5億人が遊ぶゲームアプリ『キャンディークラッシュ』 King Japan代表取締役 枝廣 憲氏インタビュー

これまでに全世界で5億件ものダウンロード数を記録しており、オーバーな表現ではなく世界をまたにかけた“モンスターアプリ”のひとつ『キャンディークラッシュ』の日本法人であるKing Japan代表取締役を務める枝廣 憲(えだひろ けん)氏にインタビューした。

ビデオゲームを普段プレイしていなくても、あるいは普段スマートフォンゲームに手を出さなくても、『キャンディークラッシュ』の名を一度は聞いたことがあるのではないだろうか。本作はKing Digital Entertainmentが開発、配信しているパズルゲームアプリだ。2012年4月にFacebookアプリとしてスタートし、同年11月にiOS版、12月にAndroid版がリリースされた。そして本作は、これまでに全世界で5億件ものダウンロード数を記録しており、オーバーな表現ではなく世界をまたにかけた”モンスターアプリ”の1つである。

先日には、姉妹作の『キャンディークラッシュソーダ』もリリースされ、その人気はさらに拡大中だ。国内でも、遠藤憲一氏と岡田准一氏を主役としたテレビコマーシャルを放映するなど、独自の展開が続けられている。そこで今回は、『キャンディークラッシュ』の日本法人であるKing Japan代表取締役を務める枝廣 憲(えだひろ けん)氏にインタビューした。世界中で人気となった『キャンディークラッシュ』を、どのような戦略のもとで日本へ展開したのか。また今後のプロモーションプランについても訊いてきた。

 

『キャンディークラッシュ』。スマートフォン向けアプリの印象が強いが、Webブラウザ上などでも遊ぶことができる。
『キャンディークラッシュ』。スマートフォン向けアプリの印象が強いが、Webブラウザ上などでも遊ぶことができる。

 

King Japan 代表取締役 枝廣 憲氏
King Japan 代表取締役 枝廣 憲氏

――King Japanは2014年から正式に活動を開始しました。現在までの手応えを教えてください。

枝廣 憲氏:
ユーザーさんの数に関して言うと、市場的にトップクラスにまで来ている感触があるので、飛躍の一年だったとは思います。電車に乗ってても、飲食店に行っても、Kingの作品をプレイしている方が多くて、ユーザーさんが増えたことを肌で感じていますね。

――『キャンディークラッシュ』はFacebookでも展開されています。ただ、日本での広まり方は、FacebookではなくCMの力が大きかったのではないかと思いました。その辺りはどのように捉えられていますか?

枝廣氏:
やはり、日本人のライフスタイルに合わせたプロモーションってあると思うんですよ。日本人って、世界の中でもかなりテレビを見る方なんですね。1日を100だとしたら、10くらいはテレビの前にいるわけです。なので、そこには何かしらのチャンスはあると思ってます。

――『キャンディークラッシュ』の姉妹作である『キャンディクラッシュソーダ』のテレビCMを拝見しました。かなりフレッシュな内容です。製作には、枝廣さんご自身も意見をだされたんですか?

枝廣氏:
はい。『キャンディークラッシュ』もそうなんですけど、King全体の傾向として、何かしら際立った部分を出したいと思っているんですよ。なので、僕らのほうでもかなり検討を進めながら制作しています。

――KingのCMは、ゲームのCMであるのにゲーム画面を一切出していないですよね。これには何か意図があるんでしょうか。

枝廣氏:
単純に、企業姿勢ですね。Kingはエンターテインメントカンパニーなので、CMですら、何かしらのエンターテインメント要素を入れ込みたいと思っているんです。「うちのゲームをやれ」みたいな、押し付けるような表現には、絶対にしたくないと思っていました。

――KingのCMは非常に高く評価されていると思います。

枝廣氏:
そうですね。業界内で一番好まれたCMにも選ばれていますので、非常に光栄なことだと思っています。

 

019

――『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』は、ユーザーコミュニティとの関係を大切にしていますよね。Kingはユーザーコミュニティについて、どのような考えをお持ちですか?

枝廣氏:
日本は日本の、グローバルにはグローバルなりのやり方がありますよね。弊社は本国がヨーロッパなんですけど、ヨーロッパのスタッフは、日本のゲームカルチャーを学ぼうという姿勢がすごく強いんですよ。ただ、KingにはKingの良さがあって、Facebookでライフが送れるとか、友達と助けあいながらプレイできるとか、そういう良いところは、もっともっと伸ばしていきたいと思っています。

――Kingと言えば、世界中で展開しているイメージがありますが、King japanとしては、日本をメインターゲットにしたタイトルも予定していたりするんでしょうか?

枝廣氏:
うーん。今のところはないですね。Kingのマンスリーアクティブユーザーって、5億人以上いるわけですよね。その人達に何か1つのものを投げ込んだ時、それが5億倍の広さで広がるわけです。なので、それをあえて地域限定でやるよりは、グローバルネットワークに乗っけたほうが凄いパワーになると思うんです。

――なるほど。となると、日本のみでの展開は難しいですね。

枝廣氏:
日本をメインにタイトルを投入して、上手くコントロールできれば可能性はありますが、基本的にはグローバル・スタンダードという考え方ですね。

――Kingは様々な場所に開発拠点がありますが、いずれ日本にも開発拠点を置く可能性は?

枝廣氏:
可能性はゼロではないですね。ただ、開発スタッフがヨーロッパにいるので、僕がヨーロッパに行ってスタッフと打ち合わせしたほうが、企業としてはヘルシーなのかなと。

――Kingとしては、今後もスマートフォンを中心に展開していくんですか?

枝廣氏:
今はスマートフォンが中心ですけど、プラットフォームを限定するつもりはないです。ただ、スマホやタブレットは世界中の人が使っていますから、現段階ではやはりスマホがメインになるのかなと。その一方でスマホが普及していない国もありますので、そういったところには、何か別の形でタイトルを供給したいとは思いますね。

――日本のゲーム市場は、世界の中でも特殊な市場だと思います。こういう部分が日本では難しかった、というエピソードはありますか?

枝廣氏:
Kingは日本のマーケットの難しさをとても理解しています。『キャンディークラッシュ』のローカライズにしても、「Kingはローカライズで損をしてる」って、ずっと言われてたんですよ。言語をきちんと日本語に直せる人がいないと。

そこで、日本のオフィスを立ち上げることなったんです。そしたら今度は、テレビCMの制作に苦戦しました。日本のテレビCMの出し方って、凄く特殊なんですよね。なので、まずはやり方から学ばないといけない。また、日本法人がないと取引してくれない企業もあったりして……。なので僕がKingに入る前、先輩方は色々な苦労を経験されていたみたいなんです。そのこともあってか、先輩方は「お前(枝廣氏)がいるから、できることがいっぱいある」と言ってくれました。

 

045

――ちなみに最新作の『キャンディークラッシュソーダ』は、『キャンディークラッシュ』に比べると、少し難しい気がしました。子供には厳しい難しさかもしれません。そこでお聞きしたいんですが、『キャンディークラッシュ』シリーズは、どの層をメインターゲットとして捉えてるんですか?

枝廣氏:
これはKingのコンテンツ全体に言えることなんですけど、今のところは、20歳を過ぎたお客さんにコンテンツをお届けしたいなという気持ちが強いですね。TVCMなども、対象年齢を高めに設定していますし。

――意外でした。ゲーム性やキャラクターを見ていると、低年齢層にも訴求していきたいのかなと。

枝廣氏:
それはよく言われますね。ただ、『キャンディークラッシュ』って少し頭を使ったりもするじゃないですか。面白さと難しさのちょうど良いところを突いているゲームなので、やはり、どちらかというと大人向けですよね。

――男性女性の比率でいうと、いかがでしょうか。

枝廣氏:
どちらかというと女性のユーザーさんが多いですね。ただ、これはコンテンツによりけりななので、一概には言えません。アクション寄りのゲームは男性ファンが多かったりしますし。なので、大人向けなのは間違いないですけど、性別に関しては、特に間口を設けることはしていないです。

――『キャンディークラッシュ』はFacebook版が先に立ち上がったという経緯があります。現状、Facebook版の稼働率はどの程度あるのでしょうか。

枝廣氏:
これは、国によって恐ろしいくらい違うんですよ。Facebook版の稼働率がゼロのところもあります。ただ日本に関して言うと、モバイルが圧倒的に多いですね。まあ、Facebookに繋ぐことによるメリットが大きいので、なにを持ってFacebook版と呼ぶかは微妙なところですが(笑)

――国民性も関係してるかもしれません。

枝廣氏:
日本は電車での移動時間が長いから、開いた時間にちょこっとだけプレイする方が多いですよね。逆に車社会の国だと、家でプレイしたりすることもあると思います。なのでプレイスタイルは、国によって様々ですね。

――では、OS別の比率はいかがですか?

枝廣氏:
日本が世界で唯一だと思うんですけど、App StoreとGoogle Playのマーケットサイズがほぼ一緒なんですよ。韓国ではGoogle Playのシェアが圧倒的に多い。逆にアメリカだとApp Storeのほうが多いなど、本当、国によって違うんですよね。

 

015

――枝廣さんは、ゲームを含むエンターテインメント業界は、今後どうなっていくと思いますか?

枝廣氏:
まだしばらくは伸びるんじゃないかと思いますね。スマホは日本での普及率がやっと50パーセントを超えましたが、すぐに70、90パーセントになっていくと思います。レイトマジョリティーと呼ばれている人達が、どんどんスマホを持つようになる。これは、Kingが掲げる、カジュアルエンターテインメントという思想に適していると思います。

ただ、そういう人達が、いざゲームを始めようと思った時、なにが良いゲームか分からない。そこで、とりあえず『キャンディークラッシュ』から始めてみようという感じになってくれたら嬉しいですね。韓国やスウェーデンでは、凄い勢いでスマホの普及が進んでいるので、こういったことが発展途上国にも広がっていくと、スマホのシェアはさらに物凄いことになると思います。

――業界を取り巻く環境は常に変化していて、優秀な人材はどこに行っても重宝されます。そういう面から見て、今のゲーム業界についてどのような考えをお持ちですか?

枝廣氏:
ゲーム業界のエンジニアのクオリティが、凄く上がってきたなという印象はありますね。あと、言語にしても開発会社にしても、色々と多角化してきていると思います。テクノロジーやプロモーションも変わってきている。なので、非常に面白い時代になってきたな思いますよ。

031

――ふたたび話を『キャンディークラッシュ』に戻しますが、今後のプロモーションはどのように展開しようとお考えですか?

枝廣氏:
僕らは常に、唯一無二の存在でありたいと思ってます。ほかの会社さんがやってないことを、どこよりも先にやってやろうという考えは常にありますね。CMも、ゲーム画面を出さなかったり、モノクロにしたりとか、他とは違うテイストにしていますし。

――『キャンディークラッシュ』のCMは、いい意味でゲームらしくないと感じます。

枝廣氏:
やはり、どのタイトルよりも目立たなくてはいけなかったっていうのが大きいですね。あと、あまりにゲームっぽいCMにすると、やはり弊害も生まれちゃうんですよ。なのでそのあたりは、凄く気を使いました。

『キャンディークラッシュソーダ』って、リリースした直後はほぼノープロモーションだったんです。そこで我々がなにをしたかというと、Kingが今まで培ってきたネットワークをベースに、別コンテンツから『ソーダ』に誘導していったんです。幸いなことに、App Store、Google Play、両方で1位になりました。これは、僕らがユーザーさんに提供してきたコンテンツのネットワークが、新しいコンテンツへの期待値に繋がっているということですよね。

ただその一方で、新しいデベロッパーさんがランキングで上位を取ろうとしたら、ブーストが付かないと難しい時代になってきているんじゃないかと思うんです。ある程度の資金力やバックグラウンドを持ってないと難しいなと。

――確かに、おっしゃる通りだと思います。

枝廣氏:
ただ、1つ言うと、業界にはレッドオーシャンが多いのは確かですけど、それは逆にチャンスでもある。この中で一歩先に出たら、凄いことになるぞと。なので、面白い時期に差し掛かっているとは思いますよ。

――スマートフォンアプリではコラボレーションが活発ですが、今後予定はありますか?

枝廣氏:
チャンスがあればぜひやりたいとは思いますけど、今のところ、Kingや『キャンディー』にコラボがどこまで必要であるかは分からないですね。タイミングを見て決めることになると思います。

――では、メディアミックス展開(キャラクタービジネス)などは?

枝廣氏:
以前、そういうお話をさせてもらったタイミングがあったんですけど、個人的にはあんまりピンと来てないんですよね(笑)もしかしたら本社の方でなにか動きがあるかもしれないですけど、日本発信でメディアミックス展開というのは、今のところ予定していません。

モバイルゲームに対しての愛、イコール、キャラクターへの愛とは違うと思うんですよ。『妖怪ウォッチ』は自分でキャラクターを育てていく楽しみがあるので、キャラクターへの愛着もありますけど、『キャンディークラッシュ』は全然違うタイプのゲームですしね。

――なるほど。ところで、『キャンディークラッシュ』には5億人のユーザーがいますが、その中でのアクティブユーザー数(お金を支払っているユーザー数)はどれくらいなんでしょうか?

枝廣氏:
すみません。ここではちょっと分からないんですけど、思っているよりは少ないですよ。

――それは意外ですね。やはり、無料でどこまでも遊べてしまうゲーム性というのが、おもな理由なんでしょうか。

枝廣氏:
かもしれません。ただそれは、逆に言えば喜ばしいことだと思うんですよ。ユーザーさんへの負荷が少ないということですからね。ちなみに『キャンディークラッシュソーダ』は僕もやってるんですけど、ラストまで行って、まだ1円も使っていないんです(笑)僕は海外出張が多いんですが、『キャンディークラッシュ』は飛行機の中でもできるんで、どんどん進められちゃうんですよ。

 

064

――『キャンディークラッシュ』は、現在TVCMが放送されていますが、たとえばニコニコ動画とか、別のメディアでプロモーションを行う予定はありますか?

枝廣氏:
YouTubeで『ファームヒーロー』のプロモーションをさせてもらったことがありました。こちらは、HIKAKINさんとふなっしーに共演していただいています。動画はもっとも勢いのあるメディアの1つだと思うので、面白そうなことがあれば積極的にやっていきたいですね。TVCMでなければダメということは絶対にないと思うんで。

――それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

枝廣氏:
僕らとしては、Kingのコンテンツを日本のコンテンツであると思って頂けるように努めています。CMもそうですし、ユーザーさんに寄り添う存在になりたいと思っているので、ふとした瞬間にスマホを見たら、そこにkingのコンテンツがあるというのが理想ですね。

1つのスマホに対して、1つはKingのコンテンツを入れて欲しいなと。そういう意味では、日本のデベロッパーさんやプラットフォームの方と協力していきたいと思っています。記事の読者さんや業界関係の方にもKingのゲームをプレイしていただいて、チャンスがあれば面白いお話をいただければと思います。

――ありがとうございました。

 

[聞き手 Naohiko Misuno]

077

 

AUTOMATON JP
AUTOMATON JP
記事本文: 882