元2K Games開発者ステルスゲーム『EVOTINCTION』は、とにかく「AIの挙動」にこだわった。長い時間をかけて作り出した小島秀夫氏へのラブレターステルスゲーム


Astrolabe GamesおよびSpikewave Gamesは9月13日に、『EVOTINCTION』を発売する。対応プラットフォームはPS4/PS5/PC(Steam)。ゲーム内は日本語に対応する。

『EVOTINCTION』はSFステルスアクションだ。舞台はAIによって制御された研究施設兼居住区の「HERE」。ある日HEREのネットワークは出所不明のウイルス、通称“RED”に感染し、施設全体を制御していたAIが暴走。研究所は危機的状況に陥った。プレイヤーは研究開発部リーダー劉博士となり、ハッキングなどを駆使し、生存者を探しつつウイルス感染の原因を探る。

『EVOTINCTION』は、公開トレイラーの再生数も多く、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のChina Hero Projectに選ばれるなど、中国を中心に注目を集めている。どのようなステルスゲームになっているのか、Spikewave Gamesの顧星演氏に話を聞いた。

──自己紹介をお願いします。

顧星演(こ せいえん)氏:
顧星演です。Spikewave GamesのCEOをしており、『EVOTINCTION』のディレクターも担当しています。よろしくお願いします。

──どのようなキャリアを積んできたのでしょうか。

顧氏:
昔からゲーマーで、とくに『メタルギアソリッド』シリーズが好きでやっていました。それでゲーム開発をやりたいと思いたち、2007年に大学卒業する前、ゲーム会社にインターンで入り、オンラインマルチプレイヤーゲームのデザイナーを担当しました。その後2009年にAAA規模の開発チームに入ってシングルプレイゲームを開発していました。そして2015年に現在のゲームを開発することになり、会社立ち上げました。

──ありがとうございます。今開発されている『EVOTINCTION』についてもご紹介をお願いします。

顧氏:
『EVOTINCTION』は潜入型のシミュレーションゲームです。いわゆるステルスゲームですね。主人公は、特殊な能力はない劉博士という科学者です。AIによって支配された研究室にはたくさんの科学者が閉じ込められて、劉博士が助けに行く、という流れになっています。ハッキングスキルにはいろんな種類のものがあり、時間を掛けてハッキングすることもできますし、即時にハッキングする簡単なスキルなどもありまして、さまざまなプレイヤーのプレイスキルに合わせて遊ぶことができます。たとえば、いっぱい罠を設置してAIの敵をドミノのように一気に倒すという遊び方も可能です。


──このゲームはすごく長い間開発されているとお聞きしています。発売日を発表した今の気分を教えて下さい。

顧氏:
今は率直にとても嬉しいです。最初は4人の開発チームで、小規模のインディーゲームを開発しようとしていたんです。ところが、このゲームの開発時に、投資家やプレイヤーたちから大きな期待をいただいたので、より優れた作品にするために改善をすることにしました。けれども、2020年からコロナ禍などいろいろありまして。チームのメンバーにとっても家庭の事情もあって困難な時期もありましたが、今でもたまに見る2019年頃からずっとフォローしてくれていたプレイヤーたちには、とくに感謝しています。

──開発ではどの部分に時間が掛かりましたか。

顧氏:
開発に一番時間が掛かったのは、やはり本作特有のハッキングスキルですね。普通の戦闘系ゲームと違って、AIの設定は複雑にする必要があったので、そのあたりに一番時間がかかりました。AIの動作にも多くの種類があり、プレイヤー、プロップ、環境、コンパニオンと対峙する際には、これらの動作も異なります。ハッキングシステムのさまざまな能力の違いと組み合わせを構築するのに、多くの時間を費やしました。

たとえば、私たちが当初設計した主なハッキング方法は、敵を3~5秒かけてシャットダウンして、敵の視覚を無効化できる能力でした。その後、視覚に関するハッキング能力をさまざま用意しました。「効果はすぐに出るが侵入の難易度を上げる、トータルでは効果が低い能力」、そして「効果はすぐに出るが操作が難しい能力」「効果はすぐに出るがリソースを消費する能力」など、数多くの試みを行ってきました。これを繰り返して、プレイヤーがステルスにおいて戦略や戦術を練りながら攻略できるようにしています。

もっともそれらは元々計画していた開発の期間ではあったのですが、予想外に時間が掛かったのはカットシーンです。理由としては、ゲームの内容に合うような力の入った高品質なカットシーンを入れたためです。実際のゲーム中にキャラの装備が破損していたら、カットシーンではちゃんとそのときの状態が反映されています。

──開発チームは今までどのようなキャリアを積まれてきましたか。本作は小規模開発にしては、かなりテクノロジー的には挑戦している、力の入ったゲームだと思っています。開発チームはどのようなキャリアの人で構成されていますか。

顧氏:
会社設立当初のスタッフは4人でした。2K Games時代からの友達で、プロデューサー、デザイナー、エンジニアで構成されています。ただ我々はインディーではありますが、AAAタイトルのような作品をプレイヤーたちに届けたいという想いもあり、徐々にメンバーを増やしていて、今は10人の開発チームとなっています。

──初期メンバーはみなさん2K Games出身なんですね。なんとなく納得です。

顧氏:
2K Games中国支社にいた時に参加したタイトルのなかでも、卒業してすぐに配属されたプロジェクトは、初代『バイオショック』です。デバッグの最終的な仕上げの仕事でした。その後『バイオショック2』から参加した仕事の大部分は、主にアートに関する仕事でした。

その後、初代『バイオショック』の iOSバージョンのUIデザイン、操作デザインについての仕事もしてまして、その後もiOSの『ボーダーランズ』の開発に最初から最後まで参加していました。最後に参加したプロジェクトは『XCOM』です。

──『EVOTINCTION』が影響を受けた作品はありますか。

顧氏:
正直なところ、『EVOTINCTION』は『メタルギアソリッド』のデザインを意識しています。『メタルギアソリッド』のスムーズかつ緊張感のあるゲームプレイがとても好きです。小島秀夫監督を尊敬しており、本作は小島監督へのラブレターの意味合いもあります。しかし『メタルギアソリッド』は天才的な作品なので、その成功を単純にマネることは容易ではなく、その体験の本質を出発点として何ができるかを常に考えています。

それと、クリストファー・ノーランの映画「インターステラー」からも影響を受けています。この作品の、小さなことから大きなものを見る方法が好きで、主人公の個人的な視点から人類全体の生存と広大な宇宙との関係を感じます。ちなみに『EVOTINCTION』ではプレイヤーは孤独感を感じやすいですが、これは意図的なものです。孤独感を打ち破るための要素を用意していますが……この先はプレイして確認してみてください!ずっとステルスし続けるのも疲れると思うので、いろんな要素でフォローしています。


──ちなみに本作のAIはどういう風に設計されていますか?

顧氏:
本作では特にAIの表現パターンの量に特に力を入れました。プレイヤーの行動にどのような反応をするのか、たとえば静止モードとか、気づきモードとかいろんなパターンがあります。AIは基本ロボットになりますが、ロボットは人間のように、わかりやすく表現するのが難しいため、プレイヤーにAIが今どんな状態なのかをわかりやすく示しました。さまざまなアイテムやカメラ、ハッキングスキルを通して、AIがどのような状態なのかもわかるようにしています。AIにもいろんな種類がおり、たとえば視覚がないのにスキャンでプレイヤーを検知してくるAIもいます。

──面白いですね。

顧氏:
ほかの例もあげますね。ゲームの中のAIは連携してパトロールを行います。例をあげますと、AI・AとAI・Bはタッグでパトロールをしています。で、そのタッグを組んでいるAIは、お互いの状態を常に知っている状態で、もしプレイヤーがAI・Aを無力化すると、残るAI・Bはすぐ気づきます。どんな遠い場所にいても、すぐ倒れたAI・Aのところに行き、その倒れたまたは壊れたAI・Aを修復するのか、または他のAIに警告を出すのか、そういうさまざまな対応をします。このような例は、本作のAIの理解につながるかもしれませんね。

ゲームの序盤には、そういう賢いAIの軍団は、あまり出てきません。ゲームを2~3時間進めれば、そういうちょっと対応をしづらいAIの軍団が、少しずつ現れてくると思います。

──二人一組の連携ですか。なかなかタクティカル。

顧氏:
あとは、故障をしているAIが、視覚・聴覚が破壊された、または移動不能などの信号を出し、周りのAIの仲間たちが診断を行い、適宜修復を行います。それもゲームの魅力のひとつかと思います。


──AIや難易度について、デモ版のユーザーからの難易度に対する反応はどうでしたか。

顧氏:
最初の頃は難易度の評価が結構分かれていましたが、今はデモ版の範囲の難易度は基本的には簡単だと評価されているようです。やはりデベロッパー的には挑戦的なゲーム内容にしたいですけれど、そのあたりはプレイヤーの意見を拝聴しつつ、中盤後半からちょっとずつ難しくするのがいいと考えています。

──入りは易く、奥は深くですね。

顧氏:
まさしく。ちなみに『EVOTINCTION』を最初に作った時の難易度は、従来のステルスゲームとほぼ同じくらいでした。ただ、ステルスゲーム慣れしていないユーザーにとっては当初の難易度では序盤でも難しく感じる場合も想定されました。そういう事情もあって、序盤は多少やりやすい難易度にして、そのゲームの物語とキャラクターの魅力を理解してもらいつつ、その上で少しずつ難易度を上げて行くような方向で調整しています。

──ちなみに『EVOTINCTION』は数年前にトレイラーが投稿されその豪華さから注目を集めました。それから少し時間が経過しており、ここ数年はどういう部分の開発に力を入れたのかを教えてください。

顧氏:
2019年の公開トレイラーは、グラフィックの品質を上げてから投稿した、初めてのトレイラーでした。あれが注目をされたこと自体はよかったです。トレイラー制作のために画面のUI含めて、単純にビジュアルの品質を上げる以外のことも頑張りましたからね。そこから出資なども受けることもできました。

ただ同時に問題も生じました。グラフィックは、画面の品質が上がってはいたものの、ゲームとしての出来がちょっと伴ってなかったんです。加えて、いろいろな調整が必要になったので、そういう部分はとくに力をいれて仕上げていきました。ステルスゲームファン向けのゲームではありますが、苦手な人でも遊べる要素を追加したり、やりこみコンテンツを追加したり、磨きをかけることができましたよ。

──デモ版配信後ブラッシュアップした要素を教えてください。

顧氏:
特に技術面でいろいろと対応しています。フレームレートやオプション、フォントについて意見をいただき、製品版では改善をしています。PC版の場合、製品版ではレイトレーシングに関連するいくつかのオプションのサポートも追加される予定です。DLSS 3.0もサポートしています。

──日本の読者にメッセージをお願いします。

顧氏:
チームメンバーはみんな『メタルギアソリッド』や『モンスターハンター』といった日本のゲームをやって子供時代を過ごしていました。今度は開発する側として、日本のプレイヤーたちも同じような気持ちでゲームを楽しんでいただけたら非常に嬉しく思います。皆さま『EVOTINCTION』をよろしくお願いします。

『EVOTINCTION』は、PS4/PS5/PC(Steam)向けに9月13日発売予定だ。

[執筆:Masamune Oda]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]