『龍が如く8』の「不審者スナップ」も「尿酸値トーク」も入れる必要性があった、らしい。プランナー陣に訊く“必要な奇天烈コンテンツ”の作り方


セガが展開するドラマティックRPG『龍が如く』の最新作『龍が如く8』は、2024年1月26日の発売から一週間で全世界販売本数が100万本を突破した。シリーズ史上初の記録となるが、その裏に存在する開発スタッフの活躍に光が当たることは少ないだろう。

今回AUTOMATONは、「龍が如くスタジオ」各セクションメンバーへのインタビュー企画を実施。本稿では、『龍が如く』シリーズを彩る各種アクティビティやサイドストーリーなどを手がけるプランナーチームより、『龍が如く8』でディレクターを務めた堀井亮佑氏とメインプランナーを務めた千葉弘隆氏に話を伺った。プランナーチームインタビュー第2回では、プランナーチームが実際に手がけたものについて探っていく。

堀井亮佑氏

千葉弘隆氏


あれでも制限をつけて生まれたドンドコ島

――『龍が如く8』のミニゲームは、これまでの作品のように細かいものをたくさんというよりも、大規模なものを取り揃えたというところが特色だと思っています。この方針転換には何か理由があるのでしょうか。

堀井亮佑(以下、堀井)氏:
ハワイ自体がかなり広いので、細かいものがたくさんあったとしても、気付かずに終わってしまう可能性が高いんです。なので、『龍が如く8』では大きいものをいくつか用意して、なるべくみんなが遊ぶようなクオリティに仕上げた方が理に適っているかなと思い、大きいものを置いていく方向に寄せました。

――前もってミニゲームの数を決めるのではなく、作品の舞台やテーマに合わせて、毎作ミニゲームの数を拡縮していると。

堀井氏:
そうですね。人数だったり予算だったり、チーム内のリソースは基本的に限界があるものです。その中で小さいものをたくさん出した方がいいのか、大きくて面白いアイデアに絞った方がいいのかということは、諸々を踏まえた上で決断しています。今回は「ドンドコ島」など、手をかければかけるほど面白くなりそうなコンテンツが明確にありました。それを伸ばしていった方が、ゲームとしては小さいミニゲームがたくさん入っているよりも満足度があり、パンチの効いたものになると判断して、今のような内容にまとめています。。

――一定のスケール感と決めているわけではなく、ポテンシャルを見て伸ばしたり縮めたりというのもプランナーの仕事というわけですね。

堀井氏:
そうですね。その辺りはバランスですね。

――「ドンドコ島」はついつい作り込んでしまった、と横山さんや阪本さんがメディアインタビューなどでお話しされていましたが、こちらも作る範囲の制限はされたのでしょうか。

堀井氏:
逆に制限してなんとかあの状態に収まった、という感じです(笑)島ももっと大きくすることもできたし、もっと色々なアイデアを入れる案もありましたが、最終的には色々鑑みて今の形にくらいにまとめました。

実は「ドンドコ島」は、最初はもっとシンプルなゲームを考えていたんですよ。素材を集めて何かを建てておしまい、という構造だったんですが、作っていてどうも『龍が如く』らしいケレン味というか、ぶっ飛んだところが足りない気がして。あと、島での1日が暇過ぎるなと。

スローライフを楽しむゲームや島を作るゲームは、自分で好きなものを作って自由にのんびり遊んでね、というスタイルが多いと思います。ただ、自由に楽しんでね、というのは人によっては「何をすればいいかわからない」となってしまうリスクもあります。そもそもスローライフと言われても、今パレカナが大変なことになっているし……、こんな状況で……みたいな(笑)


一同:
(笑)

堀井氏:
なので、忙しいゲームにした方が『龍が如く』のユーザーには合いそうだとか、そういう部分がだんだん課題として見えてきたので、その課題を何とかしようと進めていきました。その結果として、バトルやお客さんを呼んでお金を稼ぐシミュレーションゲーム的な遊びを取り入れたわけです。会社経営やキャバクラ経営もそうですが、ライトなシミュレーション的な遊びは、『龍が如く』のユーザーから好評を得ているところですし馴染みやすいところなので。「ドンドコ島」にシミュレーションゲーム要素を入れれば、『龍が如く』らしくなって、ただの島作りゲームとは違うものができるんじゃないかと感じて仕上げたのが、今のかたちです。

――会社経営がなくなって「ドンドコ島」ができたのは、代わりというか進化系ということでしょうか。

堀井氏:
そうですね。もともと『龍が如く7 光と闇の行方』の会社経営のような、遊ぶとゲームの進行にすごく有利になるコンテンツとして「ドンドコ島」は想定していました。細かい仕様は決まってないけれど、島を上手く作ると最終的にお金がこれくらい手に入る、というようなところは事前に大体決めていました。

――さきほど「ドンドコ島のスケールはこれでも制限をかけたほうなんです」とおっしゃられましたが、そこで制限をかけるに至った経緯はスケジュールでしょうか。それとも工数ですとか、あるいはほかの誰かに止められたとか……。

堀井氏:
当然スケジュールの都合による部分もありますが、一番はゲーム全体のバランスです。スケールを大きくすればするほどクリアができない人が増えたり、本編が進められなくなったりしていきます。ドンドコ島はあくまでもサイドコンテンツなので、満足感がありつつも難しすぎない、達成感はあるけれど気軽にやれるというようなバランスを意識して、最終的に余剰気味の要素を削ってゲームデザインをしていきました。

逆に、神室町のゲートといった置ける物を増やしたり道を敷けるようにしたり、あればユーザーに喜んでもらえるものはスケジュールギリギリまで入れ込んでいきました。なので、「ドンドコ島」のスケール自体は最初の構想からそこまで大きくなったというわけではないですが、なるべくストレスなく楽しめるように、さまざまなアイテムや機能を付け足していくのに時間をかけた感じですね。


――個人的に気になったところなのですが、「ドンドコ島」のアクティビティで魚を銛で獲るのはなぜでしょうか。こういうのは決まって釣りが入れられがちな印象だったので。

堀井氏:
元々は釣りだったんですが、釣り竿だと合わないなと(笑)釣りだと、魚がかかるまで待つ時間が長いじゃないですか。ただ「ドンドコ島」は忙しくて、待っている間に日が暮れてしまうので、だったらさっさと突いて捕獲した方がいいということで、銛を使うことになったわけです。その方が『龍が如く』らしさもありますし。

――なるほど、テンポとらしさの両方で銛を選ばれたのは納得です。

「不審者スナップ」は作る必然性があった

――ちなみにサブストーリーは、どういった工程で作られているのでしょうか。

千葉弘隆(以下、千葉)氏:
1つのタイトルにどれくらいのサブストーリーを実装するのかは割と早い段階で決めてしまって、その枠の中でどのくらいボリュームを膨らませていくかを考えることが多いです。

堀井氏:
そうですね。だからサブストーリーは今回30個とか、序盤に決めてという感じですね。それに対してアイデアを集めて、どれを採用するのか決めて、最終的にクオリティを高めていくというわけです。

あと、枠はハワイで何枠とか、ハワイの感動枠で何枠とか全部決めています。お笑い枠が多過ぎるから感動枠をもう5枠増やすとか、そういった変更もありますね。ちなみに、サブストーリーは、ひとつ作るのにすごい手間のかかるものと、手間のかからないものと差があるので……まちまちです。


千葉氏:
中身がどれくらいの密度のものかで実装する際の手間が全然違ってきますね。

堀井氏:
シナリオメンバー中心にプランナーチームみんなで案を出し、採用したものを各自シナリオ化していくんですが、つまらなかったら基本的には絶対入れないので、採用されたものもシナリオ化してイマイチだったら修正を何度も重ねてもらいます。だから一つの話でも修正第8稿、第9稿とかになっちゃうこともあります。

千葉氏:
イマイチなので、新しいものを考えようとか、迷走したものを切っていくこともよくあります。

――アナコンダショッピングセンターのサブストーリーにあったステルス系のミニゲーム「アナコンダエスケープ」が、1回限りだったのが意外でした。このシステムを作った以上、何回も出したいものだと思うのですが……。

堀井氏:
いや、あれは疲れるし、1回で十分でしょう(笑)

一同:
(笑)

千葉氏:
「アナコンダエスケープ」は、一発で収めた方が美しかろうと思って、潔く1回限りにしました。作るのも実は結構大変で、索敵範囲の調整やクイズとかパスワードを考えたり、細かいところのボリュームやバランスのコントロールだったりをやっていたら、なかなかコストがかかってしまって、ちょっと反省しています。ほかにも、特殊制御系として『龍が如く8』では車を避けるものとかもありましたが、そういうのはなるべく手間のかからないように、と話してはいます。

――ところで、「不審者スナップ」の発案者は堀井さんということでいいのでしょうか。

堀井氏:
そうなりますかね。あれはそもそも最初は入れる予定はなかったものなんです。

ハワイはトロリーが普通に運行しているので、ゲーム内にも移動手段として入れることにしたんですが、、実際入れてみるとトロリーはスピードが遅くバトルが起こるわけでもないので、乗っている間がかなり退屈になってしまいました。じゃあ、乗っている間にできる何かを考えようと。そこで写真を撮るという案が出たんですが、次は一体何を撮ればいいんだろうという問題が浮上しました。それで、最初はイヌとかを撮って……。


千葉氏:
当たり障りのない被写体ですね。

堀井氏:
でもイヌかぁ、なんだかなぁ……と。

――イヌでいいじゃないですか(笑)

千葉氏:
イヌでもいいのですが、ゲームで考えたとき被写体としての正解が分からなかったんですよね。

堀井氏:
普通に歩いているイヌと、このミニゲームのために置いたイヌというのが交差するとわからないんですよ。それにちょっと普通すぎるし。イヌを撮る理由もないし。なので、もうちょっと突飛というか……、この風景の中でもパッと見で「あっ!いた!」ってなりつつ、馴染むものはないかしらということで、とりあえず不審者を置いてみるという(笑)で、パンイチの不審者を置いてみたら非常にわかりやすくて、「不審者でいいじゃん!」となりまして、不審者にしました。

――千葉さんから見ても筋が通ってると。

千葉氏:
はい。あれが一番理に適ったゲームだと思います。

堀井氏:
ロジカルなんです。移動手段としてのトロリーをどう活かすかと考えた結果、あれがベストであろうという。


――じゃあそれを実装していこうと。

千葉氏:
「不審者スナップ」の最初のプロト版は、もうちょっと簡易的なものだったんですが、作っていく中でカメラをズームしたりパンしたりとか、いろいろなアイデアがチームからも出てきて。最終的にちゃんとしたゲームになりました。あれはどちらかというと、最初のインスパイアから引き伸ばされていったようなかたちで……。

堀井氏:
勝手にみんな盛り上がって、これ意味わからないけど意外といけるぞ、と。

千葉氏:
とにかく、なんかいけそうなことだけは確信しました。

堀井氏:
みんな勝手に不審者をいっぱい増やしたり……。

――不審者の登場バリエーションがやたら豊富でしたね。

堀井氏:
ありもののモーションとかをいろいろ駆使していて。担当の鯉沼(鯉沼章氏、『龍が如く8』アドベンチャーパートのプランナー)という子がいるんですけど、彼がすごい頑張ってくれて。

千葉氏:
不審者たちに、いろいろなバリエーションをもたせて、ちょっとしたストーリー性をもたせながら組み立てていってくれました。

不審者スナップのゲームシーン


堀井氏:
すごくいいミニゲームになってくれて良かったです。ただ、プロデューサー陣にはじめて見せたときは「なんじゃこりゃ」というリアクションで(笑)

千葉氏:
本当にそういうリアクションでしたね(笑)

堀井氏:
先ほども言いましたが、「不審者スナップ」は元々想定していなかったミニゲームなんです。「クレイジーデリバリー」や「ドンドコ島」は、『龍が如く8』の最初の企画書の段階から入っていたんですが、「不審者スナップ」は、ゲームを作っていく中で、問題点を解決するために作ったものですから。

千葉氏:
副次的にできたものですね。「不審者スナップ」という言葉すら最初ありませんでしたから。

――現場主導で作られたコンテンツなんですね。

堀井氏:
入れて成功する確信がありましたし、入れた理由をきかれても答えられるので「絶対大丈夫だから入れよう」と現場判断で決めましたね。

千葉氏:
それで、どんどん進んでしまいました。

――さきほどから話を訊いていると、意外といろんな要素をその場でしれっと入れている印象があるのですが、プロデューサー陣に止められることはないんでしょうか。

堀井氏:
今作に関してはほぼなかったですね。僕は横山や阪本とはゲームを一緒に作って長いですし、趣味趣向や気にするポイントも近いし、割と僕自身プロデューサー視点でゲームを考える人間なので、大きく食い違うことは基本的にあまりないと思っています。ちょっと自信がない箇所やフィーリングによる部分などは、直接気軽に相談しちゃいますし。ディレクションしやすいように、現場を信頼してかなり任せていただいているので、とても良い関係性でやれていると思います。

――ちなみに、プロデューサー陣に限らず、現場以外の意見で変更になったものはありますか。

堀井氏:
セガの内部のQAチーム(ゲームの面白さなどを検査する品質保証チームのこと)や海外チーム、マーケチームなど、開発以外の関係者に制作中のROMを渡して意見やフィードバックを貰う事はありますね。そのフィードバックすべてを反映させるわけでは当然ないですが、一理あるという意見は採用して変更したりはしますよ。

――そのフィードバックによって『龍が如く8』で変更になったところはどういったところでしょう。

堀井氏:
一番大きいものだと、タクシーの量を増やしました。

千葉氏:
そうですね。移動の要素が今の時代は大事なんだという熱いフィードバックが来たことを覚えています。

『龍が如く8』ハワイのマップの一部。ファストトラベルにあたるタクシーのポイントがいくつもある


堀井氏:
開発としては簡単に移動されるとゲームの寿命が短くなるし、街を遊んで貰いにくくなるので、タクシーには正直ネガティブな部分があったんですが、タクシーでいろいろなところに行けるようにしないと、今の時代、レビュー評価が下がるかもしれません!とかなんとか言われ(笑)て

一同:
(笑)

堀井氏:
QAチームとかは特に、そういうトレンドとかも理解しているので、意見をもらったら僕たちも真摯に向き合います。できるところ、やったほうがいいと僕らも思ったものは対応するし、理念に合わない時は採用しません。あくまでも意見は広くもらうけれど、最終的に決めるのは僕ら、というところは絶対に揺るがさないようにしています。

「マッチングアプリ」も「スナック遊び」も苦戦した

――これまでプランナーとして作ることが難しかったというコンテンツを、『龍が如く8』とシリーズを通してそれぞれ教えてください。

堀井氏:
『龍が如く8』でいうと、一番仕様的に難産だったのは「マッチングアプリ」ですね。

千葉氏:
ああ……、そうですね……。

――あれもある意味「8」を代表するミニゲームですね。

堀井氏:
「マッチングアプリ」を入れるというのは企画当初から決めていて、マッチングアプリあるある的な要素を入れるということも決めていました。ただ、じゃあ最終的にどうマッチングアプリっぽさを残しつつゲームに落とし込むか、というのが思った以上に難しかったです。最初は今のデザインとはかなり違うゲームでした。

千葉氏:
最初はいろいろ案がありました。サイコロを振るとか、春日じゃなくてマッチングアプリを通じて足立さんの婚活を応援するゲームにするとか……。

堀井氏:
いろいろ迷走した時期がありました。マッチング対象となる相手が10人いるんですが、実写で登場する実質当たりとされる女の子を3人と決めて、他は写真詐欺でした!で笑わせる……というのを決めたときに、直感的に「これでいける」となりましたね。


千葉氏:
シリーズを通してだと、『龍が如く6 命の詩。』の「スナック遊び」というミニゲームが難しかったですね。「スナック遊び」のコンセプトは、地方のちょっと寂れたスナックに桐生が単身乗り込んで、だんだん常連客と仲良くなっていく様を楽しく体験するというものでした。ただ、冷静に考えてコンセプトがものすごくふわっとしているんですね。だんだん仲良くなるってなんだろうと。

――たしかにふわっとしている。

千葉氏:
「スナックで馴染む」ってなんだ? どうすれば仲良くなれるんだというところで、かなり悩んだ記憶があります。そこも当時のメインプランナーだった堀井といろいろ話をして、会話劇とミニゲームで、桐生が人々と仲良くなっていく様子を描くようにしようとなりました。ただ、そのミニゲームもなかなか決まらず……、最終的にスタッフ何人かで「スナックの将来を考える会」と銘打ったミーティングをして、桐生が正しく相槌をうったら仲良くなるんじゃないか、ということであの形になりました。

――今振り返ると作る前に「スナック遊び」のコンセプトをもうちょっと練っておいた方が良かったと思われたり?

千葉氏:
最初は、随分ふわっとしているなぁと思うところはあったんですが、逆に考えたら好きに作っていいんだなとも思いました。ふわっとした中で、どういう風にしたら仲良くなっていくかを考える余地と、ゲームが面白くなっていく様を桐生に重ねていくことができたので。結果的に、ゲーム性をもたせることも出来て、面白いものになったので良かったなと思っています。自分としても成長させてもらったコンテンツになりました。

『龍が如く6 命の詩。』より「スナック遊び」


“どうでもいい会話を作る天才”が作ったパーティーチャット

――「パーティーチャット」(街中で出るチャットイベント)のテキストは千葉さんが多く書かれたという話を拝見しました。メインストーリーはシナリオライター、サブストーリーはプランナーといった具合に誰が書くか分かれているのでしょうか。

堀井氏:
基本的にメインストーリーはシナリオ班にやってもらっています。それ以外のところはプランナーが主に担当していますね。

千葉氏:
担当はメインストーリーかそれ以外か、というところで分かれることが多いです。メインストーリー以外は、各プランナーだったり私だったりが書いていて、メインストーリー上の何かを補足した方がいいだろうというところは、直接ディレクターが書くこともあります。

堀井氏:
そこは上手いこと分業してますね。ストーリー設定に強いのはやっぱりシナリオ班なので、その辺りは基本的に担当してもらっています。

――「絆ドラマ」(キャラごとにある固有イベント。春日と桐生以外の仲間の絆レベルを上げることで発生。)はそのキャラのアイデンティティに迫る話が多いですが、そこは一緒に作ることもあるんでしょうか。

堀井氏:
「絆ドラマ」はキャラ設定に大きく絡むので、大体こんな感じの話にしたい、というアイデアを伝えて、シナリオ班のメンバーに進めてもらう形が多いですね。「絆ドラマ」は、キャラクターの過去を掘るような話が多く、ストーリー上の設定と矛盾する、となると後々困ることになるので、ちゃんと細かい打ち合わせをして固めていきます。逆に、そういうのは関係ない街中での「パーティーチャット」や宴会トークなどの軽い会話は、シナリオ班は関係なく、千葉たちにやってもらっています。

――『龍が如く6』と比べて『龍が如く7』以降、「宴会トーク」(飲食店で起こる会話イベント)と「パーティーチャット」が実装され、めちゃめちゃテキスト量が増えていると思うのですが、実際のところいかがでしょう。

堀井氏・千葉氏:
めちゃめちゃ増えています。

堀井氏:
ただでさえ多かったんですが、前までは主人公ひとりだけ頑張っていれば良かったところ、音声収録もパーティーメンバー全員分必要になったので大変ですね。

『龍が如く8』クリア後のパーティーチャット一覧。そこそこやりこんでいるユーザーでもまだ見れていないものも多くある


千葉氏:
パーティーメンバー10人でそれぞれにちゃんと見せ場と雑談とをフルボイスで入れているので、とんでもない量になりました。

――「パーティーチャット」と「宴会トーク」、どちらが多いですか。

千葉氏:
トータルで見ると「パーティーチャット」の方が圧倒的に多いと思います。

堀井氏:
100個くらい?

千葉氏:
『龍が如く8』に関しては、「絆さんぽ」も入れると200ちょっとあって……、尋常じゃない数です。

――その多くを基本的に千葉さんが書かれているんですか。

千葉氏:
基本的にはそうですね。それ以外にも開発メンバーから出してもらった案全てに目を通して調整を入れています。

堀井氏:
「パーティーチャット」や「宴会トーク」は街を埋めるための施策で数がいるので、チームのみんなにもアイデア出しに参加してもらいます。その案を取捨選択して、良いものは千葉の方で直したりそのまま使用したり、彼を中心に進めつつ、足りないものは新規で作成したりしてくれています。

――「パーティーチャット」は、個人的な観測範囲の中ではユーザーから評価されている印象です。何が評価されていると思うのか、おふたりのご意見が聞きたいです。

千葉氏:
まず、本編だけでは描けないキャラクターの趣味嗜好とか、そういった細かいところを伝えられる、純粋にキャラクターへの親近感を抱かせられるシステムとしてすごく機能したと思います。あとは、ゲーム的には毒にも薬にもならないような雑談がほとんどなんですが、実際人間関係ってドラマティックなことが起きないと仲良くなれないかというと、そうではないじゃないですか。

――たしかに。

千葉氏:
どちらかというと街中でどうでもいい雑談を積み重ねている方が、仲良くなって絆が強くなっていくことが多いと思うので、メインストーリーで対峙する巨悪に対して「互いを守りながら協力して戦う」みたいな状況に説得力を与えられたことも大きいと思っています。

――その人の新しい一面が見えやすいというか。

千葉氏:
ソンヒなどは割と面白い感じにできたかなと。あとハン・ジュンギがおっちょこちょいみたいな部分も。意外とこいつ抜けているな、みたいなところを細かく入れられたところとかも愛着がわくいい塩梅になったのではないかと思います。

――千葉さんは元々シナリオの勉強をされていたのでしょうか。

千葉氏:
いえ、全然していないです。先ほど話した「スナック遊び」ですが、あのコンテンツも本当にどうでもいい会話がおっさんたちの間で繰り広げられるんですね。ある種偶然なのですがそのおかげで、あの手のどうでもいい会話を自分はいくらでも書けることが分かったんです。

堀井氏:
千葉はどうでもいい会話を作る天才なんですよ。

一同:
(笑)

千葉氏:
それは褒めてますか?(笑)とはいえ、これまでずっとサブストーリーも作ってきたので、会話感や物語の組み立て方に関しても鍛えられていて、その力が『龍が如く7』からRPGになったことに上手く噛み合ったのかなと思います。


――キャラクターの解像度の高さが大事なんですね。

千葉氏:
そうですね。特にRPGになってからは仲間も増えるのでキャラクターゲームの側面が従来よりも強くなっています。そこに対して各キャラクターの細かなパーソナリティの部分は、メインストーリーでは描けないところも多いので、街を歩きながら自然と解像度を高めていけるのが良かったですね。

――パーティーチャットやサブストーリーは結構おっさんじみていますが、どれくらいの年代の人が楽しむというのをイメージしているのでしょうか。

堀井氏:
まあ……、僕たちもおっさんですからね……。大体その辺りのユーザーがターゲット層なんじゃないでしょうか。

一同:
(笑)

千葉氏:
話をしているキャラクターがおっさんなので、キャピキャピした会話にはどの道ならないんですよ。

堀井氏:
ただ、そこが『龍が如く』のひとつのポイントかなと思うんです。『龍が如く7』では無職のおっさん3人の「ハローワークに行こうぜ」というところから始まっていますが、おっさん3人だから若者の勇者一行とはテンションは違うし、悩みも腰が痛いとかだし……。でも、そんな年相応の人間臭いところがオリジナリティなのかなと。僕たちも若手の飲み会に行ったら疲れちゃうけど、おっさんたちとスナックで飲んでいたら楽でいい、みたいなことがあるじゃないですか。

千葉氏:
そうですね(笑)ネタ選びも割とそれに近いところがあります。足立さんが尿酸値を気にしているから、「ビール飲みたいけど、どうしよう」と悩んでいる会話を入れたりとか。若者らしさじゃない、おっさんの仲良し会話というのをアイデンティティとして選んでいます。


堀井氏:
彼らもユーザーに近い生身の人間なので、彼らの悩みというのは、僕らの悩みでもあります。だからこそ入っていきやすい、ふつうの人の会話を聞いている感覚があるんでしょうね。宝がどこにあるとか、そういったゲーム的な用語がなくて。ただ単に尿酸値を気にしてしまうという話をしているだけの方が、気張らなくていいのかもしれないですね。

――個人的にはパーティーチャットを楽しく読んでいましたが、自分がおっさんだから受け入れられたと思うとなかなか複雑です。

一同:
(笑)

千葉氏:
『龍が如く8』だと、千歳などは若いキャラクターなので、彼女が混ざったときに足立さんとどういう化学変化を起こすかというのは、楽しんで書けました。


堀井氏:
千歳は尿酸値のことを気にしていないだろうからね。

千葉氏:
そうですね。だから冷めた感じの切り返しをするとか、そこら辺は新しい風が入って面白かったのかなと。

――千歳が最後に「キモッ」って言って終わるようなパーティーチャットとかもありましたね。

千葉氏:
雑に扱われて終わりみたいな(笑)そういったところも楽しんでいました。

尿酸値(みたいな)話を今後もしていく

――『龍が如く』のイベントに足を運ぶと、今は結構女性層のファンを目にすることが多いです。シリーズに女性ファンが増えたことは狙いどおりなんでしょうか。

堀井氏・千葉氏:
まったく狙っていなかったですね。

千葉氏:
女性にも楽しんでいただけているのか、という驚きはありますね。

堀井氏:
尿酸値の話をしているのに、なんで楽しんでもらえるのかわからない。

一同:
(笑)

堀井氏:
女性も含めて新しいファンの方が実際にとても増えて、それは単純にとてもありがたいことですし、嬉しいことでもあるんですが、そのために新しいファンが喜ぶような会話を露骨にたくさん入れるというようなことはやりたくないと思っています。それだと尿酸値の会話を入れられないので……(笑)


千葉氏:
敢えて寄せていくつもりもないですし、紗栄子とソンヒのネイルの話みたいな華がある感じの話を入れつつも、ナンバの横槍で結局おっさんの会話に……みたいな展開に今後もなっていくのではないでしょうか。

――それでは、今後も『龍が如く』らしさは貫かれていくと。

堀井氏:
そうですね。作り手のポリシーとしては変わっていませんので。海外や若い新しいユーザーに評価いただいてとてもありがたいことではありますが、自分たちが楽しいというところを前提とした上で作っていくというのは変えないつもりでいるので、そこはブレずにやっていきたいなと思います。

――ありがとうございました。

『龍が如く8』は、PC(Steam)およびPS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに発売中。

[執筆・編集:Koutaro Sato]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]
[協力:Nobuaki Shibuya]