“レトロIP復活ばかり”のサンソフトが、アングーと組み完全新作『Ark of Charon』を打ち出したのはなぜか。「挑戦」を決断した開発者たちに訊いた


サンソフトは7月9日、コロニーシム&タワーディフェンスゲーム『Ark of Charon(アークオブカロン)』を発売した。対応プラットフォームはPC(Steam)。価格は税込2650円となっている。

『Ark of Charon』は、移動する巨大な世界樹の上に拠点を開発する、コロニーシムとタワーディフェンスを組み合わせた作品だ。本作の世界では、世界樹が失われたことで生命がいなくなってしまったものの、新たな世界樹の苗木が芽吹いている。プレイヤーは世界樹のために仕事をこなす使い魔に司令を出し、世界をふたたび命あるものにするため、世界樹の苗木を苗床まで導く旅をする。

本作を手がけるサンソフトはサン電子による老舗ゲームブランド。サン電子は1970年代からアーケードゲームなどを手がけ、1980年代からはサンソフトを通じさまざまな家庭用ゲームを世に送り出してきた。サンソフトは近年ふたたび活動を活発化させ、これまでに『いっき団結』や『へべれけ2』など、往年のIPの新作がリリースされている。

一方で本作『Ark of Charon』は、完全なる新規IPとして展開。また、開発には『モンスターハンターNow』の開発を全面的に協力しているアングー株式会社が参加している。なぜ、レトロIPの復活に熱心だったサンソフトが、アングーと手を組み新IP展開に踏み切ったのか。サンソフトの新たな試みとしてリリースされる『Ark of Charon』について、プロデューサーであるサンソフト部長・越知雄一氏と、ディレクターであるアングー株式会社・森田信行氏に話を訊いた。

――まず最初に、経歴など自己紹介をお願いいたします。

アングー株式会社・森田信行氏。手に持ったフィギュアは、会社のマスコット、アングー君。ファンから贈られたフィギュアだという。


森田信行(以下、森田)氏:
『Ark of Charon』のディレクターを務めさせていただいております、アングー株式会社の森田です。2015年の会社立ち上げ時の初期メンバーの1人です。 本日はよろしくお願いいたします。

越知雄一(以下、越知)氏:
ゲーム業界にはプランナーで入ったの?

森田氏:
元々プログラマーとして、最初はコーエーテクモゲームスに入っていました。そこから、カプコンに転職して、プロジェクトマネージャーをやりつつ、プログラマーの仕事もやっていましたね。その時に一緒に仕事をしていた中川から声をかけられて、アングーに入りました。アングーに入った時は、プログラマーとして仕事をしつつ、サウンドを担当したりなどしていました。数年前からプランナーに職種を変更して、現在は『Ark of Charon』のディレクターをやっております。

――ありがとうございます。越知さん、お願いいたします。

サンソフト部長・越知雄一氏


越知氏:
僕はブランクはありつつも、ゲーム業界で足掛け15年くらいやってますね。マーケティング担当として、2000年代初めのPCオンラインゲームから始まって、カプコンに転職。 カプコンでは、アジアでの市場開拓とか、子会社の立ち上げとかいろいろやりましたね。ここまででわかる通り、僕ってビジネス寄りの人なんだけど、カプコンではなぜか開発の部署にいて……。だから(アングー代表の)中川さんとか森田さんとも同じ部門にいたんだよね。

そこからゲーム業界とは違うところに行って、3年前にサンソフトに入って、またゲーム業界に戻ってきました。サンソフトって歴史も長くて、価値の高いレトロ作品も多いブランドだったんだけど、僕が入った当時はイマイチ世の中にに周知されていない感覚があった。だから、サンソフトのブランドをみんなに知ってもらおうというチャレンジとして、「SUNSOFT is Back!」という情報番組を2022年から開始して、サンソフトが令和に復活するぞ!と大々的に宣言しました。まぁ、ほんとはそれまでも細々とやってたんだけど、キャッチーだから復活ということで(笑)。そこからレトロ作品の復刻とか色々やってみたり、サンソフトのブランドを再び皆さんに知ってもらうことを仕事としていますね。

*2022年からスタートした情報番組「SUNSOFT is Back!」


――早速ですが『Ark of Charon』はどのようなゲームなのでしょうか。

森田氏:
『Ark of Charon』は、コロニーシミュレーションゲームをベースに、タワーディフェンスのエッセンスを取り込んだゲームとなっています。設定としては、世界樹と呼ばれる歩く巨大な樹木の上にコロニーを作って、共に旅をしていくという、ちょっと変わった設定のゲームになっています。 たくさんあるコロニーシム作品の中でも主に戦闘におけるハードルの比重が大きい作品になっておりまして、戦闘によってゲームオーバーを迎えやすくなっている一方で、プレイヤーの建築物の立て方の工夫1つで、同じ条件でも先に進められたりという変化が現れやすいゲームになっています。




アングーと組みたかったのは“いいヒットを打つ選手”だったから

――今回サンソフトのパートナーとなったアングーはどのような会社なんでしょうか?

森田氏:
アングーは元々カプコンで『ストリートファイター』シリーズや、『デビルメイクライ』シリーズを手掛けていたスタッフが中心になって立ち上げたスタジオです。代表の中川もよく言うのですが、アングーは「最強のゲームスタジオ」を目指していて……。自分たちが心から愛せるゲームを作って、世界中から愛されるスタジオにしたいと思っています。これまではスマホ向けタイトル中心だったのですが、今後はコンシューマー中心に出来るかぎりオリジナル作品を多く手がけていきます。

――アングー代表の中川さんと越知さんの関係についてお伺いしたいです。

越知氏:
カプコン時代の同僚ですね。一緒の開発部門で、僕は中川さんとか森田さんのチームが作ってるゲームをアジアに売ったり、アジアのほかの会社とパートナーシップを結んだりしていて……。要は同じ部門の管理職同士で協力して一緒にやっていたわけです。中川さんは元々カプコンの大阪開発のスタッフだったんだけれども、ある時期に東京へ移り、東京開発の副部長を務めた後に独立してアングーを立ち上げたんですよね。カプコンという日本屈指のゲームメーカーから独立して一からスタジオを立ち上げるということは、相当ゲームに対する熱意とか賭ける思いがある人なんだろうなと。そういうところにグルーヴを感じていたので、当然中川さんが独立する時は話もしたし、お互いカプコンを辞めてからも会ったりする関係になったというところですね。

――なるほど。そこからなぜアングーと一緒に『Ark of Charon』を作ることになったのでしょうか。

越知氏:
まず、サンソフトを盛り上げていくのにレトロIPの活用だけじゃ足りないというのは元々思っていたので、チャレンジとして、レトロ以外の作品で戦ってみたかった。ただ、サンソフト内のチームはほかのことで忙しいから難しいので、外部の協力が必要だと感じました。じゃあ誰とやるかって考えた時に、成功体験がある人と組んだ方がいいわけですよ。僕が前から知っている開発元の中で、カプコン時代に一緒に働いていた中川さんが立ち上げたアングーさんが何年も会社として続いているのを見て、この力は本物だろうと。それで自分がサンソフトに入社して、割とすぐに中川さんに「一緒になにかやりませんか?」と声をかけたんです。ただその時は、そう簡単にやりましょうとは言わなかった。

――Ark of Charon』のプレスリリースでは「なかなか首を縦に振らなかった中川さんを、越知さんが1年間ぐらいかけて説得した」との話もありましたね。

越知氏:
ぶっちゃけ大げさに言った部分はありますけどね。でも、最初から「じゃあやりましょう」と言われなかったのは事実です。その間はあまりしっかり覚えてないけど、何回か会ってから「開発のラインが空きそうなのでやってみましょう」と言っていただいたんです。それまでのアングーさん側の事情の変化はよくわかんないんだけど……むしろ森田さんの方が詳しいんじゃない?教えてよ!

森田氏:
(笑)中川がどう思っていたかというのはわからないですが、最強かつ理想のゲームスタジオを目指すという観点から、そのゲームを作ることが、アングーのそのタイミングでの成長のためになるのか?という所はとてもシビアに見ていると思います。率直に言ってしまうとアングーは一時的な「利益」よりも「成長」を何よりも大事にしているので。

越知氏:
そうなんですよ。だから彼(中川氏)なりに腹落ちするまでに時間がかかったんじゃないかなぁ。

――時間がかかっても越知さんはアングーとやりたかったと。

越知氏:
過去の関係があるから、手を組んだら成功の確率が上がることはわかっていたんです。いいヒットを打つ選手が欲しい野球監督みたいなもんですよ。だから時間がかかってもまったく構わなかった。

さっき森田さんも言っていたけど、アングーさんはアングーさんでやりたいものがある。だから、「サンソフトが作りたいものを作ってくれ」というのではなく、アングーさんがやりたいものを出してもらってやるのがいいだろうと提案しました。そこから、いくつか出してもらった企画の1つが『Ark of Charon』だったというわけです。




議論と改善、タッグでの『Ark of Charon』開発体制

――では、『Ark of Charon』はアングーさんが作りたかったものだったということですか。

越知氏:
そうですね。サンソフトもパブリッシャーとしては、いろいろとやってきたわけじゃないから、「アングーさんがやりたいやつをやってみたら?」という始まりですね。とはいえ、こちらもゲーム開発に対してジャッジしないといけない立場ではあるので、作っていく段階で少しずつ僕たちの口が出る回数が増えていって……。去年からは本格的に、ゲームの細かい中身を議論したりして、理想形に近づけていきましたね。

――どういった議論だったのでしょうか。

越知氏:
コロニーシムとタワーディフェンスを組み合わせるときに、「どうバランスを取ると面白いんだ」みたいな……。 コロニーシムに比重を置いてしまうと、どうしてもタワーディフェンスの方がプアになってしまって「なんかちょっと面白くないぞ」となったので、そこは細かく議論しましたね。あとは、見た目のインパクトも結構議論して、変えていきました。ただ、アングーさんのすごいところは、その議論が去年の10月あたりにあったんですけども、それがもう年明けあたりには、だいぶ面白くなっていて、そこからは安心して進められましたね。

――なるほど。たしかに5月末に配信されたデモ版からして、硬派なバランスになっている印象です。デモ版を触ったユーザーの反響はどうでしたか。

越知氏:
見た目はすごくとっつきやすいけど、コロニーシムなんで1回目からスムーズには行かないとは思いますね。なので、難易度についての評価は織り込み済みだったんですけど、そこまでメジャーじゃないジャンルがどれだけ遊んでもらえたか、コロニーシムとタワーディフェンス、それぞれの面白さに関しては気になっていて……。作品について検索していると前向きな評価をもらっていて嬉しいです。

また、デモ版リリース前はSteamのウィッシュリストもアジア圏が多かったんですけど、デモ版をリリースして「Steam Nextフェス」に出てからは、欧米からのウィッシュリストがすごく伸びてきました。今この瞬間はアメリカが2番目じゃないかな?僕らが思っていたよりも広がっていて、本当にありがたいなと思います。今まで普段耳にしない国のユーザーさんが遊んでくれたり、YouTubeで海外の方が配信してくれたり、『いっき団結』の時にはなかった広がりを感じます。Steamというプラットフォームがあるからグローバルに広がっているのはとてもボジティブな感覚として捉えていますね。


――歩く世界樹にコロニーを作るという本作のテーマはどう思いついたのでしょうか。

森田氏:
『Ark of Charon』の企画は私が担当したのですが、元々は歩く世界樹という発想ではなかったんです。個人的にサバイバルクラフトゲームをよくプレイするんですけれども、いつも「拠点の引っ越しってめんどくさいな~」と思っていて……。いっそのこと動く拠点をベースにするゲームにしたらどうだろうという提案が、この企画の走りになっています。お風呂でふと考えたことなんですけど(笑)。企画の当初は世界樹ではなく、巨大な亀の背中に町があるみたいな……。

越知氏:
あー!そうそうそう。

森田氏:
これをゲーム制作する中でチームメンバーが一生懸命膨らませてくれて、 今の世界樹が歩く内容に変わったというのが本作のテーマの始まりですね。

――これまでSteamでは多くのコロニーシムがリリースされていますが、『Ark of Charon』ならではの個性はなんでしょうか。

森田氏:
先述した世界観もそうですし、横からの視点で拠点が移動するゲームというのは、同ジャンルでは該当するものがあまり見当たらないとは思います。建築物をバランス悪く建てると下に重量がかかって、最終的には崩壊すると言ったシステムもひとつの個性ですね。

ゲームが数多くリリースされている昨今で、完全にユニークな作品は生まれないとは思いますが、アングーには「データの調整ひとつでゲームの面白さは0にもなるし、何倍にも膨らんでいく」という考えがあります。そういった細かいところまで手を抜かないで調整しきること。「魂は細部に宿る」なんて言葉にもあるように、そういったところによって生まれる面白さを個性として出していきたいですね。




日本のアイデンティティを入れたかった

――お二方が『Ark of Charon』の制作でこだわった部分を教えて下さい。

越知氏:
ビジュアルと作りの丁寧さと……あとね、音楽。『モンスターストライク』の作曲家の桑原理一郎さんにお願いしています。もう素晴らしい作曲家です本当に。僕、音楽やるので結構うるさくいうんです。「フランス印象派みたいにしてください」とか「ラヴェルっぽくしてほしい」とか言うわけですよ(笑)。 そういったオーダーにちゃんと応えてくれるので、たまに細かいことはいいますが、基本はお任せでやってもらってます。

個人的に思うんですけど、ゲームの中における音楽って意外と大事だなと思ってるんですよね。その世界に入っていくため、没入するための重要な要素なので、そこはこだわりたいと思っております。なので、音楽のクオリティには自信があります。サンソフトというブランドにおいても、過去からサウンドに対する評価は高いので大切にしています。

あとこれは中川さんとも話したんですけど、日本で作ったゲームってなんか独特だと思うんですよね。ゲーマーの中でも一定の評価軸だったり期待値をもたれているというか……。『Ark of Charon』は、一見海外のインディーゲームのように見えるんだけど、日本で作ったというアイデンティティはしっかりもてるような作品にしたいと、アングーさんとお互いに話し合って作ったし、それが出来たと思ってます。それに、大手の会社だと通らなさそうな企画だという部分も、とてもユニークなところになっているんじゃないかな。

森田氏:
本作は、同じ状況でもプレイヤーが異なれば、形の違うコロニーが出来上がって、その違いがゲームの結果にも違いを生んでいくというところを大事にしたいと、チームで考え制作を進めてきました。そうなるようにかなり時間を割いて調整をおこなってきましたし、今後も、早期アクセス配信から製品版リリースまで、その調整はこだわりを込めてやっていきたいなと思っています。

――早期アクセス期間はどのようなアップデートを行う予定なのでしょうか。

森田氏:
基本的にはユーザーさんからの反応に合わせて、リリースまで開発計画を練っていきたいなと考えております。「ゲームを実際に遊んだユーザーさんの声を取り込むことでもっと良くなるだろう」というのが、本作を早期アクセスリリースにした最大の理由です。なので、現時点で明確なロードマップなどはありません。ですが、ゲーム後半の部分が実装されていないので、そこは正式リリースに向けて実装していく予定です。

越知氏:
120点の回答をしてくれたね……。本当は今の時期に正式リリース予定でやっていたんですが、特にコロニーシムというジャンルは、僕たちの意見だけで作っていては、不満点が絶対にたくさん出てくるなと思ったんですよ。なので早期アクセス配信するのが良いだろうと判断しました。


――ありがとうございます。『Ark of Charon』発売後もサンソフトとアングーでタッグを組む予定はありますか。

越知氏:
今のところは『Ark of Charon』を売るために頑張るだけですね。でも、これがうまくいけば可能性のある話だと思います。

――サンソフトとしては、今後も別の新規IPを展開する予定はありますか。

越知氏:
ぶっちゃけ『Ark of Charon』がうまくいくかどうかですよ。 もしうまくいくんだったら、「よし、やってくぞ、これを!」という流れになると思いますよ。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

森田氏:
アングーという会社をまだご存じない方も多いかなと思いますが、アングーが作るゲームをぜひともいろんな人たちに伝えていきたいなと考えております。今後もどんどん成長して、日本だけではなく世界中の方から愛されるゲームを作っていきたいと考えています。ゲームが好きな人たちが一丸となって、また日本がゲーム大国になれるような、 そんな未来を目指して頑張っていきますので、『Ark of Charon』もぜひ興味があれば手に取っていただけると嬉しいです!

越知氏:
縁あって中川さんと再びタッグを組めることになって、一定の結果は出したいと思いながら進めてきたわけですけども……。早期アクセスを直前に迎えて(インタビューは配信開始前に実施)、月並みな言い方ですが、非常に手応えを感じております。ある程度、面白いと思ってもらえるものは出来たんじゃないかな。早期アクセスなので、遊んでて思ったことがあれば、ぜひご意見をください。お互いコミュニケーションを取ってもっといいゲームにしていけると思うので、よろしくお願いします!

――ありがとうございました。


『Ark of Charon(アークオブカロン)』は、PC(Steam)向けに配信中。価格は税込2650円となっている。

[聞き手・編集:Sayoko Narita]
[聞き手・執筆・編集:Tamio Kimura]