Global Sites
日本の町でドリブルしまくるゲーム『Kick』を手がけるスイス人開発者は、アニメとYouTubeで「生の日本」に惚れ込んだ。異国から描く“日本の日常”、ボールと共に駆け抜ける
日本の通学路をドリブルで駆け抜ける『Kick』の開発経緯や、本作でこだわった“日本らしさ”について話を訊いた。

デベロッパーのnospacelostは11月4日、アクションゲーム『Kick』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)。本稿では開発者へのインタビューを実施し、本作でこだわった「日本らしさ」などについて詳しく訊いた。
『Kick』はボールを蹴ってうまくコントロールしながら、学校への道のりをドリブルで進んでいくゲームである。何の変哲もない通学路も、華麗なドリブルをしようと思ったときには障害物に満ちている。荷物運びをする人、カフェの看板、積み上げられた段ボール、ネコ……そうしたさまざまなものを見事にかわしながら、プレイヤーはサッカー少年として学校を目指すことになる。通学路の各所には隠された要素もあり、特定の場所にボールをぶつけるなどして見つけていく探索要素もある。ふとした日常が楽しくなりそうな作品だ。
今回、弊誌は開発元であるnospacelostにメールインタビューを実施した。本作の開発にまつわる詳細を伺うことができたので、以下にその内容を紹介する。

――まずは、自己紹介をお願いできますか?
Peter Sörensen氏(以下、Peter氏):
こんにちは。ピーター・ソレンセン(Peter Sörensen)と申します。スイス出身で、『Kick』の開発者です。インタビューの機会をいただき、ありがとうございます。
――よろしくお願いします。ではピーターさん、さっそくですが『Kick』の開発に至るまでの経歴や、なぜ本作を開発することになったのか、その経緯を教えていただけますか?
Peter氏:
私はスイスで生まれ育ちました。その後、母の故郷であるフィンランドへ移ることになり、金属加工の仕事に就いたり、映像や音声編集の学校に通って、テレビ局で映像編集の仕事に少しだけ携わったりもしました。それからスイスに戻ることになり、美術館の警備や清掃といった仕事も経験しました。しかし、そうした仕事をしている間もずっとゲーム開発をしてみたいという夢を抱き続けていて、今まさに挑戦しているところです。

――『Kick』がどのようなゲームなのか詳しく紹介していただけますか?
Peter氏:
『Kick』は非常にシンプルな横スクロールのゲームです。『スーパーマリオ』シリーズに近いところもありますが、物理演算に基づいた動きをするサッカーボールを蹴ってゴールを目指すのが特徴です。ボールがどう動くのか予測し、素早く判断して、精確なキックでコントロールするところが難しいポイントですね。
――ピーターさんはすべてお一人で開発しているとのことでした。それはつまり、細かなところまですべてご自身で手がけているということですか?
Peter氏:
はい、全部です。残念ながら手伝いを頼める人もいませんし、誰かを雇う資金もありません。しかし、全部を自分で作っていく中で、多くの学びがありました。いつも遊んでいるゲームのありとあらゆる面をより深く理解できるようになりましたし、素晴らしい部分に感銘を受けられるようにもなりました。
――全部ということは、犬もご自身で描かれたんですね。とってもかわいかったです! しかし、びっくりするくらい速くて一度負けてしまいました。
Peter氏:
私はあの犬に一度どころか何度も負かされましたよ。初めてプログラムしたときは、あの子がロケットみたいな猛スピードで走り出してしまって……。ですから何度か調整することになりました。
――さて、ゲームについての話に戻りましょう。キャラクターとボールの両方を操作していくのは本作の難しいところであると同時に、おもしろいところでもあるかと思います。こうした仕組みはどのようにして思いついたのでしょうか? 何かインスピレーションの元になったようなことはありましたか?
Peter氏:
実は偶然の思いつきなんです。もともとは、学校へ向かうバスに乗り遅れた少年が学校まで走っていくゲームを作ろうとしていたんですよ。サッカーボールはなかったんです。ただ、そのゲームを作ってテストプレイをしている最中に、障害物の一つに過ぎなかった「子どもが空中に投げたボール」が偶然キャラクターにぶつかってしまいました。すると、ボールがキャラクターに押し出されるような動きをして、なんだかサッカーみたいに見えたんですね。これはおもしろそうだと感じてプロトタイプを作ってみて、サッカーボールを中心にしたゲームにしようと決めました。
――本作の舞台は日本になっています。なぜ日本を選んだのでしょう? また、日本を舞台にするアイデアとゲームの仕組み、どちらが先だったのかも気になります。
Peter氏:
開発を始めた当初は、3Dモデリングソフトの使い方も、作った3Dキャラクターのアニメーションのさせ方も、何もわかっていませんでした。それで、まずは自分の手でキャラクターの絵を描いてみようと思ったんです。私はいつも昼食や夕食を食べながらアニメを見ていましたから、自然とキャラクターもアニメから着想を得たものになりました。舞台設定のほうが先で、サッカーボールの仕組みは後から加わったものになります。

――建物や景色だけでなく、雰囲気も実に日本らしいですよね。ステージの中で出会う配達員や学生のような人々など、日本の日常の空気感が実によく捉えられていると感じました。そうした日常の細部というのは、実際にその土地で暮らしていないと理解するのが難しいかと思いますが、どのように調査して、再現していったんでしょうか?
Peter氏:
普段からYouTubeでさまざまな日本人の「ある一日」の動画をよく見ています。漁師、教師、工場員、学生、レストランの経営者など、そうした人々の一日を追う動画があるんですよ。特に仕事に於ける職人技のようなものや、細やかな気遣いといった部分にはとても刺激を受けています。ですから、調査という感じでもないんですよね。これは素敵だなぁと感じられることを見聞きしている、ただの好奇心といった感じで。
――なるほど。『Kick』の中で、特にここはうまく日本らしさをリアルに出せたぞと自負している部分はありますか?
Peter氏:
う~ん、自負どころか心配のほうが大きいです。アーティストとしても開発者としても、できることは限られていますから。ゲーム内のどの要素も、思い描いていたとおりに完璧に作れたものはありません。それでも私なりにベストを尽くして、日本の「日常」の中で素敵だと思っているものを伝える努力はしています。
――ところで、日常の景色をゲーム内に落とし込むには、現実そのままではなく敢えてアレンジが必要になることもありますよね。『Kick』にもそうした現実とは意図的に変えている部分はありますか? もしあるなら、それはどのような点で、どうやってそれを自然にゲームの中に取り入れているんでしょうか?
Peter氏:
これは『Kick』をデザインしていく中でもっとも大きな課題の一つでした。日本のアニメですら日本をそのまま正確には描いていないと聞いたことがあります。私が思うに『Kick』は現実の日本よりもむしろアニメに近いものになっていると思いますが、あまり現実離れしたものにもしたくなかったんです。ですから、ゲーム内では気楽に楽しめるような、少しふざけた要素も意図的に取り入れています。そうすれば現実と多少異なる部分があっても、さほど悪目立ちしないでしょうからね。

――トレイラーの映像ではパルクールのように高所を進んでいく場面や、ピンボールマシンのような驚きのステージも見受けられました。こうした予想外のステージは他にも飛び出てくるんでしょうか?
Peter氏:
えぇと、ピンボールマシンのステージは実はうまく動かなかったため無くしてしまったんです。その代わりになる別のアーケードゲーム風のステージが必要になって、今は『ストリートファイター』や『モータルコンバット』のような対戦格闘ゲーム風のステージを盛り込んでいます。こちらのほうがピンボールより遥かにおもしろく作れたと思いますよ。同じようなステージばかり繰り返すのではなく、プレイヤーの皆さんにはゲーム全体を通して冒険を楽しんでもらいたいですね。
――本作には「ドドドドドド」など、マンガのようなスタイルの視覚効果がありますよね。こうした表現に影響を与えた作品はあるのでしょうか?
Peter氏:
日本人ではない私にとって、こうしたオノマトペはもっとも理解が難しいものでした。『Kick』には声優もいませんし、開発を始めたときには効果音を作るための録音機材もありませんでした。しかし、ゲームではプレイヤーの動きに対して何らかの反応が必要です。そこで効果音を描いてみることにしました。後になって録音機材を購入して効果音を作り始めたんですが、もう作り終えていたオノマトペはそのまま残しても良いかなと。そんなわけで、何か特定の作品に影響を受けたわけではありません。マンガ全般の影響ですね。

――日本が舞台になっているゲームで好きな作品はありますか?
Peter氏:
『シェンムー』、RGGスタジオの『龍が如く』シリーズすべて、それからTango Gameworksの『Ghostwire: Tokyo』ですね。こうしたゲームも『Kick』に大きな影響を与えています。
――最後に、『Kick』のテーマになっていることから、サッカーもお好きなのかと存じます。もしよろしければサッカーについての思いもお聞かせください。
Peter氏:
子供の頃は地元のサッカークラブでプレイしていました。最初はBチームのミッドフィルダーとしてプレイしていて、しばらくしてAチームに移ることができました。Aチームではディフェンダーでしたね。学校でも、登校前や休み時間にはいつもサッカーをしていたものです。サッカーボールの代わりにテニスボールを蹴っていたこともあるんですよ。だから実は『Kick』もテニスボールでプレイできるんです。見つけられれば、ですけどね(笑)
――サッカーに関する実体験も本作に活かされているんですね。ありがとうございました。
『Kick』はPC(Steam)向けに配信中だ。
この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

