一般市民虐殺ゲーム『Hatred』開発インタビュー 架空の不道徳と表現の自由


昨年話題になったインディーゲームを並べるのなら、『Hatred』の名を挙げないわけにはいかないだろう。ポーランドのデベロッパーDestructive Creationsが手がける同作は、”大量虐殺”をテーマにしたアクションシューティングゲームだ。プレイヤーは社会に対して強い憎悪を抱く男を操作し、ナイフや銃器などで一般市民をなぶり殺しにしてゆく。昨年10月の正式発表時には、ショッキングなゲームプレイトレイラーも公開された。当然ながら賛否両論あったため、決していい意味ではないが『Hatred』は昨年末に話題となったタイトルの1つである。

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だが、その過激なテーマに関する論争がヒートアップする一方で、そもそもDestructive Creationsがどのようなデベロッパーで、なにを思って『Hatred』を開発したのか。今回AUTOMATONは、Destructive CreationsのPrzemyslaw Szczepaniak氏を通じてメールインタビューをおこなった。『Hatred』がどんな作品となるのか、また今回巻き起こった一連の騒動について、Destructive Creationsの意見をご覧いただきたい。

 

 


綺麗ではないゲームにも需要がある

 

Destructive Creationsの開発メンバー
Destructive Creationsの開発メンバー

――Destructive Creationsメンバーたちの過去や経歴について教えてください。どんなゲームをプレイし、どんなゲームを開発してきたのか。

Szczepaniak氏:
私たちはそれぞれ2つのスタジオで働いてきた。大部分のメンバーはFarm 51から来ている。ゲームはシューターやRPG、レースなどが好きだ。たくさんのゲームをプレイしてきたから、ここに全ては書ききれない。

我々はFarm 51スタジオのほとんどの製品を手がけてきた。シューターもあったが、一部のメンバーはアドベンチャーやモバイルパズルゲームも開発してきた。基本的には、ゲーム開発に幅広い経験があり、ゲーム開発初心者の集団ではないということだ。

――日本のゲームをプレイしたことがありますか?

Szczepaniak氏:
もちろん。個人的には『ファイナルファンタジー』のような古いゲームシリーズ、『鉄拳』や『メタルギアソリッド』、『グランツーリスモ』が好きだね。

――Destructive Creations設立の経緯について教えてください。

Szczepaniak氏:
CEOのJarsoslawが設立のための人員や資金を持っていた。彼はそれらを投資して、Destructive Creationsやゲームのアイディアを始動させたんだ。実際に動き出したのは今年の始めからだね。

――『Hatred』のプロジェクトが始動したとき、インスピレーションはどこから得たんでしょうか。同作に影響を与えた映画やコミック、あるいは事象などはありますか。

Szczepaniak氏:
映画やゲームブックなど、沢山のものから影響を受けている。もっとも影響を受けたのは、『Sin City』のノワールの空気感に、映画版『The Rampage』、ゲーム『Postal』などだ。

――現在、『Hatred』は過激なストーリーやテーマで注目を集めている状況です。そうではなく、ゲームプレイやメカニックの面でゲーマーたちに伝えたい部分はありますか。

Szczepaniak氏:
最新の物理エンジン、それに敵を倒す豊富な手段だ。プレイヤーは様々な武器で、ほぼ全ての対象を破壊することができる。時には環境が手助けしてくれることもあるだろう。ゲームは進むにつれてロケーションが増え、クリアするのはより難しくなってゆく。ゲーム序盤は無鉄砲なシューターに思えるかもしれないが、後半では考えて行動し、戦略を立てていく必要がある。

――アクションシューティングの中では、『Hatred』の白黒のビジュアルはユニークです。なぜこのようなアプローチを採用しようと考えましたか?

Szczepaniak氏:
カラフルで可愛らしい見た目のゲームとは違うんだ。プレイヤーに、より不安で暗闇に包まれた雰囲気を感じて欲しかった。これはゲームのアイデアが生まれた時から狙っている点でもある。ゲーマーたちはそういったゲームを体験したかったようで、Greenlightへの投票は我々の想定を超えるものとなった。ゲームの世界が綺麗で礼儀正しい作品ばかりを求めているわけではない証さ。

 

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ゲームはフィクション

 

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――『Hatred』の発表後、ゲーマーとメディアは大きなリアクションを示しました。このような展開は予想していましたか?

Szczepaniak氏:
メディアが多少騒ぐだろうとは思っていたが、ここまで騒ぎが大きくなるとは考えていなかった。予想以上だったね。トレイラーやゲーム自体の議論、それにSteamから削除されて戻ってきた事件のおかげで、『Hatred』をどこのメディアでも見るようになった。著名なメディアが我々のことについて語るのは、とてもいいことだ。素晴らしいよ。

――Steam Greenlightの件については、率直にどう感じましたか。

Szczepaniak氏:
削除されたことも、復活したこともふくめて、Steamの件はまったく予想していなかった。ゲームの世界でこんなことが起こるなんて、考えていなかったんだ。Greenlightにおける日常的な削除ではなかったし、我々のファンを怒らせる結果となった……。

それから、Gabe Newellがその決定を取り消して、我々に直接謝罪したんだ。とても驚いたよ。『Hatred』のようなゲームに大きな需要があること、インディーデベロッパーが作りたいゲームを開発できる機会があることが示された。我々は、独創的で勇気あるアイディアを持つインディーデベロッパーに対し、ゲーム市場がよりオープンになれると信じている。

――“一般市民の殺害”というテーマを公開することに関して、懸念はありませんでしたか?

Szczepaniak氏:
ほかのデベロッパーに同じ質問を聞くことができる。つまり、”殺害”はここ最近のゲームでもっとも採用されているテーマだが、それらは常に正当化されているだろう。

我々に懸念は無い、問題となったこともない。なぜならゲームはフィクションだからだ。車輪の再発明というわけではなく、我々は実際の暴力がどのようなものか、現実の殺人がどのようなものかを示したにすぎない。冷酷で薄気味悪く、残忍だ。

だが覚えておいて欲しい、『Hatred』は成人向けのゲームなんだ。それに、現実世界で同様の事件を起こさないよう、助長する意図がある。ゲームのテーマに影響を受けるのは、病的な精神だけだ。

 

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“架空の不道徳”が許容されるライン

 

――日本やドイツなどは、プレイヤーに悪影響や不快な気分をあたえないため、ゴアやバイオレンスに関して厳しい規制を敷いています。この手の規制により、ゲームのデザインは開発者が本来意図したものとは異なるものに変化する可能性があります。この点に関してどう考えられますか。

Szczepaniak氏:
我々は成人向けの要素で満ちたゲームを製作しているが、『Hatred』が若者向けのゲームではない点を強調したい。同作が誰でもプレイできない、特に子供が触れることができないゲームである最大の理由はそれだ。そういった規制に関しては把握しているが、残念ながら我々の力ではどうすることもできない。同作が最終的に発売された時に、市場がどのような反応を示すのか見てみたいね。

『Hatred』はPG18となるだろうが(※1)、正直に言えば、大人がプレイしたい、見てみたいコンテンツへアクセスすることを規制すべきではない。我々が自由に語り、自由な芸術性を持っていいのなら、顧客も簡単にそれらのコンテンツへアクセスできるべきだ。我々はゲームで他者を害するつもりはないし、購入することを強制するつもりもない。『Hatred』を買うかどうかの決定権は、顧客に与えているんだ。

――コミックのバイオレンス描写や、ゲームのセクシャル表現など、媒体やテーマを問わず、現在”架空の不道徳”は注目を集めています。空想上であれば、なにもかも許されると思いますか。それとも、ある程度のラインを決めるべきだと考えますか。

Szczepaniak氏:
コミックであろうと映画であろうとゲームであろうと、人々はあらゆるものに”挑戦”できるべきだ。ただ、なにをしているのか把握しなければならないし、なにが自身たちにとって良きことなのか、我々の心を害するのか知らなければならない。境界線を把握した上で、挑戦しなければならないんだ。

子供たちに関してなら、アダルト、フィクション、暴力的、セクシャルなコンテンツは、開発者やパブリッシャー、政府ではなく、彼らの親によって管理されるべきだろう。子供たちが成人向けのゲームや映画に触れ、手に入れてしまうことができる状況は把握している。だがこれは管理と責任の問題だ。我々が禁止することはできない。なぜなら、言論と選択の自由の権利に反するからだ。

――Szczepaniak氏個人や、Destructive Creationsスタジオとして、”架空の不道徳”が許される線引きはどこにあると考えていますか。

Szczepaniak氏:
我々は現在まで、ゲームデベロッパーたちによって定められてきたいかなるラインも超えていない。ゲーム内の暴力を正当化はしていないし、どちらかといえば”ありのままで”という感じに近い。もし我々に許される線引きを決める権力があるなら、ゲーム内で子供を殺さないし、強姦を表現しない。我々の常識からあまりにかけ離れた病的なコンテンツは、許容しないだろう。

 

※1: 『Hatred』は、エンターテインメントソフトウェアレイティング委員会(ESRB)にて、18歳未満のユーザーのプレイには適さないAdults Only(AO)にレーティングされた。Destructive Creationsが、公式フォーラムにて報告している。AOは、基本的にセクシャルな表現を持つアダルトビデオゲームに適応されるレーティングであり、通常の店舗などでは販売されない。過去に適応されたビデオゲームはPC版『Manhunt 2』や、”Hot Coffee”問題が存在していた時期の『Grand Theft Auto: San Andreas』など。

 

ゲームの娯楽性が害となるべきではない

 

初代『Postal』
初代『Postal』

――私はビデオゲームメディアの記者であると同時に、『Postal』の不道徳さや『Doom』の暴力性が好きな1人のゲーマーでもあります。正直に言えば、ゲーム内で敵を撃ち倒し、なにかを破壊することはとても楽しいです。このような感覚について、どう考えられますか。

Szczepaniak氏:
ゲームをプレイすればそういった感情が抑制される、とは思わない。繰り返しになるが、子供の管理と自覚の問題であると思う。たまに気にかけるぐらいで、子供を一日中コンピューターの前に放ったらかしにしている親は、自分の子供の社会性を殺しているのと同じだ。ゲームの娯楽性は管理されるべきであり、害となるべきではない。同様に、自身が分別できる大人なのか不安であるのなら、どれだけの時間ならプレイしても精神的に健康でいられるかを把握するすべきだ。ゲームはとても面白く、現実から逃避することができる。だが過剰に没頭してしまうものでもあると把握すべきだ。

――暴力的なゲーム、不道徳なゲームの未来はどうなると思いますか?現在のビデオゲーム規制がさらに広がり、クリーンなゲームのみ発売が許可される未来は来ると思いますか?

Szczepaniak氏:
予測するのは難しい。頭のおかしい捻くれたアイディアを持ったインディーデベロッパーは多数存在するが、彼らはごく一部のゲーマーにしか受け入れられていない。恐らく彼らは、『Hatred』のリリースを望む一般的なゲーマーたちにも受け入れられないだろう。Destructiveのメンバーは、ゲームがもたらすものをよく理解している。あまりにも残虐すぎるゲームを作れば、我々でさえも受け入れてはもらえない。

悪人の心に触れるゲーム、特に心理的に深く潜り込む作品を見てみるといい。そういったゲームは完全に成人向けとして作られており、プレイヤーの心が正常と狂気のあいだを維持できるようデザインされている。

制限について話したことと同様に、全てはデベロッパーの関心によるし、ゲーマーがなにを欲しているのかに関係してくる。私は市場が常にゲーマーのニーズに耳を傾けてきたとは思わない。その点、我々は我々ができることをやった。トレンドに反する作品を作り、ご覧の通りゲーマーたちは支持してくれた。クリーンなゲームだけが許容される時代が来るとは思えない。ゲーマーたちは我々の顧客であり、自身が欲しいコンテンツを手に入れる権利がある。

――もしDestructive Creationsが次回作を開発するのならば、どんな類の作品になりますか。『Hatred』のような暴力的なゲームとなるでしょうか。

Szczepaniak氏:
残念ながらまだ詳細については一切明らかにしたくない。『Hatred』の結果を見て、その後にさらなる計画を立ててから、新作について明らかにするよ(笑)

――もし日本のゲーマーとAUTOMATONの読者にメッセージがあればどうぞ。

Szczepaniak氏:
ぜひ『Hatred』をサポートし、ファンコミュニティへ参加して欲しい。ゲームへの誠実さと独創性は、インディーデベロッパーと業界に新しい風を吹き込む。

――ありがとうございました。

[聞き手: Shuji Ishimoto]