プロのゲーム開発者が集まって自由すぎるゲーム開発に挑戦。第9回「セガ・ゲームジャム」レポート


ゲームクリエイターに自由な絵筆とキャンバスを与えると、どのようなゲームが作られるのだろうか。それを体現するようなイベントが7月16日と17日に開催された。セガ社内で合計34時間にわたって開催された「セガ・ゲームジャム」だ。セガグループ社員を中心に総勢39名が参加し、個性豊かな8作品が開発された。

 

プロの「課外活動」としてスタート

スキルも職歴も多彩な参加者が一堂に会してチームを組み、同一テーマのもと、数十時間でゲームを作る「ゲームジャム」。大作化・硬直化が進むなか、ゲームの自由な可能性を求めて、2000年代後半から全世界で行われるようになった開発者向けイベントだ。日本でも世界最大のゲームジャム「GlobalGameJam」をはじめ、さまざまなゲームジャムが各地で開催されている。

セガ・ゲームジャムはその中でも2011年に始まった、社内ゲームジャムの草分けの一つだ。会社主催ではなく、セガグループの社員有志が開催する「課外活動」という位置づけで、通常業務に支障が出ないように、開催日も三連休の前半二日が選ばれている。GlobalGameJamなどに参加した社員有志が、ゲームジャム文化を社内にも広めようと活動を開始し、今回で9回目を迎えた。

参加者の属性もさまざまで、家庭用ゲームとスマホゲーム開発のセガゲームス、業務用ゲーム開発のセガ・インタラクティブを筆頭に、ダーツバー運営のダーツライブ、グループ会社のアトラス、そして来春入社予定の内定者も二人参加した。職種もエンジニアだけでなく、ゲームデザイナーやアーティストの姿もあり、セガOBの見学者もみられた。

運営スタッフ

第1回目からセガ・ゲームジャムの運営スタッフとして参加している粉川貴至氏(セガゲームス)も、普段は開発支援側のエンジニアだ。しかしセガのゲームが好きで入社したこともあり、イベントを通して実際にゲームを開発できる点が魅力だという。また普段、一緒に仕事をしないメンバーとゲーム開発を通して繋がれる点も大きいとのこと。参加者の多くも同様の意義を感じているようで、自己研鑽やモチベーションアップに繋がっているようだと語った。

前述のように「課外活動」としてスタートしたセガ・ゲームジャム。当初はゲームジャム自体がマイナーだったこともあり、開催には少なくない苦労があったという(このあたりの顛末はCEDEC2013の講演「SEGA Game Jamがもたらした組織活性化の効果」)。しかし回数を重ねるごとに、徐々に「同士」が増えてきた。今回も2つの大きな「差し入れ」が行われ、ゲームの完成度に大きく寄与した。

1つはセガの歴代ゲーム機を擬人化したプロジェクト「セガ ハード・ガールズ(セハガ)」で作られた、メガドライブ・セガサターン・ドリームキャストの3DCGモデルだ。ボーンなどがあらかじめ設定されており、8頭身向けと2頭身向けがあるため、さまざまなゲーム内で活用できる。時間制限が厳しいゲームジャムでは、こうしたデータの有無が完成度を大きく左右する要因となる。実際、ゲームジャムのテーマが「美少女」に決定したことで、本データは大いに役立った。

もう一つは『デイトナUSA』をはじめ、セガの歴代ヒットゲームでサウンドコンポーザーをつとめた、光吉猛修氏(セガ・インタラクティブ)の直撮りボイスデータだ。光吉氏は作曲だけでなく、ボーカルやDJ、声優としても活躍しており、歌手の影山ヒロノブ氏から「日本一歌の上手いサラリーマン」と賞賛されたほど。運営スタッフが作成したリストに沿って、ラップ調のボイスデータが収録され、その数は100種類にもおよんだ。

二日間でゲームを作るうえで、重要な役割をはたすのがゲームエンジンだ。もっとも開発現場ではまだまだ、ゲームエンジンを使用しないプロジェクトも多い。参加者の中には、ゲームエンジンの学習目的でゲームジャムに参加する者もいるほどだ(こうしたチャレンジはゲームジャムで大いに奨励される)。セガ・ゲームジャムでも事前希望に従い、「Unreal Engine (UE) 4」「Defold」チームと、VR HMDの「HTC Vive」を使用するチームが1チームずつ作られた。

なお、VRチームもUE4を使用したため、UE4を使用したのは2チームになった。残りはUnityベースで開発され、Unityの学習を目的に参加した、1人だけのチームも存在した。またエフェクトツールの「BISHAMON」を擁するマッチロック、サウンドミドルウェアの「CRI・ソフトウェア」、そしてユニティ・テクノロジーズ・ジャパンから、各1名ずつサポートスタッフが参加した。

 

開発テーマは「美少女」に決定

前述の通り、参加者の投票とくじ引きによって選出されたテーマは「美少女」だった(決定した瞬間、会場は一瞬、歓声ともため息ともつかない、微妙な雰囲気に包まれたという)。もっとも、過去にはニュースポータルの記事見出しから単語を選び、ランダムで決めた結果、「芝エビ」がテーマになったこともあり、決して「突飛なテーマ」とはいえない。すぐに企画会議が始まり、最終発表では下記の8本が披露された(カッコ内はチーム名)。

 

①美少女キャッチャー(チーム自撮り仮面)

1-1 美少女キャッチャー

チーム自撮り仮面

二人で協力プレイする体感ゲーム。プレイヤーの上半身がカメラでキャプチャされ、画面に表示される。プレイヤーはお互いに体を動かして、画面の上から落下する美少女のアイコンを頭で挟み込んで消していく。逆にオヤジのアイコンに当たるとヒットポイントが減少し、ゼロになるとゲームオーバーだ。終了するとゲームのプレイ風景をキャプチャした画像が表示される。

エフェクトツールには「BISHAMON」が使用され、画面の賑々しさが倍増。サンバ調のBGMに加えて、SEには「スリー・ツー・ワン・ゴー!」などの光吉ボイスが採用され、ゲームセンターの大型筐体ゲームといった雰囲気に仕上がっていた。参加者からも「合コンむけのツールによさそう」といったコメントが寄せられていた。

 

②「GIFT-オクルコトバ-」(教育倫理協会)

2-1 GIFT-オクルコトバ-

教育倫理協会

胎児にさまざまな言葉を覚えさせて育てていく育成ゲーム。周囲からさまざまな単語が近づいてくるので、胎児の女の子に聞かせたくない言葉をドラッグ&ドロップで画面外に弾いていく。微妙な言葉の場合はクリックすると、関連する別の言葉に変えることもできる(男の娘かな→女の娘かな、など)。制限時間が終了すると、胎児に聞かせた言葉の傾向によって、20年後に「幸せな家庭を築く」「両親に無心を続ける」など9種類のエンディングが表示される。

アトラスの2Dアーティストがチームに参加したことで、ゲームの外観が一気に向上。多彩なエンディングも含めて、ゲームジャム史上まれにみる完成度に仕上がっていた。タッチペンでの操作にも向く内容で、ぜひニンテンドー3DSなどで発売して欲しいと思わせる内容だった。

 

③ドキ!? 美少女だらけ!? 撮って、取っての撮影会!(美少女撮影隊)

3-1 ドキ! 美少女だらけ! 撮って、取っての撮影会!

美少女撮影隊

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの看板キャラクター「Unity-Chan!」を操作しながら、ステージ上にいる他のUnity-Chan!を撮影していくカメラアクションゲーム。うまく撮影できるとUnity-Chan!がゲットでき、自機の後をくっついて移動してくれる。特定ポイント内で他のUnity-Chan!の写真が撮れると点数アップだ。ただしカメラには充電時間があり、充電期間中はシャッターを切ることができない点がミソ。ネットワークプレイにも対応しており、画面上にチビキャラがあふれるワチャワチャ感が魅力となっている。

このように企画は盛りだくさんだったが、実装に手間取り、中途半端な作り込みに留まってしまった。中でもオンライン周りが鬼門で、Unityのネットワーク機能「UNET」と、ネットワークミドルウェアの「Photon」を並行して検証し、最終的にPhotonが採用された。Photonの検証と実装を担当したのが来春入社予定の内定者だったという、ゲームジャムならではの光景が印象的だった。

 

④デスコン!!(チームデスコン)

4-1 デスコン

チームデスコン

プレイヤーはプロデューサーとなり、アイドルに個性的なコーディネートをさせてコンテストに出場させる。コンテストは2段階審査で、一次審査で6人中3人が選出され、最終審査で優勝が決定する。ほかのアイドルと髪型や服がバッティングするとスコアが得られず、点数が低いとアイドルが電撃を受けて死んでしまう(これがタイトルの由来にもなっている)。Photonを使用したネットワークプレイやスマホでのプレイにも対応している。

オープニングの「セ~ガ~♪」「ミツヨシで~す!」から始まり、全編にわたって光吉ボイスが炸裂。アトラスの2Dアーティストが無双し、表情・髪型・服・靴のそれぞれで、大量のグラフィックデータが、商用ゲーム級のクオリティで作成された。こうしてコーディネートされた「美少女」が、あっさり電撃で死ぬという落差も強烈。プロが全力で好きなゲームを作ると、とんでもない物ができるという見本のような内容となった。

 

⑤「Girls & Zombies」(カメ子さんチーム)

5-1 Girls & Zombies

カメ子さんチーム

撮影会に乱入してきた大量のゾンビやカメコたちを撃退し、アイドルを出口まで誘導していくアクションゲーム。ゾンビは光に弱いという設定で、カメラのストロボを浴びせると倒せる。一度に撮影できるシャッター数には限界があるが、アイドルを撮影するとバッテリーを充電できる。カメコに対しては撃退アイテム「レフ板」を使用して退けていく。アイドルのモデルにはセハガのドリームキャストモデル、ゾンビにはUE4のサンプルキャラクターが使用されている。

前述の通り本チームはゲームジャムを利用して、UE4の理解を深める目的で編成された。そのため機能を検証しながらの開発となり、作り込みの時間が不足した点は残念だった。もっともゲームジャムの目的には「挑戦」という要素もあるため、ある意味で非常にゲームジャムらしいプロジェクトだったと言える。

 

⑥「美少女革命」(美ホールド)

6-1 美少女革命

美ホールド

美少女カードを使用してプレイする変形「大富豪(大貧民)」。各カードには「美(うつくしさ)」「少(わかさ)」「女(いろけ)」という3つのパラメータがあり、ターンごとに流行が変化したり、革命が発生したりして、強さの基準軸が変化する。状況が刻々と変化する中で、うまくカードを消費して高得点をめざしていく。

『Candy Crush Saga』などで知られるKingのゲームエンジン「Defold」が使用されたが、ゲームエンジンの特性を掴むまで時間がかかったこともあり、作り込みの時間が不足してしまった。それでも背景アニメーションやエフェクト表示など、カードゲームという地味な題材を華やかにみせるための工夫が多数こらされている。またBGMに「光吉ボイス」が使用されている。

 

⑦「美少女すくい」(VR紳士)

7-1 美少女すくい

VR紳士

美少女だらけのビーチで「真の美少女」の声を聞き分け、抱きついてすくい上げるように持ち上げるとスコアが加算されるという、「美少女」と「金魚すくい」を融合させたゲーム。HTC Viveを使用し、UE4ベースで開発されている。美少女の3Dモデルにはセハガのメガドライブ・セガサターン・ドリームキャストのデータが使用されている。

メインプログラムを担当したのはUE4での開発経験があり、Oculas RiftとHTC Viveも個人で所有している新人プログラマーだ。一方でボトルネックになったのがキャラクター周りで、Unity-Chan!のモーションデータをセハガのモデルデータに流し入れ、UE4で使用できるようにするために、尋常ではない作業量が必用になった。これを解決したのが先輩テクニカルアーティストで、データコンバート用のスクリプトをわずか半日で制作することで対応。日常業務で鍛えた技術力が活かされ、ハイクオリティなビジュアルのVRゲームが完成した。

 

⑧美少女が走って爆発するゲーム(おひとりさま)

8-1 美少女が走って爆発するゲーム

おひとりさま

美少女キャラが盤面を駆け回る二人専用の対戦ボードゲーム。プレイヤーは自動的に回復するリソースを消費しながら、さまざまな能力のキャラクターを召喚できる。キャラクターは自動的に相手方の陣地に向かって進行し、最後まで到達したら、キャラクターの攻撃力分だけライフを減少させられる。途中でキャラクター同士がぶつかったら、攻撃力が相殺されて0になった側が消滅する。キャラクターにはセハガの2Dモデルが使用され、モーションはUnity-Chan!のものが使用されている。

前述の通りプログラマーが1人でUnityを勉強しながら作ったため、リソース不足からCOMルーチンの実装は見送られたが、対戦ゲームとしては十分なクオリティ。業務でこれからUnityを使用するため、勉強のために参加したと語っていた。

 

新しい遊びは「遊びのような環境」から生まれる

閉会式で運営スタッフの石畑義文氏(セガ・インタラクティブ)は、「『ゲームジャムで広がるセガグループの輪』を合言葉に、これだけの皆さんが集まりました。ジャム中もさまざまな交流が行われ、大いに盛り上がったと思います。ジャムが終了しても引き続き交流を続けて、セガグループを大いに盛り上げていきましょう」と挨拶。34時間にわたる熱戦に幕が下ろされた。

石畑氏が語ったように、今回のセガ・ゲームジャムはセガグループのさまざまなメンバーの参加で、とんでもないゲームが続々と誕生していた。ベースにあるのが「柔軟な発想(『デスコン!』で電撃で死ぬというアイディアは、事務職で内定をとった参加者のものだった)」と、「高い技術力(半日で3Dモデルのコンバーターを作成!)」、そして「新しい体験を創り出すことへの喜び」だ。

「休日に無報酬で何十時間もの開発を強いる」と聞くと、ブラックなイベントだと思われがちだ。しかし、それが「遊び」であれば話は別。そして「新しい遊び」はこうした「遊びのような職場」から生まれてくるのだ。この落としどころをどこに据えるかが、あらゆるエンタメ企業のマネジメントのキモになる……。そうした思いを改めて強く感じさせるイベントだった。

上田憲昭氏
超小型LEDディスプレイで再現された『ハングオン』

運営スタッフのまとめ役で、開発技術部の部長をつとめる上田憲昭氏も、運営のかたわらプラモデルの『ハングオン』筐体に超小型のLEDディスプレイを埋め込み、画面を表示させるという一人プロジェクトに励んでいた。その動機付けとなったのが「こんなのを作ってみせたら、みんな驚くに違いない」というエンジニアの遊び心。実際に上田氏が電源を入れると、参加者から一斉に驚きの声が上がっていた。

「ゲーム開発のお祭り」ともいえるゲームジャム。そしてお祭りにはコミュニティを活性化させる力がある。今回のセガ・ゲームジャムにもセガOBが顔を見せ、ボイスデータの収録やテストプレイなどで協力していた。また、セハガデータや光吉氏のボイスデータの提供も、お祭りを盛り上げるサポーターだ。34時間びっちり参加するのは敷居が高くても、こうした「ちょっとした参加感」が可能になれば、より参加者のすそ野が広がり、ゲームジャム全体が盛り上がっていくだろう。

もっとも一つ残念だったのは、開発されたゲームはここだけのもので、一般人が遊ぶ機会が事実上ないことだ。閉会式もそこそこに撤収が行われ、試遊時間も限られていた。ぜひ何らかの形で業務に還元してもらいたい……。逆にいえば、そう思わせるだけの力をひめたゲームジャムだった。

 

[取材担当 Kenji Ono]

 

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