PS5『ゴースト・オブ・ヨウテイ』はPS5パワーで「描写距離」強化、だからより「自然」で「生きた」広大オープンワールドになった。開発者に訊いた前作からの変化
今回は、Sucker Punch Productionsに所属するアートディレクターJoanna Wang氏にインタビューを実施。アートを軸に前作からの変化を訊いた。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントは10月2日、『Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)』を発売する。対応プラットフォームはPS5。
本作の舞台となるのは1603年の北海道だ。蝦夷富士とも称される羊蹄山を抱く地での冒険が繰り広げられる。主人公である女武芸者の篤(あつ)は、殺された家族の仇を討つべく、復讐心に燃える一匹狼だという。また作中では、蝦夷地の民からの依頼や賞金首探しなど、道草して路銀を稼ぐことも可能。篤がどのように戦い、苦境を乗り越え、名を残すのか。その道のりはプレイヤー次第だ。
本作は大ヒットした『ゴースト・オブ・ツシマ』に続く新作だ。舞台や主人公は変わるが、ゲーム体験としてどのような変化があるか気になるところだろう。今回は、Sucker Punch Productionsに所属するアートディレクターJoanna Wang氏にインタビューを実施。アートを軸に前作からの変化を訊いた。
──『ゴースト・オブ・ヨウテイ』(以下、ヨウテイ)は画面の雰囲気が全体的に明るくなっているように感じています。『ゴースト・オブ・ツシマ』(以下、ツシマ)とは少し異なるアプローチをされていると思いますが、違いはどこから来ているのでしょうか?
Joanna Wang(以下、Wang)氏:
違いは主に、舞台となる北海道から来ています。当時は蝦夷地と呼ばれたこの土地は日本の端に位置していて、対馬よりはるかに広大です。地形は水平にも垂直にも果てしなく広がり、変化に富んでいて、飼いならされていない自然が存在しています。ですから我々は本作の世界をより広大で、より鮮やかで、より生命に満ちたものとして表現しようとしました。
たとえば『ヨウテイ』の夜では、空にはオーロラが見えることもあります。そして夜が明けると遠くの山々を雲が流れ、鳥たちが一斉に飛び立ち、風が草原を吹き抜けていきます。土地は荒々しく野性的で、命が感じられます。こうしたデザインは『ツシマ』とは異なるものです。

また、本作の各地域にはそれぞれ固有の個性があり、異なる季節感や色調をもっています。プレイヤーがその土地に没入し、遊びながらその違いを楽しめるように設計しました。
──『ツシマ』と『ヨウテイ』は時代も舞台も異なりますが、どちらも日本文化を描いているということで共通しているものもありますよね。前作から受け継がれている要素について教えてください。
Wang氏:
そうですね、多くのものは前作から引き継いでいます。文化的な基盤の一部は共通していますし、『ツシマ』の開発中に学んだことも活かせています。アドバイザーの助けを得て、新たな知識の拡充もおこないながら、北海道という新たな土地の構築に臨んでいます。
アートスタイルに関して言えば、引き続き「生きた絵画」のような表現を目標としています。日本美術に多く見られるミニマリズムの手法を取り入れ、余計な要素をそぎ落とすことでメインテーマを際立たせつつ、細部のディテールを磨き上げています。根底には常に日本文化や日本美術の要素が存在しているというのは、前作との明確な共通点です。
──あくまで個人的な意見ですが、日本人である私が『ツシマ』と『ヨウテイ』を見るとどこか日本らしいと感じられます。建物はもちろんですが、自然環境も日本的だなと。日本らしい自然を描くためにどのような取り組みをされたのでしょうか?
Wang氏:
日本人の方にそう言っていただけるのは我々にとって本当に大きな意味があります、ありがとうございます。『ツシマ』から『ヨウテイ』に至るまで、日本人のアドバイザーの方々から多くの指導を受けました。まるで先生に一から教わるようなかたちで支えられてきたのです。自分たちの文化ではないものを描くのは、決して容易ではありません。だからこそ、責任をもって敬意を込めて表現する必要がありました。
日本らしい自然を描くうえでは、複数回のリサーチ旅行をおこないました。アーティストやデザイナー、オーディオ担当、植生アーティストらが北海道におもむいて、現地の景観や生態系を学びました。実際の北海道がどのように見え、どのように感じられるのかを研究し、その知識を持ち帰って作品に反映させたのです。
また自然を描くうえでは日本の伝統美術も研究しました。何世紀も受け継がれてきた日本美術には独自のスタイルと美しさがあります。たとえば草が日本画でどのように描かれているか、一本一本の草の向きや形にまで注目し、そうした細部を再現することで、日本らしさを表現しようとしたのです。そうした積み重ねが合わさって、自然環境においても日本を表現することができたと思います。
──『ゴースト・オブ・ヨウテイ』では、黄色が印象的に使われているように思います。テーマカラーともいえると思うのですが、本作における黄色の意味について教えてください。
Wang氏:
アーティストとして言うと、本作のテーマカラーはただの黄色ではなく、黄色のなかでも特定の色です。あえて例えればレモンイエローに近い色ですね。とても綿密に検討して選びましたが、この黄色は本作の重要なテーマを担っています。

たとえば本作の主人公の篤は16年前、家族も故郷もすべて奪われました。彼女はイチョウの木に縛られ、死を待つばかりの状態に置かれたのです。その木からは無数の黄色い葉が散り、そして炎に包まれました。つまり本作が始まって最初に目にする黄色は、彼女の失われた故郷を象徴しています。
そして黄色は彼女の物語全体にわたって受け継がれ、彼女の衣装も黄色で統一されています。イチョウの葉に象徴されるように、それは彼女の家や過去をあらわすと同時に、心に深く刻まれた痛みや傷跡を示すものでもあります。黄色はゲーム中の重要な場面で繰り返し登場し、まるで物語に点を打つように配置されています。それらの点を結び合わせることで、篤の物語の全体像が見えてくるのです。
──篤の生い立ちや人生は、アートデザインにも影響を与えているのでしょうか?
Wang氏:
ええ、Sucker Punchではオリジン(起源)の物語を語ることをとても大切にしています。これまでも多くの作品でそうでしたし、篤はユニークなキャラクターで、今回も新しい挑戦ができると感じました。このキャラクターは、ゲームではあまり見られない新鮮な視点をもたらす存在です。私たちはキャラクターそれぞれが物語をもっているということを、とても大切にしています。それぞれの人物がどんな人生を歩んできたのか、その旅の一端が感じられるよう、デザインに反映させています。
篤は優秀な戦士であり、一匹狼の傭兵でもあります。すべてを失った夜から始まる復讐の旅路は、やがてより深いテーマへと発展していきます。復讐はあくまで出発点に過ぎません。キャラクターデザインについて言うと、篤の腰の帯には復讐対象である六人の名前が刻まれていて、彼女の復讐心を象徴しています。背負った三味線は母親とつながる要素であり、遠くからでもわかる特徴的なシルエットを形成しています。キャラクターに背景があるからこそ、デザインに多くの創造的なアイデアを盛り込むことができるのです。
──キャラクターデザインについてもう少しお聞きしたいです。主人公の篤については詳しく説明していただきましたが、ほかのキャラクターたちはどのようにデザインされたのでしょうか?デザインする際に意識することや、大変だったことなども教えてください。
Wang氏:
まずはゲームの根幹にかかわる主要人物をデザインし、その後サイドコンテンツに登場する人物に移行していきました。コンセプトチームはキャラクターごとに設定を作り込み、彼らが誰で、どんな人生を歩み、何歳で、どんな性格で、物語の中でどんな出来事に直面するのか、といった要素を考えていきます。デザインで大変だったのは羊蹄六人衆ですね。主要な敵が6人と多く、それぞれにまったく異なる個性的な外見をもたせるのは大きな挑戦でした。
デザインの際に考えるのは、キャラクターの人物像を反映させることです。たとえば人里離れた山に住む武芸者は、たぶん派手な服を着こんだりはしないでしょう。具体的な例を挙げると、羊蹄六人衆のひとりである「鬼」は元侍で、そのことを誇りに思っています。そのため彼は常に鎧の一部や兜を身につけています。このように、どのキャラクターにも生い立ちや背景に基づいた要素を盛り込んでいます。

──『ツシマ』はPS4向けの作品でしたが、『ゴースト・オブ・ヨウテイ』はPS5専用タイトルです。PS5ならではの表現もできるようになったと思いますが、前作からの進化について教えてください。
Wang氏:
本作の開発でまず真っ先に取り組んだのは、描画距離の改善でした。広大な北海道を表現するため、『ヨウテイ』ではこれまで実現したことのないレベルの遠景描写が必要だったのです。描画距離や遠景の精細さを大幅に向上させた結果、空気感や空間の奥行きまで表現できるようになりました。星空やオーロラの表現、草のレンダリングや雪の変形表現も向上し、雪を踏みしめると粒子が枝から舞い落ちるといった描写も可能になりました。
またPS5では数百万のアセットを読み込み、そのうち数万を同時に画面上に表示することが可能になりました。葉、雪、灰、霧といったリアルタイムのパーティクルも25万個規模で描写されています。近景から遠景までつながる世界の密度が、これまでにない規模で実現できたわけです。
さらにDualSenseのハプティックフィードバックに対応したほか、三味線の音をコントローラーのスピーカーから聞けるなど、PS5ならではの新しい表現も取り入れました。またワンボタンでその場の情景を篤の子供時代のものへと変化させられる「メモリーフリップ」も、PS5だから実現したシステムです。
こうした細部が積み重なることで、世界が生き生きと感じられるようになり、プレイヤーとの相互作用を強めることができました。こういった進化はPS5の性能だからこそ実現できた成果だと思います。

──技術的な側面についてお伺いしたいのですが、ゲームエンジンやコンセプトアートの制作過程で特別に工夫した点はありますか?
Wang氏:
作成するすべてのアセットはレンダリングやカラーパレットの範囲に適合させ、世界全体が統一感をもってひとつのスタイルに収まるようにしています。テクスチャは特定の見え方をしなければならず、ノーマルマップやスペキュラーマップなども一定のルールに従う必要があります。そうすることで、美しい世界を一貫して描き出せるのです。
またノイズ除去についても力を入れました。現実世界の写真にはランダムなノイズが多く含まれていますが、私たちが目指す「生きた絵画」の表現においては、それらを取り除くことが重要でした。マテリアル単位でも、シーン全体でも同じです。
コンセプトとしては、日本文化の発想から、本作ではミニマリズムの考え方を徹底しています。たとえば広大な草原を描く場合、白い花を少し配置して馬が駆け抜ける際に映えるようにします。しかし黄色や青など、他の色の花は追加していません。緑を背景とし、白を前景として際立たせるという構成です。これは個々のテクスチャの細部からワールド全体の構築に至るまで、一貫したルールとして適用されています。
こうした統一性によって、レンダリングエンジンは最大限の品質を発揮できます。さらに優秀なレンダリングチームが美しいライティングを実現し、適切に作り込まれたマテリアルと相まって、本作の空や雲、大気表現が作り上げられています。すべての要素が同じルールに従っているからこそ、世界全体を調和のとれたものとして表現できるのです。
──ご自身が『ヨウテイ』をプレイして、特に心に残った瞬間はありますか?グラフィックチームの一員として、特にプレイヤーに注目してもらいたい場面や表現を教えてください。
Wang氏:
たくさんありすぎてどこから話せばいいかわからないですね(笑)リストに書き出さないと収まりきらないくらいですが、自分自身の体験として印象に残っているシーンをひとつ挙げます。
私たちは毎日ゲームを開発していますが、チームの誰かが常に新しく作った仕事を加えており、ゲーム内容は日々変化していきます。ある日、ゲームを立ち上げてプレイしていたとき、とあるミッションで羊蹄山を登る場面がありました。そして山頂にたどり着いた瞬間、目の前に広がった光景に言葉を失いました。信じられないほど美しかったのです。
その景色にはアート、技術、レンダリング、エフェクトなど、チーム全員のそれまでの努力が凝縮されていました。足元に雲海が広がり、遮るものはなにもありません。その瞬間、世界の広大さを強烈に感じました。まさに全身で世界と一体になったような感覚を覚え、長い間その場を離れられませんでした。
もしプレイヤーが北海道に訪れたことがあり、実際に羊蹄山を見たことがあるなら、このゲームの中でその感動の追体験ができるでしょう。私自身、現実の羊蹄山を初めて見たときにも衝撃を受けましたが、その興奮をゲームの中に再現できたことは、本当に素晴らしいことだと思っています。
──ありがとうございました。
『ゴースト・オブ・ヨウテイ』はPS5向けに10月2日発売予定だ。
[聞き手:Mizuki Kashiwagi]
[執筆・編集:Akihiro Sakurai]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]