スクエニのストラテジーRPG『エンバーストーリア』のLive2D表現がかなりすごい。「2Dなのに振り向く演出」まで実装された魂こもった演出の作り方
『エンバーストーリア』×Live2Dインタビュー前編。制作スタッフにLive2D表現のこだわりについて訊いてみた。

スクウェア・エニックスがPC(DMM GAMES)/iOS/Android向けに基本プレイ無料で配信しているストラテジックRPG『エンバーストーリア』。魔獣がはびこる試練の大地「レンゴク」を舞台に大規模な集団戦闘が楽しめるリアルタイムストラテジーゲームの本作だが、実は会話やムービーパートにおけるLive2D表現にも非常に力が入れられていることをご存知だろうか。可動域やモーションの幅など、とにかくすごいのだ。言葉を尽くすよりも見たほうが早いので、ひとまずショートムービーを見ていただきたい。
今回、弊誌AUTOMATONでは、スクウェア・エニックス、オレンジキューブ、CRI・ミドルウェア、Live2Dへの合同インタビューを実施。お話を伺っていくなかで、『エンバーストーリア』のLive2Dモデルはクリエイターのこだわりや情熱がふんだんに込められた代物だということがわかった。インタビューの前半にあたる本稿では、『エンバーストーリア』のLive2Dモデルがどのようなこだわりをもって作られているかをご紹介させていただこう。
Live2D Cubism製品ページ
https://www.live2d.com/
Live2D Cubism ダウンロードページ
https://www.live2d.com/cubism/download/editor/
エンバーストーリア
https://www.jp.square-enix.com/emberstoria
また、『エンバーストーリア』の一部パートにはLive2D Cubism 5.0より実装されたモーションシンク機能が採用されており、CRI・ミドルウェアとLive2Dの技術融合を目の当たりにすることができる。後半ではそちらの話を深掘りしていくので、興味がある方は楽しみにお読みいただきたい。
【インタビュー参加者一覧】
◆スクウェア・エニックス
今村 真紀子氏(『エンバーストーリア』コンテンツディレクター )
元橋 亮太氏(『エンバーストーリア』シナリオプランナー)
◆オレンジキューブ
細田 幸治氏(『エンバーストーリア』リードエンジニア)
清水 史人氏(『エンバーストーリア』リードフロントエンジニア)
◆株式会社CRI・ミドルウェア
畠山 一星氏(営業本部 第1営業部 部長)
我妻 大樹氏(開発本部 第1開発部)
◆Live2D株式会社
李 東池氏(開発事業部 Cubism グループ AIチーム/AIエンジニア・プログラマ )
田中 颯馬氏(開発事業部 Cubism グループ SDKチーム/プログラマ)
小関 睦海氏(マーケティング事業部 マーケティンググループ SDKライセンシングチーム)
―― 本作『エンバーストーリア』のLive2D表現、めちゃくちゃすごいですね。顔だけ動かすのではなく、身体全体を見せたり動きがあったり……。
今村氏(スクウェア・エニックス):
お褒めいただきありがとうございます(笑)
―― オープニングやストラテジーパートには3Dモデルが使われていますが、会話パートではLive2Dモデルが使われていますよね。使い分けの理由が気になります。
今村氏(スクウェア・エニックス):
ストラテジーパートでは数百人のキャラクターが動くので、3Dのミニキャラモデルの方が都合が良く、そちらを採用しています。
―― そもそも、どういった経緯でLive2Dを採用するに至ったのでしょうか?
今村氏(スクウェア・エニックス):
本作はストラテジーゲームですが、「キャラクターやストーリーに愛着を持つのが好きな人に向けても、ちゃんと楽しめるものにしたい」という点がありました。そうなると等身が高いキャラクターモデルも必要で、それをどのように表現しようかと話し合った結果、Live2Dを採用することとなりました。社内に知見があるモデラーが在籍していたのも大きかったですね。そのモデラーがこだわりを持ってモデル制作できる人材で、他タイトルと比較してもLive2Dのディレクションができる体制が整っていたので、思い切って踏み切ったかたちです。
―― 繰り返しになりますが、本作のLive2D表現は目を見張るものがあります。可動域やモーションのバリエーションなど、突出したものを感じます。イラストレーターさんへの発注に関してどのようなオーダーをしているのでしょうか?
今村氏(スクウェア・エニックス):
プロデューサーとはコンセプト段階から「各イラストレーターさんの個性も我々のコンセプトのうちである」と話していました。そのため、Live2D用のイラストであることは発注時にお伝えしてはおりますが、パーツ分けなどの特殊な仕様での制作はお願いしていません。なるべくイラストレーターさんの作風に影響がないようにしたいという理由です。先ほどお話ししたモデラーにかなりの知見があったのもあって、Live2D側の工程はほとんどこちらで吸収して作業を行っていました。
―― 確かに、イラストレーターさんの個性がしっかり生かされたうえで動いているなというのを感じます。
細田氏(オレンジキューブ):
モデラーさんの技術は本当にすごくて、武器のモーションや小物とか、「これどうやって動かしているんだろう」って思ってしまうくらいです。
―― 本当にすごいですよね。見ているだけでワクワクしてくるので、ドラマパートは視覚的にも本当に楽しませていただきました。
細田氏(オレンジキューブ):
実はこのモデル、ゲームプレイ上は見えない部分もすごくて……。ゲームで使っているものなので最適化を重ねているのですが、とにかくテクスチャアトラスの詰め込み方が芸術的で。これはアリア=ディスのテクスチャアトラス(※)なのですが……。
※Live2Dモデルを構成するパーツを1枚の画像に詰め込んだもの。Live2Dはこの画像上のパーツを参照して動かされている。なるべく余白なく敷き詰めることで、容量の削減が可能となる。

――すごい、ぎゅうぎゅうですね!
細田氏(オレンジキューブ):
基本的に2048*2048のサイズで、枚数は1~2枚程度で制作しています。顔周りは高解像度に、会話パートでは見えにくい足や髪の裏側などは縮小して詰め込む(※)といった取捨選択をして、なんとかこの中に詰め込んでいるそうです。
※縮小してテクスチャアトラスに配置されたパーツは当然解像度が下がってしまう。限られたスペースにパーツを詰め込むにあたって、隠れがちなパーツは縮小し、よく見えるパーツは原寸で配置することで見栄えをよくする小技がある。
清水氏(オレンジキューブ):
『エンバーストーリア』のテクスチャ関連で特徴的なのは、Mipmap(※)をオンにしているところですね。オフにして運用しているタイトルも多いと思うのですが、本作ではオンにしています。少し残念に感じているのは、端末のスペックによってはアプリが落ちないようにテクスチャの解像度を下げる処理が入ってしまうことですね。ここに関しては今後、改善していきたいと思っています。
※Unity上でLive2Dを動かすにあたり、低解像度時にもモデルを滑らかに見せるために縮小したテクスチャを活用する機能。
会話演出は「最高の紙芝居」を目指して
―― 『エンバーストーリア』の会話演出についてもお聞かせください。本作では立ち絵を横に並べるだけではなく、カメラ移動やカットインなどが豊富な会話パートが印象的です。このような形式に決まるまで、どのような試行錯誤があったのでしょうか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
これについては、制作過程でいろいろと試作した結果、演出によってかなりの違いが出ることがわかって……楽しくなって凝り始めてしまったんです(笑)
元橋氏(スクウェア・エニックス):
ソーシャルゲームは紙芝居っぽい形式の会話パートが多く、興味のない方には飛ばされてしまいがちな部分だったりします。そういう方も惹きつけられるようなものを作りたくてこだわってみました。Live2Dもモーション豊かで表情も細かくつけられるので、3Dの演出表現に近いレベルのものを目指しました。
今村氏(スクウェア・エニックス):
ストラテジーゲームをあまりやったことない人もとっつきやすいように2D表現にもこだわろうという目標があったので、力を入れています。
―― そこまでこだわっているとなると、モデル制作コストはやはり高いのでしょうか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
先ほど話したモデラーが制作したものをプロトタイプとして、そこから制作したフォーマットをもとにパートナー会社さんに外注するような形式をとっています。思ったよりコストがかかっているといえばかかっているのですが、想定の範囲ではありますね。
―― 会社的にはコストは少ないほうが良いと思うのですが、やはりユーザー目線だとエネルギーを注がれたモデルを見られるのは嬉しいものですね。
今村氏(スクウェア・エニックス):
はい、実際にモデラーの魂のようなものはすごく込められていると思います。モーションの数なんかも、メインのキャラクターだとだいたい16~17くらいあります。多いキャラクターだと20以上ある子もいますね。魂が乗ったら増えてしまって……(笑)
細田氏(オレンジキューブ):
ドラマ専用のモーションを作ることもありましたね。
今村氏(スクウェア・エニックス):
そうですね。オープニングのシーンはリッチに見せたかったこともあって、あそこでしか使わないようなモーションもあります。プロデューサーが2Dアニメーションが好きなので、どうせなら最高の紙芝居を作ろう!ということで、ドラマに関してはかなり力を入れています。
後ろを向く衝撃モーションは“モデラーが急に持ってきた”
―― 力を入れているモーションといえば、ビーチェがモニターの方を向くシーンには度肝を抜かれました。このゲームのLive2Dは本当にすごいな、と。後ろを向くとなると、新しくモデルを作るくらいのコストはかかるんじゃないかと思うのですが、あれもやはりモデラーの熱量の発露ですか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
そうですね、たまたまビーチェの後ろ姿を作る必要があって絵素材は別口で作っていたんです。そうしたらモデラーの魂が乗ってきてしまって……急に「後ろを向けるようにしました」と調整済みのモデルが上がってきて(笑)
―― すごいですね……!? つまり、後ろを向くような演出があって作ったのではなく、モデルが後ろを向けるようになったからあの演出を入れたと。
細田氏(オレンジキューブ):
はい。せっかく後ろを向けるようになったのだからどうにかして使おうとなって、いろいろ使い道を考えました。
今村氏(スクウェア・エニックス):
そのために、わざわざビーチェにモニターを見てもらうという(笑)
―― 開発の熱意が感じられるエピソードですね。そういった風に、素材が先行して演出を作っている部分はほかにもあるのでしょうか?
元橋氏(スクウェア・エニックス):
他にはあまりないですよ(笑)オープニングのようにリッチに見せたい部分に関しては専用のモーションを作ってもらったものもありますが、基本的には汎用の表情差分やモーションのなかからいかに組み合わせを工夫してスクリプトを作っていくか、という部分を気にして制作しています。
今村氏(スクウェア・エニックス):
目が光るエフェクトなど、ストーリーに合わせて実装したものなどもありますね。
―― そうやってゲームにしっかりこだわりを詰めていることは、ユーザーに届いている感覚はありますか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
見てくださっている方はちょこちょこ観測していますね。ストーリーに言及する人がそこまで多いかと言われると、アプリの特性上まだそこまで多くないところはあるのですが。それでも見てくれているかたはいらっしゃいますし、エンバースルーム(キャラクターと触れ合える部屋)の動画を撮って、SNSで言及してくれている方を見かけると嬉しいです。
―― 反応があるとやはり嬉しいものですよね。ですが、ここまで気合の入ったコンテンツの運営を続けていくのは大変そうだなとも感じます。どれくらい割り切って制作をしているのでしょうか。
元橋氏(スクウェア・エニックス):
プロデューサーのこだわりによってどんどん2D表現の要求水準が上がってきてしまったので、ここからどうクオリティを上げていくかという課題がありますね。常に上を目指してはいるのですが、やはり運用コストを考えるとこだわってばかりもいられないので、既存のものの組み合わせで解決できるところはないかなどは、模索しながら制作しています。
今村氏(スクウェア・エニックス):
上を目指し続けられるようにコンテンツを作り続けていきたいという夢はありますが、現実的にどこまでいけるかはわからないところですね……(笑) ですが、少なくとも今の感じをしばらく続けられるような体制は整えているつもりです。今後も良いものを届けられるよう、頑張っていきたいですね。
ゲームエンジンの実装部分の工夫
―― 凝った演出を入れていくことについて、ゲームエンジンへの実装部分での工夫はあるのでしょうか。
清水氏(オレンジキューブ):
こちらでも会話パート専用の制作機能を追加しています。Unityのゲーム制作プラグインにNaninovelというものがあるのですが、デフォルトの仕様だと合わない部分が多かったので、さまざまな演出ができるように改造して使用しています。
小関氏(Live2D):
改造したというと、Live2Dと組み合わせたときに何か困りごとがあった感じですか?
細田氏(オレンジキューブ):
Naninovel自体はLive2Dもサポートしているのでその点は問題なかったのですが、何も手を入れないとすごくメモリを食ってしまって。テクスチャサイズが大きかったりすると特にメモリ使用量が増えてしまうので、そこを何とか削減できるようにプラグイン側に手を入れました。レンダリングに関してもNaninovel側のスクリプトで動かしていて、レイヤーの順番周りの制御を調整しています。
―― Unity側にもゲームにあわせたカスタマイズを加えているのですね。オーダーメイド的なこだわりを感じます。
清水氏(オレンジキューブ):
オープニングのドラマパートには、最大で7体ぐらいモデルを同時表示させているシーンもあるんです。 ひとつひとつのモデルがリッチな作りになっているので、なかなか安定させることが難しく……。SDKのほうに手を加えてちょっと軽くしたりもしましたね。これについては細田からLive2Dさんにプルリクエストを送ったりもしています。
―― ちなみに『エンバーストーリア』にはLive2D社内のデザイナーチーム「Live2D Creative Studio」も関わっていらっしゃるとのことですが、どのようなサポートがあったのでしょうか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
最初にモデリングをするにあたって、モデルを量産するためのお手伝いをしていただき、我々もLive2Dの知見を得るためにいろいろなお話を伺いました。我々側でも大まかな仕様は完成していたのですが、プロジェクト初期の制作フローが定まるまでにいくつかアドバイスをいただいた感じですね。
―― スタジオの助言もあって最終的なフローが定まったと。本作ではどのようなフローでLive2Dパートを制作されているのですか?
今村氏(スクウェア・エニックス):
まずはイラストレーターから上がってきたイラストをプランナーが確認し、動きの指示書を作ります。それをモデラーが確認し、パーツ分けに必要なものを洗い出してから協力会社に発注する……という流れです。協力会社とのやりとりはモデラーがつきっきりになっていて、そこでこだわりや魂を詰め込んでいる感じですね。そうして完成したモデルを元橋さんが監修して、ゲームに組み込むのに必要な情報を設定してからオレンジキューブさんにお渡ししています。
清水氏(オレンジキューブ):
オレンジキューブではそうしていただいたデータをゲームにインポートしています。これはUnity側で自動化しているので、ほとんど時間はかかりません。モーションとモデルを元に自動インポートをして、各種設定を施した後に確認用のドラマを生成するまではいくつかボタンを押すだけで完了します。
―― 専用の自動化プラグインを制作したのですね。キャラクターやモーションの数も多いタイトルなので、自動化はやはり必須でしたか。
清水氏(オレンジキューブ):
そうですね。この数のアニメーションを個別に設定するのは大変なので、自動化は必須だと思って作った記憶があります。
――最後に今までのお話の締めくくりとして、制作視点から感じるLive2Dの魅力についてお話いただけますか。
今村氏(スクウェア・エニックス):
Live2Dによって、『エンバーストーリア』ではとてもダイナミックなドラマ表現になったと感じております。「2D好きな人も取り込みたい」というコンセプトにも合致していて、導入して本当に良かったなと。Live2Dもそうですし、組み込み関連でオレンジキューブさんの技術力がしっかりあって、双方でやりとりができた点も大きいです。これからもよろしくお願いいたします。
細田氏(オレンジキューブ):
Live2Dの魅力は、2Dイラストのテイストがそのまま活かせることだと思っています。3Dは絵柄を寄せることはできますが、絵がそのまま動くことはないですよね。スクウェア・エニックスさんのモデリングレベルがとても高くて、可動域の広いモデルが送られてくるたびに楽しんで眺めさせてもらっています。
―― ありがとうございました。
『エンバーストーリア』はPC(DMM GAMES)/iOS/Android向けに、基本プレイ無料にて配信中。作り手のこだわりが詰め込まれたLive2D表現を、ぜひ確かめてみてほしい。
Live2D Cubism製品ページ
https://www.live2d.com/
Live2D Cubism ダウンロードページ
https://www.live2d.com/cubism/download/editor/
エンバーストーリア
https://www.jp.square-enix.com/emberstoria
[聞き手:Ayuo Kawase]
[聞き手・執筆・編集:Aki Nogishi]