『8番のりば』開発者インタビュー。なぜ新作は『8番出口』とは大きく異なるゲームデザインになったのか、「8番ライク」に影響を受けることはあるのか
昨年11月にリリースされ、一世を風靡した『8番出口』。「異変を見つける」というゲーム性は「8番ライク」というジャンルとなり、今も続々とフォロワー作品が公開され続けている。5月31日には新作である『8番のりば』もリリースされ、『8番出口』とは異なるゲーム性が話題となった。
弊誌AUTOMATONでは、そんな『8番』シリーズの開発者であるコタケクリエイト氏にインタビューを実施。『8番のりば』のゲームデザインについてや、開発中の新作『Strange Shadow』についても話を伺った。なお、本記事には『8番出口』および『8番のりば』のネタバレが含まれるため、注意してほしい。
――自己紹介をお願いします。
コタケクリエイト氏(以下、コタケ氏):
『8番出口』『8番のりば』を開発した、コタケクリエイトです。もともとゲーム会社で4年ほど勤めており、本業とは別に合間に制作していました。ありがたいことに『8番出口』で収入が増えたので、現在は専業で個人ゲーム開発をしております。
――『8番のりば』の発売、おめでとうございます。本作の開発から発売まではどのくらいかかったのでしょうか。
コタケ氏:
『8番出口』の発売から1か月くらいは何もせずにゴロゴロしていたので、2024年1月の頭ごろから開発をはじめて、ちょうど5か月くらいで発売になりました。
――かなり短期間での開発だったのですね。『8番出口』はSteam版とNintendo Switch版共にすごい勢いで売れておりますが、『8番のりば』の売れ行きはいかがでしょうか。
コタケ氏:
『8番出口』ほどは売れていなくて……現時点で10万本ほどですね。
――それも結構な数字の印象ですが!
コタケ氏:
『8番出口』は発売2週間で20~25万本くらい売れていたので、それと比較すると少し控えめです。
『8番出口』から大きく方向性を変えた理由
――『8番のりば』は発売前から『8番出口』とはゲーム性が異なる点をアピールされていました。実際ゲーム内容も、前作はある程度開放的な場所でのホラーでしたが、新作『8番のりば』は閉所的です。似ているようでテイストが異なりますが、ヒットした前作の路線から方向転換した理由をお聞かせください。
コタケ氏:
電車の車内を舞台にしたゲームを作ることははじめから決めていました。最初のうちは前作『8番出口』からどこかしら変更点はもたせつつ、同じ方向性のタイトルを作ろうと思っていたんですが……。電車を舞台に同じことをやろうと作ったデモ版があまり面白くなかったんですよね。
――面白くなかった、というと?
コタケ氏:
当初は「異変のない車両で座ると次の駅に進み、異変のある車両で座ると最初の駅に戻る」というゲームにしていたのですが、座るアクションが挟まると少し面倒くさいなと。地下通路と比べて電車内は情報量も多く異変があるか確認するのが大変で、『8番出口』と比べると自分的には微妙な感じになってしまったんです。自分が作りたいものとズレてると感じていましたし、今は『8番出口』ライクのタイトルもたくさんリリースされているので、ゲーム性は思いきり変えてしまったほうがいいかと思い、現在の『8番のりば』に至ります。
――そういった、試作段階で「このゲームが面白いかどうか」という判断はご自身のみでやっているのでしょうか。自分で作っているものへ面白さの判断は難しそうです。
コタケ氏:
難しいですが、自分でやっています。基本的には感覚でやっているのですが、『8番のりば』は『8番出口』と比べながら、同じゲームを遊んでいるような感覚にならないように思いきり方向転換したという経緯があります。
――前作がヒットした分、方向転換も大変だったかと思います。『8番のりば』を作り始めてから、方向性を変えようと決めるまではどれくらいかかりましたか。
コタケ氏:
作りはじめて2~3か月経ったころですね。舞台を電車にしていたのですが、実はゲームシステムがほかの「8番ライク」のタイトルと被ってしまっていたんです。これがきっかけで、わざわざ同じゲーム性の続編を作らなくてもいいかと思い、方向転換することになりました。
――似たようなものがあるなら、違う路線にしようと。腑に落ちました。
閉塞感のある舞台が好き
――『8番出口』は地下鉄の通路、『8番のりば』は電車の車両内が舞台です。電車がお好きなのでしょうか。
コタケ氏:
もともと地下鉄や地下通路だけではなくて、エレベーターなどの閉塞感のある場所がとても好きなんです。『8番出口』も初期構想では地下鉄まで行っていたんですが、開発の都合で同じ通路を繰り返すだけになりました。それが少し心残りだったので、続編である『8番のりば』の舞台は電車にしたかったんです。
――『8番出口』は逃げ場もあり、ぞわぞわくる怖さのタイトルですよね。一方で『8番のりば』は徹底した閉所で、恐怖演出も多めに入ります。この変化を歓迎するユーザーもいれば、否定するユーザーもいますが、こうした賛否両論は想定されていましたか。
コタケ氏:
「『8番出口』の方が良かった」という感想は想定内でしたが、ジャンプスケアはあれどマイルドなホラーとして作っていたので 、「思ったより怖がられてしまったな」という感想です。
――怖かったです。
コタケ氏:
自分は『バイオハザード』シリーズなどに慣れてしまっているのもあると思います。
――比較対象が『バイオハザード』(笑)
コタケ氏:
はい。『バイオハザード ヴィレッジ』の赤ちゃんなんかに比べれば、『8番のりば』は全然怖くないので……(笑)
――とはいえ、現代ではSNSなどもあり『8番のりば』の作風に対して否定的な意見を見る機会も多いと思います。こうした意見を見るのは怖くはありませんか。
コタケ氏:
どんな作品にも否定的な意見は出るので、好きに作るのがいいんじゃないかなと割り切っています。好きに作れるのが個人開発のいいところなので。『8番出口』よりも『8番のりば』が好きという意見の方も見かけたので、そういう声を聞くと制作してよかったなとも思います。『8番出口』と比較してSteamの好評率もやや下がっていますが、……まぁ続編というのはこんなものかなと。
――達観されていますね。
コタケ氏:
自分は割と楽観的なタイプなので、そこが大きいのだと思います。
“やりすぎ”てお蔵入りになった異変も
――『8番のりば』は割と理不尽さもあり覚えゲー的な側面もあります。コタケさんが開発中に「やりすぎだ」と思い封印した演出などがあれば教えて下さい。
コタケ氏:
「ライトが消えて、点いたら進行方向と逆を向かされていて、おじさんが急に追いかけてくる」という異変がありましたが、難しすぎるかなと思いカットしました。今もある異変だと、「九々社駅」にはもともと「降りるな」の電光掲示板表示はありませんでしたが、降りると進行不能になってしまうので少し意地悪かなと思い、後から表示を足しています。
――開発段階のものより、製品版はより親切になったと。
コタケ氏:
そうですね。「見るな」など、説明がないと攻略法がわからなそうなものには電光掲示板に説明を入れるようにしていきました。ですが、説明を見ずにクリアしている人もいてびっくりしましたね。配信者のガッチマンさんなんか、電光掲示板をまったく見ないで推測で進んでいっていて、すごいな、と。
――ガッチマンさんの場合場馴れしているのもありそうですね。ちなみに異変の中で、想定していたよりも難しいというフィードバックがあったものや、逆に簡単だと言われたものはありましたか。
コタケ氏:
「894」の異変を難しいと言う方がちらほらいらっしゃったのが印象的でしたね。配信者のなかには、1時間くらい悩んでいる方もいました。X(旧Twitter)でアンケートを取ってみたら、難しい人にとっては難しい異変だったみたいですね。ですが、それでちょうどいいのかなと思っています。ちなみにあの異変は『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』に出てくる「なぞのばしょ」が元ネタだったりします。
――たしかに、初見で解くのは少し苦労しました。歩数かな?と思いきやそうでもなかったという。
コタケ氏:
「894」の異変は、初期段階では歩数で判定していました。電車の音が消えて、足音で判断する感じですね。ですが、何歩歩いたか分かりづらかったのと、せっかくドアを開けるアクションがありますし、テストプレイでドアの開閉を試すプレイヤーもいたので、最終的にはドアをガチャガチャする方に変更しました。
――「ちょうどよい難しさ」を作るの、とてもむずかしそうです。ちなみにテストプレイはどれくらいの規模で実施したんでしょうか。
コタケ氏:
『8番のりば』のテストプレイは友人や妻にやってもらうだけだったので、4人くらいでしたね。『8番出口』のときはiGi(インディークリエイター向けのインキュベーションプログラム)に短期で参加していて、プログラムの一環のイベント出展の時に同期の方にプロトタイプを遊んでもらったりしていました。今回もお願いしようかと思ったのですが、テストしてもらう時はプレイを見ていたいので気を遣わせてしまうかと思い、小規模なテストプレイになりました。
――いろいろ考えて、テストプレイは小さめにしたと、なるほどです。前作にユーザーから寄せられたフィードバックから取り入れた意見はありましたか。
コタケ氏:
ゲーム性が全然違うタイトルなのであまりないのですが、とある異変を、おじさんの異変に差し替えたことはありました。おじさんの異変のほうが、おじさんファンに喜んでもらえるかなと。
――確かに、Steamのレビューなどを見てもおじさんが好きな方はちらほらいらっしゃいますものね(笑)
コタケ氏:
そうですね。ちなみに最速プレイをしてもらったHIKAKINさんの動画では、首なしおじさんの異変が首なしOLなのですが、これはリリース前のバージョンをプレイしてもらったためです。
――HIKAKINさんといえば、『8番のりば』には声で出演されていますよね。「扉を開けることを請願する声」で出演されるという少しトリッキーなパターンでしたが、どういう経緯での出演だったのですか。
コタケ氏:
『8番出口』発売後に『8番のりば』の車内に掲載する広告を募集したところ、HIKAKINさんからDMがあったんです。広告は電車内にありそうなものが欲しかったので難しいかもしれないというお返事をしたのですが、せっかくお声掛けをいただいたので一緒に何かしたいなと思い、声の出演をお願いしました。
――なるほど。ヒカキンさんの演技もうまいことゲーム内に馴染んでいるので、良いコラボだと感じました。
グラフィックスの検証にはSteamDeckも活用
――『8番のりば』にはさまざまなギミックがありますが、実装に苦労したものがあれば教えてください。
コタケ氏:
九々社駅ですね。専用にマップを作ったり、霧が徐々にかかる表現を作ったりしたので、手間がかかっています。最初は動作が重くなってしまって、そこの最適化にも時間がかかりました。
――九々社駅はビジュアルが特に大事になりそうな場所ですよね。ちなみに本作は割と処理が重めですが、グラフィックスの検証やマシンスペックのテストはどのようにしているのでしょうか。
コタケ氏:
古めのゲーミングPCやSteam Deckでテストしています。ここで動けば、PCゲーマーの方が持っている標準的なマシンでおおよそ動くかなと思いまして。
――「おじさん」は『8番』シリーズの代表的なキャラクターですが、『8番のりば』には女の子も登場します。あの女の子はどのように作られたのでしょうか。というか、何者なんでしょうか。
コタケ氏:
あの子はフォトグラメトリの3Dモデルを探して出てきたアセットの女の子です。はじめはMetaHumanで作ろうかと思ったのですが、MetaHumanは子どもを作るのが少し難しかったんです。アセットを使えるところはどんどん使おうと思っているので、気にせずアセットストアを探すことにしました。
――アセットを積極的に活用している点からも、コタケさんはアートに関してはこだわりと割り切りを両立している印象です。ゲーム開発者としては、ご自身はゲームデザインとアートどちらが強いと思われますか。
コタケ氏:
ゲーム会社に在籍していたときもアーティスト職だったので、アーティストとしての色が強いのかなと思いますね。『8番』シリーズは「地下通路や電車を舞台にしたゲームを作りたい」という欲求から生まれていますし、開発中の『Strange Shadow』も「不気味な巨大生物を作りたい」という動機から生まれています。そこを起点にゲームのルールを考えていますね。
シンプルで説明のないゲームが好み
――『8番出口』は移動とカメラ視点のみの操作でしたが、『8番のりば』ではドアの開閉や座席へのインタラクトにマウスクリックが使われます。『8番のりば』にマウスクリックを追加した経緯と、他に検討した操作などあれば教えていただきたいです。
コタケ氏:
操作はなるべくシンプルにしたいと考えています。『8番出口』は移動だけで完結したので、ほかのアクションを入れる予定はありませんでした。『8番のりば』にマウスクリックを追加したのは、ドアを開けたり座ったりに必要だったからですね。必要な操作を必要なだけ入れて、わかりやすくまとめたいと考えています。
――なるほど。『8番出口』『8番のりば』の魅力はシンプルさにもあると思います。そうしたゲームづくりのセンスは、どこで培われたものだと感じていますか。
コタケ氏:
個人のゲーム制作を7~8年続けているので、その間に蓄積されたものなのかなと思っています。自分の感覚や経験のなかからアイデアを取り出している感じです。ただ、『INSIDE』のような説明のないゲームが好きなので、そういった部分は意識しているかもしれません。
――コタケさんのゲームの好みも色濃く出ているというわけですね。『8番出口』は『I’m on Observation Duty』から影響を受けたそうですが、『8番のりば』において強く影響を受けた作品はありますか。
コタケ氏:
一番影響を受けたタイトルはやはり、『8番出口』でしょうか。『8番出口』にはゲームオーバーになる異変は少ないのですが、続編でその割合を反転させたらどうなるかなと思って作ってみたのが『8番のりば』です。
――自分の作品に一番影響を受けているというのは面白いですね。
コタケ氏:
もちろんほかのタイトルにも影響は受けていて、『スプラトゥーン3』のサイドオーダーでフロアごとに異なる課題をこなしていく楽しさなんかは、『8番のりば』にも反映されているように思います。「電車の車両ごとに異なる世界が広がっている」という部分は、『Subway Midnight』からも影響を受けていたかもしれません。
――多くのタイトルからインスパイアを受けた『8番出口』もまた、多くの作品に影響を与えたタイトルになったかと思います。コタケさんは「8番ライク」というゲームジャンルを容認されており、それがまず面白く思いました。なぜ自分と同じタイプのゲームを作ることをOKされたのでしょうか。
コタケ氏:
まず、創作というのは自分の中にあるもののアウトプットなので、なにかから影響を受けることは悪いことではないと思っています。たまに「これは『8番出口』のパクリではないか」というDMをいただくこともあるのですが、『8番出口』も他のタイトルの影響を受けていますし、あまり怒らないでいただきたいなと。
ゲームジャンルを容認した理由としては、そもそも「同じジャンルのゲームを作らないで」と表明したところで、制作者を止めることはできないからです。アイデアに著作権はありませんからね。それに、自分が作ったゲームが先駆けになって、アイデアがジャンル化していくのは嬉しかったのもあります。
――多くの「8番ライク」がリリースされたなかで、コタケさん的に印象的だった「8番ライク」があれば教えてください。
コタケ氏:
『偽夢』は「カメラで怪異を撮る」というアクションがあることで、怪異側にリアクションさせることができる点が良いなと思いました。『8番のりば』では異変を見つけたときに異変が動くような仕組みを入れたのは、『偽夢』の演出に影響されています。
『Victor’s Test Night』は異変の有無によって攻略ルートの構築をするというゲーム性が面白かったです。「8番ライク」かは微妙なのですが『DEAD END』も良かったですね。Steamページに『8番出口』にインスパイアされた、と書いてあるのですが全然ルールが違います。クリアするためには「あることをする」だけでよくて、理解してしまうと10分くらいで終わってしまうんですが、新鮮で面白かったです。
新作『Strange Shadow』はまだまだ開発途中
――新作『Strange Shadow』の開発状況はいかがでしょうか。
コタケ氏:
ある程度の方向性は決まっているのですが、細かいレベルデザインに時間がかかっています。『8番』シリーズよりも物量が多いので、少し大変ですね。来年(2025年)のゲームイベントで、何かしらのお披露目ができたらいいなと思っています。
2023年7月公開のトレイラー。現在の内容とは異なる可能性がある
――ちなみにコタケさんは個人での制作をメインにしていますが、チームを組もうと思うことはありますか。
コタケ氏:
考えたことはありますが、あまり思わないのです。理由は色々あるのですが、一人で気ままに作るのが楽しいのと、人とコミュニケーションを取るのがあまり得意ではない方だからですね。音楽など、自分で制作できない部分を誰かに外注しようとは思うことはありますが、チームを組もうとは思わないです。
――今インタビューさせていただく中で、感じの良い方でコミュニケーションが上手なのかなと思っていたので、意外です。
コタケ氏:
そう言っていただけるのはありがたいのですが……。ただ、ゲーム会社にいたときも誰かとやるのは少ししんどかったので、人と協力するのに向いていないんだと思います(苦笑)
――最後に、今後どのように活動していくのか教えてください。
コタケ氏:
今後は『Strange Shadow』の開発を頑張ります。今は仕込みをしっかりして、発売は早くて2025年という段階です。地道に開発をしていきます。
――ありがとうございました。
『8番出口』はPC(Steam)/Nintendo Switch向けに発売中。『8番のりば』はPC(Steam)向けに発売中だ。
[聞き手・執筆・編集:Aki Nogishi]
[聞き手・協力:Nobuaki Shibuya]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]