも出会って結婚も決まった。さらに初めての小説もやっと完成させてたころで、初の音楽CDも作ったし、そしてまたさらに『The Next Game Boss』というゲームをベースにしたリアリティー番組にも出演していた。これらはすべて1年間での出来事さ。

――大学卒業に結婚にゲームに小説執筆にCD製作……嵐のような1年間です。

Enrique Dryere氏:
で、なんとかやり通すことができた!『Ring Runner』は商業的に大成功とはならなかったけど、2回目の『Popup Dungeon』のKickstarterファンディングでなんとかお金を集めて、ゲーム開発の旅は続けられるようになった。

――Triple.B.Titlesは家族運営のインディーゲームスタジオだと聞いています。所属しているメンバーのプロフィールを教えていただけますか?

Enrique Dryere氏:
弟のポールはプログラマーをやっている。妻のコートニーはメインの2Dアーティスト。それ以外のことを僕がほとんどやっている感じだね。僕たちのスタジオでは一人ひとりの役割が結構ハッキリしていて、仕事も人間関係もスムーズなんだ。

あと『Popup Dungeon』に関しては、ほかにもGabriel Lefkowitzという作曲家を雇っていて、彼はサントラに元気なオーケストラ風の楽曲を提供してくれている。

――ちなみに、「Triple.B.Titles」の由来は?

Enrique Dryere氏:
Triple.B.Titlesというのは、トリプルAタイトルをベースにしたダジャレなんだけど、もともとは昔のゲーセンでよく聞こえてくる音がインスピレーションとなった。最初は「ビービーブー(”beep beep bloop”)」という擬音の略みたいなもんで、「スペース・シューターRPG」だった1作目の『Ring Runner』にぴったりあう感じだったんだ。

家族経営スタジオの日常

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一番左端の人物が弟のポール氏。右には妻のコートニー氏と、今回取材に応じてくれたエンリケ氏が並ぶ(via Kickstarter

――その「Triple.B.Titles」は、普段どのようなスタイルでゲームを開発をしているんでしょうか?仕事中もプライベートも常に家で一緒だと、ストレスが溜まって喧嘩してしまいそうです。

Enrique Dryere氏:
僕たちは3人とも同じタウンハウスに住んでいる。基本的に昼ごはんと夜ごはんは毎日3人一緒で、ゲームについて話したり仕事をコーディネートしたりする時間はたっぷりある。というか、時間がちょっとありすぎるね!喧嘩はそれほどしないけど、たまにゲーム機能の細かいところとかで、まあまあ熱くなって言い合いしたりすることはある。でもやっぱり”自分の家”というプライバシーがあって、心地のいいところにいるからこそ、そういう話がしっかりできるっていうところはあるよ。レストランとかジムとかで口論したら、周りの人たちに「なんだあいつら」って思われるだろう!

――普段の1日のスケジュールはどういう感じなんでしょうか?

Enrique Dryere氏:
昼12時ぐらいに起きて、朝昼ごはんを食べる。そこから夜9時か夜10時ぐらいまで仕事。ジムに行ってシャワーに入ったりして、それから晩ごはんを食べる。だいたいアニメを見ながらね。それでまた朝3時から朝4時まで仕事して、次に朝5時までゆっくり休んだり、ほかのゲームをプレイしたりする。土曜の夜はジムで動いて、夜ご飯のあとに休みをとるようにしてるんだけど、それ以外はだいたいこんなスケジュールなんだよね。こんな規模のゲームを3人がかりで完成させるとなると、やっぱりこういう風にやらないと無理なんだ。

――かなりハードスケジュールですね。家族運営というスタイルは、開発の手助けになっていると思いますか?

Enrique Dryere氏:
役に立っていると思うよ!余計な気を使う必要は無いし、いわゆる社内風紀みたいなのを気にしなくてもいい。やっぱり家族同士だから、すごく仲のいい人としかできないようなダイレクトでフランクな話し合いができるというのも楽だ。

それと良い意味でだけど、僕の弟とは”同胞との抗争”みたいなのもある。2人とも「こいつには負けたくない」という意識でおたがいをプッシュし合ってるんだ。だからよりいい仕事ができるようになっている。

作りたいものを作るだけではなく

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処女作『Ring Runner: Flight of The Sages』

――Triple.B.Titlesの処女作となった『Ring Runner』ですが、『Popup Dungeon』とは大きく毛色の違う作品ですね。開発はどのように進められましたか?

Enrique Dryere氏:
さっきも話したように、これが始めて開発したゲームだった。正直、「ゲームデザインの探検」みたいな体験だったな。『Ring Runner』にはあまりにも沢山のミニゲームやゲームモードが入ってるからね!開発中にいろいろな疑問があがってきたんだよ。たとえば、レーシングゲームを作るのはどうかな?格闘ゲームは?パズル系は?RTSでも?で、結局スペースシューターというジャンルの制約の中でやってみようと決めた。その結果として、今までのスペースシューターの中で、一番バラエティー豊富なゲームができたんじゃないかなと思う。

もともとのアイデアは、私たちが子供のころによくやっていた『Silent Death Online』というゲームから来てるんだ。複数のプレイヤーがチームに分かれて、カスタマイズした宇宙船でお互いのベースを破壊しようとするやつだ。あのタイトルは90年代後半に1時間いくらっていう支払いシステムでマネタイズされていたゲームで、私たち兄弟は両親のクレジットカードを使って1000ドルぐらい課金してしまった。当然、それがバレたら、もう二度と遊ばせてもらえなくなったんで、一つのことを決めたんだ。そのゲームの代わりになるような、もう少し現代風で、誰も困らせないような納得のいく価格で遊べて、ストーリー中心のアドベンチャーゲームを自分らで開発しようってね。そういえば、私たちのゲームは昔の『Silent Death Online』の1時間分の価格で買えるんだよね。

――『Ring Runner』の開発でどのようなことを学んだと思いますか?

Enrique Dryere氏:
あれはすごくためになる経験だった。『Ring Runner』の開発を始めたとき、2年ぐらいはかかるだろうと思っていた。最終的には、完成させるのに5年と少しかかってしまった。その時には、もうすでに業界自体がかなり変わっていたんだ。それで「ただ自分がやりたいようなゲームを作るだけ」だけじゃなくて、「ユーザーのニーズと現在の業界のあり方を参考にゲーム開発に挑む」ということを覚えることができた。この考え方は真剣にゲーム開発に挑む人なら必須だと思う。どちらもできるという方法が見つかれば、それが一番ベスト!

あと僕らとしては、『Popup Dungeon』は『Ring Runner』と同じような感じなんだ。ただ開発に専念しているだけじゃなくて、「いつか絶対プレイしたい」と思えるようなゲームでもある。その2作品の一番大きな違いというのは、開発を始めた時に自分たちに業界に対する知識が有ったのか無かったのかだと思う。ゲームを遊ぶという豊富な経験も、確かにいろいろな面で役には立っていると思うけど、逆にそのせいでもっと幅の広いユーザーベースに向けたゲームを作り出すことがちょっと難しくなった気もする。これは『Ring Runner』を開発して学んだことで、今後もずっと頭に置いておいて前向きに進もうと思っている。

――『Ring Runner』の次に、Triple.B.Titlesは『Dungeons and Deuces』を無料でリリースしています。これは前作とかなり毛色が違って、カードゲームですね。

Enrique Dryere氏:
家族や友達とボードゲームをプレイしている間に、少しずつ手がけてきたサイドプロジェクトみたいなものだ。プレイヤーがカードを印刷しなくても遊べるようにしている。もしかしたら、いつかは製品版をリリースするかもしれない。ただ、当時はとりあえず『Popup Dungeon』にできるだけ集中したかったから、(『Dungeons and Deuces』に)そこまで時間と力をかけていられなかった。でもいちおう、みんなと共有したいなと思えるぐらいは面白かったからね!

自由に創造できるゲーム『Popup Dungeon』

――現在開発中の『Popup Dungeon』ですが、どのような経緯で開発がスタートしたんでしょうか?

Enrique Dryere氏:
僕たちが何十年も前からずっとやってきているボードゲームから着想を得ているね。たまに遊ぶ『ダンジョンズ&ドラゴンズ』はルールの厳しい紙とペンのRPGだけど、やっぱり思う存分キャラクターや特殊能力を考えて遊べる自由が一番大きいと思うんだよね。たとえばダンジョンのマスターとビールを飲みながら話し合って、「今回はこういう風に遊ばないか」と説得してみるとか。でもデジタル環境になると、その自由をどう再現すればいいのかという大きな疑問が生まれた。その結果、『Popup Dungeon』が生まれたわけだ。

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『Popup Dungeon』にはリッチなエディターが存在する。面倒な計算は全てゲーム側が処理する仕組みだ

――その『Popup Dungeon』ですが、あらためて読者に作品内容を教えて頂いてもよろしいですか?

Enrique Dryere氏:
『Popup Dungeon』は、ペーパークラフト風のローグライクなダンジョン探索ゲームだ。キャラクターや敵、武器、アイテム、スキルなど、発想さえできるなら、どんなものでもゲームにも取り入れることができる。

――ほかのダンジョン探索ゲーム、特にローグライク作品と比較すると、『Popup Dungeon』のリッチなクリエイションエディターや素晴らしい自由度の高さは大きな特徴であると思います。この点について話して頂けますか?

Enrique Dryere氏:
一番大きな特徴としては、モノを作ること、そして自分作ったモノを人とシェアすること、この二つの可能性だ。このゲームなら、「悟空」と「ルフィ」が「バットマン」と「スーパーマン」と組んでダンジョン探索に出かけることだって可能だ。自分の好きな漫画やテレビ番組、映画、小説などのお気に入りのキャラクターを作ったり、ダウンロードしたり、カスタマイズしたり、ミックスしたりすることもできるんだ。自分か友達が飼ってる猫ちゃんをキャラクターにして遊ぶことだってできる!このシステムのなかでは何もかもが可能で、しかもバランス取りはこっちが裏で管理してるわけだから、プレイヤーはそういうのを気にしなくていいしね。

そして忘れてはいけないのが敵キャラ!たとえば、会社の上司の写真を撮って、ゲームの中でボスキャラにすることだって可能なんだ。出てくる敵キャラが遊ぶたびに毎回新しくなるように、自動ダウンロードプロセスをオンにして遊ぶこともできる。可能性はほぼ無限だ。

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ファイナルファンタジータクティクス

 

日本のゲームから受けた影響

――『Dungeons & Deuces』や『Popup Dungeon』を見ていると、Triple.B.Titlesにはテーブルトップゲームからの影響があるのかなと感じられます。

Enrique Dryere氏:
私たちにとって、テーブルトップゲームは心の中で特別な存在という感じなんだ。友達と遊ぶ時だってビデオゲームじゃなければテーブルトップゲームをやっている。ただ、私たちからしたら「テーブルトップゲーム」よりも「RPG」の方がでかいと思う。『ドラゴンクエスト』とか『ファイナルファンタジー』とかは初期のころから一番好きなゲームで、RPG特有の戦略やキャラクター作成、ワールド探検などが大好きだ。

――本作には『ファイナルファンタジータクティクス』が影響を与えたと聞きましたが、ほかに『Popup Dogeon』に影響を与えた日本のゲームはありますか?

Enrique Dryere氏:
“80年代の子ども”らしく、やっぱり日本のクラシックゲームを遊んで育ったんだよ。戦術的にはターンベースRPGであり、レイアウトも似たような感じだから、『Popup Dungeon』に関してはやはり『ファイナルファンタジータクティクス』の影響が一番大きかったと思う。ただ一番好きなRPGはというと『ファイナルファンタジーII』、『FFIV』、そして『クロノ・トリガー』かな。さらにさかのぼると、もっとも僕をターンベースストラテジー好きにしてくれたのは、旧ハドソンの『Military Madness』だ。日本では確か『ネクタリス(Nectaris)』ってタイトルのゲームだった。

Crowdriveで日本語ローカライズへ

interview-popup-dungeon-developer-007――Kickstarterファンディングに続き、Crowdriveにて日本語ローカライズのため開発資金を募っていますね。どうして日本向にリリースしようと考えたんでしょうか?

Enrique Dryere氏:
正直に話すと、Crowdriveの人が声をかけてきてくれたんだ。それでこのキャンペーンをやってみようという勇気がやっとわいてきた。それに昔から日本のことが大好きだったからね。日本のゲームを遊んで育っただけではなくて、夫婦と日本語の勉強もしてきた。まあまだまだ下手だから、もっと話せるようになりたいと思っている。それに日本のアニメとか「ゲームセンターCX」みたいな番組などは常に観ているよ。

私たちのゲームをぜひ日本に持っていきたい、持っていけたらなあとは思っていたけど、単純にそれができるようなリソースやコネなんかが無くて、それでCrowdriveに助けを、という感じだった。Crowdriveの助けがなければ、日本のオーディエンスにゲームを披露することは、まずできなかったね。

――『Popup Dungeon』の開発進行度を教えて下さい。完成はいつごろを予定していますか?

Enrique Dryere氏:
これだ、という正確な完成度はちょっと言いづらい。とりあえずクリエイション段階だと、もうすでに基礎的な部分は完成していると言える。ビジュアルとオーディオのリソースに関しては、現時点で出来上がっているのは4つのタイルセット、何十人ものキャラクター、100体近くの敵キャラ、数百個のパーティクルエフェクト、数百個のSE、カードイメージもいっぱいあるし、そして数か月以内に楽曲の収録も全部準備完了しそうだ。

とはいえ、まだまだやらなければならないことは沢山ある。第一に、まずはクリエイションUIとバトル用インターフェイスに関連するグラフィックスを作らないといけないし、そして最も重要なAIだってまだプログラミングしてない!

――最後に、AUTOMATONの読者や日本のゲーマーたちにメッセージをお願いします。

Enrique Dryere氏:
僕たちが作ったゲームを一度試しで遊んでくれることを心から願っています。日本のみなさんが作り出す面白いキャラクター、武器、スキルと、それを楽しんでいるところをぜひ見たいと思います。話を聞いてくれてありがとうございました!

――ありがとうございました。

MCqhyxs[聞き手: Shuji Ishimoto]

[翻訳: James R. Mountain]

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