売上60万本突破の2人専用協力プレイゲーム『違う冬のぼくら』は、「ケンカしてほしい」という願いのもと作られた。次回作はもっとギスギスさせる予定


講談社クリエイターズラボは8月7日、『違う星のぼくら』を発表した。同作は、『違う冬のぼくら』開発者であるところにょり氏最新作だ。『違う冬のぼくら』といえば、2人プレイ専用のパズルアドベンチャーゲーム。Steam/Nintendo Switch/iOS/Androidでリリースされ、売上60万本を記録している。そんな、ところにょり氏が仕込んでいる次回作について、話をうかがった。

──改めて自己紹介をお願いします

ところにょり氏:
ところにょりと申します。2016年ごろから個人でゲームを開発していて、2021年からは講談社ゲームクリエイターズラボさんと一緒にゲームを作っています。


ゲームで酷いことをされるのが好きなので

──改めて『違う冬のぼくら』について紹介をお願いします。

ところにょり氏:
『違う冬のぼくら』は、それぞれのプレイヤーがまったく別の景色を見ながらプレイする、2人プレイ専用のゲームです。たとえば2人とも同じオブジェクトを見ているはずなのに、片方にはロープに見えたり、運搬可能な箱に見えたりなど、プレイヤーごとに見えているものが違っています。そういったお互いの認識の違いを会話によって埋めながら、協力して壁を乗り越えていくゲームになっています。

──ところにょりさんはX(旧Twitter)で、ずっと1人でプレイしていたとおっしゃっていましたよね(笑)

ところにょり氏:
開発中はずっと1人で作っていて、何年もずっと1人で遊んでいました。1人でプレイしているユーザーはあまり見ないのですが、RTAだと1人で遊んでくれている方もいて、僕はそういうソロプレイヤーを勝手に同士だと思っています(笑)

また1人プレイでは、想定している2人でのゲームプレイとは状況が違うので、開発中そういった部分では想像力を使って開発をしていました。こういう関係性の2人ならこうなるかなとか、カップルならここで喧嘩して別れてくれたらいいなとか、いろいろ考えながら制作を進めていました。

──「お互いが違う情報を持っているマルチプレイゲーム」という点だといくつか先行作品があります。制作にあたって、研究されたタイトルなどはありますか。

ところにょり氏:
コンセプト自体を思いついたのは結構前でした。なので、それぞれのプレイヤーが別の情報を得ながら、情報を共有して進めたほうが面白いゲームなんて誰も思いつかないだろうと思っていたんです。

しかし、調べてみると結構ありました。たとえば『We Were Here』はファンですし、参考にさせていただきました。あとHazelight Studiosの『It Takes Two』も好きなんですが、僕は同スタジオ前作の『A Way Out』がめちゃくちゃ好きで、特に影響されたと感じます。主人公2人のきちんとしたストーリーがあり、プレイヤーたちはそのストーリーに乗っかりながらプレイしていく。その流れを作った上で、『A Way Out』にはあっと驚くような仕掛けがあるんです。

そうしたプレイヤーに対するサディスティックな作りが僕は大好きだったので、『違う冬のぼくら』でもいかにプレイヤーに酷い目にあってもらうかを意識して制作を進めていました。僕はゲームで酷いことをされるのが好きなので、みんなも好きだと思っています。もちろんゲームとして不親切で、酷い目にあわせるっていうのはダメです。きちんとゲームを楽しませた上で、道徳的に判断を迷うようなモヤモヤをプレイヤーに突きつけるのは、作っていて楽しい部分ですね。

 


講談社へのリスペクト

──ちなみに『違う冬のぼくら』は60万本を達成されたと聞きました。率直なお気持ちを伺わせてください。

ところにょり氏:
現実感があまりないです。500人ぐらいならギリギリ想像イメージできるんですが、60万の人たちが決済処理を通して買い、予定をあわせてプレイしたことがまったく想像できません。なので本当にありがたい以外の感想はでてこないですね。でも超ライトユーザーまで届いている実感はあります。たとえばお母さんと小学生の子供が遊んでくれているケースもあって、そういう人たちからはちょっと難しすぎるといった意見もいただきます。お互いの情報を言い合って、合意を形成しないと解けない問題もあるので、まだ言語化が難しいとどうしても解けなかったりとか、そういったケースもちょこちょこ見ている感じです。

もちろん、その上で楽しいと言ってくれている人もたくさんいます。最後までできなかったけれど、最初のそれぞれ別の世界が見えているという、プレイヤーごとに違う画面を見たときの驚きを感じてくれたりだとか、難しくて最後まではプレイできなかったとしてもそういう反応は嬉しいなと感じます。

──ところにょりさんはモバイル向けタイトルでもヒットタイトルを出してきましたが、売り切りゲームでこれだけヒットすると生活も変わりますか?

ところにょり氏:
お金がある程度入ったので……(笑)生活の変化はありました。モバイル向けゲームではリリース後、広告収益がどんどん減っていきました。でも『違う冬のぼくら』はコンスタントにしっかり売れ続けてくれているので、次作に向けてお金の不安がなくなり、開発に全力で集中できるようになっています。

──発売前は、どのぐらいの売上を目標にされていましたか。

ところにょり氏:
そもそも、講談社と売上の話はそこまでしていませんでした。僕の気持ちとしては、10万本は行きたいと思っていて、もし僕が1人の力でゲームを出していたとしても「10万は絶対に行くぞ」という気持ちで作っていましたね。今回は60万本まで行ったので、10万本以降の数字はすべて講談社さんが持ってきてくれたように感じています。

──どこかで手応えを感じた瞬間はありましたか。

ところにょり氏:
発売前にコンセプトを明かしたタイミングですね。最初はゲーム全体のコンセプトを隠していて、2人の少年が家出をする「スタンド・バイ・ミー」的なエモいストーリーとして、ミスリードしていました。発売の数か月前ぐらいに「INDIE Live Expo」で動画を出したのですが、そのタイミングで実はそれぞれ見える世界が違うことをきちんと明かしたところ、ウィッシュリストの増え方がすごかったです。

さらに、海外ではゲーム紹介をしてくれる動画がバズっていたので、そこでいけるんじゃないかと感じました。そもそも、ゲームのコンセプトが絶対に面白いことはわかっていたんですが、でもそれを早い段階で明かしてしまうと飽きられてしまうんじゃないか、やる前から消費されてしまうんじゃないかと思っていたんです。なのでコンセプト抜きでもストーリーの雰囲気や、少年2人の懐かしさのある冒険など、コンセプト以外の部分でも面白さを担保できる作りにしました。

──セールス面で、大きな起爆剤となったきっかけはありますか。

ところにょり氏:
海外での売上が想定以上に伸びたタイミングが何個かありました。海外の男女2人組のストリーマーさんがTikTokで紹介してくれた動画が、聞いたことないぐらい再生されたんですが、動画のバズりをきっかけに一段階上の波がやってきました。ローカライズも最初は英語・中国語がメインだったのですが、きちんと対応言語を増やしていたことも大きかったですね。

たとえば英語で動画がすごくバズった時、英語を第二言語にしている国の人たちも、もちろん英語の動画を見ています。でも、自分でゲームを遊ぶ時には、自分の第一言語に対応していなければ見送られてしまうケースもある。英語圏でバズった動画を見た人たちが自分の国の言語で遊べるように、きちんとローカライズを進めて下地を作っていたことが活きました。僕がやったみたいに言っていますが、このあたりは講談社さんがやってくれたんですけどね。

講談社ゲームクリエイターズラボ チーフ 片山裕貴氏(以下、片山氏):
最初にSteamで早期アクセス配信を始めたときは4か国語対応でした。そこから9に増やし、さらに15へ増やして、今は20言語に対応しています。どのタイミングでローカライズを追加するかがすごく大事なので、ところにょりさんと相談しながら、言語対応を進めていきました。またバズったTikTokerの方はKnZPlayさんというのですが、いわゆる大人気TikTokerではありませんでした。でも『違う冬のぼくら』の実況プレイを契機にすごく注目を集めて、ドカンと再生数を伸ばしました。

なので、僕らとしても一緒に育ったみたいな感覚があります。先日50万本を突破した際には、いろんなストリーマーさんが遊んでくれた様子を感謝の動画として公開したんですが、その時にお礼の連絡をしました。

ところにょり氏:
僕も個人的にスパチャ送りましたね。あなたたちが広めてくれたおかげで、たくさん遊んでくれていますと(笑)

──デベロッパーとパブリッシャーは、デベロッパーの作った商品を売りその売上金を分け合うという点で関係性が複雑です。一方でところにょりさんが「売れたことはパブリッシャーのおかげ」と言い切る姿勢は印象的でした。そういった信頼関係はどういったところから育まれたのでしょうか。

ところにょり氏:
僕がそもそも講談社さんを出版社として強くリスペクトしていて、人生の中で講談社が作った本に助けられてきたことがベースとしてあります。たとえば文芸第三出版部のミステリーであるとか、講談社BOXの作品であるとか。いわゆる「ファウスト」「メフィスト」系の本に高校生の頃救われた経験がありました。

それから講談社がゲームを支援していく流れの中で、僕自身が伝えないといけないという使命感もあります。ゲーム仲間やゲームクリエイターたちも含めて、どうしても人間は弱いものを応援したいじゃないですか。でも講談社は大きな会社で、そういう会社が成功すると軽々しく成功しているように見られてしまう部分があると思います。さらにパブリッシャーは、外側からだとなかなか何をやっているのかは見え辛いです。クリエイターからしか見えないものもあるので、しっかりと言及するようにしています。

片山氏:
僕らも、いろんなことを一生懸命考えながらやってきました。お互いの補完というか、作るところは僕らじゃまったくできないので、それならどうすれば売れるのか、どのタイミングで何をすればもっと売れるのだろうかと、パブリッシャーが出来ることと向き合ってきました。そういうことは、これからも頑張ってやっていけたらいいなと思っています。

──特にありがたかったサポートは何かありましたか。

ところにょり氏:
やっぱり編集者さんに、ビルドを見た段階で「ここはこうした方が良い」と意見をいただいたり、そういったサポートはかなりありがたかったです。1人で作っていると、どうしても自分の作ったものは客観的に見られなくなっていきます。最高だと思っていても実は視野が狭く、「最高だと思い込みたいだけ」なことがあるんです。そこからさらに良くするのは開発工数もかかるしめんどうな気持ちもあるのですが、客観的に「ここはこうしたらもっと最高になりますよ。そのためにもっと頑張りましょうね」と誰かが言ってくれると、頑張る気になれるんです。

片山氏:
編集の中では、ところにょりさんの頭をどう刺激しようか、ということを考えていました。おっしゃっていただいたように、お一人で考えていること自体も素晴らしいんですけど、外側から刺激すると脳が活発になって、さらに良いアイデアが出てくることもあります。そうした関わり方は、次回作でも変わっていません。


もっと喧嘩してほしい

──次回作の話が出ましたが、新作はどういった作品になるんでしょうか。

ところにょり氏:
『違う星のぼくら』はタイトルから察せられるとおり、『違う冬のぼくら』と同シリーズの作品です。ストーリーとしては、2人の男性が地球ではないどこかの惑星へ不時着し、脱出を目指す物語が展開されていきます。『違う冬のぼくら』の直接的な続編ではないのですが、コンセプトやプレイした時の感覚は近いと思っています。

またそもそもこのゲームは、『違う冬のぼくら』よりも前に作りたいと考えていた作品です。『違う冬のぼくら』の制作時には、考えていく中でコンセプトがどんどん変わり、結果現在の姿になったんです。『違う星のぼくら』のコアコンセプトとしては、前作から1歩きちんと戻って、2人プレイでできる面白いことをしっかりやろうとしています。またプレイヤーに対するサディスティックな欲望は、今回かなり詰め込んでいます。『違う冬のぼくら』をプレイしたユーザーさんたちがすごく仲良くしているのを見て、もっと喧嘩してほしいなと思ったんです(笑)なので、より感情を揺さぶられる内容を目指しています。

──覚悟しておきます。ありがとうございました。

『違う星のぼくら』は、PC(Steam)向けに開発中で、2025年初頭に発売予定。『違う冬のぼくら』は、Nintendo Switch/PC(Steam)/iOS/Android向けに配信中だ。

[執筆・編集:Keiichi Yokoyama]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]